購買価格差異(PPV)をClaude for Excelで品目別に分解する手順 — 標準原価との差を価格差と数量差へ
購買明細と標準単価のExcelをClaude for Excelに読ませ、購買価格差異(PPV)を品目別に出して価格差と数量差に分ける手順。効いている品目の絞り方と検算まで、数値例つきで扱います。
購買価格差異(PPV)は、標準単価と実際に払った単価の差に購買数量を掛けた金額です。品目が数百あっても、合計を動かしているのは数品目にすぎないことが多く、その数品目を絞るのが月次の仕事になります。この作業はClaude for Excelに向いています。ブックの数字を読み、数式を保ったまま表を組み、答えにセルの出典を付けるからです。
ただし、単価が上がった理由は明細の数字からは言えません。Claudeに任せるのは「品目別の集計」「差異の計算」「効いている品目の抽出」までで、原因の判断は人が書きます。この記事では、差異を価格差と数量差に分ける式、ブックの形、数式、数値例、検算、使うときの制限を順に書きます。
標準原価そのものの決め方(標準単価をいくらにするか)は扱いません。標準単価は期首に決まった値として、品目マスタに入っている前提です。
差異を価格差と数量差に分ける式
購買額が予算からずれたとき、原因は2つに分かれます。単価が標準とずれた分と、買った数量が計画とずれた分です。2つを分けないと、「仕入先が値上げした」のか「多く買っただけ」なのかが混ざります。
購買額のずれを2つに分ける
価格差(PPV)
(実際単価 − 標準単価) × 購買数量。正の値が不利差異(標準より高く買った)です。
数量差
(購買数量 − 予算数量) × 標準単価。計画より多く買った分が正の値になります。
2つを足すと、実際の購買額と予算購買額の差に一致します。予算購買額は「予算数量 × 標準単価」、実際の購買額は「購買数量 × 実際単価」です。
実際購買額 − 予算購買額
= (購買数量 × 実際単価) − (予算数量 × 標準単価)
= (実際単価 − 標準単価) × 購買数量 ← 価格差(PPV)
+ (購買数量 − 予算数量) × 標準単価 ← 数量差この数量差は、購買数量を予算数量と比べたものです。原価計算でいう「消費した量が標準の消費量とずれた」材料の消費数量差異とは別物なので、ブックの列名には「購買数量差」と書いて区別します。消費側の差異は、払出数量と標準消費量を別のシートで比べます。
ブックを3つのシートに分ける
Claudeへの指示が短くなるかどうかは、ブックの形で決まります。購買明細、品目マスタ、差異表の3シートに分けると扱いやすくなります。
| シート | 中身 | 誰が更新するか |
|---|---|---|
| 購買明細 | 中身購買日・品目コード・仕入先・購買数量・実際単価・金額 | 誰が更新するか購買担当が毎月追記 |
| 品目マスタ | 中身品目コード・品名・標準単価・予算数量 | 誰が更新するか期首に確定、改定は履歴つき |
| 差異表 | 中身品目ごとの購買額・PPV・購買数量差・判定 | 誰が更新するか数式で自動計算 |
ポイントは、購買明細の行に必ず品目コードを持たせることです。仕入先の納品書や請求書から転記すると、品名が「SUS304板」「SUS304板材」「ステンレス板(304)」のようにそろいません。表記ゆれがあるとコードで集計しても漏れが出ます。ゆれの洗い出しはClaudeに頼める作業です。
購買明細のF列は金額として、数式で =D2*E2 を入れておきます。同じ品目を単価の違う複数の注文で買った場合も、金額を積み上げれば平均単価が正しく出ます。
符号と式の定義を永続的な指示に置く
アドインのサイドバーの設定にあるInstructions欄に書いた内容は、Excelでのすべての会話に適用されます。桁区切りの書式のような表記ルールや、仕事の前提を置くのに向いています。PowerPointやWordの指示とは別に保たれます。
差異表では、符号の約束を入れておくと読み違いが減ります。例えば次のような形です。
金額は円単位、桁区切りで表示する。
差異は「実際 − 標準」で計算し、プラスを不利差異(高く買った)とする。
価格差は (実際単価 − 標準単価) × 購買数量。
購買数量差は (購買数量 − 予算数量) × 標準単価。
値を直接書き込まず、数式で参照する。符号を決めずに頼むと、ある品目は不利がプラス、別の品目は有利がプラスという表が返ってくる恐れがあります。毎回の依頼文に書くより、設定に置く方が抜けません。
差異表の数式を組む
差異表の列は次のように置きます。A列が品目コード、B列が品名、C列が標準単価、D列が予算数量、E列が購買数量、F列が購買金額、G列が実際平均単価、H列がPPV、I列が購買数量差、J列が合計差、K列がPPV率、L列が判定です。A列の品目コードが、購買明細のB列と照合する鍵になります。
E2: =SUMIFS(購買明細!$D:$D,購買明細!$B:$B,$A2)
F2: =SUMIFS(購買明細!$F:$F,購買明細!$B:$B,$A2)
G2: =IF(E2=0,"",F2/E2)
H2: =F2-C2*E2
I2: =(E2-D2)*C2
J2: =H2+I2
K2: =IF(C2*E2=0,"",H2/(C2*E2))
L2: =IF(OR(K2>=0.05,H2>=20000),"要確認","")H列は「購買金額 − 標準単価 × 購買数量」です。これは「(実際平均単価 − 標準単価) × 購買数量」と同じ値になるので、複数回に分けて買った品目でも式を変えずに済みます。
判定のしきい値は一例です。率と額の両方を条件に入れるのは、単価の低い品目では率だけが大きく、単価の高い品目では額だけが大きく見えるためです。自社の基準に合わせて変えます。
これらの式は、依頼文で定義を渡せば組ませられます。例えば次のような形です。
購買明細を品目コードごとに合計して、差異表のE列とF列に入れてください。
照合は差異表A列の品目コードで。数式で。
G〜L列も下の定義で組んでください。
- PPV = 購買金額 − 標準単価 × 購買数量
- 購買数量差 = (購買数量 − 予算数量) × 標準単価
- PPV率 = PPV ÷ (標準単価 × 購買数量)
- PPV率が5%以上、またはPPVが20,000円以上を「要確認」
標準単価と予算数量は品目マスタから参照してください。Claudeは数式の関係を保ったまま値を更新するので、標準単価を改定したときも下流のセルが組み直されます。
数値例 — 合計は+72,300円、効いているのは2品目
製造業の部材6品目を想定した数値例です。数字は説明のために作ったもので、実在の会社のものではありません。標準単価と予算数量は品目マスタ、購買数量と実際平均単価は購買明細の集計値とします。
| 品目 | 標準単価 | 実際平均単価 | 予算数量 | 購買数量 |
|---|---|---|---|---|
| M-01 SUS304板材 | 標準単価1,200 | 実際平均単価1,320 | 予算数量400 | 購買数量420 |
| M-02アルミ押出材 | 標準単価850 | 実際平均単価830 | 予算数量600 | 購買数量640 |
| M-03ゴムパッキン | 標準単価40 | 実際平均単価46 | 予算数量5,000 | 購買数量5,200 |
| M-04制御基板 | 標準単価3,100 | 実際平均単価3,180 | 予算数量150 | 購買数量140 |
| M-05梱包箱 | 標準単価95 | 実際平均単価96 | 予算数量2,000 | 購買数量2,100 |
| M-06ねじ類セット | 標準単価18 | 実際平均単価17 | 予算数量10,000 | 購買数量9,800 |
差異を計算すると次のとおりです。単位は円で、プラスが不利差異です。
| 品目 | PPV | PPV率 | 購買数量差 | 合計差 | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| M-01 SUS304板材 | PPV+50,400 | PPV率+10.0% | 購買数量差+24,000 | 合計差+74,400 | 判定要確認 |
| M-02アルミ押出材 | PPV−12,800 | PPV率−2.4% | 購買数量差+34,000 | 合計差+21,200 | 判定 |
| M-03ゴムパッキン | PPV+31,200 | PPV率+15.0% | 購買数量差+8,000 | 合計差+39,200 | 判定要確認 |
| M-04制御基板 | PPV+11,200 | PPV率+2.6% | 購買数量差−31,000 | 合計差−19,800 | 判定 |
| M-05梱包箱 | PPV+2,100 | PPV率+1.1% | 購買数量差+9,500 | 合計差+11,600 | 判定 |
| M-06ねじ類セット | PPV−9,800 | PPV率−5.6% | 購買数量差−3,600 | 合計差−13,400 | 判定 |
| 合計 | PPV+72,300 | PPV率 | 購買数量差+40,900 | 合計差+113,200 | 判定 |
予算購買額は2,025,000円、実際の購買額は2,138,200円で、差は113,200円です。内訳は価格差が72,300円、購買数量差が40,900円です。
合計だけを見ると、価格も数量もそれなりにずれた、としか読めません。品目別に見ると、不利差異のPPVは4品目で合計94,900円あり、そのうちM-01とM-03の2品目で81,600円、約86%を占めます。アルミ押出材とねじ類の有利差異(合計−22,600円)が、残りの不利差異を打ち消して合計を小さく見せています。
M-04は逆の動きです。PPVは+11,200円と小さな不利差異ですが、購買数量が予算より10個少なく、数量差が−31,000円出ています。単価の高い品目は、数量が少し動くだけで金額が大きく動きます。PPVだけで品目を絞ると、こうした数量側の動きを見落とします。
効いている品目の購買明細をClaudeに掘り下げさせる
判定列が「要確認」の品目について、購買明細のどの行が差異を作っているかを探します。Claudeの回答にはセル単位の出典が付き、クリックすると該当セルへ移動できるので、数字の出どころをその場で確かめられます。
依頼文の例です。
差異表で「要確認」の品目について、購買明細を購買日順に並べ、
仕入先ごとの購買数量・実際単価・金額を表にしてください。
単価が標準単価を超えはじめた月と、そのときの仕入先を示してください。M-01の購買明細が次のようだったとします。数字は先の数値例に合わせて作ったものです。
| 購買日 | 仕入先 | 購買数量 | 実際単価 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 4月 | 仕入先A社 | 購買数量150 | 実際単価1,250 | 金額187,500 |
| 7月 | 仕入先A社 | 購買数量120 | 実際単価1,330 | 金額159,600 |
| 9月 | 仕入先B社 | 購買数量150 | 実際単価1,382 | 金額207,300 |
3回の合計は420枚、554,400円で、平均単価は1,320円です。4月から単価が段階的に上がっており、9月は仕入先も変わっています。この表から言えるのは「単価が上がった時期」と「仕入先が変わった時期」までです。値上げ要請があったのか、相場が動いたのか、納期の都合で割高な仕入先を選んだのかは、購買担当に聞かなければ分かりません。
Claudeに任せてよいのは、単価が標準を超えた月の特定、同じ品目での仕入先間の単価比較、前月との単価の動きの抽出です。理由の欄は「要確認」とさせ、聞き取った内容を人が書き入れます。仕入先を替える判断材料としての相見積もりの組み方は相見積もりの比較表の作り方にあります。
原因を書き込む列を先に用意する
差異表は数字だけだと、翌月に「なぜ要確認だったのか」が残りません。判定列の右に、次の3列を空欄で置いておきます。
- 原因区分: 市況・為替/仕入先の値上げ/発注ロットの変更/標準単価の見直し遅れ、などのプルダウン
- 担当者の説明: 購買担当が聞き取った内容を1文で
- 次の対応: 標準単価の改定、仕入先との価格交渉、発注ロットの見直しのいずれか
プルダウンのようなデータ検証は、Claudeに頼んで作らせられます。Claude for Excelは並べ替え、絞り込み、ピボットテーブルの編集、条件付き書式、データ検証のドロップダウンの作成といった操作を、直接頼めば行います。
「標準単価の見直し遅れ」を選択肢に入れておくのは、原因が購買側ではなく標準側にあることがあるためです。標準単価を期首に決めたまま為替が大きく動いた場合、PPVは購買担当の成績というより、標準が現実とずれたことの表れになります。Claudeに「同じ品目で3か月連続して不利差異が出ている」品目を抜き出させると、標準の見直し候補が拾えます。
検算で見ておく3点
差異表は、Claudeが組んだ式が合っているかを人が確かめて初めて使えます。次の3点は毎月見ます。
- 実際購買額とPPVの合計が、購買明細から別の方法(ピボットテーブルなど)で出した値と一致するか(上の例では実際購買額が2,138,200円、PPVの合計が+72,300円)
- 合計差が、PPVの合計と購買数量差の合計の和に一致するか(72,300+40,900=113,200)
- 合計差が、実際購買額から予算購買額を引いた値に一致するか(2,138,200−2,025,000=113,200)
品目コードが購買明細にあるのに品目マスタにない行があると、購買額が落ちます。その場合は1つ目の検算で差が出ます。差が出たら、マスタにないコードを明細から抜き出させます。
予算に対する月次の差異を部門別・費目別に見る型は月次予実対比レポートの差異分析にあります。購買の差異表は、その費目の1つを品目まで掘り下げたものと位置づけられます。工事の原価では、同じ考え方を実行予算と原価実績の差異表で工種別に組んでいます。
使えない操作と利用上の注意
制限は、依頼する前に知っておく方が手戻りが少なくなります。
監査に使う計算は検証が前提
Claude for Excelは、最終的なクライアント向け成果物を人の確認なしで出すこと、検証なしで監査に使う計算を任せること、機微・規制対象のデータを適切な管理なしに扱うことには向かないとされています。PPVを決算の差異処理に使う場合は、前節の検算に加えて、会計処理の担当者が式と金額を確かめます。
仕入先から届いたファイルを開くとき
外部から届いたファイルには、Claudeを操作しようとする隠れた指示が入っていることがあります。仕入先から受け取った価格表や納品明細をそのまま開いて作業させず、内容を自社のブックに値だけ転記してから使います。重要なデータの変更や削除をClaudeが提案したときは確認を求められるので、外部ファイル由来の場合は特に中身を読んでから承認します。編集を広く頼む前に、信頼できるコピーを作っておくことも案内されています。
使えないExcelの機能と環境
データテーブル(What-If分析のもの)と、マクロ・VBAの操作は使えません。購買管理のブックにマクロが入っている場合、マクロを動かす手順は人が行います。
対応するExcelはWeb版、Windows版(Microsoft 365契約でビルド16.0.13127.20296以降)、Mac版(バージョン16.46以降、ビルド21011600以降)です。Excel 2016・2019の永続ライセンスやボリュームライセンス版、iPad、Androidでは動きません。購買部門のパソコンに買い切り版のExcelが残っている場合は、先にここを確かめます。
Claude for ExcelはPro、Max、Team、Enterpriseの各プランで使えます。
ブックを添付するときのデータの行き先
Claudeアカウントでサインインしているときに添付したファイルは、送信前にAnthropicへアップロードされ、アップロードから28日で期限が切れます。購買単価は仕入先との取引条件に当たるため、添付する前に社内の取り扱いルールに照らして確かめます。チャット履歴はブラウザ内に保存され、設定の「Chat history」から削除できます。
標準との差を見る前に決めておくこと
PPVの出し方は、いつの時点で認識するかで金額が変わります。購買時に標準単価で在庫に計上して差異をその月に出す方式と、消費時に差異を配賦する方式があり、どちらを採るかは会社の経理規程によります。ブックを組む前に決めて、永続的な指示に1行入れておくと、Claudeが前提を取り違えません。
標準単価が改定された期の途中は、改定前後の購買を同じ表に混ぜないようにします。購買日で期を分けるか、標準単価を購買明細の各行に持たせるかを決めておくと、改定月の差異が崩れません。
Claudeを使う意味が大きいのは、式を組む部分より、「要確認の品目を絞り、購買明細を仕入先別・時期別に並べ直し、人が理由を書く」までを一続きで回せる点です。品目が増えるほど、合計を眺めて手作業で掘る方法は続きません。判定列で絞る運用は、品目が数百でも数千でも同じ手順で動きます。