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Claudeをサイバー防御AIへ強化した方法 — Sonnet 4.5の裏側

Claudeをサイバー防御AIへ強化した方法 — Sonnet 4.5の裏側

AnthropicがClaude Sonnet 4.5をサイバー防御向けに強化した方針と評価結果を解説します。Cybench・CyberGymの数値、パッチ生成の限界、HackerOneらの導入評価まで扱います。

サイバー防御にAIを投資する理由

Anthropicは2025年10月3日、Claude Sonnet 4.5をサイバー防御向けに強化した取り組みを公開しました。公表したのは、Claudeのサイバーセキュリティ能力を長年追跡してきたFrontier Red Teamです。フロンティアAIが攻撃側のツールとして有用だと研究と実例の両方で示された流れを受け、防御側の能力強化に投資したという位置づけです。

この取り組みの結果、Sonnet 4.5はわずか2か月前にリリースされたOpus 4.1に、脆弱性発見をはじめとするサイバー能力の多くで匹敵または上回りました。Anthropicは「AIとサイバーセキュリティにとって重要な転換点にある」と明言しています。

Anthropicが転換点と判断する根拠は複数あります。

  • Claudeがシミュレーション環境で、史上最も高額な被害を出したサイバー攻撃の一つである2017年のEquifax侵害を再現できた
  • サイバーセキュリティ競技会にClaudeを参加させたところ、一部の大会で人間チームを上回る成績を残した(詳細は7大会のCTFベンチマーク検証を参照)
  • 2025年夏のDARPA AI Cyber Challengeでは、Claudeを含むLLMを使った「サイバー推論システム」が数百万行規模のコードから脆弱性を検出し、一部は未知の脆弱性の発見・修正にも成功した
  • AnthropicのSafeguardsチームが、Claudeを悪用した大規模データ恐喝スキーム(いわゆる「vibe hacking」)や、中国系APTの特徴と一致する通信インフラを狙った諜報活動を検知・妨害した

攻撃側での悪用が現実の脅威として観測される一方、Anthropicは「最もスケールする解決策は、防御側を強化するAIシステムを構築すること」だと位置づけています。対象は企業や政府のセキュリティチーム、サイバーセキュリティ研究者、オープンソースソフトウェアのメンテナーです。

Sonnet 4.5で何を意図的に強化し、何を避けたか

大規模言語モデルは規模が拡大するにつれて、明示的な訓練目標ではなかった能力が副産物的に現れる「創発的能力」を示すことが知られています。CTF課題で脆弱性を発見・悪用する能力も、汎用アシスタントとしての開発の副産物として現れてきました。

Anthropicはこの一般的な進歩だけに頼りませんでした。Sonnet 4.5の開発では専任の研究チームが脆弱性の発見・パッチ適用・模擬デプロイ環境での耐性テストという3つの防御関連スキルに焦点を当てています。この3つを選んだ理由は、防御側の実務に直結するタスクだからです。

一方で、高度なエクスプロイト開発やマルウェア作成のような明確に攻撃側を利するエンハンスメントは意図的に避けています。目指したのは、デプロイ前に脆弱なコードを見つけること、そしてデプロイ済みのコードにある脆弱性を見つけて修正することです。この2つ以外にも重要な防御タスクは数多く残っており、それらは今後の研究課題として位置づけられています。

Cybenchで76.5%、半年で倍増した成功率

評価には業界標準のベンチマークを使い、モデル間の比較・進歩速度の測定・外部開発された評価による答え合わせを行っています。評価を何度も繰り返し実行することが重要だったとAnthropicは述べています。試行回数を増やすほど、実際の攻撃者や防御者がある問題に取り組んだときの挙動に近づくためです。

CybenchはCTF競技の課題から構成されたベンチマークで、Anthropicが1年以上追跡してきた評価の一つです。Sonnet 4.5は、直前世代のSonnet 4だけでなくOpus 4・4.1と比べても際立った改善を示しました。10回中1回の成功確率で見ると、Sonnet 4.5は1回試行だけでOpus 4.1の10回試行時の成功率を上回っています。

対象課題には、ネットワークトラフィックを解析してマルウェアを抽出し、それを逆コンパイル・復号するといった複雑で長時間の作業が含まれます。熟練した人間なら最低1時間、場合によってはもっとかかると見積もられる課題を、Claudeは38分で解いています。

モデルCybench成功率(10回試行)リリース時期の目安
Sonnet 3.7Cybench成功率(10回試行)35.9%リリース時期の目安2025年2月
Sonnet 4.5Cybench成功率(10回試行)76.5%リリース時期の目安2025年10月(本記事の対象)

半年間で成功率がほぼ倍増したことになります。

CyberGymで新たな脆弱性発見率が33%超に

CyberGymは、実在するオープンソースプロジェクトを対象に、①既知の脆弱性を高レベルの説明から見つけ直せるか、②未知の脆弱性を新規に発見できるかを評価するベンチマークです。CyberGymチームの公開リーダーボードでは、これまでSonnet 4が最強のモデルとされていました。

Sonnet 4.5はSonnet 4・Opus 4のいずれよりも大きく上回るスコアを記録しています。公開リーダーボードと同じコスト制約(脆弱性1件あたりLLM API利用料2ドル以内)では28.9%という新しい最高記録を達成しました。ただし実際の攻撃者はこの制約に縛られません。制約を外して1タスクあたり30回の試行を許すと、Sonnet 4.5は66.7%の割合で脆弱性を再現しています。30回試行の絶対コストは1タスクあたり約45ドルで、相対的な単価は上がるものの依然として低水準です。

新規の脆弱性発見率も向上しています。Sonnet 4はCyberGymのリーダーボード上で、およそ2%のターゲットにしか新規脆弱性を発見できませんでした。これに対しSonnet 4.5は1回試行で5%、30回試行では33%を超える割合で新規の脆弱性を発見しています。

指標Sonnet 4Sonnet 4.5(1回試行)Sonnet 4.5(30回試行)
CyberGymスコア($2制約)Sonnet 4リーダーボード最強(旧)Sonnet 4.5(1回試行)28.9%(新記録)Sonnet 4.5(30回試行)
脆弱性再現率(制約なし)Sonnet 4Sonnet 4.5(1回試行)Sonnet 4.5(30回試行)66.7%(約45ドル/タスク)
新規脆弱性の発見率Sonnet 4約2%Sonnet 4.5(1回試行)5%Sonnet 4.5(30回試行)33%超

パッチ生成は発見より難しい、15%が意味的に同等

脆弱性を見つけるだけでなく、修正パッチを生成・レビューする能力についても予備調査が行われました。パッチ生成は発見より難しいタスクです。機能を壊さずに脆弱性だけを除去する「外科的な修正」が必要で、仕様書がなければコードベースから意図された挙動を推測しなければなりません。

実験ではCyberGym評価セットの脆弱性について、脆弱性の説明とクラッシュ時の情報だけをSonnet 4.5に与えてパッチを生成させました。判定には、Claude自身に人間作成の参照パッチとの意味的な同等性を判断させる方式を使っています。結果は生成パッチの15%が参照パッチと意味的に同等というものでした。

ただし脆弱性の修正方法は一つとは限らないため、参照パッチと形が異なっていても正しい修正になっているケースが、比較ベースの評価では見逃されている可能性があります。実際、高スコアのパッチをサンプル抽出して人手で分析したところ、CyberGym評価の元になったオープンソースソフトウェアにマージ済みの参照パッチと機能的に同一のものが見つかっています。

HackerOneとCrowdStrikeの導入評価

Sonnet 4.5のリリースに先立ち、Anthropicは実際にAIを防御目的で活用する組織と協力し、脆弱性修復・ネットワークセキュリティテスト・脅威分析といった実務課題への適用についてフィードバックを得ています。

HackerOneのChief Product Officerを務めるNidhi Aggarwal氏はこう述べています。「Claude Sonnet 4.5により、セキュリティエージェントHaiの脆弱性受付にかかる平均時間が44%短縮し、精度も25%向上した」。CrowdStrikeのSenior Vice President兼Chief Scientistを務めるSven Krasser氏も評価しています。レッドチーミング用途での有望さと、攻撃者の手口を研究するための創造的な攻撃シナリオ生成能力です。

Cogentの脆弱性対応97%高速化やMozillaの1リリース271件修正といった、Claude Securityという製品を通じた具体的な導入事例は、Claudeをサイバーセキュリティ業務でどう使うかにまとまっています。本記事の対象は、その土台となるSonnet 4.5自体の防御能力強化という研究方針です。

今後の焦点はSOC自動化とSIEM分析

Anthropicは、Sonnet 4.5の能力がまだ発展途上であり、セキュリティ専門家や確立されたプロセスの水準には届いていない部分も多いと認めています。プラットフォーム上での不正利用対策では、単一のプロンプトと応答だけを見るのではありません。組織単位でのやり取りを要約して大局的に把握する技術を使い、大規模な自動化行為を伴う悪質なユースケースを見分ける取り組みを続けています。

今後の重点分野として4つを挙げています。Security Operations Center(SOC)の自動化、Security Information and Event Management(SIEM)分析、セキュアなネットワークエンジニアリング、能動的防御(active defense)です。研究者やチームがこれらの領域でモデルを実験できる環境を整え、防御能力を測る評価の第三者エコシステムを広げたい考えです。CI/CDパイプラインへの統合例としては、Claude Codeの自動セキュリティレビューが挙げられています。

AIによる防御力強化だけでは不十分で、デジタルインフラそのものをより堅牢にし、フロンティアAIモデルの支援も得ながらソフトウェアを設計段階から安全にしていく必要があるとも指摘しています。

まとめ

Anthropicは、攻撃側でのAI悪用が現実の脅威として観測される転換点にあるとの判断から、Sonnet 4.5の開発で脆弱性発見・パッチ適用・耐性テストという防御関連スキルを専任チームで強化しました。Cybenchでの成功率は半年で35.9%から76.5%へ、CyberGymの新規脆弱性の発見率は2%から最大33%超へと伸びています。パッチ生成の自動化はまだ発展途上で、比較評価の限界を踏まえた慎重な数値解釈が必要です。SOC自動化やSIEM分析といった実務領域への展開は今後の焦点として位置づけられています。

Sonnet 4以前の世代でのサイバー能力評価はClaude Opus 4サイバー能力評価にまとめています。MITRE ATT&CKでの攻撃者動向分析は832件の攻撃分析、レッドチーム研究の背景はClaudeのレッドチームがフロンティア脅威を追う理由で扱っています。

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