Claude CMEK(顧客管理鍵)とは — 保護できるデータの範囲
CMEKは自社のAWS KMS・Google Cloud KMS・Azure Key VaultのキーでClaudeワークスペースのデータを暗号化する仕組みです。保護される範囲と、有効化前に知るべき制約を解説します。
Claude CMEK(顧客管理鍵)とは何か
Claude CMEK(Customer-Managed Encryption Keys)は、自社のAWS KMS・Google Cloud KMS・Azure Key Vaultで発行した暗号鍵を使う仕組みです。この鍵でClaudeワークスペースの保存データをAnthropicに暗号化させます。鍵のローテーション・監査・失効は自社側が握り続けます。Anthropicがその鍵に対して行う操作(データキーのラップ・アンラップなど)は、自社のクラウドプロバイダーの監査ログに記録されます。
CMEKはオプトイン機能です。対象組織はAnthropicの標準暗号化の代わりに有効化でき、有効化にはAnthropicのアカウントチームへの連絡が必要です。設定できるのは、Claude PlatformではOrganization Admin(Claude Platform on AWSではAdminロール)、Claude EnterpriseではOwnerとPrimary Ownerのみに限られます。
CMEKはどう動くか — スコープと反映タイミング
CMEKの設定範囲はプロダクトによって異なります。Claude Platformではワークスペース単位、Claude Enterpriseでは組織単位でスコープされます。設定場所も分かれていて、Claude PlatformはAdmin APIから、Claude Platform on AWSはConsoleまたはIAM認可されたエンドポイントから、Claude Enterpriseはclaude.aiの組織設定から行います。
どちらのプロダクトでも、CMEKが保護するのは鍵が有効になった後に書き込まれたデータだけです。既存の会話履歴・ファイル・セッションはAnthropic管理の鍵で暗号化されたままです。CMEKを有効にしても、それらは再暗号化されません。Claude Platformでは、リクエストを送り始める前の新規ワークスペースに鍵を先に紐づけることが推奨されています。すでに稼働中のワークスペースに後から鍵を付けると、反映まで最大1日かかります。その間に書き込まれたデータは、再暗号化の対象外のままです。
前提条件も押さえておく必要があります。鍵を作成・管理する権限に加え、データ保持設定としてはZero Data Retention(ZDR)との併用が両プロダクトで許可されています。関連する契約形態の切り分けはClaude Zero Data Retentionが有効になる契約形態で扱っています。
CMEKの設定変更イベントはCompliance API Activity Feedに記録されます。一方で鍵そのものへの操作(ラップ/アンラップ)はそこには現れません。確認できるのは自社クラウドプロバイダー側の監査ログだけです。監査ログの基本的な見方はClaude監査ログの見方を参照してください。
CMEKを利用する組織は、キー管理サービスへのアクセスをIPで制限していることがあります。Anthropicは標準の公開IP範囲からキー管理サービスを呼び出すため、IP制限をかけている場合はIPアドレス一覧に載っているアドレスを許可する必要があります。ただしClaude Platform on AWSでは話が別です。IPベースの制限に頼らず、後述のAWSサービスプリンシパル向けキーポリシーでアクセスを絞ります。
リージョンと対応クラウド
CMEKはAWS/Google Cloud/Azureの3プロバイダーに対応しますが、Claude Platform on AWSだけは別ルールです。
| プロバイダー | 推奨リージョン | 備考 |
|---|---|---|
| AWS | 推奨リージョンus-east-2 | 備考Claude Platform on AWSでは単一リージョンのKMSキーを、ワークスペースと同じアカウント・リージョンに置く必要がある |
| Google Cloud | 推奨リージョンus-central1 / us-east5 | 備考現状USリージョン限定 |
| Azure | 推奨リージョンnorthcentralus / eastus2 | 備考現状USリージョン限定 |
Claude Platform on AWSでは、Google Cloud KMS・Azure Key Vaultのキーは登録できず、AWS KMSキーのみが対象です。さらに鍵ポリシーはAnthropicのIAMロールではなくAWSサービスプリンシパルへのアクセス許可が必要になり、通常のCMEKとは登録の勘所が変わります。
CMEKが保護するデータと、保護しないデータ
CMEKを有効にしても、ワークスペースの全データが均等に保護されるわけではありません。3つのカテゴリーに分かれます。
CMEKキーで暗号化される: Claude Platformではメッセージ本文・添付ファイル・MCP/ツール設定・Claude Managed Agentsのデータ(設定・環境・webhook・セッション)が対象です。Claude Enterpriseではチャット本文(Skills・プラグイン・artifacts含む)・添付ファイル・Claude CodeのCLI利用・Claude Desktop上のCowork・ローカルセッションのコンプライアンス文字起こし・Office agents・Claude in Chromeが対象になります。両プロダクトともバックアップとスナップショットは鍵を継承します。
無効化・大幅な機能制限がかかる: Claude PlatformではPlaygroundが使えなくなります。Compliance APIのうち、生のプロンプト・レスポンス・ファイルを返す部分も無効化されます。Claude Enterpriseでは会話履歴の検索が効かなくなります(タイトルも暗号化されるため)。プロジェクトのナレッジ検索(RAG)も無効化され、プロジェクト内容は会話ごとに直接読み込まれる方式に変わります。監査ログのエクスポートや、スクリーンショット更新等を支える署名付きURLも止まります。Claude Enterpriseでは、Admin analytics(claude.aiのスキル・コネクタ利用状況)、Claude smart reports、Claude Codeのコントリビューション指標といった一部の分析機能も精度が落ちます。
Anthropic管理の鍵のまま残る: TTLが24時間未満のキャッシュ的データ、Activity Feedや監査ログ自体、Claude Managed AgentsのVault認証情報(OAuthトークン等、書き込み専用でAPIレスポンスに出ない)、ユーザープロフィールのname/external_id/metadataフィールド、組織メンバーのアカウントデータ(氏名・メールアドレス・プロフィール画像)。Claude EnterpriseではClaude Code Desktop・Claude Code on the web・Claude in Slackもここに含まれ、用途に合わなければ管理コンソールで個別に無効化できます。ベータ・研究プレビュー段階の機能は、正式リリース前のためCMEKの対象外になっている場合があります。
CMEKはAPI・ツール単位ではどこまで暗号化するか
製品単位の分類だけでは、開発者が使う個別のAPIやツールがどちらに属すか分かりません。Claude PlatformではAPIとツールの単位でも対応が決まっています。
| データが保存時にCMEKで暗号化されるAPI | データが保存時にCMEKで暗号化されるツール |
|---|---|
| Messages / Models / Files / Batch / Skills / Claude Managed Agents | データが保存時にCMEKで暗号化されるツールWeb search / Web fetch / Code execution / Bash tool / Text editor tool / MCP connector / Advisor tool / Computer use / Browser use / Context management |
主要なAPI・ツールはほぼ網羅されている一方、1点だけ例外があります。Structured outputsは、Claude FableまたはClaude Mythosのモデルを使う場合、CMEK有効な組織では利用できません。
CMEKを有効にする前に確認すべき制約
一度ワークスペースに紐づけた鍵は、外すことも別の鍵に差し替えることもできません。別の鍵を使いたければ、新しいワークスペースを作ってデータを移行する必要があります。同じ鍵内でのローテーション(AWS KMSの自動ローテーション等)は透過的にサポートされますが、これは「鍵の中身が変わる」だけで、「別の鍵に切り替える」こととは別物です。
Claude Platformでは、鍵を紐づけるとデータ保持設定も30日保持に固定されます。ゼロデータ保持へ戻すには新規ワークスペースの作成が必要になります。
鍵を失効させても、キャッシュのTTL分だけ反映が遅れます。最大1時間は、失効前の鍵で成功し続けるリクエストがあります。
データキーをラップ・アンラップする操作は、自社のキー管理サービスへ毎回ラウンドトリップするため、保存データの読み書きにわずかなレイテンシーが加わります。
CMEKにはAWS KMS・Google Cloud KMS・Azure Key Vaultいずれかの鍵が要り、各クラウドプロバイダーが個別に課金するKMS利用料が発生する可能性があります。
カスタムのANTHROPIC_BASE_URLでLLMゲートウェイ/プロキシを経由させている場合、Claude Codeの運用テレメトリにはCMEKが効きません。テレメトリ自体を止めたいならDISABLE_TELEMETRY環境変数を1に設定します。
それでもAnthropicが保持するケース
CMEKを有効にしていても、Anthropicが記録をAnthropic管理の暗号化下に保持する例外が3つあります。法律で保持が義務づけられる場合(NCMECへの報告義務対象など)、深刻な危害の切迫リスク(CBRNE兵器開発・攻撃的サイバー攻撃・暴力の差し迫った脅威など)、商用利用規約の該当条項への違反です。CSAMスクリーニングを除けば、こうした保持には人間のレビュアーによる明示的な判断が必要です。保持のたびに、Compliance API Activity Feedへ理由コード付きのイベントが記録されます。
まとめ
CMEKは、Claudeワークスペースの保存データに対して自社が発行・管理する暗号鍵を使わせる仕組みで、Anthropic標準の暗号化に代わるオプトイン機能です。保護対象はプロダクトごとに細かく分かれ、鍵有効化前のデータは対象外、一部機能は無効化・制限を受けます。何より重要なのは、鍵の削除や失効がデータの完全な喪失に直結する不可逆な設定だという点です。有効化を検討するときは、KMSコストや無効化される機能まで含めてチームで確認してから進める必要があります。