AnthropicがSeoulオフィスを開設 — 韓国政府MOUとNAVER・Samsung・LG採用まで一挙発表
AnthropicがSeoulオフィスを正式開設。韓国科学ICT省とのMOU、NAVERへのClaude Code全社展開、Samsung SDS・LG CNS・Hanwha採用、Nexon・Channel Corp・NAIRL連携をまとめて解説します。
2026年6月17日、AnthropicはSeoulオフィスの正式開設と、韓国政府・大企業・スタートアップ・研究機関にまたがる一連の提携を同時に公表しました。5月にKiYoung Choi氏を韓国のRepresentative Directorに任命した続報で、物理拠点・政府との協力枠組み・現地リファレンス顧客が同じ発表内で1セットになっています。
このニュースの要点
- 発表日:2026年6月17日(Anthropic公式Announcements、6月18日にMOU詳細を追記)
- 新オフィス:Seoul(韓国)。APACではTokyo・Bengaluru・Sydneyに続く4拠点目
- 現地責任者:KiYoung Choi氏(Representative Director of Korea)、韓国のテクノロジー事業を30年率いてきた経歴
- 政府MOU:韓国科学ICT省(Ministry of Science and ICT)と締結。Korea AI Safety Instituteと連携した韓国語モデル評価、AI関連サイバー脅威の情報共有が範囲
- 開発者組織での大規模採用:NAVERがClaude Codeを全エンジニアリング組織に展開、数千名規模で日常利用へ
- ゲーム開発:Nexonのエンジニアリングチームがライブサービスゲームでコード記述・レビュー・デプロイにClaude Codeを利用
- 韓国大手グループ:LG CNS(LG Group傘下IT)、Hanwha Solutions(エネルギー・化学・素材)、Samsung SDS(Samsung Group傘下IT)がそれぞれClaude・Claude Cowork・Claude Codeを社内展開
- スタートアップ:Channel CorpのChannel Talkが韓国・日本・米国の23万社以上の顧客サポート基盤にClaudeを組み込み
- 研究機関:National AI Research Lab(NAIRL、KAIST・高麗大学・延世大学・POSTECHの連合)所属の最大60名にClaudeアクセスを提供
- 非営利:Good Neighbors Korea(児童権利NGO)が社内業務にClaudeを展開
- 開発者エコシステム:Claude for Startupsを韓国で提供開始、Claude Meetupsは2025年9月以降で数百名を動員、Claude Build Day(BASS Ventures共催)・Push to Prod hackathon(Replit・Korea Investment Partners・Korea Investment Accelerator共催)を実施
全体としては「政府との安全性枠組み+大企業リファレンス+開発者コミュニティ形成」の3層を同時に見せる構成で、5月のChoi氏任命発表で予告されていた「Seoulオフィスを近日開設」の中身が一気に埋まった格好と読めます。
韓国政府との協力 — Ministry of Science and ICTとのMOU
今回の発表で新しい要素は、韓国の科学ICT省とのMOU(Memorandum of Understanding、了解覚書)締結です。単なる企業側の提携発表にとどまらず、政府側との協力枠組みに踏み込んだ点が過去のAPAC拠点発表と異なります。
MOUで明示されている協力領域は次の2点です。
| 協力領域 | 具体的な取り組み |
|---|---|
| AI Safety | 具体的な取り組みKorea AI Safety Instituteとの共同作業で、韓国語でのモデル安全性評価を実施 |
| Cybersecurity | 具体的な取り組みAIに起因するサイバー脅威(AI-enabled cyber threats)に関する情報交換 |
Korea AI Safety Institute(韓国AI安全研究所)は韓国政府が設置する公的機関で、韓国語モデルの安全性を英語圏中心の評価スイートだけでなく現地言語の観点から測ることが今回のMOUの主眼になっています。Anthropicは英国AI Safety Institute・米国AI Safety Instituteとも同種の連携を組んできましたが、公共部門でのAI採用支援と抱き合わせで各国AISIと接続する動きが、韓国でも同じ形をとった構図です。
NAVER・Nexon — 開発者の実利用でのClaude Code採用
発表のうち、開発者体験の観点でもっとも密度が高いのはNAVERとNexonの2社です。
NAVERの全社Claude Code展開
NAVERは韓国最大級のIT企業で、クラウドとAIでアジアのリーダーの1社です。今回の発表ではClaude Codeをエンジニアリング組織全体に配備したことが明示されており、対象は「thousands of NAVER engineers」(数千人規模)と表現されています。使い方の主眼は「コーディングツールの多様化」と「コーディング生産性の最大化」で、既存のツールスタックを置き換えるというよりも並列で選択肢を広げる位置付けです。
数千名規模でClaude Codeを社内標準の一つに据えるという構図は、日本のNECが約3万人にClaudeを展開した提携や、ItalyのBending Spoonsでコード変更の大半がClaude Codeとの共同作業になった事例と並ぶ規模感で、アジア圏でも同じスケールが立ち上がっているのが分かります。
Nexonのライブサービスゲーム開発
Nexonは世界的なオンラインゲーム企業で、エンジニアリングチームがClaude Codeでコードの記述・レビュー・デプロイを回していると発表されています。ライブサービスゲームは、稼働中のタイトルに継続してパッチと機能を投入し続けるモデルで、「毎週ビルドを出す」「本番で問題が出れば数時間以内にホットフィックス」といったサイクルが日常的に走ります。この文脈でコードレビューまでClaude Codeが入り込む構成は、企業内開発ワークフローの中核にAIコーディングが定着してきた一例と読めます。
韓国大手グループでの企業展開
今回の発表では、韓国の主要な財閥グループ系IT会社が3社並んでリファレンスに挙がっています。それぞれ導入形態が少しずつ異なるので、並べて眺めておきます。
| 企業 | 属するグループ | 展開範囲 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| LG CNS | 属するグループLG Group | 展開範囲従業員数千人の規模から開始し、順次LG Group全体へ | 特徴ソフトウェア開発と顧客向け技術ソリューション提供に利用 |
| Hanwha Solutions | 属するグループHanwha Group | 展開範囲グローバル従業員向け | 特徴AWS Bedrock経由で展開、in-regionのデータレジデンシーとセキュリティ要件を満たす形 |
| Samsung SDS | 属するグループSamsung Group | 展開範囲Samsung Electronicsまで含む従業員展開 | 特徴Claude・Claude Cowork・Claude Codeを組み合わせ、ナレッジワーク・エージェント型ワークフロー・ソフトウェア開発を横断 |
3社に共通する読み方として、韓国財閥の「IT services arm」(グループ内IT子会社)を最初の受け皿にして、そこからグループ全体の従業員へ広げていく順序が見えます。Hanwha SolutionsがAWS Bedrock経由でデプロイしているのは、化学・エネルギー・素材のような規制の重い業種でデータの地域内保持が求められる要件に応えるためです。LLM単体の性能ではなく、エンタープライズ導入で必要になる地域内デプロイの選択肢の広さがリファレンスの中身を左右している構図と読めます。
Channel Corp — スタートアップからのClaude組み込み
企業リファレンスとは別に、スタートアップとして名前が挙がっているのがChannel Corpです。同社のChannel Talkは顧客サポートAIプラットフォームで、問い合わせ対応と、サービス・売上データからのビジネスインサイト生成にClaudeを組み込んでいます。導入企業数として「韓国・日本・米国の23万社以上」という数字が示されており、B2B SaaSに組み込まれたClaudeが多国間の中小・中堅企業に到達している実例になっています。
研究機関・非営利セクターへの広がり
企業側だけでなく、研究機関と非営利セクターにも今回の発表は踏み込んでいます。
NAIRLへのClaudeアクセス提供
National AI Research Lab(NAIRL)は韓国のAI研究連合で、KAIST・高麗大学(Korea University)・延世大学(Yonsei University)・POSTECHという韓国主要4大学が参加しています。Anthropicはこの連合に所属する研究者最大60名にClaudeへのアクセスを提供し、AI Safety・モデル評価・アライメント・robustness(堅牢性)・より広範なフロンティアAI研究を支援すると明示しています。
この提供は、単なるAPIクレジット提供ではなく、Anthropic自身の研究テーマ(AI Safetyとアライメント)と重なる領域を明示している点が特徴です。韓国政府とのMOUで扱う韓国語モデル安全性評価とも文脈が重なり、「安全性研究に必要なアカデミックリソースを地域単位で作る」動きの一部と読めます。
Good Neighbors Koreaでの活用
非営利側では、児童権利NGOのGood Neighbors KoreaがClaudeを社内展開しています。同組織のChief Administrative Officerを務めるJeongsun Park氏のコメントでは、「プログラム成果の分析」「社会福祉法と内部ガイドラインのナビゲーション」「現場業務を圧迫していた管理業務の削減」の3つが用途として挙げられており、フロントライン社会福祉従事者の生産性を上げる狙いが示されています。
開発者コミュニティの立ち上げ — Meetups・Build Day・Push to Prod
Seoulオフィス開設に合わせて、開発者コミュニティ側の動きも同時にアナウンスされています。数値が付いているものだけを拾うと、次のような構成です。
| 施策 | 実施時期 / 規模 | 共催 / 位置付け |
|---|---|---|
| Economic Indexでの韓国順位 | 実施時期 / 規模Claude.ai利用数で世界トップ12か国に入る | 共催 / 位置付け技術・クリエイティブ用途に集中 |
| Claude Meetups | 実施時期 / 規模2025年9月以降で数百名の韓国開発者を動員 | 共催 / 位置付けコミュニティ形成の起点 |
| Claude for Startups | 実施時期 / 規模Seoulオフィス開設に合わせて韓国で提供開始 | 共催 / 位置付けスタートアップ向けクレジット・支援プログラム |
| Claude Build Day | 実施時期 / 規模Seoulオフィス開設週に開催、100名超が参加 | 共催 / 位置付けBASS Ventures共催、韓国のfounder・developer向けhands-onイベント |
| Push to Prod hackathon | 実施時期 / 規模今後開催予定 | 共催 / 位置付けReplit・Korea Investment Partners・Korea Investment Acceleratorと共催、Claude Codeで構築 |
Meetupsが2025年9月から続いていて、今回のオフィス開設が既存コミュニティの延長線上に置かれている点は見落とせません。オフィス開設と同時にコミュニティを立ち上げるのではなく、コミュニティ側で数百名規模の下地ができたところに物理拠点とスタートアップ向けプログラムを乗せてきた順序です。
APAC拠点拡大パターンとの位置付け
Anthropicは2026年に入り、APACでTokyo・Bengaluru・Sydneyと立て続けにローカル拠点を整えてきました。今回のSeoulはその4拠点目にあたり、これまでのパターンを踏襲しつつ「政府MOU」の要素が加わった構成になっています。
過去のAPAC発表と並べると、3点セットの共通形が確認できます。
| 拠点 | 責任者任命 | 物理拠点 | 現地パートナー / リファレンス |
|---|---|---|---|
| Sydney(2026-04) | 責任者任命Theo Hourmouzis氏(ANZ GM) | 物理拠点Sydneyオフィス | 現地パートナー / リファレンスAustralia・New Zealandの企業層 |
| Tokyo(既設) | 責任者任命— | 物理拠点Tokyoオフィス | 現地パートナー / リファレンスNEC(約3万人にClaude展開) |
| Seoul(2026-06) | 責任者任命KiYoung Choi氏(Korea Representative Director) | 物理拠点Seoulオフィス | 現地パートナー / リファレンスNAVER・Samsung SDS・LG CNS・Hanwha・Nexon・Channel Corp他 |
Seoulの発表がTheo Hourmouzis氏のANZ GM就任とSydneyオフィス開設やKiYoung Choi氏の韓国Representative Director任命(先行発表)と異なるのは、政府MOUと研究連合連携が同じアナウンス内に含まれている点です。地理を広げる動きから、「地域ごとの安全性研究インフラを含めて作る」動きに段階が上がっている構図と読めます。
欧州拠点拡大との対比
同時期にはEuropeでMilanオフィス開設も発表されており、欧州とAPACの両方で地域拠点拡大が並行しています。Milanの発表がJAKALA・Satispay・Bending Spoonsという「規模・速度・開発者採用率」の3社を初期リファレンスに置いたのに対し、Seoulの発表はNAVER・Samsung SDS・LG CNSといった「大企業グループのIT arm」を中心に、Nexon(ゲーム)とChannel Corp(スタートアップ)で多層をカバーする構成です。
「Southern Europe」と「Korea」で発表の骨格は近いですが、韓国では政府MOU+研究連合連携が同時にパッケージ化されている点が特色になっています。これは韓国側にKorea AI Safety InstituteとNAIRLという受け皿が政府主導で先に整っていた事情も背景にありそうです。
Seoulオフィスの採用状況
Seoulオフィスは正式に開所しており、複数職種で採用中と発表されています。求人詳細はAnthropicのcareersページに掲載されており、現地チームは今後段階的に拡大していく想定と読めます。5月に予告されていた「Seoulオフィス開設」がここで実際に動き始めた状態で、これから半年〜1年のスパンで現地チームの規模が可視化されていく段階に入ります。
まとめ — 誰にどう関係するか
今回のSeoul発表は、単なるオフィス開設よりも広い意味を持つパッケージ発表です。読者の立場ごとに、意味合いは次のようになります。
- 韓国のエンタープライズIT導入担当者:LG CNS・Hanwha Solutions・Samsung SDSといった同業のリファレンスが具体名で揃った状態になり、社内での提案時に参照できる導入事例の厚みが増した局面です
- 韓国以外のAPAC地域担当者:政府MOU+大企業リファレンス+研究連合連携をワンパッケージで見せる形が定着しつつある構図で、Tokyo・Sydney・Bengaluruも同様のフォーマットに寄せていく可能性を想定して情報を追う価値があります
- Claude Code利用者(開発者):NAVER・Nexon規模の実運用リファレンスが加わり、社内標準化を提案する際の説得材料として使える段階に入っています
- 韓国のスタートアップ:Claude for Startupsが韓国でローンチし、Meetups・Build Day・Push to Prod hackathonといったコミュニティ導線もそろったので、初期投資フェーズでのAI連携を検討しやすくなりました
- AI Safety研究に関心のある研究者:Korea AI Safety InstituteとAnthropicの連携が韓国語モデル評価の場を提供する形になり、NAIRL経由でのアクセスと合わせて韓国語圏の安全性研究の芽が具体化しています
5月時点のChoi氏任命単独発表では「近日開設」だった要素が、6月の今回発表で「開設済み+MOU+11超のパートナー+研究連合連携」まで一気に埋まった構図です。APACの他地域と比べても情報密度が高い発表で、韓国市場の現在地を把握する起点として扱える内容と言えます。
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