Claude CMEKの機能制限一覧 — 有効化前に確認すべき使えない機能
CMEKを有効化すると会話検索やRAG、Claude Code on the web、監査ログエクスポートなどが止まります。元に戻せない設定なので、製品別の影響範囲を先に確認します。
CMEKを有効化する前に確認すべきこと
CMEK(customer-managed encryption key、顧客管理鍵)は、AWS KMS・Google Cloud KMS・Azure Key Vaultで自分が発行した鍵を使う仕組みです。ワークスペースのデータをAnthropicの標準鍵の代わりにその鍵で暗号化し、鍵の失効やローテーションを自分の管理下に置けます。
代わりに、会話検索・RAG(project knowledge)・監査ログエクスポートなど複数の機能が止まります。有効化は取り消せません。鍵を紐づけたワークスペースから鍵を外すことも、別の鍵に切り替えることもできず、鍵を失効すればCMEK保護データは永久に読み出せなくなります。Anthropicは鍵のコピーを持たないため、鍵の誤設定や紛失もそのままデータ消失につながります。
CMEKはオプトイン方式で、有効化はAnthropicのアカウントチームへの連絡から始まります。以下では、止まる機能、残る機能、鍵の保護から外れる機能を製品別に分けます。
Claude Enterpriseで止まる機能・変わる機能
止まるものは性質が3つに分かれます。会話や知識の検索が効かなくなるもの、製品ごと使えなくなるもの、集計や出力が劣化するものです。
Claude Enterpriseの影響範囲
検索が効かなくなる
会話履歴の検索は、タイトルも本文も鍵で暗号化されるため結果を返しません。Search and reference chatsのトグルはオフのままで、Claude自身も過去の会話を検索できません。
プロジェクトナレッジ検索(RAG)も止まります。ナレッジは索引化されず会話のコンテキストへ直接読み込まれるため、扱える量が実質的に減り、載り切らない分は会話から外れます。
機能ごと使えなくなる
Claude Code on the webとClaude in Slackは、管理者がオンにしても新規セッションを始められず、Slackは依頼を断ります。Claude Code Desktopはローカルセッションだけ使えますが、管理者がオンにしない限りオフです。
Claude Design・Claude Slides・会話内とArtifactsタブのClaude Docs、routinesも、管理者設定にかかわらず使えません。
共有・出力・評価が止まる
Artifactsは組織内でしか共有できず、公開共有はできません。組織データエクスポートと監査ログエクスポートは無効です。回答の高評価・低評価(サムズアップ・ダウン)も使えません。
集計が劣化する
claude.aiのスキル・コネクタの管理者分析(Claude Enterprise Analytics APIを含む)、Claude smart reports、Claude Codeのコントリビューション指標が劣化します。
Claude Platformで止まるのは次の3点です。Claude Consoleのプレイグラウンドが無効になります。Compliance APIのうち、プロンプト・レスポンス・ファイルといった生コンテンツを返す部分も止まります。Claude FableとClaude Mythosのモデルでは、CMEKを有効にした組織で構造化出力を使えません。
とくに影響が大きいのはRAGの停止です。大きなナレッジベースを持つプロジェクトほど、コンテキストに載らない情報が増えます。検索を前提に運用しているチームでは、有効化の前に代替の運用(必要なファイルだけ手動で添付するなど)を決める場面が出ます。
自分の状況で何が起きるかの切り分け
機能一覧を上から読むより、いま使っている運用から逆引きするほうが早く判断できます。
| いまの運用 | CMEK有効化後 |
|---|---|
| Platformのワークスペースをゼロデータ保持で運用している | CMEK有効化後鍵を紐づけると30日データ保持をオフにできなくなる |
| FableやMythosで構造化出力を使っている | CMEK有効化後使えない。別モデルへの切り替えが必要 |
| LLMゲートウェイ経由でClaude Codeを使っている | CMEK有効化後運用テレメトリーはCMEKの対象外 |
ゼロデータ保持(ZDR)とCMEK自体は併用できます。鍵を紐づけたPlatformのワークスペースをZDRに戻すには、新しいワークスペースを作ってトラフィックを移します。ZDRの契約範囲はClaude Zero Data Retentionの契約範囲で扱っています。
鍵で暗号化される範囲は製品で違う
CMEKはClaude PlatformとClaude Enterpriseの両方で使えますが、対象は製品ごとに異なります。Platformはワークスペース単位、Enterpriseは組織単位で設定します。
暗号化の対象範囲
Claude Platform
メッセージ本文、ファイル・添付(インライン添付とFiles APIアップロードの両方)、MCPとツールの設定が対象です。
Claude Managed Agentsは、エージェント設定・環境・Webhook・セッションとイベント、メモリストアとその記憶・バージョン、dreams(研究プレビュー)まで含みます。BatchとSkillsのAPI、Web検索・Web取得・コード実行・Bash・テキストエディタ・MCPコネクタ・構造化出力・Advisorツール・コンピュータ操作・ブラウザ操作・コンテキスト管理が保存するデータも対象です。
Claude Enterprise
スキルとプラグインを含むチャット本文、チャットとプロジェクトの添付、CLI版Claude Codeのメッセージ本文が対象です。Claude DesktopのCowork、Officeエージェント、Claude in Chrome、ベータのClaude Scienceも同じく暗号化されます。
Compliance APIのローカルセッション文字起こしも対象です。鍵が使えない状態だと、メッセージのエンドポイントは文字起こしの代わりに503を返します。セッションのメタデータは引き続き一覧取得できます。
両製品とも、バックアップとスナップショットは鍵を引き継ぎます。上に載らないベータ機能・研究プレビュー機能はCMEKの対象外の可能性があり、新しい機能を使い始める前に対応状況は機能ごとに個別に確かめる対象になります。
鍵の保護から外れて残るデータ
次のデータは機能自体は使えますが、あなたの鍵ではなくAnthropic管理の鍵で暗号化されます。用途に合わなければ「Settings」から個別に無効化できます。
Claude Platformでは、キャッシュなど保存されないデータと、TTLが24時間未満のデータが該当します。Activity Feed・監査ログ・OTELなどのテレメトリー通信も対象で、これは鍵が失効しても監査証跡を維持するためです。Claude Managed AgentsのOAuthトークンなどvault認証情報の値も同様です(write-onlyでAPIレスポンスにも返りません)。ユーザープロフィールのname・external_id・metadataも鍵の外にあり、metadataに機密性の高い個人情報を入れないよう明記されています。
Claude Enterpriseでは、Claude Securityのようなベータ・研究プレビュー機能が鍵の対象外で、CMEK組織では壊れる場合があります。個人設定の「Instructions for Claude」欄とCoworkのグローバル指示も対象外です。これらはアカウント単位で、ユーザーの全組織に共有されるためです。
両製品とも、組織内ユーザーの氏名・メールアドレス・プロフィール画像などのアカウントデータは鍵で暗号化されません。
鍵を失っても記録が残る3つのケース
CMEKを有効にしても、次の3ケースに限り、Anthropicが特定の記録をAnthropic管理鍵の下に保持することがあります。
- 法律で記録保持が義務づけられる場合(NCMECへの報告対象など)
- CBRNE兵器開発や攻撃的サイバー攻撃、切迫した暴力の脅威など、重大な危害の切迫したリスクがある場合
- Commercial Terms of ServiceのSection D.4、またはそれに相当する契約条項への違反があった場合
CSAMスクリーニングを除き、この保持には人間のレビュアーによる明示的な判断が必要です。実施のたびに、Compliance API Activity Feedへ理由コード付きのイベントが記録されます。自動安全スキャン由来のメタデータ(会話内容ではなく、パターン識別子や一致インジケーター)も鍵の外で保持され、鍵を失効させても読み取れます。
有効化の流れと、誰が設定できるか
設定できるのは限られた役割だけです。Claude PlatformはOrganization Adminロール(Claude Platform on AWSではAdminロール)、Claude EnterpriseはOwnerとPrimary Ownerが対象です。画面も製品ごとに違い、PlatformはClaude ConsoleまたはAdmin API、Enterpriseはclaude.aiの組織設定にある「Data and privacy」から行います。
Claude Platformで鍵を有効にする順序
- 1
アカウントチームに有効化を依頼する
CMEKは対象の組織だけがオプトインできます。鍵を作る権限(AWS KMSなら
kms:CreateKeyとkms:PutKeyPolicy)も前提で、Admin APIで登録する場合はAdmin APIキーも要ります。 - 2
鍵を作り、公開されている識別子だけに権限を付ける
鍵ポリシーには、公式ページに載っている本番の識別子だけを使います。メールやチャットで渡された識別子は信用しない、とすべての設定ガイドが警告しています。
- 3
新しいワークスペースに紐づける
リクエストを受ける前のワークスペースに付けるのが推奨の順序です。すでにリクエストを受けているワークスペースでは、反映まで最大1日かかります。
- 4
紐づけ後に書き込まれたデータが保護される
反映前に書き込まれたデータは、既存のチャット・ファイル・セッションと同じくAnthropic管理鍵のまま残り、再暗号化されません。
CMEKの設定イベントはCompliance API Activity Feedに残ります。一方、Anthropicが鍵に対して行うラップ・アンラップなどの操作は、あなたのクラウドプロバイダーの監査ログにだけ記録されます。
プロバイダー別に先に整える設定
公式の設定ガイドは3社分あり、前提条件に差があります。とくに監査ログは、有効化しないと鍵の利用記録が残らない設定が2社にあります。
| プロバイダー | 先に整える設定 | そのほかの前提 |
|---|---|---|
| AWS KMS | 先に整える設定鍵ポリシー: 暗号化・復号とDescribeKeyの権限を、鍵ポリシーの別ステートメントで付ける | そのほかの前提組織IDをEncryptionContextの条件に入れ、鍵を組織に結びつける |
| Google Cloud KMS | 先に整える設定監査ログ: プロジェクトでCloud KMSのData Access監査ログ(DATA_READとDATA_WRITE)を有効化する。既定ではオフ | そのほかの前提組織ポリシーのドメイン制限があると、Anthropic側のサービスアカウントへの権限付与が拒否される |
| Azure Key Vault | 先に整える設定監査ログ: 診断設定でAuditEventログを送り先に流す。データプレーンの監査ログは既定で出ない | そのほかの前提RBAC認可を有効にし、パブリックネットワークアクセスを許可する。プライベートエンドポイントは非対応。パージ保護も必須 |
AWSの鍵ポリシーでDescribeKeyを別にするのは、この操作にEncryptionContextパラメーターがなく、条件を付けると常に拒否されるためです。
リージョンもほぼ固定です。Claude Platform on AWSを除き、CMEKは米国リージョンのみで、暗号化処理もすべて米国で行われます。レイテンシーを抑える推奨は、AWSがus-east-2、Google Cloudがus-central1とus-east5、Azureがnorthcentralusとeastus2です。Anthropicは標準の公開IPレンジから鍵管理サービスを呼ぶため、IPで制限する場合はそのアドレスを許可します。
Claude Platform on AWSだけは構成が違います。使える鍵はAWS KMSのみで、Google Cloud KMSとAzure Key Vaultの鍵は登録できません。キーはワークスペースと同じAWSアカウント・同じリージョンの単一リージョンKMSキーで、マルチリージョンキー(mrk-で始まるID)とエイリアスARNは登録時に拒否されます。鍵ポリシーはAnthropicのIAMロールでなく、AWSのサービスプリンシパルに権限を付与する形で、IPによる制限には頼れません。詳細はClaude Platform on AWSでClaude Codeを使うガイドで扱っています。
導入後に踏みやすい落とし穴
- 別の鍵への切り替えはワークスペースごと移す: 新しい鍵で新しいワークスペースを作ってデータを移行します。同じ鍵の中でのローテーション(AWS KMSの自動ローテーションなど)は、Anthropic側の変更なしで透過的に使えます
- ゲートウェイ経由のClaude Codeテレメトリーは対象外:
ANTHROPIC_BASE_URLでLLMゲートウェイやプロキシを経由させると、Claude Codeの運用テレメトリーにCMEKは適用されません。止めるにはDISABLE_TELEMETRY環境変数を1にします - 失効の反映に最大1時間かかる: キャッシュのTTL分だけ遅れ、失効操作の直後でも、すでに送信中のリクエストはその間は成功し続けることがあります
- 読み書きにレイテンシーが乗る: データキーのラップ・アンラップのたびに自社の鍵管理サービスへ往復するため、保存データを読み書きする処理にわずかな遅延が加わります
- KMSの費用が別にかかる場合がある: 鍵はAWS・Google Cloud・Azureのサービス上に置くので、各プロバイダーの課金が別途加わります
まとめ
影響の大きさは製品で分かれます。Platformで止まるのはプレイグラウンドと構造化出力などに限られ、Enterpriseは検索・共有・出力が広く止まります。クラウド側の準備(鍵ポリシー、GoogleとAzureの監査ログ、組織ポリシー)を先に済ませてから、アカウントチームに連絡する順序になります。契約形態ごとに使える統制機能の全体像はClaude Enterpriseガイドにあります。