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Claude Data Residencyと個人情報保護法の外的環境の把握

Claude Data Residencyと個人情報保護法の外的環境の把握

Claude Platformのdata residencyは推論地域とワークスペース保存地域が別設定で、選べる明示的な地域はUSのみです。個人情報保護法が求める「外的環境の把握」義務とどう接続するかをまとめます。

Claude Platformのdata residency設定は、推論をどこで実行するかと、データをどこに保存するかを別々に管理する2階建ての仕組みです。ところが明示的に選べる地域は「US」の1つだけで、それ以外は「global(どこでも構わない)」しかありません。個人情報保護法が求める「外的環境の把握」義務は、データを扱う外国の名称を把握することを前提にしているため、この「globalしか選べない」という制約は日本企業にとって実務上の分岐点になります。

inference geoとworkspace geoという2つの独立した設定

Claude Platformのdata residency制御は、次の2つの独立した設定で構成されます。

  • Inference geo: リクエスト単位で、モデル推論をどこで実行するかを制御する設定です。APIのinference_geoパラメーターで指定するか、ワークスペースの既定値として設定します
  • Workspace geo: データが保存される場所と、画像の変換やコード実行といったエンドポイント側の処理が行われる場所を制御する設定です。Consoleでワークスペース単位に設定します

この2つは別軸なので、「推論はグローバルに任せつつ、保存だけは特定地域に固定する」といった組み合わせも設計上はあり得ます。ただしworkspace geoに選べる値は「us」だけなので、保存地域を積極的に選ぶという運用は実質できません。

選べるのは「global」と「us」の2択だけ

inference_geoパラメーターに指定できる値は次の2つです。

意味
global(既定値)意味パフォーマンスと可用性を優先し、利用可能な任意の地域で推論を実行
us意味米国拠点のインフラでのみ推論を実行

このパラメーターが使えるのはClaude 4.6以降のモデルで、Claude Opus 4.5・Sonnet 4.5・Haiku 4.5以前のモデルに指定すると400エラーが返ります。また対応しているのはClaude API(第一者)とClaude Platform on AWSのみで、Amazon BedrockとGoogle Cloudではエンドポイントやinference profileでリージョンが決まるためこのパラメーター自体が存在せず、Microsoft Foundryでも同様に非対応です(Foundry側はAzureのUS Data Zone Standardというデプロイ形態で代替します)。

workspace geoについては、ワークスペース作成時に選択し、後から変更できません。選べる値は「us」のみで、日本を含むそれ以外の地域を明示的に指定するオプションはありません。つまり、「日本にデータを置きたい」という要望自体が、現行のdata residency機能では満たせないということです。

個人情報保護法が求める「外的環境の把握」とは

個人情報保護法を所管する行政機関PPC(Personal Information Protection Commission)が定める通則ガイドライン10-7は、外的環境の把握について次のように定めます。

個人情報取扱事業者が、外国において個人データを取り扱う場合、当該外国の個人情報の保護に関する制度等を把握した上で、個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。

これは安全管理措置(法第23条)の一部にあたる義務で、外国にある第三者への提供(法第28条、事前同意が必要になる場面)とは別の条文にもとづきます。ガイドラインが挙げる対応事例は「個人データを保管しているA国における個人情報の保護に関する制度を把握した上で安全管理措置を実施」というもので、「A国」を特定できることが前提になっています。

プライバシーポリシーへの記載についても、外国の名称は本人が合理的に認識できる形で情報提供する必要があり、その国の制度についても「本人の知り得る状態に置くことが望ましい」とされています。義務の対象は国名の特定であり、制度の詳細まで開示することは「望ましい」対応にとどまります。

Claudeを委託先として使う場合、第三者提供の同意は必要か

自社のサービスからClaude APIを呼び出す構成は、多くの場合、個人情報の取扱いを外部に委託する形態(法第27条第5項第1号の「委託」)に該当します。委託と整理できる場合、提供先(Anthropic)は法律上の「第三者」に該当しないとみなされ、外国にある第三者への提供に関する事前同意(法第28条)は不要になります。この整理は、Anthropicの商用契約でAnthropicが「processor(処理者)」、顧客企業が「controller(管理者)」と位置づけられている構造とも整合します。

ただし、委託として整理できても義務がすべて消えるわけではありません。委託先の監督義務(法第25条)は残りますし、外的環境の把握義務(10-7)も「外国において個人データを取り扱う場合」に該当する限り引き続き課されます。委託か第三者提供かの判定は個人データの取扱いの実態によって決まるため、契約書の文言だけで自動的に決まるものではない点には注意が必要です。

geo設定を「global」のままにすると把握義務を満たしにくい

外的環境の把握義務の対応事例が「A国における制度を把握」という形で書かれている以上、実務上は「どの国で処理されているか」を答えられる状態が前提になります。ここでinference geoがglobalのままだと、推論がどの国で実行されたかはリクエストごとに変わり得ます。レスポンスのusage.inference_geoフィールドで結果的にどこで実行されたかは確認できますが、事前に「この業務はA国で処理される」と特定した上で安全管理措置を講じるという10-7の組み立てとは相性が良くありません。

この観点では、inference_geoを明示的に"us"に固定し、workspace geoも"us"で作成しておくことで、少なくとも「米国で処理される」という前提を確定させ、米国における個人情報保護の制度を把握した上で安全管理措置を講じる、という10-7の要求に応えやすくなります。1.1倍のコスト増は、この確定性と引き換えのコストと捉えることができます。逆に、コスト最適化のためにglobalのままにする場合は、処理国を特定できないことを前提にした代替の安全管理措置(暗号化・アクセス制御の強化など)で補う必要があります。

Claude for Enterprise(製品側)とAPIでは設定の入り口が違う

ここまでのinference geo/workspace geoは、Claude API・Claude Platform on AWSを対象にしたAPI/Console側の設定です。Claude Codeやチャット画面を含むClaude for Enterprise全体を対象にした設定は別に存在します。usage-basedのEnterpriseプランでは、組織設定の「Data and privacy」から「US-only inference」というトグルを有効化でき、オンにするとClaude Code・Desktopアプリを含む組織全体の推論が米国内のサーバーに限定されます。バックグラウンド処理(会話タイトルの生成やメモリー機能)も対象に含まれます。

このUS-only inferenceには2つの制約があります。第一に、Teamプランおよびレガシーな座席課金型のEnterpriseプランには表示されず、usage-basedのEnterpriseプランでのみ利用できます。第二に、この設定は推論の実行地域だけを制御するもので、データがどこに保存されるかや、SlackやGoogle Driveのようなコネクタ経由で連携する外部サービス側の処理地域は対象外です。コネクタを併用する場合、外的環境の把握はClaude本体だけでなく接続先サービスについても別途行う必要があります。

よくある質問

日本国内にデータを保存する設定はありますか

公式ドキュメントには、日本をworkspace geoとして選べる記載はありません。選べるのは「us」のみで、それ以外は保存地域を明示的に固定しない「global」相当の扱いになります。

Claude Codeでもinference geoパラメーターを指定できますか

inference_geoパラメーターはAPIのPOST /v1/messages呼び出しに対する設定です。Claude Codeの推論地域を組織単位で制御したい場合は、Claude for Enterpriseの「US-only inference」トグルを使う経路になります。

US-only inferenceを有効にすれば個人情報保護法の対応は完了しますか

完了しません。US-only inferenceは処理国を米国に固定する技術的な設定であり、外的環境の把握義務が求める「その国の制度を把握した上で安全管理措置を講じる」という作業自体は別途必要です。また委託先の監督義務(法第25条)やプライバシーポリシーへの記載も、geo設定とは別に満たす必要があります。

まとめ

Claude Platformのdata residencyは、推論地域(inference geo)とデータ保存地域(workspace geo)を別々に制御する仕組みですが、明示的に選べる地域はどちらも「us」のみです。個人情報保護法の外的環境の把握義務(10-7)は「外国の名称を特定できること」を前提にしており、inference_geoglobalのままにする運用はこの前提と相性が良くありません。日本企業がClaudeを個人データの処理に使う場合、geoをUSに固定して処理国を確定させるか、確定できないことを前提にした代替の安全管理措置を講じるかの判断が必要です。あわせて、Claude for Enterpriseの契約形態によって使える統制機能自体が変わる点はClaude Enterpriseガイド、Zero Data Retentionが有効になる契約形態の詳細はClaude Zero Data Retentionの契約範囲で扱っています。

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