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AI expectations gap:米国成人とAnthropic社員で割れたAI予測

AI expectations gap:米国成人とAnthropic社員で割れたAI予測

Anthropic Instituteが米国成人10,980人と社員1,334人に同じ質問を投げた調査。2030年にノーベル賞級の発見をAIが成し遂げると答えたのは39%と91%。差がどこに出たかを数字で追います。

Anthropic Instituteは2026年10月16日、調査レポート「The AI expectations gap」を公開しました。2026年8月に、米国成人の全国代表サンプルとAnthropic社員に同じ質問を投げ、AIの能力・普及・自律性・時間短縮・自分の仕事への影響の見方を比べたものです。

要点

数字

2つの集団で割れた見方

  • 2030年にノーベル賞級の発見

    39% / 91%

    AIにできると答えた割合(米国成人 / 社員)

  • 自分の仕事の2030年時点での自動化

    28% / 75%

    AIが担える勤務時間の平均(米国の就業者 / 社員)

  • タスクが4分の1以下の時間

    26% / 59%

    職場でAIを使う米国成人 / 社員

米国成人は2030年に関する回答(Morning Consultが実施)、社員は社内アンケート
  • 今のAIにできることの見立ては、両者でほぼ一致している
  • 割れるのは「これからの進み方」と「自分の仕事がどこまで置き換わるか」
  • 自分の仕事の自動化が進むと答えた人ほど、2030年の失業率を高く予想する。この関係は両者でよく似ている

自分の仕事と失業率を結びつける考え方は両者でほぼ同じで、差を生んでいるのはAIに触れてきた経験の違い、というのが報告の見立てです。

調査の設計と読む前の注意

数字の意味は、誰にどう聞いたかで変わります。

項目米国成人Anthropic社員
実施期間米国成人2026年8月11日〜23日Anthropic社員2026年8月9日〜12日
回答数米国成人10,980人Anthropic社員1,334人
形式米国成人オンライン(Morning Consultが実施)。人口を代表するよう重み付けAnthropic社員社内アンケート。重み付けなし
未来の質問米国成人回答者の半数に2027年、残り半数に2030年を質問Anthropic社員全員に2030年を質問

米国成人の調査は、オプトイン方式のオンラインパネルです。ネットにつながらない成人は含まれず、人口構成で重み付けしても補正できない偏りがあり得ると注記されています。社員側は全社の各部門から回答がありました。

本文の数字は2030年の回答が中心です。9月17日〜24日には同じ質問を米国成人7,613人にもう一度投げており、主な結果はあまり変わっていません。中央値の回答から導いた2030年のGDP成長率は5.6%、失業率は4.7%でした(成長率と失業率の中央値は項目ごとに別々に計算しているため、2つの値が同じ回答者の答えとは限りません)。最も動いたのは、2030年までにノーベル賞級の発見をAIが成し遂げると考える割合で、39%から44%に上がっています。

能力の見立ては近く、進み方の見立ては遠い

日常のメール作成からノーベル賞級の科学的発見まで、8つのタスクを「熟練した専門職と同じ水準でAIがこなせるのはいつか」で尋ねています。両者はタスクの難しさの順位をほぼ同じに並べました。今のAIの能力に関する認識は近いわけです。

分かれたのは先の見通しです。

  • 科学研究の一貫実施: 設計・実施・論文化をAIが今できると考える人は、どちらも約4分の1。1年後には社員の9割が可能とみるのに対し、米国成人は38%
  • ノーベル賞級の発見: 2030年までに可能とみるのは米国成人39%、社員91%
  • 「できない」という回答: タスクによって米国成人の19〜40%が「AIには決してできない」と答え、社員は多くても2%

AIの利用頻度も影響しています。職場でAIを定期的に使う人(回答者の約5分の1)のうち、8タスクのうち7つ以上が2030年までに可能と答えたのは56%でした。米国成人全体は41%、AIを一度も使ったことがない人は28%です。社員は96%。定期利用者は全体より楽観的ですが、社員にはまだ届きません。

普及の速さと、普及を妨げるもの

AIにできることと、実際に使われることは別の話です。AIが担えるようになる仕事のうち、2030年までに実際にAIで行われる割合の見立ては、米国成人が42%、社員が65%でした。

米国成人に、職場でのAI利用を妨げる最大の要因を9つの選択肢から最大3つ選んでもらった結果、技術的な制約より、人の好みやルールが上位に来ています。多く選ばれた順に次のとおりです。

  1. 顧客が人間との取引を望むこと
  2. データのプライバシーとセキュリティへの懸念
  3. AIの信頼性がまだ足りないこと
  4. 法律・規制・責任の所在

職場でAIを定期的に使う人は、見方が少し違います。プライバシーとセキュリティを上位3つに挙げた割合は42%(それ以外の人は37%)。顧客の人間志向を挙げた割合は37%(同42%)でした。定期利用者では、プライバシーとセキュリティが1位に上がります。この設問は社員には聞いていません。

自律性の見方も違います。5つのタスクについて「2030年に誰がやっているか」を聞いたところ、社員の大多数が「AIが単独で行う」か「AIが行い、人が確認する」を選びました。米国成人では、4割が「人間が大半を行う、またはAIの補助を受けて行う」と答えています。

時間短縮の見立ては、体感の差がそのまま出た

AIが得意なタスクを1つ思い浮かべたとき、所要時間はどう変わるのか。確認や修正にかかる時間も数えたうえでの答えです。半分の時間で済むなら、1時間あたりの出力は2倍になる計算です。

  • 社員の85%が「半分以下の時間」と回答
  • 職場でAIを使う米国成人の典型的な答えは「半分の時間」。ただし29%は「同じか、それ以上かかる」と答え、社員でそう答えたのは5%
  • 「4分の1以下の時間」と答えた割合は、職場でAIを使う米国成人が26%、職場でAIを使わない米国成人が21%、社員が59%

社員の数字は、日々の業務の体感を反映している可能性があります。同じ研究所が公開した「How Employment is Changing at Anthropic」では、コーディングエージェントの導入後1か月で、エンジニアが追加するコードの行数が3倍になったと報告されています。営業担当者がエージェント導入後により多くの契約を成立させたこと、法務や採用など他部門でも1人あたりの成果が増えたことも、同じ報告に載っています。

自分の仕事の見立てと、失業率予想の関係

大きな差が出たのは、自分の仕事についての質問です。2030年までにAIが自分の勤務時間の何割をこなせるようになるか、という問いです。

  • 社員:平均75%。半数超が「80%以上」と回答
  • 米国の就業者:平均28%。「80%以上」は20人に1人(5%)
  • 米国の職種別:現場系(技能職・製造・運輸)で25%、コンピューター・エンジニアリング・科学系で33%

最後の職種グループでも、職場でAIを定期的に使う人は平均40%と答えています。社員の75%より、米国の就業者全体の平均に近い数字です。AIを日常的に使っても、社員の見立てとは35ポイント離れています。

自動化が進むと答えた人ほど、失業率を高く予想する

回答者には、現在の失業率が約4.2%だと伝えたうえで、2030年の失業率を予想してもらいました。

  • 自分の仕事の半分未満をAIが担うとみる米国の就業者:7〜8%
  • 80%以上をAIが担うとみる米国の就業者:平均12.2%(世界金融危機のピークより高い水準)
  • 自分の仕事への影響が10ポイント増えるごとに、予想失業率は0.4ポイント高くなる

AIそのものへの期待の高さでは、この傾向を説明できません。自分の仕事への影響を固定すると、8タスクのうちAIが習得するとみる割合は、失業率予想と無関係でした。さらに、社員でも同じ右上がりの関係が出ており、予想値は一般の人々の予想値とほぼ重なります。自分の仕事と労働市場全体についての見方の「理論」は、両者でほとんど変わらないようです。違うのは、AIの能力を目の当たりにしてきた経験と、そこから出てくる期待のほうです。

社員は自動化と人員削減を別の予測として持っている

社員は自分の仕事の大半を自動化できるとみながら、Anthropicの人員は増えると予想しています。95%が今後12か月で人員が増えると答え、増加率の中央値は66%、27%は倍増以上とみています。これは社員個人の予想であり、会社の計画や見解ではないと、報告書は断っています。そのうえで、少なくともフロンティアのAI研究所では、タスクの自動化と雇用の削減が別々の予測になりうると指摘しています。

一方で、AIによって職を失った人が別の職種に移って次の仕事を見つけるまでの期間は、社員のほうがやや悲観的です。社員の中央値は12か月で、米国成人の中央値は7〜12か月の範囲に入ります。通常の離職で再就職までにかかる期間は、質問文の中で約3か月と示されています。

回答から導いたGDP成長率

回答者ごとの答え(能力・普及・自律性・時間短縮・再就職までの期間の5項目)を、別の研究「Economic Scenarios for Transformative AI」の経済モデルに通し、2030年のGDP成長率に換算しています。なお、モデルの他のパラメーターは「Substantial」シナリオの値に固定しています。全項目に答えた回答者だけが対象で、米国成人3,259人、社員1,093人です。

数字

モデルが返した2030年のGDP成長率(中央値)

  • 米国成人

    5.4%

    論文のSubstantialシナリオと同じ水準

  • 9月9日公開のシナリオ診断の回答者

    12.5%

    最初の48時間で23,075人が回答

  • Anthropic社員

    17.1%

    Extremeシナリオの15.4%を上回る

各集団の中央値。回答者の答えをモデルに通した換算値です

診断ページの回答者は、140を超える国から来ています。自分でページを開いてクイズに答えた人たちなので、AIへの関心が一般より高い可能性があります。実際、答えは米国成人と社員の間に収まりました。

集団内のばらつきは大きく、米国成人と社員の分布は広く重なっています(報告書の図7)。米国成人の中央値でも通常の2倍を超える成長率になり、社員の中央値ならGDPが約4年半で倍になる計算です。

社員の見立ての根拠:開発現場でAIが担う割合

社員がなぜ楽観的なのかについて、報告書は「開発の現場がよく見えているから」という仮説を挙げています。そこで社員には、2026年初めのフロンティアモデルを作る仕事のうち、AIが担う割合を聞いています。

  • 今日:中央値51%
  • 2027年末:80%
  • 2030年末:95%

研究チームの回答は、今日の割合を平均60%としています。それ以外の回答者は53%でした。研究者は作業の近くにいるぶん情報が多い可能性がありますが、仕事の性質上AIをよく使うだけという可能性もあると、報告書は両方の可能性を併記しています。これは社員個人の見立てで、Anthropicによる測定でも会社の予測でもありません。

脚注では、この質問がコード生成より広い範囲を指すと説明しています。Anthropicのコードベースにマージされるコードの80%以上はClaudeが書いていますが、モデル開発には研究の方向づけ、実験の設計、評価なども含まれます。AIの自己改善については、再帰的自己改善の3つのシナリオの記事で背景を整理しています。

この報告をどう読むか

結論は、日々の経験が期待を作っているという点に集約されます。報告書は、AIを使う人は社員の見方に近い期待を持つ傾向があることから、利用が広がれば世間の期待も動くかもしれないとしています。動く幅は、AIが他の職場でも最先端の研究所と同じ割合の仕事をこなすようになるかどうかで決まります。

数字を読むときの注意点は3つあります。

  1. 社員の回答は社内アンケートで、重み付けがない。米国成人との差を厳密な比較として扱うには、母集団の違いが大きい
  2. 質問は「AIにできるか」と「実際に使われるか」を分けている。能力への期待と普及の見通しを混ぜると、数字の意味がずれる
  3. GDP成長率は、回答をモデルに通した換算値。回答者が直接予想した数字ではなく、モデルの前提(Substantialシナリオへの固定を含む)に依存する

Anthropicが続けてきた調査の中では、利用データから見たもの、ユーザー自身の声を聞いたもの、今回の「見立ての差」を見たものが揃ってきました。利用データはEconomic Index Cadences、ユーザーの声は8.1万人の自由記述調査、米国の世論はAnthropic Public Recordの記事にまとめています。研究の全体設計はInstitute研究アジェンダから追えます。

まとめ

差を生んでいるのは、今のAIにできることの評価ではなく、自分の仕事でAIがどこまで使えているかの体感です。社員と米国成人では母集団が違うので、数字の差をそのまま読むことはできません。それでも、自動化の見込みが高い人ほど失業率を高く予想するという傾きが両者で一致したことが、この構図を裏づけています。違いは理屈ではなく、AIに触れてきた経験のほうにあります。

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