Claudeで新規事業の撤退基準とステージゲートを設計する — 判定表を事前に固定
新規事業の段階ごとに、進む・続ける・撤退の指標と期限と費用上限を事前に決め、会議ごとに判定表で照合する手順です。Claudeは照合役に置きます。
新規事業をやめられないのは、やめる基準が無いまま続けているからです。会議のたびに「もう少し様子を見よう」が通ってしまうのは、何が起きたら止めるのかを誰も事前に決めていないことが大半の原因です。
この記事は、事業を段階に区切り、段階ごとに判定指標・期限・費用上限・撤退条件を先に固定し、会議ごとに判定表で照合する手順を扱います。作業の場はClaudeのProjectsです。Claudeに任せるのは基準の叩き台づくりと、実績が基準に当たるかの照合です。進むか止めるかの決定は、人が行います。
ステージゲートの判定表は、5つの列で決まる
ステージゲートは、事業を段階に区切り、段階の出口(ゲート)で続行・見直し・撤退を判定する方式です。判定を会議の空気に任せないため、ゲートごとに次の5列を埋めた表を作ります。
ゲート1つにつき先に決める5列
証拠の基準
何が、いくつ、どんな条件で揃ったら次へ進むか。数と条件で書きます。
撤退の条件
どの状態になったら続けないか。「進む」の裏返しではなく、独立した条件にします。
期限
その段階に使える期間。期限が来たら、基準に届いていなくても判定会議を開きます。
費用の上限
その段階で使ってよい金額と人の時間。上限に達したら、追加投資は次のゲートの判定に回します。
判定者と根拠資料
誰が決め、どのファイルを根拠にするか。根拠が無い行は「未判定」にします。
「進む」の基準だけで撤退の条件が無い表は、実質的に続行しか選べません。撤退の条件を書く列を別に持つのが、この表の要点です。
前提の洗い出しはリーンキャンバスをClaudeで作る手順に、前提を確かめるインタビューの設計は顧客インタビューの設計手順にあります。ここでは、それらの検証結果を次の投資判断に結びつける側を扱います。
段階と指標の例 — 数字は型を示すための仮置き
段階の切り方は事業によって違います。次の表は、4段階に切った場合の判定表の形を示す例です。数字は仮置きで、自社の事業にそのまま当てはまる値ではありません。
| ゲート | 確かめること | 進む基準の例 | 撤退条件の例 |
|---|---|---|---|
| G0課題 | 確かめること課題が実在し深いか | 進む基準の例対象者8人中3人が、過去1年に自腹で対処した事例を語る | 撤退条件の例6人以上が「困っていない」と語る |
| G1解決策 | 確かめること試作が課題に効くか | 進む基準の例試作を触った5社中2社が、次回の利用日を自分で決める | 撤退条件の例3か月で利用予定が1社も入らない |
| G2初期販売 | 確かめることお金を払う人がいるか | 進む基準の例3か月で有料契約が目標件数に届く | 撤退条件の例目標の半分未満で、価格を変えた再試行も外れた |
| G3拡大 | 確かめること増やしても採算が合うか | 進む基準の例獲得費用の回収期間が基準内 | 撤退条件の例回収期間が基準の2倍を超えて改善しない |
どの行も、意見ではなく行動と数字で書いています。「関心がありそう」は基準になりません。基準の数字は、市場の大きさ、相手の見つけやすさ、事業が許容できる損失の重さで変わるため、事業を知っている人が決めます。Claudeの案は叩き台として使い、そのまま採用しません。
判定は4択にしておくと、会議が止まらない
ゲートの出口を「進む」と「やめる」の2択にすると、中間の結果で判断が割れて先送りになります。次の4択を最初から用意します。
- 進む: 証拠の基準を満たし、撤退の条件に当たらない
- 条件付きで続ける: どちらにも当たらない。追加で確かめる事項と期限を1つに絞る
- 見直す: 前提が外れたと分かった。課題か顧客を変えて、前のゲートへ戻る
- 撤退: 撤退の条件に当たった。残りの費用を止める
「条件付きで続ける」には回数の上限を付けます。同じゲートで2回続けたら次は進むか撤退かを選ぶ、のように判定表に書いておくと、様子見が恒常化しません。
手順1: Projectsを作り、判定表を置く
claude.aiの「Projects」から「+ New Project」で作成します。名前と説明はClaudeからは見えないため、Claudeに伝えたいことはプロジェクト指示かナレッジに書きます。ナレッジに入れたファイルは、そのProjectのすべてのチャットで使われます。
置くファイルの構成例です。
00_business_memo.md 事業の概要と投資の上限
01_stage_gate_table_v1.md 判定表(5列 × ゲート)
02_decision_log.md 各ゲートの判定と日付
10_evidence_G0_customer.md G0 の根拠資料(インタビュー記録の要約)
11_evidence_G1_trial.md G1 の根拠資料(試作の利用記録)判定表にはバージョンを付け、日付を入れます。基準を後から変えるときも、旧版を消さずに v2 を追加します。何をいつ変えたかが残ることが、後で基準が動いたかどうかを確かめる材料になります。
手順2: プロジェクト指示に照合のルールを入れる
「Set project instructions」に、照合の約束事を保存します。保存した指示は、そのProjectのすべてのチャットに効きます。
あなたは新規事業のステージゲート判定を支援する照合担当です。
ナレッジの判定表と根拠資料だけを根拠にします。
1. 判定表の各行について、基準・実績・出典ファイル・判定
(満たす / 満たさない / 未判定)を表で示す。
2. 実績が資料に無い行は「未判定」と書く。推測で埋めない。
3. 撤退の条件に当たる行があれば、他の行の結果にかかわらず先頭に示す。
4. 判定表の基準そのものは変えない。変更の提案は
「基準変更案」として分け、変更理由を1行添える。
5. 最終判定(進む / 条件付き / 見直す / 撤退)は出さない。
判定者が決めるための材料を整理するところまでにする。3番目が肝心です。撤退の条件に当たった事実を、良い指標の陰に隠さないための順序づけです。5番目は、決定の責任を人に残すための線引きです。
手順3: 会議ごとに判定表で照合する
ゲートの判定会議の前に、その期間の根拠資料をナレッジに追加し、新しいチャットで照合を頼みます。
G1 の判定会議用に照合してください。
01_stage_gate_table_v1.md の G1 の全行について、
11_evidence_G1_trial.md を根拠に判定表を出してください。
出典の無い行は「未判定」とし、未判定の行は
「何があれば判定できるか」を1行ずつ添えてください。返ってきた表は、会議の前に次の順で読み直します。
照合結果を会議に出す前の確認
- 1
出典ファイルを開く
表に書かれた実績の数字を、元のファイルで確かめます。数字の転記ミスと、資料に無い数字の混入をここで拾います。
- 2
未判定の行を数える
未判定が多いなら、基準を満たしたかどうかではなく、証拠が足りていないことが論点です。
- 3
撤退の条件を先に読む
当たっている行があれば、他の結果を読む前にそこを会議の最初の議題に置きます。
- 4
基準変更案を分けて扱う
Claudeが出した「基準変更案」は、今回のゲートの判定には使いません。次のゲートの版として別に審議します。
出典ファイルを開く手順を省くと、判定表が整っているだけで中身は未確認という状態になります。Claudeの表は、人が確かめるための下書きです。
基準を後から動かさないための3つの仕掛け
撤退基準が機能しなくなる典型は、結果が悪かったときに基準のほうを下げることです。Projectsの機能で、これを防ぐ仕掛けを3つ置けます。
1. 判定表は日付付きファイルで凍結する。ゲートに入る前に 01_stage_gate_table_v1.md を確定し、そのゲートの期間は編集しません。変えたいときは、変更理由と日付を添えた v2 を別ファイルで足し、旧版は残します。
2. 編集権限を絞る。Team・Enterpriseプランでは、プロジェクトを共有するときに「Can view」と「Can edit」を選べます。公式の説明では、Can editの人はプロジェクトの指示とナレッジを変更できます。Can viewの人は内容を見てチャットできますが、編集はできません。判定表と指示を固定したいなら、事業の担当者に編集権限を持たせず、判定者と事業担当者を分けて付与する設計が考えられます。
3. 判定結果を決定ログに追記する。会議のあと、判定と日付を 02_decision_log.md に追加してナレッジに戻します。チャット同士で文脈は共有されないため、ログに書かなかった結論は、次のチャットのClaudeには存在しません。
落とし穴
事業担当者に編集権限を渡すと、基準を書き換えられる
Can editの人は、プロジェクトの指示とナレッジを変更できます。判定表を置いたままプロジェクトを広く編集可能にすると、基準の凍結は運用の約束事にとどまり、仕組みでは守られません。Free・Pro・Maxプランのように共有の権限分けが無い環境では、判定表をプロジェクトの外の版管理で持つことになります。
過去の投資額と、これからの費用を分けて問う
撤退を遅らせる最大の要因は、これまでに使った金額と時間です。判定の質問は、これから先の話だけにします。
G2 の判定で、過去に使った金額は考慮しません。
次の3点だけを、資料にある数字で整理してください。
- 次のゲートまでに必要な追加の費用と人の時間
- 次のゲートで基準に届く見込みを裏づける根拠資料
- 見込みが外れたときの撤退コスト(解約・契約残など)
資料に無い数字は「未確認」と書いてください。「見込みを裏づける根拠資料」は、願望と証拠を分けるための項目です。資料が出てこなければ、その見込みは判定の材料にしません。
事業別の損益や共通費の見方は、共通費の配賦をClaude for Excelで試す手順に、継続・撤退の判断材料の出し方があります。数字の側はそちらで整え、ここでは判定表に載せる根拠として使います。
判定の前にClaudeに反対側を出させる
ゲートに近づくと、チームは進める方向の証拠を集めがちです。判定の前に、別のチャットで次の依頼をします。
G1 を「進む」と判定する前提で、それに反する証拠を
資料から探してください。
- 基準は満たしているが、満たし方が弱い行
- 少数の相手に偏っている実績
- 撤退の条件にあと一歩の行
見つからなければ「見つからない」とだけ書いてください。別のチャットに分けるのは、判定表を作った流れから離れるためです。「見つからない」と書かせるのは、無理に反証を作らせないための指定です。出てきた反証は、元の資料に戻って確かめます。
撤退を決めたあとの片づけ
撤退と判定したら、決定ログに理由と日付を書き、残りの費用と契約を止めます。Projectsには、完了した案件を整理するためのアーカイブ機能があります。アーカイブしても、共有の権限もメンバーも、ナレッジもそのまま残ります。アクセスを外したいときは、プロジェクトの共有設定からメンバーを削除します。
アーカイブした案件は、アーカイブ一覧から開き直せます。次の新規事業で似た課題に当たったとき、過去の判定表と撤退理由を参照できます。ただし、アーカイブ済みのプロジェクトは削除できず、削除するには先に元へ戻す必要があります。
メモリーも案件ごとに分かれます。プロジェクトの中では、そのプロジェクトのメモリーとアカウントのメモリーが併用され、別プロジェクトのメモリーは使われません。過去の事業の印象が判定に混ざらないようにしたいときは、プロジェクトのページで「Use account memory」をオフにします。
会議の議事録とアクション項目につなぐ
判定会議の決定事項は、そのまま次の会議の宿題になります。会議ごとのアクション項目を台帳に集めて持ち越す方法は、Coworkの経営会議アクション台帳にまとめています。ゲートの判定と、会議のアクション項目は別の台帳にして、判定のほうは凍結した判定表と決定ログで管理します。
つまずきやすい点
撤退の条件が「進む」の裏返しになっている。「基準の半分未満」のような独立した条件にしておかないと、基準に届かないだけでは何も止まりません。
期限が来ても判定会議が開かれない。判定表の期限の列は、会議の日程と同時に予定へ入れます。基準に届いていなくても、期限が来たら会議を開くという約束です。
Claudeが判定まで出してしまう。指示の5番目を入れていても、最終判定の言葉が混ざることがあります。出てきた場合は照合の表だけを採用し、判定の文は使いません。
根拠資料が要約のまま溜まる。要約は原資料の読み違いを含みえます。ナレッジには、要約と元の記録の両方を置き、数字を使う前に元を開きます。
Projectsの基本設定が分からない。容量の上限やArtifactsを含む全体は、Claude Projects完全ガイドにあります。
まとめ
新規事業を止められるかどうかは、会議の勢いよりも、段階ごとの撤退の条件を事前に決めて凍結してあるかで決まります。Claudeは、判定表に実績を当てはめて未判定の行を洗い出す作業に向きます。基準の数字と最終判定は、人が持ちます。
判定表を日付付きの版で残し、権限を分け、決定ログへ追記する。この3つが揃うと、Projectsは判定の履歴を積む場所になります。次のゲートの会議から、まず1つの判定表だけで試せます。