Claudeで敷金精算書を作る — 退去立会いのメモと写真を国交省の様式に当てる
退去立会いのチェック表と写真をClaudeに渡し、国土交通省ガイドラインの別表4(精算明細書)の列に沿って、貸主・借主の負担を経過年数で按分した精算書の表にする手順です。
退去立会いが終わると、手元には現場で書いたチェック表と、スマートフォンで撮った写真の束が残ります。これを「どこが誰の負担で、いくらになり、敷金からいくら引くのか」という精算書に仕上げる作業は、部位ごとの負担割合を一つずつ当てはめる地味な計算です。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」には、この精算書の様式が別表4「原状回復の精算明細等に関する様式(例)」として載っています。Claudeにチェック表と写真、この様式の列を渡せば、表の下書きまでは短時間で作れます。この記事では、渡し方、プロンプト、仕上がりの例、人が検算する箇所を順に説明します。
精算書の型はガイドラインの別表4で決まる
精算書の列は、一から考えなくて済みます。別表4の精算明細書は、次の項目で組まれています。
別表4の精算明細書に並ぶ項目
物件と契約の欄
物件名、住戸番号、所在地、借主氏名、貸主氏名、契約日、入居日、退去日、転居先を書く欄と、精算金額の欄があります。
工事費用の欄
対象箇所ごとに、修繕等の内容(洗浄・補修・塗替・張替などから該当する方法に○)、単価、単位、量、金額を書きます。
負担の欄
経過年数を書き、貸主の負担と借主の負担のそれぞれについて、割合(%)と金額を記入します。
様式の注記には、記入の順序も示されています。契約時の原状回復の条件(別表3)をもとに単価と量から金額を出し、経過年数を考慮するものには経過年数を書き、負担単位と耐用年数から出した割合を金額に掛けて負担額にする、という流れです。Claudeに任せる作業も、この順序に沿って切り分けるとずれません。
対象箇所の一覧は、入居時と退去時に付ける「入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト(例)」と対応しています。立会いの現場でこのリストを使っていれば、精算書の行とメモの行がそのまま対応します。どちらの様式も、国土交通省のページからWord形式で配布されています。
ガイドライン全体の費用算定の手順(図5)では、立会いでの確認と記録、負担割合の検討、経過年数の確定、見積費用の確認、合意、精算の順に進みます。精算書はその最後に出す書類で、見積の中身を確かめる作業はClaudeで原状回復の見積を確認する手順に分けてあります。
立会いメモは「確認リストの列」で残す
Claudeが行を間違えるのは、メモの粒度がそろっていないときです。立会いの記録は、確認リストの列に合わせた形で残すと、後でそのまま読み込ませられます。確認リストには、場所と箇所ごとに次の列があります。
- 入居時: 損耗の有無、交換年月、具体的な状況
- 退去時: 損耗の有無、具体的な状況
- 判定: 修繕の要否、交換の要否、負担の要否
メモは、次のような1行1箇所の形にしておきます。紙のチェック表をスマートフォンで撮影して渡すこともできますが、手書きの癖が強いと読み違えが出るので、立会いの直後に打ち直すほうが確実です。
場所,箇所,入居時,退去時,写真
寝室,北壁クロス,損耗なし(張替え直後),タバコのヤニで黄変,03_寝室_北壁.jpg
寝室,床フローリング,損耗なし,椅子の引きずりキズ約2㎡,04_寝室_床.jpg
和室,襖,損耗なし,下部が破れ1枚,06_和室_襖.jpg
全室,クリーニング,―,借主が清掃済み(水回り含む),07_水回り.jpg写真のファイル名に「連番_場所_箇所」を入れておくと、Claudeが表の行と写真を結びつけるときの手がかりになります。入居時の写真があれば、同じ規則で名前を付けて一緒に渡します。入居時の記録がない行は、後で見るように「判定できない」として残すほうが安全です。
写真は、claude.aiでは1つの会話に添付できるファイルが20個まで、1ファイル30MBまでです。寝室と和室と水回りというように部屋ごとに会話を分け、各会話で出た表を最後に1つへまとめる進め方が現実的です。画像の読み取りで気をつける点はClaudeの画像分析のコツにまとめています。
先に決めておく3つの数字
精算書の金額は、Claudeの推測では出せない情報から決まります。プロンプトを書く前に、次の3つを手元で確かめておきます。
プロンプトの前に確かめる3点
- 1
単価と量はどこから来るか
別表4の「単価」と「量」は、契約時の原状回復の条件(別表3)をもとに記入すると注記されています。管理会社の見積書か、契約書に添付された条件表から拾った数字を、そのまま渡します。写真から面積を読み取らせません。
- 2
入居年数と入居時の状態
ガイドラインは、経過年数のグラフを入居年数で代替する方式を採っています。入居直前に張替えや交換をしていれば、グラフは負担割合100%から始まります。そうでない場合は、建築後の経過年数や損耗を踏まえ、1円を下限に当事者が協議して始点を決めるとされています。
- 3
特約の有無
契約に原状回復の特約があると、一般原則と違う負担になる行が出ます。特約の照合はClaudeで原状回復の特約をチェックする手順で扱っているので、この精算書に入れる前に済ませておきます。
精算明細書の表を作らせるプロンプト
材料は、確認リストの形に整えたメモ、写真、見積書(または単価と量の一覧)、ガイドライン第1章のPDFです。第1章は国土交通省のページから章単位で配布されており、別表1から別表4はこの章に収まっています。全文173ページを渡す必要はありません。
Claudeに渡すプロンプトの例を示します。列を別表4に固定し、根拠のない行は埋めさせないのがこつです。
添付は、退去立会いのチェック表(CSV)、写真、見積書、国土交通省
「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の第1章です。
別表4「原状回復の精算明細等に関する様式」の列に沿って、
対象箇所ごとに次の表を作ってください。
- 対象箇所 / 修繕等の内容 / 単価 / 単位 / 量 / 金額
- 経過年数(考慮しない行は「考慮しない」)
- 貸主の負担割合と金額 / 借主の負担割合と金額
- 根拠にした別表の箇所(別表1または別表2)
前提: 入居年数は3年。入居時のクロスは張替え直後で、
始点は100%。単価と量は見積書の数字を使うこと。
次の行は、数字を埋めずに「要確認」と書き、足りない情報を書いて
ください。
- 入居時の記録が無い行
- 写真から原因(経年か、借主の使い方か)を決められない行
- 特約の影響がありそうな行最後の3条件は、省略しないでください。条件を書かないと、Claudeは空欄を埋めようとして、もっともらしい割合を置きます。
仕上がりの例と、負担額の出し方
次の表は、公式の様式に沿った例として、入居3年・敷金10万円の仮の数字で作った精算表です。実際にClaudeが返す形式を保証するものではなく、人が検算するときの基準として使う想定の表です。
| 対象箇所 | 工事費用 | 経過年数の扱い | 貸主の負担 | 借主の負担 |
|---|---|---|---|---|
| 室内クリーニング(一式) | 工事費用30,000円 | 経過年数の扱い考慮しない | 貸主の負担30,000円(100%) | 借主の負担0円 |
| 寝室の壁クロス張替え(1,000円×15㎡) | 工事費用15,000円 | 経過年数の扱い6年直線、3年で50% | 貸主の負担7,500円(50%) | 借主の負担7,500円(50%) |
| フローリング部分補修(8,000円×2㎡) | 工事費用16,000円 | 経過年数の扱い考慮しない | 貸主の負担0円 | 借主の負担16,000円(100%) |
| 和室の襖張替え(4,000円×1枚) | 工事費用4,000円 | 経過年数の扱い考慮しない | 貸主の負担0円 | 借主の負担4,000円(100%) |
| 網戸の張替え(3,000円×2枚) | 工事費用6,000円 | 経過年数の扱い― | 貸主の負担6,000円(100%) | 借主の負担0円 |
| 合計 | 工事費用71,000円 | 経過年数の扱い― | 貸主の負担43,500円 | 借主の負担27,500円 |
各行の根拠は、別表2と別表1から引けます。
- クリーニング: 経過年数を考慮せず、通常の清掃をしていない場合に限って借主の負担になります。この例は借主が清掃済みなので、借主の負担は0円です。
- クロス: 6年で残存価値1円になる直線(または曲線)で負担割合を決めます。入居時が張替え直後で3年住んだ場合は、約50%です。
- フローリングの部分補修: 経過年数を考慮せず、補修費用を毀損させた借主が負担します。全体を張り替えた場合は、建物の耐用年数で残存価値1円となる直線で割合を算定します。
- 襖紙: 消耗品の性格が強いため、経過年数を考慮せず、張替え費用を借主が負担します。
- 網戸の張替え: 破損がなく、次の入居者を確保するための張替えは、貸主の負担の例に挙がっています。
なお、経過年数を超えた設備でも、借主が故意・過失で使えなくした場合は、機能していた状態に戻す費用が借主の負担になりえます。Claudeが「6年超なので1円」と返したら、故意の毀損が絡む行ではこの例外を当てて確かめます。
計算はClaudeに任せきらず、別の手段で検算する
負担割合は算数なので、計算ミスは機械的に見つけられます。割合を割り出す式は、始点100%・耐用年数6年・直線の場合に限れば単純です。
def tenant_amount(cost, years, life=6):
# 始点100%・直線。下限は1円(ガイドラインの最終残存価値)
ratio = max(1 - years / life, 0)
return max(round(cost * ratio), 1)
print(tenant_amount(15000, 3)) # 7500始点が100%でない行(入居時に張替え直後でなかった行)は、グラフの始点を当事者で協議して決める必要があるため、この式では出せません。その行はClaudeにも「要確認」と書かせ、数字は貸主と借主の合意を待ちます。
Claudeの「コード実行とファイル作成」を有効にすると、表をExcelファイル(.xlsx)で受け取れます。Free・Pro・Maxでは、SettingsのCapabilitiesにあるCode execution and file creationをオンにします。Team・Enterpriseでは、組織の管理者が組織設定でオン・オフを管理しています。精算表をExcelで受け取れば、数式の入った列で合計を検算できます。
敷金から差し引く額と、返還の見方
精算表の借主負担額の合計が、敷金から差し引く損害額の候補になります。ガイドラインのQ&Aでは、敷金を「賃料の滞納や不注意による損傷の損害を担保するために、賃借人から賃貸人へ預け入れるもの」としています。名目が保証金でも、同じ性質のお金は敷金として扱われます。借主に未払いの債務がなければ全額が返還され、損害を支払っていない場合は、その額を差し引いた残りが返還されます。
先ほどの例では、敷金10万円から借主負担27,500円を引き、返還額は72,500円になります。滞納賃料などがあれば、別途差し引かれます。
返還を請求できる時期にも注意が要ります。Q&Aによると、契約で別の時期を定めていなければ、建物を明け渡したあとでないと敷金の返還請求はできません。精算書に載る金額が合意できなくても、立会いの記録と写真は残しておきます。
精算書で間違えやすい4つの場面
写真を見て決められない行と、様式の解釈が分かれる行は、Claudeの出力を人が必ず見直します。
落とし穴
部屋全体の張替えを借主負担にしてしまう
クロスの張替えは、毀損した箇所を含む一面分までが借主負担としてもやむを得ないとされ、色や模様を合わせるための張替えは借主の負担にしません。タバコのヤニや臭いが居室全体に及んでいる場合だけ、居室全体のクリーニングや張替えが借主の負担になります。「全面張替え」が表に出てきたら、写真でどの面が変色しているかを確かめます。
- 入居時の記録がない行: 傷が入居前からあったかどうかは、写真だけでは決まりません。「要確認」のまま残し、管理会社の入居時の記録と照らします。
- 原因が写真で決まらない行: 黒ずみが電気ヤケ(貸主負担)か、喫煙のヤニ(借主負担)かは、使い方の事実が要ります。
- 耐用年数が設備ごとに違う行: 流し台は5年、エアコンは6年、便器・洗面台は15年というように、設備機器の耐用年数は別表2に一覧があります。年数をClaudeの記憶に頼らず、別表2の数字を渡して計算させます。
契約に特約があれば、一般原則から外れる取り決めが入っている場合もあります。契約書の条項の読み方はClaudeに契約書を読ませてわかりにくい条項を確認する方法にまとめています。引っ越しの時期に撮った入居前の写真や記録の整理は、引っ越しのやることリストとスケジュールを作る手順の流れに組み込むと、探す手間が減ります。
まとめ
精算書づくりでClaudeに任せやすいのは、別表4の列に沿った表の下書きと、負担割合の計算の下書きまでです。立会いメモを確認リストの列で残しておくこと、単価と量・入居年数・特約の3つを先に決めておくことが、ずれを減らします。
最終の判断は人の仕事です。金額が出た表は、貸主と借主がそれぞれ立会いの記録と突き合わせて確かめる資料になります。合意が取れない行は、行ごとに「要確認」として残し、記録と写真を揃えて話し合いに持ち込みます。