AnthropicのTransparency Hubとは何か — 3つの窓口の読み方
Transparency Hubは、Model Report・System Trust and Reporting・Voluntary Commitmentsの3ページ構成です。内容別の窓口の選び方と数字の読み方を解説します。
AnthropicのTransparency Hubは、責任あるAI開発に向けた同社の主要なプロセス・プログラム・実践をまとめた窓口です。入口は1つですが、中身は「01 Model Report」「02 System Trust and Reporting」「03 Voluntary Commitments」という3つの独立したページに分かれています。URLは /transparency/model-report、/transparency/system-trust-reporting、/transparency/voluntary-commitments です。ハブのトップ(/transparency)を開くと、1つ目のModel Reportがそのまま表示されます。
どのページに何があるかは、知りたい内容から逆引きするのが早く済みます。
知りたいことから選ぶ3つの窓口
あるモデルの安全性評価を知りたい → Model Report
モデルを1つ選ぶと、能力・安全性評価・展開時の保護措置の要約が出ます。政治的中立性、誠実さ、プロンプトインジェクション耐性といった評価結果の数字はここにあります。
運用の実績を知りたい → System Trust and Reporting
アカウント停止や異議申し立ての件数、児童安全の通報件数、法執行機関からのデータ開示請求、脅威インテリジェンスの報告、EUのDSA(デジタルサービス法)向け報告書が並びます。
何を約束しているかを知りたい → Voluntary Commitments
RSP(Responsible Scaling Policy)を含む安全対策を分野別に説明し、G7広島プロセスなど10の自主的枠組みへの対応を一覧にしています。
モデルごとの評価はModel Reportで読む
Model Reportの上部には、モデル名の一覧が並んでいます。Claude Sonnet 5.5・Opus 5.5・Fable 5.1・Mythos 5.1・Opus 5・Sonnet 5といった近い世代から、Opus 4.8、Mythos Preview、Haiku 4.5、Opus 4.1、Sonnet 3.7まで、旧世代も同じ形式で遡れます。モデルを選ぶと、説明・ベンチマークされた能力・利用規約(Usage Policy)へのリンク・リリース時期・入出力の形式・訓練方法と訓練データ・試験の方法と結果が1画面にまとまります。
ここに載るのはシステムカードの要約です。1モデルを深く読むならClaudeシステムカードの読み方が役に立ちます。ハブ側の利点は、評価の種類がモデルをまたいで同じ名前で並ぶことです。たとえばSonnet 5.5の節では、化学・生物兵器に関する誤用への保護措置がOpus 5と同じ水準で適用され、CB-1の能力を持つモデルとして扱われたと書かれています。自律性に関する脅威モデル(Autonomy threat model 1)も該当するとされています。
政治的中立性は条件を揃えた比較になっている
政治的中立性の評価は、オープンソースの評価手法を使います。同じ内容を対立する政治的立場から頼む1,350組のリクエストを、150のトピックで用意します。別のClaudeが採点役になり、両方への回答の深さと質が釣り合っているか、他の見方に触れているか、回答を拒否していないかを見ます。
結果は2つの条件で報告されます。
政治的中立性の測定条件(Sonnet 5.5の節)
API経由
開発者が自分のプロダクトに組み込むときの素の状態です。釣り合いのスコアは97.9%(Sonnet 5は86.2%)でした。他の見方への言及は41.4%で、Sonnet 5の45.7%をわずかに下回っています。
claude.ai
claude.aiでは、見方の違いに公平に向き合うよう指示するシステムプロンプトが付きます。スコアは99.0%(Sonnet 5は95.7%)、他の見方への言及は60.2%(同52.9%)でした。
数字を他の資料と突き合わせるときは、ページの注記に気をつける必要があります。過去モデルの数値は、評価の定期的な更新のため、当時のシステムカードの値と食い違うことがあるとされています。ハブの数字と古いシステムカードの数字を、そのまま並べて増減を論じることはできません。
誠実さの評価も同じモデルの節に入っています。約4,100回の模擬セッションを別のAIが8種類の不誠実な振る舞いについて審査したところ、Sonnet 5.5はSonnet 5より8項目中7項目で良い結果でした。例外は、政治や社会の話題で答えをはぐらかす、または過度に慎重に答える項目です。
プロンプトインジェクション耐性は他社モデルとも並ぶ
Opus 5の節には、IPI(間接プロンプトインジェクション)ベンチマークの結果があります。Gray Swan、英国AI Security Institute、米国Center for AI Standards and Innovationなどとの共同開発で、28の攻撃シナリオを使います。重複を除いた攻撃のうち、モデル間で通用しやすかった1,130件が選ばれています。
指標は、攻撃者が1回、10回、15回の試行のうちに成功する確率です。15回試行での成功率は次のとおりです。
15回試行で攻撃が成功する確率(低いほど頑健)
Opus 5
2.0%
1回試行では0.2%
Mythos 5
2.6%
Opus 4.8
5.5%
1回試行では0.5%
Sonnet 5
5.9%
Muse Spark
16.5%
非Claudeで最も頑健
GPT 5.6 Sol
20.0%
1回試行でも3.1%
Opus 5はテストされたモデルの中で最も頑健でした。GPT 5.6の他の2つの変種は30.4%(Terra)と43.9%(Luna)です。ただしGemini 3.1 Proは、攻撃を集めた赤チーム競技に含まれていたため、直接は比較できないと注記されています。
運用実績はSystem Trust and Reportingで読む
このページはモデルの評価ではなく、サービスの運用で何が起きたかを数字で出します。アカウント停止・児童安全・法的要請は半期ごとの数字や報告書で示されます。節の構成は、アカウント停止、児童安全の報告、法的要請、自傷・自殺リスクへの対応プロトコル、脅威インテリジェンス、EU DSAの透明性報告です。2026年1〜6月の数字は次のとおりでした。
アカウント停止と異議申し立て(2026年1〜6月)
停止されたアカウント
1,140万件
異議申し立て
39.8万件
異議が認められた件数
4.2万件
停止の数が目を引きますが、読みどころは異議申し立ての側です。申し立て約39.8万件のうち、約4.2万件は覆っています。端数が丸められた数字なので約1割という程度の把握になりますが、停止の判断が一方通行で終わらない設計だと分かります。
児童安全の報告は、NCMEC(全米行方不明・被搾取児童センター)への通報件数として出ています。
| 項目 | 件数(2026年1〜6月) |
|---|---|
| NCMECへの通報総数 | 件数(2026年1〜6月)15,079件 |
| ハッシュ照合によるCSAM報告 | 件数(2026年1〜6月)12,614件 |
| 新規CSAM分類器による報告 | 件数(2026年1〜6月)2,018件 |
| その他のCSAE報告 | 件数(2026年1〜6月)193件 |
「新規CSAM分類器」は、ハッシュの比較ではなく機械学習の分類で見つけたもので、確認済みでもハッシュ化済みでもない素材を拾う枠です。「その他のCSAE」は、グルーミング、誘い出し、人身取引、未成年者への差し迫った危険の報告を指します。内訳の3項目を足すと14,825件で、総数の15,079件より254件少なくなります。内訳は総数を完全に分解した表ではないので、足し算が合うことを前提に読むと外します。
法的要請の節は、法執行機関や政府からのデータ開示請求を、内容情報・非内容記録・緊急開示請求の別に扱うと説明し、半期ごとの報告書(2024年1〜6月分から)にリンクしています。脅威インテリジェンスの節には、初めて報告されたAI主導のサイバー諜報活動の阻止を含む3本の報告が並びます。EUのDSAについては、Claude.aiのうちDSAの対象になる機能に限った透明性報告として、2025年5〜12月分の概要と全文が置かれています。
約束の中身はVoluntary Commitmentsで読む
3つ目の窓口は、独立したページです。構成は10の大見出しで、Executive Summary、Risk Assessment and Mitigation、Cybersecurity & Privacy、Public Awareness、Societal Impact、System Safeguard Commitments、Child Safety & Image-Based Sexual Abuse、Election Integrity、Terrorist and Violent Extremist Content、List of Voluntary Commitmentsの順に並びます。
前半は分野別の取り組みの説明で、各節の末尾に「Related Commitments」として、その取り組みがどの約束に対応するかが書かれています。後半の「List of Voluntary Commitments」は逆向きの索引です。約束ごとに、対応する取り組みがページ内のどの節にあるかを示します。
対象は次の10です。
- G7広島プロセス国際行動規範(2023年10月)
- AIソウルサミットのフロンティアAI安全コミットメント
- ソウルAIビジネス誓約
- ホワイトハウスの安全・安心・信頼できるAIのための自主的コミットメント
- ミュンヘンAI選挙アコード
- Thornの生成AI向けSafety by Design(児童性的虐待の防止)
- ホワイトハウスの画像ベース性的虐待に関するコミットメント
- クライストチャーチ・コール
- ニューデリー・フロンティアAIインパクト・コミットメント(2026年2月)
- Trusted Tech Alliance(2026年2月発足)
一つの約束が複数の節に分散している点は、索引から引くと分かりやすくなります。たとえば広島プロセスは、ライフサイクル全体のリスク評価と緩和、展開後の脆弱性の監視と対応、AIシステムの能力と限界の公開報告を掲げます。前の2つはRisk Assessment and Mitigation、最後の1つはPublic Awarenessの節につながります。ニューデリーのコミットメントにある、一部の言語・文化的文脈での多言語能力の評価は、Societal ImpactとPublic Awarenessの節が受けています。
RSPとFrontier Compliance Frameworkの役割
Risk Assessment and Mitigationの冒頭では、2つの文書の関係が説明されています。Responsible Scaling Policy(RSP)は2023年9月に初版が出た枠組みで、モデルの能力が一定の閾値に達すると、セキュリティと展開の両面で追加の保護措置を入れます。2026年2月に更新されました。変遷はResponsible Scaling Policy変遷にまとめています。
Frontier Compliance Framework(FCF)は2025年12月の公開で、サイバー攻撃、化学・生物・放射性・核の脅威、AIによる妨害と制御喪失、有害な操作を、フロンティアモデルについて評価・緩和する方法を定めます。モデル重みの保護とインシデント対応も含み、SB 53などの規制要件に対応する文書です。RSPは引き続き自主的な安全方針として残ります。
近い名前の別の仕組みと混同しない
ハブの内容と名前が近い別の仕組みがいくつかあります。誤用を検知する実装はConstitutional Classifiersで、Voluntary Commitmentsの節でも検知手段の1つとして登場します。Anthropic社員が顧客データにアクセスした記録を見られるClaude Access Transparencyは、ハブとは別の機能です。利用規約の改定履歴を追うならUsage Policyの変遷が対応します。
まとめ
Transparency Hubは3つの独立したページで、数字の根拠が欲しければModel ReportかSystem Trust and Reporting、方針や約束の根拠が欲しければVoluntary Commitmentsに当たります。過去モデルの評価値や半期の件数を引用するときは、評価が更新されうることと、内訳が総数と一致しない場合があることを踏まえて、元のページの注記ごと確かめるのが安全です。