予算編成の部門ヒアリング回答をClaudeで集約する手順 — 前年実績・上限枠との差異表
部門ごとに様式がばらばらな予算要求をClaude for Excelで1つの表にそろえ、前年実績と上限枠との差異、増額理由の根拠の有無を一覧にする手順を数値例つきで書きます。
予算編成で手間がかかるのは、金額を決める前段です。各部門から届く要求が、ブックも科目名も増額の書き方もばらばらで、経理企画が1枚に直すだけで数日かかります。この整形と突き合わせは、Claude for Excelに向いた作業です。ブックの中の数字を読み、数式を保ったまま表を組み、答えにセルの出典を付けられるからです。
この記事では、部門別の要求を共通の様式にそろえ、前年実績と上限枠との差異を出し、増額に根拠があるかどうかを一覧にするところまでを扱います。予算を査定する判断そのものは、人が持つ領域として線を引きます。
先に決める3つの基準
集約を頼む前に、表の基準を3つ決めておきます。ここが曖昧だと、Claudeが出した差異の意味が読み手ごとに変わります。
| 基準 | 決めること | 例 |
|---|---|---|
| 前年の値 | 決めること当初予算か、決算実績か | 例前年度決算実績(千円) |
| 上限枠 | 決めること部門単位か、科目単位か | 例部門ごとの総額枠 |
| 単位 | 決めること円か千円か | 例千円に統一 |
前年は「前年実績」と呼ばれますが、決算確定前なら見込み値です。どの時点の数字かを表の列名に書いておくと、あとで差異の読み違いが起きません。部門から届く要求書は、円と千円が混ざっていることも多くあります。単位の統一は最初の整形で必ず入れます。
使える環境とプラン
Claude for Excelは、Pro、Max、Team、Enterpriseの各プランで使えます。対応するExcelは次のとおりです。
- Excel on the web
- Windows版: Microsoft 365契約でビルド16.0.13127.20296以降
- Mac版: バージョン16.46以降、ビルド21011600以降
Excel 2016・2019の永続ライセンスやボリュームライセンス版、iPad、Androidでは動きません。経理企画の端末は新しくても、部門に買い切り版が残っていることがあります。集約作業は経理企画の端末で行い、部門にはブックを返すだけにしておけば、この制約を避けられます。
手順1: 集約用ブックの形を決める
部門から届いたファイルを1つずつClaudeに読ませるのではなく、集約用ブックを1つ作ります。シートは3枚です。
| シート | 中身 | 更新する人 |
|---|---|---|
| 要求_原票 | 中身各部門の要求を貼り付けたもの(加工しない) | 更新する人経理企画 |
| 科目対応表 | 中身部門ごとの科目名と、共通科目の対応 | 更新する人経理企画が確認 |
| 集約表 | 中身共通様式にそろえた要求と差異 | 更新する人数式で自動計算 |
原票を加工せず残すのは、後で「この金額は部門のどのセルから来たか」を確かめるためです。Claudeの答えにはセルへの出典が付き、クリックで該当セルに飛べます。原票を残しておけば、集約表の数字をたどれます。
部門のファイルは、ファイルごと開かず、値だけを原票シートに貼り付けます。外部から来たファイルには、Claudeを意図しない操作に誘導する隠れた指示が入っている場合があります。Claude for Excelの案内も、信頼できるスプレッドシートだけで使うよう求めています。社内の部門から届いたものでも、転送を経ていれば出どころが確かとは限りません。値貼り付けなら、この経路を断てます。
手順2: 科目名の対応表を作らせる
部門ごとに科目名が違います。営業部は「出張費」、開発部は「旅費交通費」、管理部は「交通・宿泊」と書く、といった具合です。ここは最初に対応表を作ります。
「要求_原票」シートの科目名をすべて列挙し、
「科目対応表」シートに次の3列で書いてください。
A列: 部門名 B列: 部門の科目名 C列: 共通科目の候補
共通科目は、下の勘定科目一覧(Sheet2のA列)から選んでください。
一覧に合う科目がないものは、C列を空欄にして
「対応先なし」とD列に書いてください。推測で当てはめないでください。「対応先なし」を許すのが要点です。無理に当てはめさせると、合わない科目が別の科目に紛れ込み、差異が消えます。対応表ができたら、人が目で確認して直します。対応表は翌年も使えるため、ここに時間をかける価値があります。
手順3: 共通様式の集約表に正規化する
対応表が固まったら、集約表を作らせます。列は次の形です。
| 列 | 内容 |
|---|---|
| 部門 | 内容部門名 |
| 共通科目 | 内容対応表で決めた科目 |
| 前年実績 | 内容千円単位 |
| 今年度要求 | 内容千円単位 |
| 増減額 | 内容要求から前年実績を引いた値 |
指示は「SUMIFSで集計する」と式まで指定します。Claudeは数式を保ったまま表を組むため、後から原票の数字を直しても集約表が追随します。
「集約表」を作ってください。
- 「要求_原票」の金額を、「科目対応表」の共通科目で
部門×共通科目ごとにSUMIFSで集計する
- 金額は千円単位にそろえる(原票の単位は列Fに書いてある)
- 値を直接書かず、必ず数式にする
- 対応先なしの科目は、集約表の最下段に「未分類」として別掲する「未分類」を別掲させると、集約から漏れた金額が見えます。未分類の合計が0でなければ、対応表に戻って直します。
手順4: 前年実績・上限枠との差異を出す
集約表の右側に、上限枠と枠との差異の列を足します。部門ごとの数値例を示します。単位は千円です。
| 部門 | 前年実績 | 上限枠 | 今年度要求 | 前年比増減 | 枠との差異 |
|---|---|---|---|---|---|
| 営業部 | 前年実績12,400 | 上限枠12,000 | 今年度要求13,500 | 前年比増減+1,100 | 枠との差異+1,500 |
| 開発部 | 前年実績30,200 | 上限枠31,000 | 今年度要求30,800 | 前年比増減+600 | 枠との差異-200 |
| 管理部 | 前年実績8,500 | 上限枠8,500 | 今年度要求9,300 | 前年比増減+800 | 枠との差異+800 |
| 合計 | 前年実績51,100 | 上限枠51,500 | 今年度要求53,600 | 前年比増減+2,500 | 枠との差異+2,100 |
合計では、要求は前年比で2,500千円(約4.9%)の増ですが、枠との差異は2,100千円の超過です。部門別に見ると様子が違います。開発部は前年比で増えていても枠の内側に収まっています。営業部は前年実績より枠のほうが低く、枠そのものが前年から削られている部門です。超過額が最大なのは営業部で、前年比の伸びは約8.9%です。
この表に使う指示は、差異の定義を式で書かせます。
集約表の右に次の列を追加してください。
前年比増減額 = 今年度要求 − 前年実績
前年比増減率 = 前年比増減額 ÷ 前年実績(小数点第1位まで)
枠との差異 = 今年度要求 − 上限枠
枠との差異が正の行は、セルを薄い赤にしてください。並べ替えや条件付き書式は、Claude for Excelが直接できる操作です。ピボットテーブルの編集やデータ検証のドロップダウンも同様です。「枠との差異」の降順で並べさせれば、査定会議で最初に見る部門が先頭に来ます。
手順5: 増額理由の根拠の有無を一覧にする
差異表より価値が出るのが、この手順です。部門の要求書には、増額の理由が自由記述で書かれています。この記述を、根拠のあるものとないものに仕分けます。
仕分けの基準は、Claudeに判断させず、こちらで書き出します。
| 区分 | 基準 |
|---|---|
| 根拠あり | 基準単価と数量、または契約書・見積書の番号が書かれている |
| 根拠が弱い | 基準金額の理由が「物価上昇」「業務拡大」など一般的な語のみ |
| 記載なし | 基準増額しているのに理由欄が空 |
「要求_原票」の理由欄を、増額している行について読み、
「集約表」の右に「根拠区分」と「根拠の引用」の2列を足してください。
- 区分は「根拠あり」「根拠が弱い」「記載なし」の3つだけ
- 「根拠の引用」には、理由欄の文言をそのまま写す(要約しない)
- 単価と数量が両方書かれているときだけ「根拠あり」にする
- 書かれていない数量や単価を補わない「そのまま写す」と「補わない」が効きます。理由欄に書かれていない数量や単価を、Claudeが妥当そうな値で埋めると、根拠がない増額が根拠ありに見えます。引用列があれば、人が区分の妥当性を原票と照らして確かめられます。
結果は、枠超過と根拠区分を掛け合わせて読みます。
| 枠との差異 | 根拠あり | 根拠が弱い・記載なし |
|---|---|---|
| 超過 | 根拠あり枠の見直しを検討する材料 | 根拠が弱い・記載なし部門へ再ヒアリングする対象 |
| 枠内 | 根拠ありそのまま採択候補 | 根拠が弱い・記載なし金額は動かさず理由の補記を依頼 |
上の例で営業部が枠を1,500千円超えていても、その増額に見積書番号があれば、扱いは変わります。逆に枠内の開発部でも、理由欄が空なら補記を頼みます。この読み方は、集約表が出てから人が決めます。
手順6: 検算して部門へ返す
集約表の数字は、元の原票と照合します。次の3点を別シートに確認させると、見落としが減ります。
- 部門別の要求合計が、原票の部門合計と一致しているか
- 未分類の合計が0か、0でなければ原因が説明できるか
- 前年実績の合計が、決算資料の合計と一致しているか
「検算」シートを作り、次の3点を数式で確認してください。
1. 部門ごとに、集約表の今年度要求の合計と、
要求_原票の同じ部門の合計を比べ、差があれば赤くする
2. 未分類の合計を表示する
3. 前年実績の合計を表示する(決算資料との照合は私が行います)照合に使う決算資料の合計は、Claudeに推測させず、人が入力します。差異が出た部門は原票を開いて、どのセルがずれているかを部門に確認します。
差異表と根拠区分を部門に返すときは、金額の査定結果ではなく「再ヒアリングの依頼事項」として返します。Claudeに依頼文の下書きを書かせることはできますが、送る前に人が読みます。
翌年も使い回す設定
毎年同じ形で回すなら、アドインのサイドバーの設定にある指示欄に、書式の約束を入れておけます。この指示はExcelだけに効き、PowerPointやWordの指示とは別です。
金額は千円単位、桁区切りはカンマ。
増減額は正の値に+を付ける。
差異の列は、必ず数式で計算する(値の直書き禁止)。
理由欄を要約するときは、原文を引用して併記する。科目対応表と指示欄を残しておけば、翌年は原票を貼り替えるだけで集約表が更新されます。再利用できる作業手順はSkillsにまとめる方法もあり、有効にしたSkillsは作業中に自動で適用されます。
使えないことと、守る制限
案内では、Claude for Excelの次の使い方は推奨されていません。
- 人の確認を経ない、顧客向けの最終成果物
- 検証を伴わない、監査に直結する計算
- 管理が不十分な、機微情報・規制対象データを含むモデル
使えない機能は、データテーブルとマクロ・VBAです。部門から届くブックにマクロが仕込まれている場合、Claudeはその部分を扱えません。値だけを原票に貼る手順は、この点でも安全側に働きます。
予算案は、公表前の機微な情報です。入力と出力はバックエンドで30日以内に削除される扱いで、チャット履歴はブラウザ内に保存され、Anthropicのサーバーには保存されません。ただし、組織で設定したデータ保持の設定は引き継がれず、アクティビティはEnterpriseの監査ログにも含まれません。Compliance APIを有効にしたEnterpriseでは、セッションがその対象に入ります。社内の情報管理の規程と照らし、使ってよい範囲を決めてから始めます。
既存のデータを上書きするときは、Claudeが事前に警告します。それでも、編集を頼む前に信頼できるコピーを作っておくほうが安全です。
つまずきやすい点
- 科目の取りこぼし: 対応表の作成を省くと、似た名前の科目が別行に分かれ、前年比が不自然になる
- 単位の混在: 円と千円が混ざった部門があると、桁違いの差異が出る。手順3の指示で単位列を参照させる
- 理由欄の転記ミス: 要約させると、根拠の有無が変わる。原文の引用を必ず併記させる
- 上限枠の更新漏れ: 枠が途中で改定されると、差異の基準が古くなる。枠の列に改定日を併記する
まとめ
様式のそろった要求なら、整形に時間を使う必要はありません。基準を3つ決め、対応表で科目をそろえ、数式で差異を出し、理由欄は原文の引用つきで仕分ける。この流れなら、経理企画の作業は「集める」から「再ヒアリングの対象を決める」に移ります。同じ手順で、月次の実績との差は月次予実対比レポートの差異分析に、自治体の予算要求の説明資料は事務事業評価と予算要求の下書きに続けられます。工事の実行予算と原価の突合は工種別の差異表、複数社の見積比較は相見積もりの比較表が同じ型です。