公共工事設計労務単価を積算の単価表に取り込む手順 — Claude for Excelで改定前後の差を出す
国土交通省が公表する公共工事設計労務単価を、Excelの単価表に取り込む手順です。令和7年3月と令和8年3月の差を職種別に出し、見積の労務費へ反映するところまで数値例で扱います。
公共工事設計労務単価は、毎年2〜3月に改定されます。積算の単価表が古いままだと、見積の労務費が新しい単価と合いません。令和8年3月適用分は、公表資料の最初の表だけで47都道府県×10列あり、PDFから手で写すと転記ミスが入りやすい作業です。
この記事では、公表PDFの表をExcelの単価表に取り込み、令和7年3月と令和8年3月の差を職種別に出し、見積の労務費に反映するまでを扱います。取り込みと差分の計算にClaude for Excelを使い、数字を信じてよいかの検算は人が受け持つ分け方です。
取り込む前に決めるのは「どの単価を何に使うか」
単価表に入れる前に、この単価が何を含み、何を含まないかを押さえます。ここを外すと、表が正確でも見積が合いません。
公表資料では、公共工事設計労務単価は次の4つで構成されると説明されています。
- 基本給相当額
- 基準内手当(その職種の通常の作業条件・内容に対する手当)
- 臨時の給与(賞与など)
- 実物給与(食事の支給など)
単位は所定労働時間内8時間当たりの1日単価です。含まれないものも明記されています。
- 時間外・休日・深夜の割増賃金
- 通常の作業条件や内容を超えた労働に対する手当
- 現場管理費(事業主負担分の法定福利費、研修訓練費など)と一般管理費等の諸経費
つまり、この表の数字をそのまま「1人1日の労務費」として見積に入れると、割増と諸経費の分が抜けます。国土交通省の報道発表も、必要経費分を下請代金に計上しない、または値引くことは不当行為だと明記しています。
もう一点、用途です。公共工事の積算用に設定された単価ですが、建設業法に基づき中央建設業審議会が勧告した「労務費に関する基準」で、公共工事・民間工事を問わず「通常必要と認められる労務費」を計算する基礎の水準にも位置づけられています。民間工事の見積で参照する根拠になるのは、この位置づけがあるからです。
単価の出どころと、取り込むファイルの選び方
入口は国土交通省の「公共事業労務費調査・公共工事設計労務単価について」のページです。年度ごとの「記者発表ページ」へのリンクが並び、各記者発表ページに報道発表資料のPDFが付いています。
| 適用開始 | 公表日 | 全国全職種の加重平均 | 前年度比(単純平均) |
|---|---|---|---|
| 令和7年3月 | 公表日令和7年2月14日 | 全国全職種の加重平均24,852円 | 前年度比(単純平均)+6.0% |
| 令和8年3月 | 公表日令和8年2月17日 | 全国全職種の加重平均25,834円 | 前年度比(単純平均)+4.5% |
令和8年3月分は、必要な法定福利費相当額を加算する措置を行った平成25年度の改定から14年連続の引き上げで、全国全職種の加重平均値が初めて25,000円を超えた改定です。
取り込むのは、PDFの中の「公共工事設計労務単価表」にあたる部分です。構成は次のとおりです。
- 1ページ目の資料1に、主要12職種の全国平均と前年比
- 資料2に、全国全職種平均の推移
- 後半に、都道府県別・職種別の一覧表(47都道府県を地方連絡協議会ごとにまとめ、職種を10列前後ずつ数ブロックに分けて掲載)
自社が必要なのは、このうち自社の工事地域の行と、自社が見積に使う職種の列だけです。47都道府県×全職種を丸ごと取り込む必要はありません。ただし、改定前後の比較や他地域への展開のために、全体を長い形式で持っておくと後が楽になります。
単価表は「縦持ち」で作る
PDFの表は、行に都道府県、列に職種が並ぶ横長の形です。これをそのままExcelに貼ると、年度が変わるたびに列の並びが崩れ、数式が壊れます。単価表シートは、1行1単価の縦持ちにします。
| 適用開始 | 都道府県 | 職種 | 単価 |
|---|---|---|---|
| 2025-03 | 都道府県東京都 | 職種普通作業員 | 単価26,800 |
| 2026-03 | 都道府県東京都 | 職種普通作業員 | 単価27,000 |
適用開始は日付ではなく、2026-03 のような文字列で持ちます。年度ごとの行を追記していけば、次の改定では行を足すだけで済みます。数式は職種名と都道府県名で引くので、PDFの列順が変わっても影響を受けません。
Claude for Excelで取り込む
Claude for Excelは、Pro、Max、Team、Enterpriseの各プランで使えるExcelアドインです。サイドバーにPDFや文書を入れると、開いているブックと並べて読ませられます。編集の前に、元のブックのコピーを用意してから進めてください。広い範囲を書き換えさせる場合の使い方として、公式のベストプラクティスにも同じ趣旨が書かれています。
取り込みの流れ
- 1
PDFから必要な範囲を指定する
令和8年3月分と令和7年3月分の報道発表資料PDFをサイドバーに入れ、「東京都と大阪府の行だけ」「自社が使う職種の列だけ」と範囲を切って頼みます。
- 2
縦持ちの単価表に書き出させる
適用開始、都道府県、職種、単価の4列で、年度ごとに追記させます。既存の行は書き換えない指示を入れます。
- 3
PDFの値と突き合わせる
書き出された行から数行を抜き、PDFの該当セルと目で照合します。次節の検算を通ってから、見積側の数式をつなぎます。
指示文は、範囲と出力形式を具体的に書きます。次は例示です。
添付した令和8年3月適用の公共工事設計労務単価表(PDF)から、
東京都の行だけを抜き出してください。
出力先は「単価表」シートの末尾。列は
適用開始(2026-03)/ 都道府県 / 職種 / 単価(円)の4列です。
既存の行は変更しないでください。
PDFで空欄のセルは、行を作らずに飛ばしてください。
抜き出した行数と、元の表で値が入っているセルの数を最後に報告してください。最後の一文が効きます。「行数と元のセル数を報告する」を求めておくと、抜け落ちや列ずれを数で見つけられます。
検算:PDFの表は空欄で列がずれる
実際に令和8年3月分のPDFをテキストに起こすと、1つ目の表ブロックは10列(特殊作業員、普通作業員、軽作業員、造園工、法面工、とび工、石工、ブロック工、電工、鉄筋工)で、東京都の行は10個の値が並びます。一方で北海道の行は、同じ10列に対して値が8個しか並びません。単価が設定されていない職種のセルが空欄になり、テキスト化すると詰まって見えるためです。
空欄を詰めたまま左から順に列名を割り当てると、電工の値が石工に、鉄筋工の値がブロック工に入る、といった列ずれが起きます。Claudeに頼んでも、PDFの罫線や位置を読めているかは出力を見るまで分かりません。次の3点で検算します。
- 行ごとの値の個数を数える。10列のブロックで値が10個ない行は、空欄を含む行として個別に見る。
- 代表セルを数か所照合する。例えば令和8年3月の東京都は、特殊作業員30,700円、普通作業員27,000円、鉄筋工33,800円。
- 令和7年3月分と見比べる。同じ地域・職種で前年から5〜6%を超えて動いたセルは、列ずれの疑いがあるので原本に戻る。
建築ブロック工は、令和7年3月分でも令和8年3月分でも、有効標本数が足りず単価が設定されていません。51職種を調査していても、単価表にある職種は51ではない点に注意が必要です。職種数を件数チェックの基準にするなら、この職種を除いてください。
落とし穴
平均値の差から改定率を逆算すると、公表の伸び率と合わない
報道発表の+4.5%は、職種別の伸び率の単純平均です。資料1の注にも「金額は加重平均値、伸率は単純平均値で算出」とあります。全国全職種の加重平均値24,852円から25,834円への変化は約4.0%(982円)で、+4.5%とは一致しません。差分表に「全国平均」を載せるときは、どちらの平均かを列名に書きます。
改定前後の差を職種別に出す
単価表が整ったら、比較用のシートを作ります。行に職種、列に旧単価・新単価・差額・伸び率を置き、数式で単価表を引きます。
旧単価(C列)=SUMIFS(単価表[単価],単価表[適用開始],"2025-03",
単価表[都道府県],$B$1,単価表[職種],$A4)
新単価(D列)=SUMIFS(単価表[単価],単価表[適用開始],"2026-03",
単価表[都道府県],$B$1,単価表[職種],$A4)
差額 (E列)=D4-C4
伸び率(F列)=IF(C4=0,"",E4/C4)$B$1 に都道府県名を入れておけば、地域を切り替えるだけで比較が更新されます。SUMIFSは該当する行がないと0を返すので、旧単価が0の職種は伸び率を空欄にしています。
Claudeには、この比較シートの作成と、伸びが大きい職種の抽出を任せられます。例えば「差額が大きい順に並べ、伸び率が全職種平均を上回る職種に印を付けてください」と頼むのは適切です。令和8年3月分の東京都で、PDFの値から計算した主な職種は次のとおりです。
| 職種 | 令和7年3月 | 令和8年3月 | 差額 | 伸び率 |
|---|---|---|---|---|
| 特殊作業員 | 令和7年3月29,900円 | 令和8年3月30,700円 | 差額+800円 | 伸び率+2.7% |
| 普通作業員 | 令和7年3月26,800円 | 令和8年3月27,000円 | 差額+200円 | 伸び率+0.7% |
| 軽作業員 | 令和7年3月18,500円 | 令和8年3月18,700円 | 差額+200円 | 伸び率+1.1% |
| とび工 | 令和7年3月32,900円 | 令和8年3月33,100円 | 差額+200円 | 伸び率+0.6% |
| 鉄筋工 | 令和7年3月32,600円 | 令和8年3月33,800円 | 差額+1,200円 | 伸び率+3.7% |
| 電工 | 令和7年3月32,600円 | 令和8年3月34,300円 | 差額+1,700円 | 伸び率+5.2% |
全国平均では普通作業員が+3.0%、鉄筋工が+4.6%と公表されています。東京都の普通作業員は+0.7%にとどまり、全国の動きとは別物です。全国平均の伸びを自社の見積に当てはめず、自社の地域・職種の列で見る理由はここにあります。
見積の労務費に反映する
差額が出たら、見積の労務費に反映します。ここでは東京都の工事で、次の人工数を仮に置きます(数値例であり、実際の歩掛とは関係ありません)。
| 職種 | 人工数 | 旧単価での労務費 | 新単価での労務費 |
|---|---|---|---|
| 普通作業員 | 人工数120人日 | 旧単価での労務費3,216,000円 | 新単価での労務費3,240,000円 |
| 鉄筋工 | 人工数60人日 | 旧単価での労務費1,956,000円 | 新単価での労務費2,028,000円 |
| 特殊作業員 | 人工数40人日 | 旧単価での労務費1,196,000円 | 新単価での労務費1,228,000円 |
| 合計 | 人工数220人日 | 旧単価での労務費6,368,000円 | 新単価での労務費6,496,000円 |
差は128,000円(約2.0%)です。内訳は普通作業員が24,000円、鉄筋工が72,000円、特殊作業員が32,000円で、人工数の多い普通作業員より、単価の上がり幅が大きい鉄筋工のほうが効いています。人工数の重い職種を見るだけでは、増額の大きい職種を見落とします。
見積シートの単価列は、SUMIFS で単価表を引く式にします。適用開始のセルを1つ決めておけば、旧単価の見積を再現するときも新単価に切り替えるときも、そのセルだけを変えれば済みます。
反映するときの境界も決めます。設計労務単価は8時間当たりの賃金で、割増と諸経費を含みません。見積では、残業・休日・深夜の割増に使う割増対象賃金比を国土交通省のページが別資料として公開しているので、割増が出る工種は別行で積みます。諸経費は、労務費の単価とは別の欄で扱います。
既存の見積と原価管理にどうつなぐか
この単価表は、数量拾いと原価管理の間に入る部品です。図面から数量を拾う作業はClaudeで積算の数量拾いをする方法で扱っています。拾った数量に人工数を掛けたものが、ここで作った単価表で金額になります。
契約後は、実行予算と原価実績の差異を見る段階に進みます。実行予算と原価実績の差異表の作り方では工種別の超過を追う手順を書いています。実行予算の労務費を旧単価で組んだままにしておくと、改定後の実績が超過して見えます。単価表の適用開始を差異表側にも持たせておくと、単価の変更による差と、数量や歩掛による差を分けて読めます。
協力会社から見積を取る場面でも、この単価表は使えます。複数社の工種・数量・単価をそろえて比べる手順は相見積もりの比較表をClaude for Excelで作る手順にまとめています。労務単価に基づく目安を手元に持っておくと、安すぎる見積や、値上げ通知の根拠を確かめるときの物差しになります。値上げ通知の照合はClaudeで取引先の値上げ通知を契約・単価表と照合する手順が参考になります。
運用で外せない3つの決まり
- 公表PDFを正とする。Claudeが書き出した単価表は、原本の写しです。数値に疑義が出たら、PDFの該当ページに戻ります。
- 書き換えさせる範囲を最初に決める。単価表シートへの追記だけを許し、見積シートの既存の式は変えさせない、と指示に書きます。
- 改定のたびに行を足す。次の改定分は、新しい適用開始の行を追記します。古い年度の行は残し、過去の見積を再現できる状態を保ちます。
まとめ
設計労務単価を積算に取り込む作業は、「縦持ちの単価表に写す」「空欄による列ずれを数で検算する」「旧新を同じ数式で引いて差を出す」の3つに分けると、Claude for Excelに任せる部分と人が見る部分が切れます。写しはClaudeに頼めますが、値の個数と代表セルの照合は人の仕事です。
単価の改定は積み上げで効きます。東京都の仮の例では、人工数の多い普通作業員より、上がり幅の大きい鉄筋工が増額の大半を占めました。全国平均の+4.5%を見積に当てはめず、自社の地域・職種の列で比べることが、この手順の核心です。