Claude for ExcelでROI試算を組む手順 — 顧客の前提値つき3ケース
提案書に載せる導入効果の試算を、顧客から聞いた件数・単価・工数を入力セルに分けてExcelに組む手順。削減効果と回収期間を式で出し、前提を変えた3ケースを並べます。
提案書に載せる導入効果の試算は、数字そのものより「どの前提から出したか」を顧客に追ってもらえるかで説得力が決まります。Claude for Excelなら、顧客から聞いた件数・単価・工数を入力セルに分け、削減効果と回収期間を数式でつないだブックを組ませられます。前提を変えた3ケースも、同じ式のまま並べられます。
この記事では、問い合わせ対応の工数削減を題材に、前提シートと試算シートを作り、保守・標準・積極の3ケースで回収期間とROIを出す流れを扱います。数字はすべて説明用の架空の値です。
提案書のROI試算で、Claudeに任せる範囲
Claude for Excelは、開いているブックについて質問し、数式の関係を保ったまま前提を変え、新しいモデルを作ったり既存のテンプレートに入力したりできるExcelアドインです。ROI試算で効くのは、次の2点です。
- 入力セルを変えると、削減額・回収期間・ROIが数式で再計算される
- 回答にセル単位の根拠が付くので、どの式から出た数字かを顧客の前で辿れる
一方で、前提の数字を決めるのは人です。件数や時間単価は顧客の実態で、Claudeが推測で埋めるものではありません。公式のドキュメントも、最終的な顧客向け成果物を人のレビューなしで出すことと、監査に耐える計算を検証なしで使うことを、推奨しない使い方に挙げています。
ROI試算ブックの作り方
- 1
顧客から前提値を聞く
件数・処理時間・時間単価・導入費用を、出どころ付きで集めます。
- 2
前提シートに入力セルを分ける
数式に数字を埋めず、すべてセルに置きます。
- 3
試算シートに式を組ませる
削減時間・削減額・回収期間・ROIを、3ケースの列で出します。
- 4
前提を動かして幅を確かめる
損益分岐の削減率も出し、どこまで下がると赤字かを見せます。
- 5
人が検算して提案書へ転記する
電卓と顧客の確認を通してから、数字を載せます。
前提条件 — 対応バージョンとプラン
使えるのはPro、Max、Team、Enterpriseの各プランです。対応するExcelは、Excel on the web、Microsoft 365契約のWindows版(ビルド16.0.13127.20296以降)、Mac版(バージョン16.46以降、ビルド21011600以降)です。Excel 2016・2019の永続ライセンスやボリュームライセンス版、iPad、Androidでは動きません。
提案の現場でiPadだけを持ち込む運用だと、その場で式を直せません。顧客先で前提を変えて見せたい場合は、PCのExcelを用意します。
顧客から聞く前提値と、ブックの形
試算の質は、ヒアリングで何を聞くかで決まります。聞く項目は、次の4種類に分けると抜けにくくなります。
| 区分 | 聞く項目の例 | 入力セルの名前 |
|---|---|---|
| 量 | 聞く項目の例月間の問い合わせ件数 | 入力セルの名前月間件数 |
| 手間 | 聞く項目の例1件あたりの処理時間(分) | 入力セルの名前処理分 |
| 単価 | 聞く項目の例担当者1人の時間あたりコスト(円) | 入力セルの名前時間単価 |
| 費用 | 聞く項目の例初期費用、月額の運用費 | 入力セルの名前初期費用、月額運用費 |
削減率は顧客が決めるものではなく、提案側が仮定を置く項目です。だから1つの値にせず、保守・標準・積極の3本で持ちます。
ブックは2シートに分けます。
| シート | 中身 |
|---|---|
| 前提 | 中身上の4区分の入力セルと3ケースの削減率、各値の出どころ(誰にいつ聞いたか) |
| 試算 | 中身月間総工数、削減時間、削減額、回収期間、ROI、損益分岐の削減率 |
数式に「15分」や「3,000円」を直接書くと、顧客に「この単価は何ですか」と聞かれたときに式を開いて探すことになります。入力セルに出しておけば、前提を変えた結果と元の結果を並べて見せられます。
顧客の現場から受け取った件数の集計ファイルをそのまま開く場合は、注意が要ります。外部から受け取ったファイルには、Claudeを操作する隠れた指示が入っている可能性があります。公式は、信頼できるスプレッドシートでだけ使うよう求めています。数値だけを自分のブックに写してから作業を始めます。
手順1: 前提シートを組む
最初の依頼は、入力セルの置き場所と書式を決める指示です。値は架空の例です。
新しいブックに「前提」シートを作ってください。
A列に項目名、B列に値を置き、次の入力セルを作ります。
B2 月間件数 1200
B3 処理分(1件あたり) 15
B4 時間単価(円) 3000
B5 月額運用費(円) 100000
B6 初期費用(円) 600000
8行目に見出し(B8 保守 / C8 標準 / D8 積極)、
9行目に削減率(20% / 35% / 50%)を置いてください。
入力セルは薄い黄色にし、C列に「出どころ」の欄を作ってください。入力セルを色分けしておくと、「黄色のセルだけ変えれば結果が動く」と顧客に説明できます。出どころの欄には、「A社の情報システム部への聞き取り」「昨年度の月次集計」のように書きます。ここが空欄のまま提案書に載せると、後で根拠を問われたときに答えられません。
手順2: 試算シートに式を組ませる
次に、試算シートで3ケースを同じ式で並べます。依頼は、参照先と計算式、端の扱いまで書きます。
「試算」シートを作り、B列を保守、C列を標準、D列を積極として、
次の行を数式で組んでください。値の直書きはしないでください。
2行目 月間総工数(時間) = 前提!B2 × 前提!B3 ÷ 60
3行目 削減時間(時間/月) = 2行目 × 前提の同じ列の削減率
4行目 月間削減額 = 3行目 × 前提!B4
5行目 月間純効果 = 4行目 − 前提!B5
6行目 回収期間(月) = 5行目が正なら 前提!B6 ÷ 5行目、
正でなければ「回収不能」
7行目 年間削減額 = 4行目 × 12
8行目 年間総コスト = 前提!B5 × 12 + 前提!B6
9行目 ROI = (7行目 − 8行目) ÷ 8行目
10行目 損益分岐の削減率 = 前提!B5 ÷ (2行目 × 前提!B4)組み上がった式は、次のような形になります。列の位置は自社の表に合わせて読み替えます。
B2: =前提!$B$2*前提!$B$3/60
B3: =B2*前提!B9
B4: =B3*前提!$B$4
B5: =B4-前提!$B$5
B6: =IF(B5>0,前提!$B$6/B5,"回収不能")
B7: =B4*12
B8: =前提!$B$5*12+前提!$B$6
B9: =(B7-B8)/B8
B10: =前提!$B$5/(B2*前提!$B$4)回収期間の式に「回収不能」の分岐を入れているのは、削減率が低いケースで純効果がマイナスになると、割り算の結果が負の月数になって誤解を生むためです。ROIの定義(ここでは初期費用を1年目のコストに含める)も、試算シートの下に一行で書き残します。顧客によって「初期費用は別枠」とする場合があるからです。
手順3: 3ケースの結果を読む
前提の例(月間1,200件、1件15分、時間単価3,000円、月額運用費10万円、初期費用60万円)で動かすと、月間総工数は300時間です。3ケースの結果は次のとおりです。
| 指標 | 保守(20%) | 標準(35%) | 積極(50%) |
|---|---|---|---|
| 削減時間(時間/月) | 保守(20%)60 | 標準(35%)105 | 積極(50%)150 |
| 月間削減額(円) | 保守(20%)180,000 | 標準(35%)315,000 | 積極(50%)450,000 |
| 月間純効果(円) | 保守(20%)80,000 | 標準(35%)215,000 | 積極(50%)350,000 |
| 回収期間(月) | 保守(20%)7.5 | 標準(35%)約2.8 | 積極(50%)約1.7 |
| 年間削減額(円) | 保守(20%)2,160,000 | 標準(35%)3,780,000 | 積極(50%)5,400,000 |
| ROI(初期費用を含む1年) | 保守(20%)20% | 標準(35%)110% | 積極(50%)200% |
年間総コストはどのケースも180万円(運用費120万円と初期費用60万円)です。保守でもROIはプラスで、回収に7か月半かかります。ケースによって変わるのは削減率だけなので、顧客は「どの仮定を信じるか」を1つの軸で判断できます。
損益分岐の削減率は、100,000円 ÷ (300時間 × 3,000円)で約11%です。月額運用費だけを見て赤字にならない下限が、削減率11%前後にあります。提案書には、標準ケースの数字より先に「保守ケースでも黒字になる」ことを載せると、リスクを気にする顧客に届きやすくなります。
落とし穴
削減時間を「人件費の削減」と書いてしまう
月間削減額は、空いた時間を時間単価で換算した値です。人員や残業代が実際に減るとは限りません。提案書では「削減できる工数の換算額」と書き、空いた時間を何に使うかは顧客と合意してから別途載せます。
手順4: 前提を変えて幅を確かめる
前提が入力セルに出ていれば、前提を動かした影響を一度に見られます。公式が挙げる依頼例にも、「割引率を変えて依存する計算を更新する」「成長率を5%から10%に振って影響を見せる」といった使い方があります。ROI試算なら、依頼は次のようになります。
「前提」シートの時間単価を3,000円から2,500円に変えたとき、
3ケースの回収期間とROIがどう変わるかを、変更前後の2列で見せてください。
確認が終わったら、時間単価は3,000円に戻してください。時間単価を2,500円にすると、保守ケースの月間削減額は150,000円になります。月間純効果は50,000円まで下がり、回収期間は12か月です。単価の前提ひとつで、回収期間が7.5か月から12か月に伸びます。顧客が「うちの単価はもう少し低い」と言ったときに、その場で答えられます。
Excelの「データテーブル」機能による感度分析は、Claude for Excelでは使えません。マクロやVBAも対象外です。幅を見たい前提は、上のように列を並べる形で用意します。
毎回の指示はInstructions欄に置く
提案のたびに同じ書式や前提の置き方を依頼文へ書くのは手間です。アドインのSettingsにあるInstructions欄には、すべての会話に効く指示を置けます。Excelだけに効き、PowerPointやWordで設定したものとは別です。
- 金額は円単位、千円区切りで表示する
- 顧客から聞いた値は「前提」シートの黄色いセルに置き、数式に直書きしない
- 出どころの欄が空のセルがあれば、最後に一覧で報告する
- 元のデータを変更する操作は、実行前に何を変えるかを説明するClaude for Excelは、既存のデータを上書きする前に警告を出します。確認画面は流さず、何が書き換わるかを見てから承認します。
提案書に載せる前の検算
数式が通っていても、前提と式の意味が顧客の実態に合っているかは別の問題です。載せる前に、次の4点を人が確かめます。
- 入力セルの値が、顧客から聞いた数字と一致している(出どころの欄で辿れる)
- 標準ケースの1列を、電卓で独立に再計算して一致する(300時間 × 35% × 3,000円 = 315,000円)
- 回収期間とROIの定義が、提案書の脚注と同じ文言になっている
- 「回収不能」「赤字」になるケースが、隠されずに表に残っている
Claudeに「この表は正しいか」と聞いて済ませる確認は、検算になりません。2の再計算は、式を組んだ側とは別の経路で行います。
試算をWordやPowerPointの提案書へ渡す
試算が固まったら、数字を提案書へ移します。Claude for ExcelはPowerPoint、Word、Outlookのアドインと文脈を共有できるため、開いているExcelのブックから数字を取り、PowerPointのスライドやWordのメモに書き込む使い方ができます。
ただし、読み書きできるのは、そのとき開いているファイルだけです。Claudeがファイルを新しく作ったり、開いたり、切り替えたりはできません。提案書のファイルは先に自分で開き、アドインを有効にしておきます。また、この連携はClaudeアカウントで直接サインインした場合に使えるもので、Amazon Bedrock、Google Cloud Vertex AI、Azure AI Foundry、LLMゲートウェイ経由の接続では使えません。
営業の見込みを月別に出す流れはClaudeで営業の売上予測をExcelで作る手順に、提案書の下書きをどこまで任せるかはCowork営業の提案書と見積もりの記事にあります。ROI試算は、この2つの間に入る作業です。Copilotとの使い分けで迷う場合は、Claude for ExcelとCopilotの比較が数式の保持と監査要件の違いを扱っています。導入後に実績を数字で語りたいときは、導入事例の作り方が顧客の許諾確認まで含めて整理しています。
よくある質問
顧客の機密データが入ったブックで使ってよいですか
入力と出力は、バックエンド上で受領または生成から30日以内に削除されます。チャット履歴はブラウザ内のIndexedDBに保存され、Anthropicのサーバーには保存されません。ただしClaude for Excelは、組織が設定したカスタムのデータ保持設定を引き継ぎません。機密性の高い、または規制対象のデータを扱うブックは、管理の仕組みが整っていない状態では推奨されていません。件数と単価だけを抜き出した試算専用のブックを別に作るのが、手近な回避策です。
3ケースの削減率は、どう決めればよいですか
ブックの中に根拠はありません。過去の導入事例の実績値、顧客の試行結果、提案側の見立てのどれから出したかを、前提シートの出どころ欄に書きます。根拠が見立てだけなら、そのことを提案書にも書きます。