Anthropicの脆弱性開示ポリシーとバグバウンティの応募方法
Anthropicが運用する3種類の脆弱性報告制度を整理。対象・報酬・応募窓口の違いと、報告時に押さえるべき実務のポイント。
Anthropicの脆弱性報告制度は何が違うのか
Anthropicには性格の異なる3つの脆弱性報告制度があります。混同すると誤った窓口に報告してしまうため、まず役割を切り分けます。
1つ目はResponsible Disclosure Policy(責任ある開示ポリシー)。これは外部のセキュリティ研究者が、Anthropicのシステム(claude.aiなど)自体の脆弱性をAnthropicに報告するための制度です。
2つ目はCoordinated Vulnerability Disclosure(協調的な脆弱性開示ポリシー、以下CVD)。これは逆方向の制度です。Anthropicが自らの調査で他社ソフトウェアの脆弱性を見つけたとき、それを開発元へ伝える手順を定めたものです。対象はオープンソースと、許諾を得たクローズドソースのソフトウェアです。
3つ目がModel Safety Bug Bounty(モデル安全性バグバウンティ)。こちらはClaude本体の安全策(ジェイルブレイク対策)を突破できるかを試す、招待制のプログラムです。
対象・報告の向き・報酬の有無がそれぞれ異なるため、次の章から順に実務のポイントを見ていきます。
外部からAnthropicに報告する場合(Responsible Disclosure Policy)
Responsible Disclosure Policyの対象は、Anthropicが所有・運用するインターネット公開システム(claude.aiドメインとそのサブドメイン)です。CSRF、権限昇格、SQLインジェクション、XSS、ディレクトリトラバーサルといった技術的な脆弱性が対象で、報告フォームから提出します。
対象外として明記されている項目には注意が必要です。SSL/TLS設定の不備(実証コードなしのもの)、物理的な侵入、非認証エンドポイントへのレート制限・ブルートフォース、内部関係者による侵害、ソーシャルエンジニアリング、アカウント乗っ取り、そしてモデルへのレッドチーミングやプロンプト・出力の内容に関する問題は、このポリシーの対象外です。モデルのジェイルブレイクや安全性の懸念は、usersafety@anthropic.com 宛てに再現手順を添えて別途報告する経路になっています。
報告時に用意すべき項目は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 脆弱性の種類と深刻度 | 内容何がどの程度危険か |
| 技術的詳細と再現手順 | 内容実証コード・ログ・スクリーンショット |
| 対象のURL・箇所 | 内容脆弱性が存在する具体的な場所 |
| 想定される影響 | 内容悪用された場合に何が起きるか |
| 推奨される修正案 | 内容あれば添える |
Anthropicは3営業日以内の受領確認と、誠実な調査に対する法的措置の免除(セーフハーバー)を約束しています。ただし免除の条件は「無条件の開示」であり、報酬や対価を要求する開示、脅迫を伴う開示は対象外です。公開のタイミングについてもAnthropicとの事前調整が求められますが、研究者が最終的に脆弱性を公表する権利自体は明確に保障されています。
セーフハーバーの適用には資格条件もあります。米国財務省OFACが公表する制裁対象者リストに掲載されている、またはアメリカ政府が制裁を科している国に居住している研究者は対象外と明記されています。応募・報告の前に自分がこの条件に該当しないかを確認しておく必要があります。
報告者側の情報保護も明記されています。Anthropicは報告者の氏名・連絡先を本人の同意なく第三者へ開示しないと約束しており、公表時に功績を記載するかどうかも本人の意向に従います。法的な要請がある場合を除き、身元は報告者の判断に委ねられる設計です。
Anthropicが見つけた側の脆弱性を開示する場合(CVD)
CVDポリシーは、Anthropicの研究者やClaudeベースのツールがオープンソースソフトウェアや許諾済みのクローズドソースソフトウェアで発見した脆弱性を、Anthropicが開発元に開示するときのルールを定めたものです。外部研究者からAnthropicへの報告を扱うResponsible Disclosure Policyとは開示の向きが逆になる点が最大の違いです。
タイムラインは業界標準の90日を基本としつつ、状況に応じて調整されます。開発元が期限までに修正へ向けて進捗を示している場合は14日間の延長を認めることがあります。逆に、実際に悪用されている重大な脆弱性については7日間という短い目標が適用され、開発元が対応中でさらに時間を要求すれば7日間の追加延長で対応します。開発元から30日間応答がない場合、Anthropicは外部の脆弱性コーディネーターへエスカレーションし、期限到来後に公開へ進みます。パッチ公開後も、詳細な技術情報の公開までさらに45日間の猶予を置くのが原則です。
深刻度の評価が開発元と食い違った場合、Anthropicは原則として開発元側の判断を優先します。例外は、実際に悪用されている確たる証拠がある場合で、この場合は開発元がどう分類しているかにかかわらず7日間の短縮タイムラインが適用されます。また、1つの脆弱性が多数のプロジェクトに共通して存在する「エコシステム全体のパターン」だと判明した場合は、その発見が公になる前に、影響を受けるすべての開発元へ個別に情報と対応の支援を届けることを目指すとしています。
CVDのもう一つの特徴は、報告の質と量の管理です。Anthropicが送る報告はすべて人間のセキュリティ研究者がレビュー・確認したもので、AIによる発見であることは明示されます。ソースコードへのアクセスがあり修正候補パッチを生成できる場合は、それも添えて開発元との共同修正を申し出ます。1つのプロジェクトに大量の報告を事前調整なく送りつけないという配慮も明記されており、開発元が処理しきれるペースに合わせる方針です。Project Glasswing 1ヶ月レポートが報告した「開始数週間で1万件超の重大脆弱性を発見した」という規模の発見を、開発元側が処理しきれる形で届けるための運用ルールがこのCVDだと理解すると位置づけが分かりやすくなります。
モデルの安全策を試すバグバウンティ(Model Safety Bug Bounty)
3つ目の制度は、Claude本体のジェイルブレイク対策を実際に突破できるかを試す招待制のプログラムです。HackerOneと連携して運用され、これまで複数回実施されてきました。
対象になるのは「ユニバーサルジェイルブレイク」、つまり特定のトピックに限らず幅広い領域で安全策を一貫して回避できる手法です。とくに重視されているのがCBRN(化学・生物・放射性物質・核)分野とサイバーセキュリティ分野です。2024年8月の回では新型の安全性緩和システムを対象に最大15,000ドルの報奨金が設定され、2025年5月の回ではConstitutional Classifiersの更新版をClaude 3.7 Sonnet上でテストする内容で、最大25,000ドルの報奨金が用意されました。
このプログラムは常設の公募ではなく、募集期間を区切った招待制です。応募はAnthropicの申請フォームから行い、審査を通過した参加者にのみ、未公開の安全性システムへの早期アクセスと詳細な指示・フィードバックが提供されます。選考結果の連絡までにかかる期間は実施回によって幅があり、2024年8月の回は締切後の秋、2025年5月の回は募集終了から1週間程度で次の案内が出ています。プログラムはASL-3(AI Safety Level-3)デプロイ基準の一部として、Responsible Scaling Policyの運用と直接結びついています。
このプログラムは単発ではなく、モデルの世代交代に合わせて繰り返し実施されてきました。2025年5月に実施された回では、前年の初回プログラムに参加した研究者がそのまま継続参加できる仕組みが用意され、募集終了後にはClaude Opus 4向けの新しい安全性システムを対象にした後継プログラムへ移行しています。新しいフロンティアモデルがASL-3水準の安全対策を必要とするタイミングで、同様の招待制プログラムが今後も開催される可能性が高いということです。
3つの制度の使い分け早見表
| 制度 | 報告の向き | 対象 | 報酬 |
|---|---|---|---|
| Responsible Disclosure Policy | 報告の向き外部研究者 → Anthropic | 対象claude.ai等の自社システムの技術的脆弱性 | 報酬金銭報酬の明記なし(セーフハーバーが対価) |
| Coordinated Vulnerability Disclosure | 報告の向きAnthropic → 第三者の開発元 | 対象Claudeが発見した他社OSS・許諾済みソフトの脆弱性 | 報酬該当なし(Anthropic側が開示する制度) |
| Model Safety Bug Bounty | 報告の向き招待制の研究者 → Anthropic | 対象Claudeの未公開ジェイルブレイク対策 | 報酬実績で最大15,000〜25,000ドル |
応募・報告でつまずきやすい点
モデルの安全性に関する懸念とシステムの技術的脆弱性を同じ窓口に送ってしまうのが、もっとも多い誤りです。Responsible Disclosure Policyはレッドチーミングやプロンプト・出力の内容に関する問題を明示的に対象外としているため、ジェイルブレイクの発見は usersafety@anthropic.com へ報告先を切り替える必要があります。
もう一つのつまずきは、公開タイミングの扱いです。研究者には脆弱性を公表する権利がある一方で、Anthropicへの事前通知なく公開すると、良好な信頼関係のもとで前提となっているセーフハーバーの対象から外れるおそれがあります。公開を予定している場合は報告に「公表の意向」を明記することが、Responsible Disclosure Policy側で推奨されています。
Model Safety Bug Bountyについては、常時応募できる窓口ではないという点を見落としがちです。招待制のプログラムは開催期間が数日から1週間程度と短く区切られており、募集告知を見逃すと次回まで機会がありません。AI領域でのセキュリティ研究の実績や、言語モデルのジェイルブレイク発見の経験を申請フォームに明記しておくことが、選考を通過する上での実務上のポイントになります。
まとめ
Anthropicの脆弱性報告制度は「誰が誰に報告するか」で3つに分かれています。自社システムの技術的な穴を見つけたらResponsible Disclosure Policy、Claudeを使った調査で他社ソフトの脆弱性を見つけて開示する側に回るならCVD、Claude本体の安全策そのものを試したいなら招待制のModel Safety Bug Bountyです。とくにモデルの安全性に関わる報告は、自社システムの技術的脆弱性とは別窓口(usersafety@anthropic.com)になる点を覚えておくと、報告が本来の担当チームへ迷わず届きます。