AnthropicとOpenAIの違い — 創業経緯とPBC統治を比較する
AnthropicとOpenAIの違いは、創業の経緯と統治の設計にあります。両社のPBC(公益重視の営利法人)の意味、信託と財団の統治構造、資金調達規模を一次情報で比較します。
AnthropicとOpenAIの違いを1行でいうと
AnthropicとOpenAIは、どちらも「非営利の主体が営利会社を統制する」という同じ着地点にいます。ただし統制の設計は正反対です。Anthropicは統治権だけを切り出した信託が段階的に取締役会の多数派を握る設計、OpenAIは財団自身が26%の経済的持分を持ちながら取締役会を最初から掌握する設計です。
出発点も逆です。AnthropicはPBC(公益重視の営利法人)のまま、あとから統治の仕組みを足してきました。OpenAIは2015年の非営利研究所が、2度の構造転換を経て今の形になっています。
PBC(公益重視の営利法人)とは何か
PBC(Public Benefit Corporation)は、株主の利益と定款に書いた公益目的の両方を取締役が考慮して経営できる営利法人です。デラウェア州の会社法が明示的に認めています。
利益を出す会社であることは変わりません。株式を発行して資金も集められます。違うのは、公益を理由にした経営判断が、株主への義務違反として問われにくくなる点です。
AnthropicはこのPBCとして設立されました。OpenAIは2025年10月28日の再編で、営利側がOpenAI Group PBCになっています。営利側がPBCという点は同じで、差が出るのはその上に載る統制の仕組みです。
Anthropicを率いるのは誰で、どんな法人か
2021年5月28日に発表された1億2,400万ドルのSeries Aは、兄妹のDario Amodei氏(CEO)とDaniela Amodei氏(社長)が率いる体制での調達でした。発表文は、チームがGPT-3などの研究に携わってきたと述べています。創業チームの経歴はダリオ・アモデイとはで個別に扱っています。
AnthropicはデラウェアのPBCで、公益目的は「先進的なAIの責任ある開発と維持を、人類の長期的な便益のために行うこと」です。取締役会は、株主とLTBTが選ぶ取締役で構成されます。本社所在地・評価額・研究領域などの会社概要はAnthropicとはにあります。
OpenAIは2015年に何を目指す非営利だったか
2015年12月11日の設立告知で、OpenAIは自らを「非営利のAI研究会社」と名乗りました。目標は「金銭的な見返りを必要とせずに、人類全体にとって最も有益な形でデジタル知能を発展させること」です。Sam Altman氏やElon Musk氏、Greg Brockman氏、Ilya Sutskever氏らが名を連ね、製品も事業もなく、寄付だけで運営されていました。
資金の内訳は、2024年12月27日の公式投稿に出ています。現金の寄付は1億3,700万ドルで、うちマスク氏の拠出は3分の1未満です。コンピュートはAmazonから180万ドル、AzureとGoogle Cloudからそれぞれ5,000万ドル以上の提供がありました。この段階の資金は、寄付とクラウド事業者による提供で賄われました。
転機は2019年です。同じ投稿によると、AGIの開発には100億ドル規模の資金が要ると見積もり、寄付では足りないと判断しました。そこで作ったのが「非営利が統制し、投資家と従業員の利益配分に上限を付けた営利子会社」です。同年に子会社は1億ドル超の初回ラウンドを調達し、続けてMicrosoftから10億ドルを受け入れました。この時点でもPBCではなく、非営利法人が営利子会社を直接統制する二層構造です。
構造転換の歩み
- 2015年12月OpenAI、非営利研究所として設立
製品も収益もなく、寄付だけで運営。
- 2019年OpenAI、利益に上限のある営利子会社を新設
非営利が統制し、Microsoftから10億ドルを調達。
- 2021年5月Anthropic、Series Aを発表
1億2,400万ドルの調達です。Series Aの投資契約に、LTBTの前身「Long-Term Benefit Committee」が書き込まれました。
- 2023年9月19日Anthropic、LTBTを公表
Long-Term Benefit Trustの目的と構成が公になりました。
- 2025年10月28日OpenAI、財団とPBCへ再編
非営利は「OpenAI Foundation」、営利子会社は「OpenAI Group PBC」に。
再編でOpenAIが変えたのは、投資家向けの形だった
OpenAIは2024年12月の投稿で、構造を変える理由を率直に書いています。投資家は支援したいが、この規模の資本では「従来型の株式と、少ない独自仕様」を求める、というのです。2025年10月28日の再編は、この方針の実行です。
営利側はOpenAI Group PBCというPBCになりました。2024年12月の投稿が示した当初の計画では、デラウェア州のPBCです。非営利側のOpenAI Foundationは引き続きGroupを統制し、通常株式を持ちます。株式はすべての株主が同じ種類で、価値の上昇にも比例して参加します。Anthropicも最初から株主のいる営利法人で、株主の持つ株式という資本の形はここで近づきました。
統治の設計は正反対
AnthropicのLong-Term Benefit Trust(LTBT、長期利益トラスト)は、デラウェア州法上の「purpose trust(目的信託)」です。目的はAnthropicと同じで、株主の金銭的利益と、Anthropicの行動の影響を受ける人々の利益のバランスを取らせるために権限を使います。Series Cの完了時に定款を改め、信託だけが持つClass T株を作り、取締役の一部を選任・解任する権限を渡しました。
選任できる人数は、時間と資金調達の節目に応じて段階的に増えます。いずれにせよ4年以内に取締役会の過半数をLTBTが選びます。同時に、Series C以降の投資家が選ぶ取締役席も新設されました。信託には、会社や事業を大きく変えうる行為の通知を受ける保護条項もあります。
受託者は5人で、金銭的利害を持たないことが条件です。任期は1年で、後任は受託者の投票で選ばれます。発足時の受託者はJason Matheny氏、Kanika Bahl氏、Neil Buddy Shah氏(議長)、Paul Christiano氏、Zach Robinson氏でした。取締役会が1年がかりの探索と面接で選んでいます。
公表当時の所属は、Matheny氏がRAND Corporation、Bahl氏がEvidence Actionです。Shah氏はClinton Health Access Initiative、Christiano氏はAlignment Research Centerに所属していました。Robinson氏の所属はEffective Ventures USです。AI安全・国家安全保障・公共政策・社会的企業の経験者から選ばれています。
LTBTが日常の経営に口を出す想定ではありません。公表文は、日々の意思決定や通常の商業戦略への介入は想定せず、壊滅的リスクの評価や国家レベルのセキュリティのような長期の問題に関わる、と書いています。
信託の権限は固定でもありません。受託者の同意がなくても、株主の十分に大きな特別多数が賛成すれば、信託とその権限を変えられるフェイルセーフ条項があります。必要な特別多数の割合は、信託の権限が広がるほど高くなります。公表文はLTBTを「実験」と呼び、手本として掲げる段階ではないと述べています。
OpenAI Foundationの統治権は逆の設計です。Group PBCの特別な議決権を持つのはFoundationだけで、経済的持分も併せ持ちます。
統治権と経済的持分の関係
Anthropic(LTBT)
統制主体は取締役の一部を選ぶ目的信託。Class T株が選任・解任権の根拠になる。
OpenAI(Foundation)
統制主体は非営利法人。26%の持分を持ち、Groupの取締役を全員任命していつでも交代できる。理事会は独立理事とCEOのAltman氏で構成。
理事会の重なり方と、安全性の持ち場
OpenAIの側は、統治権の置き場所にもう一つ特徴があります。Foundationの理事は、Zico Kolter氏を除いて全員がGroup PBCの取締役を兼ねます。Kolter氏は議決権のないオブザーバーとして参加します。再編から1年以内に、さらに1人の理事がFoundation専任へ移る計画です。
Kolter氏が外れる理由は安全面にあります。Safety and Security Committee(SSC)はFoundationの委員会のまま残り、Group全体の安全・セキュリティ運営を統治します。委員長のKolter氏はFoundationだけに所属します。安全面の統治がGroupの取締役会とは別の系統に置かれています。
LTBTとFoundationの両方の名簿に現れる人物もいます。Paul Christiano氏は、LTBT発足時の初代受託者の一人で、OpenAI Foundationの現在の理事にも名を連ねています。
資本構成の違いを数字で見る
再編完了時点のOpenAI Group PBCの持分は次のとおりです。
OpenAI Group PBCの持分(再編完了時)
OpenAI Foundation
約26%
約1,300億ドル相当
Microsoft
約27%
Foundationとほぼ並ぶ
従業員・投資家
約47%
現役・元を含む
Foundationはこれとは別に、株価が15年後に基準額の10倍を超えた場合に追加の株式を受け取るワラントを持っています。ワラントは将来株式を買う契約上の権利で、現時点の保有者の持分は薄まりません。
資金調達の規模でみる両社の違い
Anthropicは2021年5月28日のSeries A(1億2,400万ドル)、2023年5月23日のSeries C(4億5,000万ドル)と、株式の調達ラウンドを重ねてきました。最新のSeries H(2026年5月28日発表)の評価額は9,650億ドル(ポストマネー)です。調達額は650億ドルです。主導はAltimeter Capital・Dragoneer・Greenoaks・Sequoia Capitalでした。Capital Group・Coatue・D1 Capital Partners・GIC・ICONIQ・XNが共同主導しました。
このラウンドには、ハイパースケーラー各社が事前に約束していた150億ドルも含まれ、うち50億ドルがAmazonです。年間換算の売上高(run-rate revenue)は同月に470億ドルを超えたと発表されています。3か月半前のSeries G(2026年2月12日、300億ドル・評価額3,800億ドル)から急拡大しました。非上場のまま、2026年6月1日にはSECへForm S-1のドラフトを秘密裏に提出しています。詳細はAnthropic IPOの選択肢を確保に、株式の間接的な投資手段はAnthropic株価は買えるかにあります。
OpenAIは寄付金から始まりました。創業期の現金の寄付は合計1億3,700万ドルで、Anthropicが最初の株式ラウンドで集めた1億2,400万ドルと同じ桁です。2019年の子会社化以降は、Microsoftが大型の戦略的投資家になりました。
まとめ
ClaudeやChatGPTを選ぶ側の判断は、製品の性能や料金で足ります。会社の意思決定の力学を知りたいときに、この構造の違いが読み解く手がかりになります。