Claude for Excelで営業テリトリーの担当割りを再配分する手順 — 移動重視案と公平案
顧客台帳に売上・訪問回数・移動時間を持たせ、Claude for Excelで担当者ごとの負荷と売上のばらつきを出し、移動重視案と公平案を同じ指標で比べる手順です。
営業テリトリーの再配分は、Claude for Excelに案の叩き台を作らせ、人が指標で比べて選ぶ進め方に向いています。顧客台帳に売上・訪問回数・移動時間の列があれば、担当者ごとの負荷と売上のばらつきを数式で出し、その数字を見ながら複数の割り当て案を並べられるからです。
ただし、Claudeが出すのは割り当ての案です。どの案を採るかは、既存顧客との関係や異動の事情を知っている営業責任者が決めます。この記事では、台帳の作り方、ばらつきの測り方、移動重視案と公平案の出させ方、採用前の検算までを順に扱います。
先に知っておく前提と限界
Claude for Excelは、Pro、Max、Team、Enterpriseの各プランで使えるExcelアドインです。動作するのはExcel on the web、Microsoft 365のWindows版、Mac版で、iPadとAndroid、Excel 2016と2019の永続ライセンス版では動きません。
この作業に関係する機能は、並べ替え、フィルター、ピボットテーブルの編集、条件付き書式、データ入力規則のドロップダウン作成です。これらは頼めば実行してくれます。一方で、データテーブルとマクロ・VBAは未対応です。つまり「ボタン一つで最適な割り当てを自動探索する」仕掛けは、Claude for Excelの機能としては用意されていません。
この制約から、役割分担ははっきりします。
- 割り当ての案を出す部分は、Claudeに頼む
- 案ごとの負荷・売上・移動時間を測る部分は、シートの数式に持たせる
- 案を採るかどうかは、人が判断する
数式に持たせるのは、Claudeの説明を信じなくても数字を確かめられるようにするためです。ドキュメントも、監査に直結する計算は検証なしに任せない、顧客に出す成果物は人の確認なしに使わない、という使い方を勧めています。
台帳に持たせる列を決める
再配分の質は、台帳の列でほぼ決まります。Claudeに「いい感じに割り振って」と頼んでも、判断材料がなければ顧客数をならすだけの案になります。
顧客台帳シートには、次の列を置きます。数値はすべて例で、自社の実績に置き換えてください。
| 列 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| A | 内容顧客ID | 例C0001 |
| B | 内容エリア | 例港北 |
| C | 内容現担当 | 例佐藤 |
| D | 内容年間売上(万円) | 例480 |
| E | 内容月間訪問回数 | 例2 |
| F | 内容面談時間(分) | 例60 |
| G | 内容新担当(案A) | 例空欄 |
| H | 内容新担当(案B) | 例空欄 |
もう一枚、移動時間表シートを作ります。行を担当者の拠点、列をエリアにして、拠点からエリアまでの片道移動時間(分)を入れます。
この表が要る理由は、移動時間が顧客の属性ではなく、担当者と顧客の組み合わせで決まるからです。担当を替えれば、同じ顧客でも移動時間は変わります。台帳に移動時間の列を1本だけ置くと、案を変えても移動時間が動かず、移動重視案の効果が測れません。
移動時間表を作る材料は、地図アプリで調べた所要時間でも、過去の訪問記録からの平均でも構いません。社外のファイルから貼り付けるときは、先に注意点の節を読んでください。
負荷とばらつきを数式で出す
ここからは、シートに数式を入れていきます。Claudeには次のように頼みます。
顧客台帳の各行について、案Aの新担当を使った月間訪問負荷(時間)を
I列に計算してください。移動は移動時間表から、新担当の拠点とエリアで
引き、往復にしてください。式はセルに入れて、値の貼り付けにしないでください。「値の貼り付けにしない」と書くのが肝心です。Claude for Excelは、数式の関係を保ったまま値を更新できると説明されています。式が残っていれば、移動時間表の数字を直したときに、負荷も案ごとの比較も自動で再計算されます。
I列に入る式は、およそ次の形になります。公式の例ではなく、この記事の列構成に合わせた一例です。
=E2*(F2+2*INDEX(移動時間表!$B$2:$H$7,
MATCH(G2,移動時間表!$A$2:$A$7,0),
MATCH(B2,移動時間表!$B$1:$H$1,0)))/60次に、担当者別の集計シートを作ります。担当者を行に並べ、列には顧客数、年間売上、月間負荷、現状との差を置きます。
顧客数 =COUNTIFS(顧客台帳!$G:$G,A2)
売上 =SUMIFS(顧客台帳!$D:$D,顧客台帳!$G:$G,A2)
月間負荷 =SUMIFS(顧客台帳!$I:$I,顧客台帳!$G:$G,A2)ばらつきは変動係数で測ります。標準偏差を平均で割った値で、担当者数や金額の規模が違っても比べられます。
負荷のばらつき =STDEV.P(D2:D7)/AVERAGE(D2:D7)
売上のばらつき =STDEV.P(C2:C7)/AVERAGE(C2:C7)変動係数は、小さいほど担当者間の差が小さいことを示します。標準偏差だけだと売上の単位に引きずられるので、案を横並びにするときは割り算した値を使います。
現状の担当(C列)を使った同じ集計も、先に1本作っておきます。これが再配分の出発点で、「何を直したいのか」を数字で言えるようになります。負荷のばらつきが大きいのか、売上の偏りが大きいのかで、効く案が変わるからです。
2つの案を出させる
指標が揃ったら、案を出させます。ここで頼み方を分けます。
二つの案が目指す方向
案A 移動重視
エリアをまとまりで担当に割り当て、拠点に近い担当へ寄せます。顧客の入れ替えは大きくなりやすく、負荷や売上の偏りは残ります。
案B 公平
負荷と売上が平均から大きくずれた担当から、顧客を動かします。移動時間は延びることがあり、動かす顧客の数は最小に抑えます。
案Aは、たとえば次のように頼みます。
顧客台帳のG列(新担当・案A)を埋めてください。
条件は次のとおりです。
- エリアは分割せず、同じエリアの顧客は同じ担当に割り当てる
- 移動時間表で拠点からの時間が短い担当を優先する
- 担当の月間負荷は上限120時間を超えない
埋めたあと、どのエリアをどの担当に割り当てたかを一覧で説明してください。案Bは条件を変えます。
H列(新担当・案B)を埋めてください。
条件は次のとおりです。
- 月間負荷と年間売上が、それぞれ担当者の平均の±10%に収まるようにする
- 現担当から動かす顧客は、できるだけ少なくする
- 動かす顧客は、移動時間表で拠点に近い担当に移す
埋めたあと、動かした顧客の数と、動かした理由を担当ごとに説明してください。条件を数字で書くのが、頼み方の要点です。「公平に」と書くと、顧客数を揃えるだけで終わりがちです。営業の現場では、顧客数が同じでも訪問に要る時間や売上は大きく違います。負荷と売上のそれぞれに許容幅を置くと、Claudeが何を基準にならしたかが数式で確かめられます。
Claudeは数理最適化のソルバーではないので、出てくるのは条件を満たそうとした案です。許容幅に収まらない担当が残ることはあり得ます。その場合は「担当Dが平均を12%上回っている。移す顧客の候補を3件挙げて」のように、残った偏りを名指しして頼み直します。
案を並べて比べる
2つの案を、同じ指標で一枚の表にまとめます。比較シートの行には次を置きます。
| 指標 | 現状 | 案A | 案B |
|---|---|---|---|
| 月間負荷のばらつき | 現状0.31 | 案A0.19 | 案B0.08 |
| 年間売上のばらつき | 現状0.27 | 案A0.22 | 案B0.09 |
| 全員の総移動時間(時間) | 現状410 | 案A310 | 案B360 |
| 担当が変わる顧客数 | 現状0 | 案A118 | 案B41 |
表の数字は、説明用に作った仮の値です。この並びで読むと、判断の軸が見えます。
- 総移動時間を重く見るなら、案Aに寄る
- 売上の偏りが担当者の評価や報酬に響くなら、案Bの価値が上がる
- 担当が変わる顧客数が多いほど、顧客への挨拶回りと引き継ぎの手間が増える
最後の行は見落とされがちです。再配分は、顧客から見れば担当者の交代です。引き継ぎの手間を考えると、数字上の効果が同じなら動かす顧客が少ない案のほうが現実的です。担当が変わる顧客数は、次の式で出せます。
=SUMPRODUCT(--(顧客台帳!$C$2:$C$500<>顧客台帳!$G$2:$G$500))2案の中間を取りたいときは、「案Aをベースに、負荷が平均の120%を超える担当だけ顧客を逃がして」と頼み、案Cとして並べます。比較表に列を足すだけで済みます。Claudeに頼むときは、新しい列を作ることと、既存の案A・案Bの列を書き換えないことを併せて伝えてください。Claude for Excelは既存データを上書きする前に警告を出しますが、警告が出るのは「上書きの瞬間」です。案を並べる作業では、最初から別の列に出させるほうが安全です。
再配分案を作る流れ
- 1
台帳と移動時間表を作る
顧客ID、エリア、現担当、年間売上、月間訪問回数、面談時間を台帳に置き、拠点とエリアの移動時間表を別シートに作ります。
- 2
現状の指標を測る
現担当のまま、担当者別に顧客数・売上・負荷を集計し、変動係数を出します。
- 3
案A・案Bを別の列に出させる
条件を数字で伝え、新担当を別々の列に入れてもらいます。
- 4
検算してから比べる
全顧客の割り当て漏れと二重計上を確かめたうえで、比較表を作ります。
採用前に検算する
Claudeが埋めた割り当てには、必ず検算を入れます。数式で確かめられる項目は、次のとおりです。
| 検算 | 数式の例 | 期待値 |
|---|---|---|
| 割り当て漏れ | 数式の例=COUNTBLANK(G2:G500) | 期待値0 |
| 担当名の表記ゆれ | 数式の例=SUMPRODUCT(--(COUNTIF(担当一覧,G2:G500)=0)) | 期待値0 |
| 売上の合計 | 数式の例担当別の売上の合計と台帳全体の合計の差 | 期待値0 |
| 負荷の上限超え | 数式の例=COUNTIF(月間負荷の列,">120") | 期待値0 |
担当名の表記ゆれは、実際に起きやすい失敗です。「佐藤」と「佐藤 」が混ざると、集計から落ちる顧客が出ます。G列とH列にデータ入力規則のドロップダウンを付けておくと防げます。Claude for Excelはドロップダウンの作成を頼めば実行する機能を持っているので、「G列とH列に、担当一覧シートを選択肢にしたドロップダウンを付けて」と頼んでください。
売上の合計は、割り当てを動かしても変わらないはずの数字です。担当別の合計と台帳全体の合計が合わなければ、顧客が抜けたか、二重に載っています。ここで差が出た案は、比較に進めません。
もう一つ、Claudeの説明と数式の結果を突き合わせます。Claude for Excelの回答にはセル単位の出典が付き、クリックすると参照先に移動できます。「担当Dの負荷は118時間になりました」と言われたら、出典のセルをたどり、集計シートの数字と一致するかを見ます。説明と数式が食い違うときは、数式の結果を正とします。
落とし穴
移動時間を台帳に1列だけ置いて案を比べてしまう
担当を替えても移動時間が変わらないため、どの案でも総移動時間はほぼ同じに出ます。移動時間は拠点とエリアの組み合わせで引く設計にして、新担当の列から数式で求めてください。
社外ファイルを使うときの注意
台帳は、CRMの書き出しや他部署から受け取ったブックで作ることが多いはずです。ドキュメントは、外部から受け取ったファイルには隠れた指示が含まれ得ると警告しています。その指示でClaude for Excelが情報の持ち出しやデータの改変、破壊的な操作に誘導される可能性があるとされています。信頼できるスプレッドシートでだけ使う、広く編集させる前に信頼できるコピーで試す、という使い方が示されています。
再配分は顧客データを扱うので、この注意は軽くありません。実務では次の順で進めます。
- 受け取ったブックから必要な列だけを、新しいブックの顧客台帳に貼る
- 備考欄や自由記述の列は、読ませる必要がなければ貼らない
- Claudeが危険な操作を提案して確認を求めてきたら、内容を読んでから承認する
社内の基幹データを扱うときは、組織の管理者が許可している接続方法かどうかも確認してください。Amazon Bedrockなどの外部基盤を経由している場合、ConnectorsとSkillsが使えないことがあります。
毎期の見直しを短くする
再配分は一度で終わりません。四半期ごとに顧客が増減し、訪問回数も変わるからです。毎回ゼロから頼むのは手間なので、前提をアドインの設定に残します。
SettingsのInstructions欄に書いた内容は、Excelでのすべての会話に適用されます。たとえば次のように書いておけます。
営業テリトリーの再配分では、月間負荷の上限は120時間、
年間売上と負荷のばらつきは変動係数で報告する。
案は必ず新しい列に出し、既存の案の列は書き換えない。このInstructionsはExcel専用です。PowerPointやWordの設定とは別になります。
ブックの側には、売上予測の記事と同じ考え方が使えます。前提の数字を別シートに切り出しておけば、期が変わったときは台帳を貼り替えるだけで、比較表まで更新されます。売上の見込みを営業側の確度から作る手順は営業の売上予測をExcelで作る手順に、配分した結果の評価を月次の差異として読む方法は月次変動分析の理由メモにあります。
数理最適化が必要になったとき
顧客が数千件を超える、訪問の順番や時間枠まで含めて決めたい、といった規模になると、表計算の叩き台では足りなくなります。その段階では、制約付きの最適化を実装するほうが筋が通ります。配送の領域ですが、積載量と時間枠を制約に組む考え方はOR-ToolsとClaude Codeの配送ルート最適化が参考になります。
予算や原資を配る作業という点では、賞与の原資配分を評価区分ごとに試算する手順も、負荷と公平性を同じ表で比べる発想が共通しています。
担当割りで先に決めておきたいのは、公平をどの指標で測るかです。顧客数、売上、訪問時間のどれを重く見るかで、同じ台帳から別の案が出ます。指標の重みを営業責任者と合意してから案を作らせると、比較表を見た会議が数字の読み方の議論で止まりません。Claudeの役割は、その合意した基準で複数の案を速く並べることです。