Claudeをサイバーセキュリティ業務でどう使うか — Project Glasswingと脅威対応の実例
Claude Securityの防御ワークフロー、Cogentの脆弱性対応97%高速化、Mozillaの271件修正の実例をまとめます。
脆弱性を見つける速さでは、フロンティアモデルはすでに大半の人間の専門家を上回っています。問題は見つけた後です。防御側の検証・修正・配布が追いつかず、発見と解消の間に空白期間が生まれています。Claudeのセキュリティ活用は、この空白を埋める側に立つ取り組みとして進んでいます。
発見と修正の差はどこで生まれているか
脆弱性スキャナーは1日に数千件の候補を吐き出せます。難しいのはその先です。どれが本当に危険か、誰が直すべきか、具体的な修正手順は何か。この判断にはスキャナー・エンドポイント検知・資産台帳・脅威インテリジェンスといったバラバラなデータソースを人手で突き合わせる作業が要り、ここが遅いままだと高深刻度の脆弱性が数日から数週間も開いたまま放置されます。
フロンティアモデルの攻撃能力(exploit reasoning)は世代を追うごとに伸びています。Anthropic Frontier Red Teamの実測では、Firefoxの修正パッチ18本のうち、PoC(概念実証のクラッシュ)を作れた数がOpus 4.5の2本からOpus 4.8の11本、Mythos Previewの14本へと積み上がりました。任意コード実行まで届くエクスプロイトは、Mythos Previewがパッチ公開から1時間以内に1本、12時間で計8本です。
Windowsカーネルでも、Mythos Previewは21本のパッチから8本の権限昇格チェーンを組み上げました。1年前の最先端モデルは欠陥を見つけられても、安定して悪用するところまでは届かなかったことになります。Claude Mythos Previewは、現代のブラウザーやOSが備えるサンドボックス防御を一貫して突破できる初めてのモデルだとされています。攻撃側の能力が上振れするほど、防御側の「発見してから直すまで」を縮める意味が増します。
この能力差を裏付けるように、Claude Opus系モデルは、数十年にわたる人手のレビューや自動解析を生き延びてきたオープンソースソフトウェアの高深刻度脆弱性を500件以上見つけています。Claude Opus 4.6がCVE-2026-2796を実際にエクスプロイト化した事例もその延長線上にあります。長年見過ごされてきた欠陥がモデルの読解力で表に出た形で、発見後の開示手順はAnthropicの脆弱性開示ポリシーとバグバウンティ制度に定められています。
脅威把握から検証までを4段のループでつなぐ
Anthropicは、脆弱性対応を単発のスキャンで終わらせず、脅威情報の収集からパッチのレビューまでを1つの継続ループにする設計を打ち出しています。各段で使える入口は同じではありません。
4段のループと、それぞれの入口
- 1
脅威コンテキストを作る
コードベースと過去の脆弱性から脅威モデルを組み立て、生の検知結果にインフラの関連情報や攻撃手法(ATT&CK)の対応づけを加えます。入口はオープンソースのThreat Intel Enrichment agentとThreat Model skillで、Claude Security本体には含まれません。
- 2
脆弱性を検出する
到達可能性と悪用可能性を、研究者と同じ発想でコードから読み解きます。別パスの再検証が全件に入り、誤検知を減らします。Claude Securityと、オープンソースのVulnerability detection agentが入口です。
- 3
パッチを書く
根本原因までたどり、同じ欠陥を持つ他の呼び出し箇所も洗い出して、回帰テスト付きの最小差分を書きます。入口はClaude Securityと、オープンソースのPatching skillです。
- 4
トリアージして検証する
任意のスキャナーの生の検出結果を受け取り、悪用可能性の確認・根本原因での重複排除・前提条件と影響度による順位付けまでを引き受けます。入口はClaude Securityと、オープンソースのTriage skillです。
Claude Securityは、GitHubのリポジトリを走査して検証済みの指摘とパッチ案を返す製品で、Claude Enterprise向けにパブリックベータで提供されています。管理者が管理コンソールから有効化します。スキャンの対象や費用感はClaude Securityの機能ガイドにまとめています。
使われるモデルの書き方は、公式ページ同士で違います。2026年6月2日のProject Glasswing拡大の発表は、Claude Securityが「Claude Opus 4.8のような最新の公開フロンティアモデル」を使うと述べています。製品ページはその後の姿で、Claude Enterprise顧客のスキャンがClaude Mythos 5.1で動くと書きます。ただしMythos 5.1で動くのはClaude.ai上のClaude Securityアプリだけで、Claude Codeのプラグイン版は、自分のアカウントで使えるモデルしか使いません。
Claude Codeを使っているチームには、開発の途中でこのループを回すもう一つの入口があります。Claudeが自分の編集をその場でセキュリティ観点から確認して同じセッションで直し、プルリクエストは専用のエージェントが検証済みの指摘だけをインラインで返します。レビューの通過条件を止める作りではありません。
Cogentは脆弱性対応を97%速くした
Fortune 1000企業向けにセキュリティ業務を自動化するCogentは、調査・優先順位付け・修復の全工程にClaudeを組み込んでいます。公開された数値は次の4つです。
Cogentが公表した成果
重要脆弱性が開いている時間
97%短縮
数日〜数週間かかっていた対応サイクルが分単位に
ゼロデイへの初動
30分
以前は数日の手動調査と調整
人手レビューが要るノイズ
90%減
誤検知の山を削減
アナリスト1人の手動報告
月40時間超
削減できた作業時間
CogentのCTOであるGeng Sng氏は「攻撃側はすでに攻撃工程の大半を自動化し、かつては数週間かかった作業を数時間に圧縮した。一方の防御側は、いまだに分断されたツールと手作業の調整に頼っている」と、AIの登場で力関係が変わったと語っています。
複数のモデル提供元を比べたCogentの決め手は、10〜15段に及ぶ連続したツール呼び出しでも文脈を見失わないエージェント的な信頼性でした。脆弱性がスキャナーに現れてから、対象のソフトウェアバージョン、影響を受ける資産、実際の露出度合いへと証跡を追う作業は、途中で文脈が切れると成立しません。Head of AIのAnirudh Ravula氏は「複雑で多段階のエージェントワークフロー、特にポリシー順守と複数ツールにまたがる持続的な推論が必要な調査で、Claudeが一貫して最も良い成績を残した」と評価しています。
もう一つ注目したいのは、順位付けの基準です。大企業では脆弱性と資産の組み合わせが数百万に及びます。従来のリスクスコアは脆弱性そのものの深刻度で一律に付けるのに対し、Cogentのエージェントは、実際の悪用可能性、資産の事業上の重要度、インターネットへの露出、すでにある補完的な対策の4点を見て順位を付けます。同じ深刻度の指摘でも、環境しだいで直す順番が変わる設計です。
Mozillaは1回のリリースで271件を直した
もう一つの実例が、ブラウザーベンダーのMozillaです。2026年3月、MozillaはClaude Opus 4.6が発見した脆弱性の修正を出荷しました。数十年にわたる人手レビューを生き延びていたオープンソースソフトウェアのバグが、ここで多数見つかっています。続く4月のリリースでは、Mythos Previewを使った修正が271件に達し、これはMozillaの月平均と比べて20倍を超える規模でした。FirefoxのCTOであるBobby Holley氏はこの結果を「防御側がついに、決定的に勝てるチャンスを手にした」と表現しています。
この事例が示すのは、AIが脆弱性を見つける役割と、実際にパッチを当てるかどうかを判断する役割が分かれたままだという点です。レビュー対象の母数はモデルが広げ、何を実際に直すかは最終的に人間が決めています。発見の速さだけを追う施策は、この後段のボトルネックを解消しません。
Mythosクラスのモデルはなぜ一般公開されないのか
Claude Mythos PreviewとMythos 5は、エクスプロイトを組み立てる推論力が特に強いモデル群です。この能力は防御にも攻撃にも転用できるデュアルユースの性質を持つため、Anthropicは初期アクセスをProject Glasswingという枠組みの下、重要インフラや基幹ソフトウェアを守る一部のパートナーに限定しています。一般提供されているのは、同じMythosクラスの能力を追加の安全策で抑えたFableシリーズ(最新はClaude Fable 5.1)です。
Project Glasswingの枠組み自体は、初期報告とその後の拡大で詳しくまとめています。2026年10月にはGlasswingとCVPが3段階に統合されました(Cyber Verification Programの拡大)。参加組織の広がりは次のとおりです。
Project Glasswingの広がり
- 2026年4月7日12組織で発足
AWS、Apple、Google、Microsoft、NVIDIAなど12組織で始まり、重要ソフトウェアを扱う40以上の組織にもアクセスが広がりました。利用クレジットは最大1億ドル、オープンソースのセキュリティ団体への直接寄付は400万ドル(Alpha-OmegaとOpenSSFに250万ドル、Apache Software Foundationに150万ドル)です。
- 2026年6月2日約150組織が追加
初期の約50パートナーに加えて約150組織が加わりました。15か国以上で、電力・水道・医療・通信・ハードウェアなど、初期に手薄だった分野を含みます。この時点で、パートナーが見つけた重大度が高い欠陥は1万件を超えています。
クレジットの期間が終わると、Mythos Previewの参加者向け価格は入力100万トークンあたり25ドル、出力125ドルです。
この設計は、性能を止めて安全を取る発想ではありません。強い能力を先に少数へ渡し、安全に運用できる体制ができた領域から広げるという順序の設計です。同格のモデルが安全策なしで広く出回れば、Mozillaが得たような「防御側が先に動ける」状況は再現できなくなります。Anthropicは6〜12か月のうちに他社も同等のモデルを持つと見込み、Glasswingを、そうなる前に防御側の運用の型をつくる場と位置づけています。
Claude Codeでサイバー作業が止まったとき
一般提供のモデルでも、サイバー領域の依頼は安全分類器で検査されます。脆弱性調査を普段の作業にするチームは、挙動を知っておくと戸惑いません。
分類器に引っかかったときの流れ
- 1
別のモデルで自動的にやり直される
Fable 5.1、Fable 5、Opus 5.5でサイバー領域と判定された依頼は、Claude CodeがOpus 4.8で再実行し、会話の記録(トランスクリプト)に通知を表示します。Sonnet 5.5はSonnet 5で、Opus 5はOpus 4.8でやり直します。この仕組みにはv2.1.219以降が必要です。
- 2
やり直せないとエラーで止まる
フォールバック先がモデル制限で許可されていないと、エラーが通常どおり表示されます。メッセージには、拒否したモデルの名前と、Cyber Verification Programへの案内が入ります。Opus 5.5とSonnet 5.5では、冒頭が「safeguards flagged this session」に変わります。
API Error: Opus 4.8's safeguards flagged this message. Our intentionally broad safeguards allow us to deliver more capabilities faster, but can sometimes flag legitimate cybersecurity work. Apply to the Cyber Verification Program to reduce these interruptions. Send feedback with /feedback or learn more: https://support.claude.com/en/articles/14604842-real-time-cyber-safeguards-on-claude - 3
正当な防御業務ならプログラムに申し込む
Cyber Verification Programは、脆弱性の悪用やオフェンシブなツール開発のような二重用途の作業を、防御目的で続けたい専門家向けの無料プログラムです。ランサムウェア開発のような「ほぼ悪用にしか使われない」作業は、申し込んでも解除されません。
Cyber Verification Programを申し込めるのは、Anthropic直営の経路(Claude.ai、Claude Code、Anthropic API)では管理者権限のある人だけです。ヘルプセンターは、Opus 5.5・Sonnet 5.5・Mythos級への対象拡大を予告しています。承認は組織IDごとに付くため、別の組織には引き継がれません。
導入形態別の使い分け
同じ「Claudeでセキュリティ業務」でも、狙う効果によって入り口は変わります。自社コードの品質を上げたいのか、既存システムの一括棚卸しをしたいのか、自前のワークフローに組み込みたいのかで、選ぶ手段が変わります。
| 利用形態 | 向いている業務 | 補足 |
|---|---|---|
| Claude Code + Code Review | 向いている業務自社コードの日々のPRレビュー、脆弱性の作り込み防止 | 補足開発フローに組み込み、指摘のみをインラインで返す |
| Claude Security | 向いている業務既存コードベースの一括スキャンとパッチ提案 | 補足Enterprise向けのパブリックベータ。スキャナーの出力のトリアージにも使える |
| Agent SDK / MCP / Claude API | 向いている業務自社専用の防御エージェントを内製したい場合 | 補足公開されているオープンソースのagentやskillを部品にできる |
| Project Glasswing級の高度アクセス | 向いている業務重要インフラ・基幹ソフトウェアの防御 | 補足審査を通ったパートナーのみ。信頼されたアクセスの枠を広げる計画がある |
すでにClaude Codeを日常的に使っているチームであれば、Claude Codeのセキュリティ・権限ガイドで自組織の権限設計を整えたうえで、security-reviewコマンドからPRの脆弱性検知を試すのが最短ルートです。本番で検知したエラーをそのままハンドオフして直す運用はSentry MCPをOAuthでClaude Codeに接続しSeerで自動修正するにまとめています。
よくある質問
Bedrockやゼロデータ保持の環境でもCyber Verification Programは使えますか
経路によって分かれます。Amazon Bedrockでは提供されていません。Microsoft Foundryでは、AzureのテナントIDとサブスクリプションIDを添えたフォームで申し込みます。Claude Platform on AWSとClaude on Google Cloudは、Anthropicのアカウントと各クラウドのアカウントを連携して申し込む形です。Claude on Google Cloudでは、Advanced AI Safety Addendumへの同意とPublisherModelConfigによるデータ保持設定が申し込みの前提です。ゼロデータ保持(ZDR)の組織は、現状は対象外です。審査結果は、申し込みから2営業日以内にメールで知らせる方針とされています。
Bedrockなどのクラウド経由では、サイバー判定のエラーはどう見えますか
Amazon Bedrock、Google CloudのAgent Platform、Microsoft Foundry経由では、サイバー判定はUsage Policyの拒否メッセージとして返ります。上のsafeguardsのメッセージとは文面が違うため、エラー文言で原因を切り分けるときは経路も合わせて見ます。
まとめ
Cogentのように自社製品へClaudeを埋め込む使い方と、Mozillaのようにレビュー母数だけをモデルに広げて直す対象を人が絞る使い方では、効く場所が違います。自分のチームで詰まっているのが発見なのか、優先順位付けなのか、パッチの適用なのかを先に切り分けると、選ぶ入口が決まります。