Claude for Excelで月次変動分析 — 前月比と前年同月比の理由メモを作る
試算表の当月・前月・前年同月を並べ、しきい値を超えた勘定科目だけを抽出して担当者への確認質問と理由メモの雛形にするまでを、Claude for Excelで進める手順です。
月次決算の変動分析は、勘定科目ごとに前月と前年同月を比べ、大きく動いた科目の理由を担当者に聞いて書き留める作業です。Claude for Excelなら、試算表のブックを開いたまま、2つの比較の計算、しきい値を超えた科目の抽出、担当者への確認質問と理由メモの雛形づくりまでを進められます。理由そのものは試算表からは分かりません。この記事は、下書きを任せる範囲と人が埋める範囲を、手順と式で線引きします。
予算との差異は月次予実対比レポートの差異分析、顧問先向けの報告書にする流れは月次報告を試算表ExcelからClaudeで作る手順が扱っています。ここでは、予算を使わず、前月と前年同月の2本の物差しだけで理由メモを作る場面に絞ります。
前月比と前年同月比を並べると、読み筋が4つに分かれる
前月比だけを見ると、毎年同じ月に起きる季節の動きまで「異常」に見えます。前年同月比だけを見ると、今月に起きた一過性の動きを取りこぼします。2つを並べてしきい値を当てると、変動した科目は次の4通りに分かれます。
| 前月比 | 前年同月比 | 読み筋 | 担当者への聞き方 |
|---|---|---|---|
| 超えた | 前年同月比超えた | 読み筋今月の動きで、水準も前年から変わった | 担当者への聞き方何が起きたか、来月以降も続くか |
| 超えた | 前年同月比超えない | 読み筋前年も同じ月に似た動きがあった | 担当者への聞き方毎年の定例処理か(賞与、決算前の計上など) |
| 超えない | 前年同月比超えた | 読み筋月内の動きは小さいが、前年から水準がずれている | 担当者への聞き方いつから水準が変わったか、契約や単価の変更はあるか |
| 超えない | 前年同月比超えない | 読み筋対象外 | 担当者への聞き方理由メモは作らない |
この表は判断の型であり、原因を断定するものではありません。「前年にも同じ動きがあった」ことは、定例処理であることを示唆するだけです。裏付けは担当者への確認で取ります。
前提: 対応バージョンとプラン
Claude for Excelは、Pro・Max・Team・Enterpriseの各プランで一般提供されています。動作するのは次のExcelです。
- Excel on the web
- Microsoft 365版のExcel on Windows(ビルド16.0.13127.20296以降)
- Excel on Mac(バージョン16.46以降、ビルド21011600以降)
Excel 2016・2019の永続ライセンスまたはボリュームライセンス版、iPad、Androidでは動きません。経理部門にサブスクリプション型ではないExcelが残っている場合は、先にここを確認します。
マクロ(VBA)とデータテーブルは非対応です。月次の取り込みをマクロで自動化している職場では、貼り付けまでを従来の方法で行い、変動分析の部分だけをClaudeに任せる分担になります。
ブックの形: 試算表に3つの金額列を持たせる
指示を短くするには、ブックの形を先に決めます。1枚目のシートに、試算表の科目を縦に並べ、当月・前月・前年同月の3列を持たせます。
| 列 | 中身 |
|---|---|
| A | 中身科目コード |
| B | 中身科目名 |
| C | 中身区分(資産・負債・純資産・収益・費用) |
| D | 中身当月の金額 |
| E | 中身前月の金額 |
| F | 中身前年同月の金額 |
貼り付ける3か月分は、会計ソフトから同じ出力形式で書き出したものを使います。科目コードで揃えるのは、期をまたぐと科目名の表記がずれることがあるためです。コードが新設・廃止された科目は、突合できない科目として別に一覧にします。
もう1つ、残高の持ち方をそろえます。損益科目を「当月の発生額」で持つのか「期首からの累計」で持つのかが月で違うと、前月比が意味を持ちません。貸借科目は月末残高、損益科目は月次発生額に統一してから貼り付けます。
大きな編集を頼む前には、信頼できるコピーで始めます。公式のベストプラクティスも、広範囲の編集を頼む前に信頼できるコピーのブックで始めること、変更を確定する前に内容を確認することを挙げています。原本の試算表に直接書き込ませない運用にしておくと、上書き事故も避けられます。
手順1: 2つの比較を数式で組ませる
まず、前月比と前年同月比の差額と率を、数式で計算させます。値の直書きではなく数式にしておくと、翌月に3列を貼り替えるだけで更新できます。
シート「試算表」の科目ごとに、右側に次の列を作ってください。
G: 前月比の差額 = D - E
H: 前月比の率 = 差額 / E(Eが0のときは空欄)
I: 前年同月比の差額 = D - F
J: 前年同月比の率 = 差額 / F(Fが0のときは空欄)
すべて数式で参照し、値の直書きはしないでください。Claude for Excelは、セルの値を更新するときも数式の関係を保ちます。式にすると、例えば次の形です(この手順のための例です)。
G2: =D2-E2
H2: =IF(E2=0,"",G2/E2)
I2: =D2-F2
J2: =IF(F2=0,"",I2/F2)分母が0の科目は、率が計算できません。空欄にするか「新規」と表示するかを、依頼の時点で決めておきます。指定がなければ #DIV/0! が並ぶことがあります。並んだ場合は、公式が挙げるデバッグの依頼例に倣い、原因のセルを尋ねます。
手順2: しきい値を超えた科目だけを抽出する
全科目に理由メモを付けると、読む側の負担が増えるだけです。差額と率の両方にしきい値を置き、前月比と前年同月比のそれぞれで「超えたか」を判定します。
しきい値を別セルに置いてください。
N1: 差額の下限(千円) = 200
N2: 率の下限 = 20%
K列に前月比の判定、L列に前年同月比の判定を作ります。
差額の絶対値がN1以上、かつ率の絶対値がN2以上なら1、それ以外は0です。
前月(または前年同月)が0の科目は、差額の条件だけで判定してください。
M列には、前の表の4通りを「両方」「前月のみ」「前年のみ」「対象外」で
表示してください。式にすると、例えば次の形です。
K2: =IF(AND(ABS(G2)>=$N$1,IF(E2=0,TRUE,ABS(G2)/ABS(E2)>=$N$2)),1,0)
L2: =IF(AND(ABS(I2)>=$N$1,IF(F2=0,TRUE,ABS(I2)/ABS(F2)>=$N$2)),1,0)
M2: =IF(AND(K2=1,L2=1),"両方",IF(K2=1,"前月のみ",IF(L2=1,"前年のみ","対象外")))前月や前年同月が0の科目は、IFで先に分岐させ、率の計算を通さずに差額だけで判定します。ORで並べると、Excelは両方の条件を評価するので、分母が0のときに #DIV/0! が判定列に出てしまいます。しきい値の200千円と20%は例です。会社の規模や管理会計のルールに合わせて変えます。差額と率の両方で絞るのは、少額科目の大きな率と、巨額科目の小さな率のどちらにも振り回されないためです。しきい値をセルに出しておけば、「今月は件数が多すぎる」と感じたときに、数式をいじらずに調整できます。
抽出は、公式が挙げるExcelのネイティブ操作で足ります。Claudeはフィルターや並べ替え、条件付き書式、ピボットテーブルの編集を直接頼める操作として挙げられています。M列が「対象外」以外の行だけを別シートに書き出すように頼むと、確認対象の一覧ができます。
次の表は説明用の架空の数値です(単位は千円、しきい値は差額200千円以上かつ率20%以上)。
| 科目 | 当月 / 前月 / 前年同月 | 前月比 | 前年同月比 | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| 旅費交通費 | 当月 / 前月 / 前年同月1,800 / 900 / 1,750 | 前月比+900(+100.0%) | 前年同月比+50(+2.9%) | 判定前月のみ |
| 賞与 | 当月 / 前月 / 前年同月12,000 / 2,000 / 4,000 | 前月比+10,000(+500.0%) | 前年同月比+8,000(+200.0%) | 判定両方 |
| 支払手数料 | 当月 / 前月 / 前年同月700 / 690 / 400 | 前月比+10(+1.4%) | 前年同月比+300(+75.0%) | 判定前年のみ |
| 地代家賃 | 当月 / 前月 / 前年同月2,400 / 2,400 / 2,400 | 前月比0 | 前年同月比0 | 判定対象外 |
旅費交通費は、前月から倍になっても前年同月とほぼ同じです。毎年この月に出張が集中する職場なら、定例の動きだと想像がつきます。支払手数料は月内の動きが小さいのに、前年から75%上がっています。月次の推移だけを追っていると見逃す型です。賞与は両方に引っかかっており、最優先で担当者に確認する科目です。
手順3: 担当者への確認質問と理由メモの雛形を作る
抽出した科目ごとに、理由の推測を書かせるのではなく、担当者に聞く質問と記入欄を作らせます。ブックには取引の中身がないので、Claudeに書けるのは数字から言える範囲までです。
別シート「理由メモ」に、判定が「対象外」以外の科目を1行ずつ並べ、
次の列を作ってください。
A: 科目コード / B: 科目名 / C: 判定
D: 動きの要約(前月比と前年同月比の差額・率を1文で。数字だけ)
E: 確認先(科目の区分から想定される部署。分からなければ「経理で判断」)
F: 確認質問(判定に応じて、前の表の聞き方に沿って1〜2問)
G: 回答(空欄)
H: 理由メモ(確定)(空欄)
I: 状態(「未確認」と入れておく)
原因は推測で書かず、ブックに根拠がない部分は空欄のままにしてください。質問は判定ごとに型が変わります。「両方」なら「何が起きたか、来月以降も続くか」、「前月のみ」なら「毎年の定例処理か」、「前年のみ」なら「いつから水準が変わったか、契約・単価の変更はあるか」です。同じ文面を全科目に当てるのではなく、判定に応じて聞き方を変えさせるのが、この手順の要点です。
質問の例は、たとえば次のようになります(Claudeの実際の出力ではなく、判定に沿って書かれる形の例です)。
賞与: 前月比+10,000千円、前年同月比+8,000千円。賞与の支給月ですか。前年より支給額が増えた理由(人数、支給率、支給時期のずれ)を教えてください。
G列に担当者の回答を入れ、H列に確定した理由を書き、I列を「確認済」に変える運用にします。I列が「未確認」の行が残っているうちは、変動分析は完了していません。この列を数えるだけで、月次の締め作業の進み具合が分かります。
担当者宛ての質問は、会話の中でそのまま文面にもできます。たとえば「確認先ごとに、質問をまとめたメールの下書きを作ってください」と頼めば、部署別の依頼文が手に入ります。送る前に宛先と内容を人が確かめます。
手順4: 結果を検算する
監査上重要な計算や、規制対象データを含むモデルを、確認なしに任せる使い方は推奨されていません。変動分析のメモは経営層や監査法人に見せる資料になることがあるので、次の突合を入れます。
- 貼り付けた3列の合計が、会計ソフトの試算表の合計と一致しているか。
- 前月比の差額と前年同月比の差額が、手計算した数科目と一致しているか。
- しきい値のちょうど近くにある科目(差額が190千円や210千円など)が、意図どおりの判定になっているか。
- 「対象外」とされた科目の件数と、抽出した件数を足すと、全科目数に合うか。
4つ目は漏れの確認です。科目コードが新設されて前月・前年が空欄の科目は、率を使わず差額だけで判定されるため、少額でも差額が下限を超えれば抽出されます。逆に、区分が変わった科目や、コードが突合できない科目は、判定から落ちやすい行です。
つまずきやすい点
- 前年同月の科目体系が違う: 期中に科目を統合・分割していると、前年同月の金額が別の科目に入っています。コードの対応表を用意し、突合できない科目は一覧に出させます。
- 決算整理仕訳の入る月: 年度末の月は、前月比に決算整理の影響が乗ります。「決算整理前」の試算表で比べるのか、確定後で比べるのかを、依頼の冒頭で決めます。
- 閏年や営業日数の差: 2月や、営業日数が大きく違う月は、費用の動きに日数の影響が乗ります。理由メモの質問に「営業日数の差は影響しますか」を加えるかどうかは、人が決めます。
- 符号の向き: 収益と費用では、増加の意味が逆です。有利・不利の判定が必要なら、予算差異の記事のように区分の列で向きを分けます。
翌月に使い回す
毎月同じ指示を書き直さなくて済むように、Excelの設定にある「Instructions」に、勘定科目の並び、しきい値の置き場所、単位(千円)、理由メモの列構成を書いておきます。この指示はExcelの会話すべてに適用され、PowerPointやWordの指示とは別に管理されます。
翌月は、試算表の3列を新しい月で貼り替え、しきい値を確認し、理由メモのシートを新しく作り直します。前月の理由メモは、残してかまいません。前月に「毎年の定例処理」と確認した科目は、今月の質問で「前月の回答からの変化はありますか」と聞けば足ります。
会話の履歴は、ブラウザーのIndexedDBにローカル保存されます。Anthropicのサーバーには保存されず、端末間で同期もされません。別の端末で続きをやりたいときは、会話ではなくブックそのものに、しきい値と理由メモを残しておきます。
使えないこと・注意すること
- 公式は、人の確認を経ない最終的な顧客向け成果物、検証なしの監査上重要な計算、適切な管理のない機密性の高い・規制対象のデータを含むモデルには推奨していません。理由メモの最終版は、人が確認した回答から書き起こします。
- 外部から受け取ったファイルには、Claudeを操作する隠れた指示が含まれていることがあると注意されています。他社から届いた明細や、ダウンロードしたテンプレートを同じブックに貼り付けるときは、信頼できる範囲に限ります。リスクのある操作を提案する場合は、実行前に確認が求められます。
- 入力と出力は、受領または生成から30日以内にバックエンドで削除されます。理由メモに取引先名や個人名が入るときは、貼り付ける内容を最小限にします。
- Claude for Excelは、組織が設定した独自のデータ保持設定を引き継ぎません。保持期間に社内ルールがある場合は、情報システム部門に確認します。
コネクターは、公式がS&P GlobalやLSEG、Daloopaを例に挙げる外部の文脈を取り込む仕組みです。この手順では使わず、社内の数字はブックの中に貼り付けて扱います。
まとめ
前月比と前年同月比の2本の物差しは、変動した科目を「今月の動き」「定例の動き」「水準のずれ」に分けるところまでは機械的に済ませられます。理由を書くのは人です。Claude for Excelには、しきい値の判定、確認質問の下書き、記入欄つきの雛形づくりを任せ、「未確認」の行が0になるまでを月次の完了条件にすると、確認漏れが残りません。
この流れは、取引先ごとの評価を月次で回すサプライヤー評価のスコアカードや、期末の引当金を検算する賞与引当金の期末計上額の検算にも、同じ形で使えます。