Claudeをサイバーセキュリティ業務でどう使うか — Project Glasswingと脅威対応の実例
Claude Securityの防御ワークフロー、Cogentの脆弱性対応97%高速化、Mozillaの271件修正の実例をまとめます。
脆弱性を見つける速さでは、フロンティアモデルはすでに大半の人間の専門家を上回っています。問題は見つけた後です。防御側の検証・修正・配布が追いつかず、発見と解消の間に空白期間が生まれています。Claudeのセキュリティ活用は、この空白を埋める側に立つ取り組みとして進んでいます。
発見と修正の差はどこで生まれているか
脆弱性スキャナーは1日に数千件の候補を吐き出せます。難しいのはその先です。どれが本当に危険か、誰が直すべきか、具体的な修正手順は何か。この判断にはスキャナー・エンドポイント検知・資産台帳・脅威インテリジェンスといったバラバラなデータソースを人手で突き合わせる作業が要り、ここが遅いままだと高深刻度の脆弱性が数日から数週間も開いたまま放置されます。
フロンティアモデルの攻撃能力(exploit reasoning)は世代を追うごとに伸びています。Anthropic Frontier Red Teamの実測では、Firefoxの未修正パッチを突くエクスプロイトの成功数がOpus 4.5の2本からOpus 4.8で11本、Mythos Previewでは14本へと積み上がりました。1年前の最先端モデルは、セキュリティの欠陥を見つけられても、それを実際に安定して悪用する段階までは到達できていなかったことになります。Claude Mythos Previewは、現代のブラウザーやOSが備えるサンドボックス防御を一貫して突破できる初めてのモデルだとされています。攻撃側の能力が上振れするほど、防御側の「発見してから直すまで」を縮めることの重要性が増します。
この能力差を裏付けるように、Claude Opus系モデルはこれまで、数十年にわたる人手のレビューや自動解析を生き延びてきたオープンソースソフトウェアの高深刻度脆弱性を、500件以上発見してきた実績があります。長年見過ごされてきた欠陥が、モデルの読解力によってようやく表に出た形です。
Claude Securityは脅威把握から検証までを4段でつなぐ
Claude Securityは、コードをセキュリティ研究者のように読み、脆弱性の走査・検証・パッチ提案までを一気通貫で担うAnthropicの製品です。設計の要点は、単発のスキャンではなく、脅威情報の収集からパッチのレビューまでを1つの継続ループにしていることです。
- 脅威コンテキストの構築: コードベースと過去の脆弱性から脅威モデルを組み立て、生の検知結果にインフラの関連情報や攻撃手法のマッピングを加える。オープンソースのThreat Intel Enrichment agent / Threat Model skillとして公開されている
- 脆弱性の検出: 静的解析ツールが見落としがちな到達可能性・悪用可能性を、研究者と同じ発想でコードから読み解く。別パスの再検証で誤検知を減らす
- パッチの生成: 見つけた不具合を根本原因までたどり、同じ欠陥を持つ他の呼び出し箇所も洗い出したうえで、回帰テスト付きの最小差分を書く
- トリアージと検証: 任意のスキャナーの生の検出結果を受け取り、悪用可能性の確認・根本原因での重複排除・影響度順のランク付けまでを引き受ける
Claude Codeを使っているチームには、開発の各段階でこの一連の流れをレビューに組み込む「Code Review」スキルが用意されています。編集中のコードをその場でチェックし、プルリクエストは専用のエージェントが検証済みの指摘だけをインラインで返す仕組みで、レビューの停止条件にはなりません。有効化手順や検知対象の詳細はClaude Securityの機能ガイドにまとめており、本記事はこの先、実際に導入した企業の事例に絞ります。
Cogentは脆弱性対応を97%速くした
Cogentが公開した数値は次の通りです。
| 指標 | 導入前 | Claude導入後 |
|---|---|---|
| 重要脆弱性が開いたままの時間 | 導入前数日〜数週間 | Claude導入後97%短縮 |
| ゼロデイへの初動対応 | 導入前数日(手動調査・調整) | Claude導入後30分 |
| 人手レビューが要る誤検知ノイズ | 導入前— | Claude導入後90%削減 |
| アナリスト1人あたりの手動レポート時間 | 導入前— | Claude導入後月40時間以上を回復 |
CogentのCTOであるGeng Sng氏は「攻撃側はすでに攻撃工程の大半を自動化し、かつては数週間かかった作業を数時間に圧縮した。一方の防御側は、いまだに分断されたツールと手作業の調整に頼っている」と、AIの登場で力関係が変わったと語っています。
Cogentが複数のモデル提供元を比較検討した決め手は、10〜15段に及ぶ連続したツール呼び出しでも文脈を見失わないエージェント的な信頼性でした。脆弱性がスキャナーに現れてから、対象のソフトウェアバージョン、影響を受ける資産、実際の露出度合いへと証跡を追う作業は、途中で文脈が切れると成立しません。Head of AIのAnirudh Ravula氏は「複雑で多段階のエージェントワークフロー、特にポリシー順守と複数ツールにまたがる持続的な推論が必要な調査で、Claudeが一貫して最も良い成績を残した」と評価しています。
Mozillaは1回のリリースで271件を直した
もう一つの実例が、ブラウザーベンダーのMozillaです。2026年3月、MozillaはClaude Opus 4.6が発見した脆弱性の修正を出荷しました。数十年にわたる人手レビューを生き延びていたオープンソースソフトウェアのバグが、ここで多数見つかっています。続く4月のリリースでは、Mythos Previewを使った修正が271件に達し、これはMozillaの月平均と比べて20倍を超える規模でした。FirefoxのCTOであるBobby Holley氏はこの結果を「防御側がついに、決定的に勝てるチャンスを手にした」と表現しています。
この事例が示すのは、AIが脆弱性を見つける役割と、実際にパッチを当てるかどうかを判断する役割が分かれたままだという点です。レビュー対象の母数はモデルが広げますが、何を実際に直すかは最終的に人間が決めています。発見の速さだけを追う施策は、この後段のボトルネックを解消しません。
なぜMythosクラスのモデルは一般公開されないのか
Claude Mythos PreviewとMythos 5は、エクスプロイトを組み立てる推論力が特に強いモデル群です。この能力は防御にも攻撃にも転用できる、いわゆるデュアルユースの性質を持つため、Anthropicは初期アクセスをProject Glasswingという枠組みの下、重要インフラや基幹ソフトウェアを守る一部のパートナーに限定しています。一般提供されているのは、同じMythosクラスの能力を追加の安全策で抑えたClaude Fable 5です。
Project Glasswingの枠組み自体は、初期報告とその後の拡大で詳しくまとめています。要点だけ拾うと、取り組みを支えるオープンソースインフラの維持には12の創設メンバーと40以上の組織が参加し、Anthropicは重要インフラを守るパートナー向けに1億ドル相当の利用クレジットを提供、OpenSSFやApache Software Foundationなどへは400万ドルを直接寄付しています。
この設計は、性能を止めて安全を取る発想ではありません。強い能力を先に少数へ渡し、安全に運用できる体制ができた領域から広げるという順序の設計です。裏を返せば、この順序が崩れれば――つまり同格の能力を持つモデルが安全策なしで広く出回れば――今回Mozillaが得たような「防御側が先に動ける」状況は再現できなくなります。同じMythos Previewがパッチ公開からわずか数時間でFirefoxやWindowsカーネルの悪用コードを組み立てられることも先の実測で確認されており、この技術が両刃であることは数字の上でも裏付けられています。
導入形態別の使い分け
同じ「Claudeでセキュリティ業務」でも、狙う効果によって入り口は変わります。自社コードの品質を上げたいのか、既存システムの一括棚卸しをしたいのか、自前のワークフローに組み込みたいのかで、選ぶべき手段が変わってきます。
| 利用形態 | 向いている業務 | 補足 |
|---|---|---|
| Claude Code + Code Reviewスキル | 向いている業務自社コードの日々のPRレビュー、脆弱性の作り込み防止 | 補足開発フローに組み込み、指摘のみをインラインで返す |
| Claude Security | 向いている業務既存コードベースの一括スキャンとパッチ提案 | 補足スキャナーの出力をトリアージする用途にも使える |
| Agent SDK / MCP / Claude API | 向いている業務自社専用の防御エージェントを内製したい場合 | 補足サンドボックス実行・資格情報の分離・監査ログを組み込める |
| Project Glasswing級の高度アクセス | 向いている業務重要インフラ・基幹ソフトウェアの防御 | 補足一般提供はされておらず、要件を満たすパートナーのみ |
すでにClaude Codeを日常的に使っているチームであれば、Claude Codeのセキュリティ・権限ガイドで自組織の権限設計を整えたうえで、security-reviewコマンドからPRの脆弱性検知を試すのが最短ルートです。
よくある質問
Claude Securityは無料で使えますか
Claude Securityの利用料はスキャンで使うトークンの直接コストのみで、製品自体に追加のプラットフォーム料金はかかりません(有効化にはプレミアムシートの割り当てが要ります。詳細はClaude Securityとはを参照してください)。ただし、脅威コンテキストの構築・脆弱性検出・トリアージに使われている一部のエージェントやスキルは、オープンソースの参照ツールとして全セキュリティチーム向けに公開されており、製品を契約しなくても自前のワークフローへ組み込む選択肢があります。
Mythosクラスのモデルを一般企業が使うことはできますか
Project Glasswingの審査を通過したパートナーに限定されています。一般提供されているのは安全策を強化したClaude Fable 5で、Mythos自体の一般提供時期は明言されていません。
Cogentの数値は自社にそのまま当てはまりますか
97%短縮などの数値はCogentの導入環境における実績で、脆弱性の量や既存ツールの構成によって効果は変わります。導入効果を測る指標として、対応時間・誤検知率・レビュー工数の3点を自社の現状値と比較するところから始めるのが現実的です。
まとめ
サイバーセキュリティにおけるClaudeの使い方は、単発のスキャンツールとしてではなく、脅威把握・検出・パッチ・トリアージを1つの継続ループとして回す方向に向かっています。Cogentのように自社製品へClaudeを埋め込んで運用時間を桁違いに縮めるやり方もあれば、MozillaのようにMythosクラスのモデルが広げたレビュー母数から、人間が直すものを取捨するやり方もあります。どちらの形を取るにせよ、AIが脆弱性を見つける速度と、人間が実際に直す速度の差を埋めることが、この分野でClaudeを使う目的そのものです。