実行予算と原価実績の差異表をClaude for Excelで作る手順 — 工種別の超過と見込み最終原価
工種別の実行予算と発注・請求実績のExcelをClaude for Excelに読ませ、超過の工種と見込み最終原価を出す手順。合計では見えない超過の拾い方と検算まで、数値例つきで扱います。
工事の実行予算と月次の原価実績は、工種ごとに突き合わせて差異表にします。この作業はClaude for Excelに向いています。ブックの中の数字を読み、数式を保ったまま表を組み、セルの出典を付けて答えるからです。ただし、残工事にあと何円かかるかは現場が決める数字です。Claudeに作らせるのは「実績の集計」「差異の計算」「超過工種の抽出」までで、見込みの金額は人が入れます。
この記事では、工種別の差異表の組み方、見込み最終原価の出し方、検算、そして使うときの制限を順に書きます。
使える環境とプラン
Claude for Excelは、Pro、Max、Team、Enterpriseの各プランで使えます。対応するExcelは次の3種類です。
| 環境 | 条件 |
|---|---|
| Excel on the web | 条件条件なし |
| Windows版 | 条件Microsoft 365契約でビルド16.0.13127.20296以降 |
| Mac版 | 条件バージョン16.46以降、ビルド21011600以降 |
Excel 2016・2019の永続ライセンスやボリュームライセンス版、iPad、Androidでは動きません。現場事務所のパソコンに買い切り版のExcelが残っている場合は、先にここを確かめます。
個人で入れるときは、Microsoft AppSourceの「Claude for Microsoft 365」を導入し、Excelでアドインを有効にしてClaudeアカウントでサインインします。会社で配る場合は、管理者がMicrosoft 365管理センターから展開します。
差異表のブックを3シートに分ける
Claudeへの指示が短くなるかどうかは、ブックの形で決まります。実行予算、原価明細、差異表の3シートに分けると扱いやすくなります。
| シート | 中身 | 誰が更新するか |
|---|---|---|
| 実行予算 | 中身工種コード・工種名・実行予算額 | 誰が更新するか着工時に確定、変更は変更履歴つき |
| 原価明細 | 中身計上日・工種コード・協力会社・金額・区分(発注済/請求済) | 誰が更新するか経理が毎月追記 |
| 差異表 | 中身工種ごとの実績・残工事見込・見込み最終原価・差異 | 誰が更新するか数式で自動計算 |
ポイントは、原価明細の行に必ず工種コードを持たせることです。協力会社の請求書をそのまま貼ると、工種が文字で書かれていて表記がそろわないことがあります。「土工」「土工事」「掘削・埋戻し」が混在すると、集計から漏れます。この表記ゆれの洗い出しは、Claudeに頼める作業です。
実績は請求ベースか出来高ベースかを先に決める
差異表で最初に迷うのは、実績に何を入れるかです。協力会社の請求は締め日で区切られるため、月末時点の出来高とずれます。
- 請求ベース: 請求書が届いた分だけが入る。作業は軽いが、月末までに終わった未請求の分が抜ける
- 出来高ベース: 月末時点の出来高を協力会社に確認して入れる。精度は上がるが、確認の手間が増える
どちらかに決めて、原価明細の「区分」列で混ざらないようにします。請求ベースで運用するなら、未請求の出来高を「出来高調整」の行として足す欄を差異表の外に用意しておくと、後から差し込めます。決めた基準は、後述の永続的な指示にも書いておきます。
最初に永続的な指示を設定する
アドインのサイドバーの設定にある「Instructions」欄に書いた内容は、Excelでのすべての会話に適用されます。千円単位や桁区切りの書式のような表記ルールや、仕事の前提を置くのに向いています。PowerPointやWordの指示とは別に保たれます。
差異表では、符号の約束を入れておくと読み違いが減ります。例えば次のような形です。
金額は千円単位で表示する。
差異は「実行予算 − 見込み最終原価」とし、マイナスを超過とする。
実績は請求ベース。未請求の出来高は「出来高調整」の列に分ける。
値を直接書き込まず、数式で参照する。符号を決めずに頼むと、ある工種は予算超過がプラス、別の工種は余裕がプラス、という表が返ってくる恐れがあります。毎回の依頼文に書くより、設定に置く方が抜けません。
差異表の数式を組む
シートの列は次のように置きます。A列が工種コード、B列が工種名、C列が実行予算、D列が実績累計、E列が残工事見込、F列が見込み最終原価、G列が差異、H列が差異率、I列が判定です。A列の工種コードは、原価明細のB列(工種コード)と照合するための鍵になります。
F2: =D2+E2
G2: =C2-F2
H2: =IF(C2=0,"",G2/C2)
I2: =IF(OR(H2<=-0.05,G2<=-1000),"要説明","")実績累計は、原価明細から工種コードごと・基準日以前で合計します。原価明細は、A列が計上日、B列が工種コード、D列が金額の並びとします。基準日をK1に置く場合は、次のような式になります。
D2: =SUMIFS(原価明細!$D:$D,原価明細!$B:$B,$A2,原価明細!$A:$A,"<="&$K$1)合計行は判定の対象外です。上の式を合計行にも当てると、条件に該当して「要説明」と出ますが、工種ごとの基準を合計に使う意味はないため、合計行の判定列は空欄にします。
これらの式は、依頼文で次のように頼めば組ませられます。例えば次のような形です。
原価明細シートを工種コードごとに、K1の日付以前で合計して、
差異表のD列に入れてください。照合は差異表A列の工種コードで。
数式で。F〜I列の式も、下の定義で組んでください。
- 見込み最終原価 = 実績累計 + 残工事見込
- 差異 = 実行予算 − 見込み最終原価
- 差異率が−5%以下、または差異が−1,000千円以下を「要説明」
E列の残工事見込は空欄のまま、私が入れます。判定のしきい値は一例です。差異率と差異額の両方を条件に入れるのは、小さな工種では率だけが大きく、大きな工種では額だけが大きく見えるためです。自社の基準に合わせて変えます。
月次の進め方
- 1
原価明細を追記する
その月の請求・発注分を工種コード付きで足します。表記ゆれがあれば、先にClaudeに洗い出させます。
- 2
基準日を更新する
K1の日付を月末に変えると、実績累計が組み直されます。
- 3
残工事見込を現場が入れる
工種ごとに、これから発生する分を見立てて入れます。
- 4
要説明の工種を抜き出す
判定列で絞り込み、超過の工種だけを並べます。
- 5
合計を検算する
実績累計の合計が原価明細の合計と一致するかを見ます。
数値例 — 合計は小さくても工種別では2つ超過している
3階建て事務所の改修工事を想定した数値例です。単位は千円で、実績は月末までの累計、残工事見込は現場担当者が入れた値とします。数字は説明のために作ったもので、実在の工事のものではありません。
| 工種 | 実行予算 | 実績累計 | 残工事見込 |
|---|---|---|---|
| 仮設 | 実行予算8,000 | 実績累計5,200 | 残工事見込2,300 |
| 土工・基礎 | 実行予算18,000 | 実績累計17,600 | 残工事見込1,900 |
| 躯体(鉄筋・型枠) | 実行予算42,000 | 実績累計30,000 | 残工事見込14,500 |
| 内装 | 実行予算25,000 | 実績累計6,000 | 残工事見込18,000 |
| 設備 | 実行予算30,000 | 実績累計9,000 | 残工事見込20,500 |
| 諸経費 | 実行予算12,000 | 実績累計7,000 | 残工事見込4,800 |
| 合計 | 実行予算135,000 | 実績累計74,800 | 残工事見込62,000 |
見込み最終原価、差異、差異率を計算すると次のとおりです。
| 工種 | 見込み最終原価 | 差異 | 差異率 | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| 仮設 | 見込み最終原価7,500 | 差異+500 | 差異率+6.3% | 判定 |
| 土工・基礎 | 見込み最終原価19,500 | 差異−1,500 | 差異率−8.3% | 判定要説明 |
| 躯体(鉄筋・型枠) | 見込み最終原価44,500 | 差異−2,500 | 差異率−6.0% | 判定要説明 |
| 内装 | 見込み最終原価24,000 | 差異+1,000 | 差異率+4.0% | 判定 |
| 設備 | 見込み最終原価29,500 | 差異+500 | 差異率+1.7% | 判定 |
| 諸経費 | 見込み最終原価11,800 | 差異+200 | 差異率+1.7% | 判定 |
| 合計 | 見込み最終原価136,800 | 差異−1,800 | 差異率−1.3% | 判定 |
合計の差異は−1,800千円、率にして−1.3%です。この行だけを見ると、大きな問題には見えません。ところが工種別に見ると、土工・基礎と躯体の2工種が基準を超えています。内装や仮設の余裕が、超過を打ち消しているだけです。
この例が示すのは、差異表の価値は合計行ではなく、判定列で絞った工種にあるということです。もう1つ、土工・基礎は実績が実行予算の約98%に達しているのに、残工事見込が1,900千円残っています。消化率が高い工種ほど、残工事の見立てが甘くないかを担当者に確認する価値があります。
超過の工種をClaudeに掘り下げさせる
差異表ができたら、「要説明」の工種について原因を探ります。Claudeの回答には、セル単位の出典が付き、クリックすると該当セルへ移動できます。どの明細行が実績を押し上げているかを、数字の出どころごと確かめられます。
依頼文の例を挙げます。
差異表で「要説明」の工種について、原価明細のどの行が
実績累計を押し上げているかを、金額の大きい順に上位5行挙げてください。
同じ協力会社への重複計上らしい行があれば、それも示してください。Claudeに任せてよいのは、金額の大きい行の抽出、同じ金額・同じ協力会社・近い日付の行の検出、前月との実績の増え方の比較です。反対に、なぜ増えたか(追加工事なのか、数量が増えたのか、単価が上がったのか)は、明細の数字だけでは言えません。理由の欄は「要確認」とさせ、現場から聞き取った内容を人が書き入れます。
検算で見ておく3点
差異表は、Claudeが組んだ式が合っているかを人が確かめて初めて使えます。次の3点は毎月見ます。
- 実績累計の合計が、原価明細の基準日以前の合計と一致するか
- 見込み最終原価の合計が、実績累計の合計と残工事見込の合計の和に一致するか(上の例では74,800+62,000=136,800)
- 差異の合計が、実行予算の合計から見込み最終原価の合計を引いた値に一致するか(135,000−136,800=−1,800)
工種コードが原価明細にあるのに差異表にない行があると、実績が落ちます。その場合は1つ目の検算で差が出ます。差が出たら、差異表に載っていない工種コードを明細から抜き出させます。
使えない操作と利用上の注意
制限は、依頼する前に知っておく方が手戻りが少なくなります。
Excelの操作として使えないもの
データテーブル(What-If分析のもの)と、マクロ・VBAの操作は使えません。原価管理のブックにマクロが入っている場合、Claudeはその操作ができないので、マクロを動かす手順は人が行います。
外部から受け取ったファイルは信頼できるものだけ
協力会社から受け取った請求書のExcelや、外部から取り込んだデータには、隠された指示が仕込まれている恐れがあります。そうした指示によって、情報の抜き出しやデータの変更、破壊的な操作に誘導される場合があります。危険な操作を提案するときは確認が求められるため、確認の内容をよく見ます。協力会社のファイルは、いったん信頼できる自社のブックに値だけ貼ってから読ませる方がより安全です。
最終成果物と監査に関わる計算
人の確認なしでの最終的な成果物、検証なしの監査に関わる計算、機微な情報や規制対象のデータを適切な管理なしで扱うことには推奨されていません。工事の原価は、発注者への報告や決算にもつながります。差異表は社内の管理資料として使い、外に出す数字は人が確定します。
ファイルを書き換える前の備え
広い範囲を編集させる前に、信頼できるコピーを取っておきます。Claudeは既存のデータを上書きする前に警告を出しますが、元のブックは別に残しておく方が安全です。
データの扱い
入力と出力は、受け取りまたは生成から30日以内にバックエンドから削除されます。チャット履歴はブラウザ内のIndexedDBに保存され、直近50件の会話までが残ります。組織で設定している独自のデータ保持設定は引き継がれません。Enterpriseの監査ログにも活動は含まれず、Compliance APIを有効にしている組織では、そのセッションが対象になります。協力会社の単価や契約金額のような取引先情報を扱う場合は、社内の情報管理規程に照らして、読ませてよい範囲を決めておきます。
つまずきやすい点
落とし穴
請求ベースのまま「消化率」だけを見てしまう
請求ベースの実績は、未請求の出来高を含みません。消化率が低い工種は、実際には工事が進んでいるのに請求が遅れているだけのことがあります。差異を見る前に、出来高調整の欄に未請求分が入っているかを確かめます。
落とし穴
長い会話の途中で前提がずれる
長い会話は、コンテキストの上限に近づく前に自動で圧縮され、新しい会話に引き継がれます。符号の約束や基準日のような前提は、会話ではなく永続的な指示に置いておくと、引き継ぎ後も崩れません。
落とし穴
工種の追加や統合で式がずれる
工事の途中で工種を分けたり統合したりすると、実行予算シートの行と差異表の行が食い違います。変更したら、実行予算の合計が着工時から動いていないかを先に見ます。動いているなら、追加予算の承認など、人が説明できる根拠があるはずです。
積算や会計処理の記事との使い分け
発注前の数量拾いはClaudeで積算の数量拾いをする方法の領分です。この記事は、実行予算が決まって工事が動き出した後の月次の突き合わせを扱います。工事明細を修繕費と資本的支出に振り分ける作業は修繕費と資本的支出の判定にあります。
会社全体の予算と試算表を科目別に突き合わせる流れは、考え方が近いので月次予実対比レポートの差異分析が参考になります。前提を変えて案を比べる使い方は要員計画の人件費シミュレーションで扱っています。
まとめ
工事の差異表は、実績の集計と差異の計算をClaude for Excelに任せ、残工事見込と理由の裏付けを現場が受け持つ分担で回すと、月次の作業が軽くなります。合計行は小さな差異に見えても、判定列で絞ると超過の工種が残ります。数値例の土工・基礎と躯体がその型です。符号の約束は永続的な指示に置き、検算の3点は毎月見ます。協力会社のファイルは、値だけを自社のブックに移してから読ませます。