MCPのWorking Group・Interest Group一覧 — 17グループの役割分担
MCPコミュニティが持つ10のWorking Groupと7のInterest Groupが、それぞれどの領域を担当しているかの地図。
MCPの仕様策定は、Anthropic単独ではなくコミュニティのWorking Group(WG)とInterest Group(IG)が分担して進めています。現在チャーター化されているのは10のWGと7のIGで、認可・レジストリ・SDK・トランスポートといった領域ごとに担当が分かれています。
Working GroupとInterest Groupは何が違うか
MCPコミュニティは2種類の協業フォーマットを使い分けます。IGは「問題を発見し議論する」場、WGは「具体的な解決策を作る」場という役割分担です。
| Interest Group(IG) | Working Group(WG) | |
|---|---|---|
| 目的 | Interest Group(IG)問題の特定と議論 | Working Group(WG)具体的な解決策の構築 |
| 成果物 | Interest Group(IG)問題提起・ユースケース・提言 | Working Group(WG)SEP・実装・コード |
| 意思決定 | Interest Group(IG)ゆるやかな合意、拘束力なし | Working Group(WG)拘束力あり(lazy consensus → 投票 → エスカレーション) |
| リーダー呼称 | Interest Group(IG)Facilitator | Working Group(WG)Lead |
| 存続期間 | Interest Group(IG)トピックが関連する限り継続 | Working Group(WG)成果物が完成するまで |
典型的な流れは「IGで問題を議論する → コミュニティの支持があるか検証する → WGを結成・参加して解決策を作る → SEPを提出する → 実装する」という順序です。ただしIGを経由せず、明確な成果物とCore Maintainerのスポンサーがあれば直接WGを提案することもできます。
10のWorking Groupが担当する領域
Working Groupは具体的な仕様変更(SEP)や実装のオーナーです。それぞれの担当領域は次のとおりです。
| WG | 担当領域 |
|---|---|
| Agents | 担当領域エージェント間のやり取りをMCP上で相互運用可能にする。非同期の耐久実行を担うTasksプリミティブを主導 |
| File Uploads | 担当領域ツールやelicitationがファイル入力をスキーマレベルで宣言する仕組みを定義。base64文字列のやり取りをなくす |
| Inspector V2 | 担当領域Web・CLI・TUIでコードを共有する新しいInspector Coreアーキテクチャを構築 |
| Interceptors | 担当領域ツール呼び出し・リソースアクセス・サンプリング・elicitationなど、コンテキスト操作の検証・変換を標準化 |
| Registry | 担当領域公式MCP Registry(サーバーのカタログとAPI)とserver.jsonスキーマを維持 |
| SDK | 担当領域各言語の公式SDKの一貫性と仕様準拠を保ち、SDK Tiering Systemを統括 |
| Server Card | 担当領域MCPサーバーの発見手段としてのServer Cardの文書フォーマットを定義 |
| Skills Over MCP | 担当領域エージェントスキルをMCP経由でどう発見・配布・消費するかを定義 |
| Transports | 担当領域ローカル・リモート双方で相互運用可能なトランスポートのバインディングを進化させる |
| Triggers and Events | 担当領域サーバー側の状態変化をクライアントへプッシュ通知する標準コールバック機構を定義 |
Skills Over MCPは、2026年2月1日にInterest Groupとして発足し、SEP-2076の議論を経て2026年4月16日にWGへ転換した経緯を持ちます。仕様は現在SEP-2640(Extensions Track)として審議が進んでいます。
7のInterest Groupが担当する領域
Interest Groupは解決策を作る前段階として、問題を洗い出し要件を集める場です。
| IG | 担当領域 |
|---|---|
| Authorization | 担当領域MCP認可全般の議論を集約する唯一のチャーター化された場。SEPやext-authドラフトの発表先 |
| Enterprise | 担当領域企業がMCPを本番導入する際に直面する要件のギャップ(認証統合・監査・ゲートウェイ挙動・拡張性)を文書化 |
| Enterprise-Managed Authorization | 担当領域Enterprise-Managed Authorization拡張のID-JAGフローについて、IdP・クライアント・サーバー間の実際の相互運用を検証 |
| Financial Services | 担当領域規制業種の金融機関がコンプライアンス・監査可能性・リスク管理の観点で必要とする要件を集約 |
| Primitive Grouping | 担当領域Tools・Resources・Prompts・Tasksといったプリミティブを、フラットなリスト以外にどう組織化できるかを探る |
| Security | 担当領域MCP固有の脅威をカタログ化し、セキュリティ関連の提案をレビューする |
| Tool Annotations | 担当領域ツールアノテーションが安全で使いやすいエージェントシステムにどう寄与するかを検討する |
認可まわりだけでIGが3つ(Authorization・Enterprise・Enterprise-Managed Authorization)に分かれている点は、この分野の要件の広さを示しています。Authorizationが認可全般の受け皿、Enterpriseが企業導入全体のギャップ、Enterprise-Managed Authorizationが特定の拡張仕様の相互運用検証、と守備範囲が明確に切り分けられています。
Interceptors・Registry・SDKの3WGが今ぶつかっている壁
一覧表だけでは伝わらない、各WGが実際に取り組んでいる課題を3つ紹介します。
Interceptors WGが向き合っているのは「M×N問題」です。ツール呼び出し・リソースアクセス・サンプリング・elicitationといったコンテキスト操作を横断的に扱うサイドカーやプロキシ、ゲートウェイが乱立し、それぞれが再利用も相互運用もできない状態になっています。WGはこれをvalidator(検査してpass/failを返す)とmutator(コンテキストのペイロードを変換する)の2種類からなる新しいMCPプリミティブとして標準化します。インプロセス・サイドカー・リモートサービスのいずれの配置形態でも、同じJSON-RPCパターンで呼び出せる形を目指しています。
Registry WGはregistry.modelcontextprotocol.ioで稼働する公式レジストリの運用に加え、任意のレジストリ(公式・非公式問わず)がサーバーメタデータを公開する際のAPI仕様を所有します。サーバーの識別情報・パッケージ・ランタイム設定・機能を記述するserver.jsonスキーマもこのWGが管理し、Server CardがそのSchemaの一貫した部分集合であり続けるようServer Card WGと連携しています。
SDK WGは各言語の公式SDKが仕様に準拠し続けるよう、新しいプロトコルバージョンの実装を横断的に調整するほか、SDK Tiering Systemというティア制度そのものを運営しています。ティア昇格のリクエストをレビューし、降格基準を適用し、公開されているティア一覧を維持するのもこのWGの仕事です。
グループはどう結成され、どう引退するか
新しいWGを結成するには、コーディネーションが必要だと広く認識される課題があることが前提です。そのうえでdocs/community/working-groups/<name>.mdxにチャーターを追加するPRを作成し、Core Maintainerの承認を得るCODEOWNERSゲートを通します。IGの結成はDiscordの専用チャンネルでテンプレートに記入するところから始まり、Core Maintainerがレビューしたうえで、2名以上のCore Maintainerか1名のLead Maintainerによるスポンサーが必要です。
引退にも手続きがあります。WGはLeadかCore Maintainerが理由を添えて引退を提案し、Core MaintainerかLead Maintainerの承認を得ます。一定期間活動がない、または計画していた成果物をすべて完了したWGは自動的に引退の対象になります。IGはCore MaintainerかLead Maintainerが、活動していない、あるいは不要になったと判断すれば引退させられます。いずれの場合もドキュメントはアーカイブされ、チャンネルは非アクティブ扱いになります。
WGとIGはどう連携するか
IGとWGは独立して動くのではなく、IGの議論がWGの仕事に流れ込む設計です。IGが担うのは問題提起・ユースケース・要件ギャップの文書化までで、それをSEPという具体的な成果物に落とし込むのは、チャーターでその領域を担当すると定められたWG側の役割です。どのIGの議論がどのWGへ渡るかはチャーター上で1対1に固定されているわけではなく、テーマに応じて該当WGが引き取ります。Primitive Grouping IGのように、単一の正解パターンを早期に決めず、複数の組織方法を並行して検証してからSEPに反映するという、あえて結論を急がない運営方針を明記しているIGもあります。
WGのメンバーになるには、3か月以上の継続的な参加と、コード・仕様文書・レビューいずれかでの実質的な貢献、既存WGメンバーかLeadからの推薦が必要です。7日間異議がなければ承認されます。逆に3か月連続で参加がないWGメンバーはemeritus(名誉)扱いに移行し、再度活動を示せば復帰できます。
すべてのグループのミーティングは、コミュニティ全体に公開され、少なくとも7日前に予定が公開されます。組織のメンバーだけで行うクローズドな会議は開けません。議題は事前にGitHub Discussionsの「Meeting Notes」カテゴリに公開され、議事録もミーティングから48時間以内に同じ場所へ公開します。頻度そのものはLeadの裁量で、仕様リリースが近いWGなら毎週、探索段階のIGなら月次や非同期中心といった調整が認められています。Discordの#{name}-wgまたは#{name}-igチャンネルと、GitHub Discussionsが共通のコミュニケーション経路です。
WGにはIGにはない報告義務もあります。四半期ごと(1月・4月・7月・10月の末)に、成果物への進捗・ブロックされている項目とエスカレーションの状況・メンバーの異動・次の四半期の優先事項・必要なリソースをまとめた文書をGitHub Discussionsに投稿します。IGにはこの形式の報告義務はなく、チャーターとメンバー一覧を最新に保つことだけが求められます。
参加レベルは全グループ共通で4段階に分かれています。
| レベル | できること |
|---|---|
| Observer | できること議論の閲覧、ミーティングへの参加(発言は限定的) |
| Participant | できること議題の提案、非同期投票への参加 |
| WG Member | できること定足数のカウント対象(WGのみ) |
| Lead / Facilitator | できること議題の設定、進行、エスカレーションの判断 |
参加のハードルはIGの方が低く、Observer(閲覧のみ)・Participant(議題提案・非同期投票に参加)から始められます。MCPの仕様変更プロセス全体はMCPのSEP(仕様変更提案)プロセスの全体像で、直近半年の優先領域はMCPの2026年ロードマップで扱っています。
グループ内で意見が割れたときの決着のつけ方
WGの意思決定は3段階で進みます。
まずlazy consensusがデフォルトです。提案には期限(軽微な項目で最低5日、重要な項目で10日)が設定され、沈黙は同意とみなされます。WGメンバーは代替案か明確な解決基準を添えて異議を唱えられ、期限までに異議がなければ提案は成立します。
異議が出た場合は正式な投票に移行します。定足数はアクティブなWGメンバーの50%で、可決には通常議題で単純多数、スコープ変更では3分の2の賛成が必要です。
投票でも決着しない場合は、LeadがCore Maintainerへエスカレーションします。決定の経緯・検討した選択肢・対立点を文書化したうえで持ち込み、Core Maintainerグループが当事者と組織的な利害関係のないCore Maintainerを1名指名して裁定します。初動の返答は5営業日以内が目安です。
スコープの対立(ある話題がチャーターの範囲内かどうか)・権限の対立(そのグループに決定権があるかどうか)・複数WG/IGにまたがる対立・行動規範に関わる懸念・メンバーシップの対立は、グループ内で解決を試みずに直接Core Maintainerへ持ち込む対象と定められています。IGは投票プロセスを持たないため、Facilitatorがゆるやかな合意を探ったうえで、まとまらなければ同じ経路でエスカレーションします。
まとめ
MCPのコミュニティ運営は、問題発見を担う7のInterest Groupと、具体的な仕様・実装を担う10のWorking Groupに分かれています。IGでの議論がWGでの仕様策定に流れ込み、SEPとして実装される、という一方向の流れが基本です。
認可・レジストリ・SDK・トランスポートといった主要領域はすでにWGが担当していますが、認可まわりだけは3つのIGに分かれているように、領域によって粒度がまちまちです。どのグループが何を担当しているかを把握しておくと、SEPの議論を追う際や、自社の要件をどこに持ち込むべきか判断する際の起点になります。