AI for Science Programの応募規約 — 居住国・クレジット・公表同意・税
AI for Science Programの公式ルールから、居住国による除外、クレジットが組織アカウントに入る点、氏名・肖像の公表許諾、インタビュー参加、税務の扱いを読み解きます。
AI for Science Programに応募すると、研究計画の審査だけでなく、公式ルール(Official Rules)への同意も求められます。このルールは2026年8月25日付で更新された版があり、研究計画の中身とは別に、応募者と所属先が満たす条件が条文で決まっています。
プログラムの概要はAnthropic ScienceとAI for Scienceの違いで、希少疾患枠の内容は希少疾患枠のニュースで扱っています。ここでは規約の条項そのものを読みます。
規約で先に押さえる5点
- 18歳以上(または居住地の成年年齢)で、列挙された国・地域の法的居住者でないこと
- 所属先がある場合は、参加に必要な同意を所属先から得ていること
- クレジットは応募書類に記した組織のアカウントに入ること
- 氏名・肖像・音声の公表を、世界中・永続・無償で許諾すること
- 選ばれた研究者はアンケートとインタビューに参加すること
応募できない人は誰か
規約の資格条項は、年齢・所属・居住・法令・関係者の5つで構成されています。
年齢は18歳以上、または居住地の成年年齢のどちらか高いほうです。個人として応募する場合の条件です。
所属先がある応募者には、別の条件が付きます。企業などの法人に雇用されている、または大学・研究機関に所属している場合、参加に必要な同意をその雇用主や機関から得ていると表明し、保証することが求められます。研究室の代表でなくても、所属先の承認が必要になる場面があるということです。
居住国による除外は、次の地域が列挙されています。
- ベラルーシ、中国、キューバ、イラン、ミャンマー、北朝鮮、ロシア、スーダン、シリア
- クリミア、いわゆるドネツク人民共和国、いわゆるルハンシク人民共和国
条文は「法的居住者であってはならない」という書き方です。国籍ではなく居住地が基準になります。日本は列挙に含まれていません。
そのほか、米国その他の適用法令・輸出管理の下で、プログラムへの参加や資金・サービスの受領を禁じられた人も対象外です。Anthropicの従業員・役員・代理人とその近親者(配偶者、親、子、兄弟姉妹とそれぞれの配偶者)、同居人、プログラム運営に関わる人も応募・受領できません。
応募から付与までの流れ
規約から読み取れる流れは次のとおりです。
応募から付与まで
- 1
応募する
応募の責任は応募者本人にあります。連絡も付与も応募者宛てです。チームで応募した場合はチームに付与されます。
- 2
審査を受ける
応募内容の客観的な評価に基づいて選ばれます。加えて、有害な用途を加速させる懸念がないかを見るバイオセキュリティ評価があり、スコアの高い適格な応募にクレジットが渡ります。
- 3
通知に5営業日以内に返答する
通知は登録時のメールアドレスに届きます。最初の通知から5営業日以内に返答がないと、失格になり、次点の応募者が選ばれることがあります。
- 4
書類を14暦日以内に返送する
資格を満たすことの宣誓書(affidavit)と、公表・責任に関する免責書類への署名を求められることがあります。求められた日から14暦日以内に返送しないと、クレジットは失効して次点に渡る場合があります。
メールアドレスの変更や住所・電話番号の変更について、Anthropicは責任を負いません。応募後に所属や連絡先が変わる研究者は、登録アドレスを受信できる状態に保つ必要があります。
応募の完全性にも条件があります。完全で規約に適合した応募だけが対象で、判断はAnthropicの裁量です。応募書類は応募者自身のオリジナルであること、法令や第三者の権利を侵害しないことも保証します。Anthropicが類似の資料を作成・委託している可能性、他の応募者の資料が似る可能性についても、そこから生じる請求権を放棄する条項があります。
チーム応募ではメンバー間の争いがリスクになります。メンバー間の紛争はメンバー同士で解決する決まりで、紛争が失格につながる場合があります。応募者の同一性についての争いは、Anthropicが裁量で決めます。
クレジットはどこに入るか
賞品にあたるのは現金ではなくクレジットです。対象は、Anthropicが裁量で決める「関連するAnthropicのサービス」に適用できるクレジットです。
入金先は「応募書類で特定した組織のアカウント」です。個人のアカウントではありません。所属機関のアカウントがない研究者は、応募書類にどの組織のアカウントを書くかを先に決める必要があります。
2025年5月の立ち上げ告知は、対象を研究機関に所属する研究者とし、API利用を支援するプログラムと説明しています。規約の「組織アカウント」は、この前提と整合します。
クレジットの用途が実験や解析だとしても、規約は特定の成果を約束していません。免責条項では、中断のないサービス、利用による特定の成果、研究者の個別の要件や期待への適合を保証せず、クレジットは「現状有姿(as is)」で提供されます。
氏名・肖像・音声の公表許諾
公表条項(Publicity)は、応募者の負担が最も見えにくい箇所です。要点は3つあります。
- 許諾する主体は本人だけではありません。本人と、所属する組織・チーム(全メンバーを含む)を代表して許諾します
- 範囲は氏名、経歴情報、写真、音声、肖像です。用途は広告と宣伝です
- 地域は世界中、期間は永続、対価は無償で、事前の通知や許可も要りません。法律で禁じられる場合は除かれます
チームで応募する場合、メンバー全員の名前や顔が宣伝に使われることがあります。応募前にメンバーへ共有しておかないと、後から揉める原因になります。所属先の広報規程で外部での肖像利用が制限されている場合は、先ほどの「所属先の同意」と合わせて確認する項目です。
通知の段階で署名を求められる公表・責任の免責書類(publicity and liability release)も、この条項と対になります。規約本文で許諾し、さらに書類で署名する二重の構造です。
インタビュー調査とデータの扱い
データ利用条項(Data Use and Research)には、研究者に課される義務が含まれます。
- 選ばれた研究者は、Anthropicのツールで実施される調査(survey)とインタビューに参加する
- Anthropicは、そのインタビュー記録(transcript)を保持・分析し、研究に使える
- Anthropicは、参加から得られた知見を匿名化・集約した形で公表できる
つまりクレジットの対価には、プログラム参加者としての調査協力が含まれています。応募の時点で、研究室の誰が対応するかを考えておくと、採択後に慌てずに済みます。
一方、Anthropicによる入力(Inputs)と出力(Outputs)の利用は、クレジットが入るアカウントに適用される利用規約(Terms of Service)に従います。プログラム固有の別ルールではありません。機密性の高い研究データを扱う場合は、組織アカウントがどの利用規約の下にあるかを確認してから使い始める流れになります。
税の扱い
税条項(Taxes)は短い文面で、次のように整理できます。
| 項目 | 規約の内容 |
|---|---|
| 税務上の取扱い | 規約の内容クレジットは現金の賞金と税務上の扱いが異なる可能性がある |
| 判断の責任 | 規約の内容受領が自国で納税義務を生むかは、選ばれた研究者自身が判断する |
| Anthropicの立場 | 規約の内容クレジットの税務上の扱いについて何も表明しない |
| 税務書類 | 規約の内容法令上必要な場合を除き、1099などの書類は発行しない |
| 協力義務 | 規約の内容法令で税務情報の収集が必要なとき、求められた情報を提供する |
| 不提供の場合 | 規約の内容書類や法令遵守が得られないと、クレジットが失効し次点に渡ることがある |
この条項が示すのは、課税関係を規約が決めていないことです。日本の研究者がクレジットをどう扱うかは、所属機関の経理・研究推進部門や税理士に確認する領域になります。規約自身も、各自の税務アドバイザーへの相談を促しています。
免責・責任上限・準拠法
最後に、後から効いてくる条項をまとめます。
- プログラムの変更: Anthropicは、プログラムを裁量で中止・終了・変更・停止できる。これらを理由とする請求や訴えは主張できない
- 誤りの訂正: 誤ってクレジットを付与したコンピューターエラーなどを訂正する権利を持つ
- 責任の上限: 付与されたクレジットの実際の価値と1,000ドルのどちらか小さいほうが、Anthropicの責任の総額上限になる。法律上制限できない請求には適用されない
- 準拠法と裁判地: 米カリフォルニア州法が準拠法で、紛争の専属的な裁判地はカリフォルニア州サンフランシスコ。可能な範囲で差止請求の権利も放棄する
- 拘束力: 応募・参加によりAnthropicの決定に拘束される。選定はAnthropicの単独の裁量
準拠法と裁判地が海外にある点は、日本の大学や研究機関が契約審査を必要とする場面で論点になりやすい部分です。所属先に契約・法務の窓口があれば、応募前に条文を見せておくと進めやすくなります。
応募前に確かめる項目
規約の内容を、応募者側の確認作業に置き換えると次の表になります。
| 確認する相手 | 確認すること | 根拠となる条項 |
|---|---|---|
| 自分自身 | 確認すること居住地が除外地域でないか、成年か | 根拠となる条項資格 |
| 所属先 | 確認すること参加の同意、外部での氏名・肖像利用の可否 | 根拠となる条項資格・公表 |
| 共同研究者 | 確認することチーム応募の場合の公表許諾への同意、紛争時の扱い | 根拠となる条項応募・公表 |
| 経理・税務 | 確認することクレジット受領の課税関係 | 根拠となる条項税 |
| 契約・法務 | 確認すること責任上限、カリフォルニア州法、サンフランシスコの裁判地 | 根拠となる条項免責・準拠法 |
| 研究室 | 確認することインタビュー対応者、通知メールの受信体制 | 根拠となる条項通知・データ利用 |
所属先の承認は、申請の締切に間に合うかどうかを左右します。規約が求めるのは「必要な同意を得た」という表明と保証なので、応募フォームの入力より前に動く項目です。
他の支援プログラムの規約
Anthropicには他にも支援プログラムがあります。起業家向けの条件はAnthropic Startup Programの応募条件と特典に、OSSメンテナ向けの条件はClaude for Open Sourceの条件にまとまっています。対象者・特典・同意事項はプログラムごとに別の文書で決まるため、規約は個別に読むことになります。
まとめ
条項の大半は、所属先の同意と契約審査で片が付きます。時間がかかりやすいのは、準拠法・裁判地の審査と、氏名・肖像の公表許諾に対する学内の確認です。締切から逆算すると、法務と広報への相談を最初に回す順番になります。
規約は2026年8月25日付の版で、Anthropicがプログラムを変更できる条項もあります。実際に応募するときは、その時点の最新の規約ページで条文を確認してください。