決算カードの類似団体比較をClaude for Excelで作る — 財政力指数と経常収支比率の読み解きメモ
市町村決算カードと類似団体比較カードから財政力指数・経常収支比率・実質公債費比率を取り込み、差を数式で出して議会説明用のメモを下書きする手順。類似団体欄が団体ごとに違う点も数値で示す。
議会の財政説明で「類似団体と比べてどうか」と聞かれたとき、答えの材料は総務省が公表している決算カードにあります。ただ、団体ごとに1枚のカードを開き、指標を一つずつ書き写して差を計算し、文章にまとめる作業は手間がかかります。
Claude for Excelは、開いているブックの数値を参照しながら数式を組み、メモの文案まで下書きできるアドインです。この記事では、財政力指数・経常収支比率・実質公債費比率を3団体分そろえ、類似団体との差を数式で出して、議会説明用の読み解きメモにするまでを、令和6年度の実数で順に説明します。
決算カードと類似団体比較カードは何が違うか
決算カードは、決算統計の集計結果をもとに、都道府県・市町村ごとの普通会計の歳入・歳出決算額と各種財政指標を、団体ごとに1枚へまとめたものです。総務省の決算カードのページには、都道府県決算カードと市町村決算カードが年度別に並びます。令和6年度から平成13年度までが掲載されています。
市町村決算カードは、都道府県ごとにPDFとExcelの2種類があります。団体の数だけシートが並ぶ形で、同じ都道府県の団体を一つのブックで取り込めます。
もう一つ、ページの「(参考)」欄に類似団体比較カードがあります。こちらはPDFのみで、1団体につき1ページです。人口1人当たりの歳入・性質別歳出・目的別歳出と、経常収支比率や財政力指数などの指標が、当該団体と類似団体の2列で並びます。
| 資料 | 形式 | 比較の相手 | 向く用途 |
|---|---|---|---|
| 市町村決算カード | 形式PDF・Excel | 比較の相手前年度(2列) | 向く用途団体の時系列、複数団体の値の取り込み |
| 類似団体比較カード | 形式PDFのみ | 比較の相手類似団体の欄 | 向く用途類似団体との差を読む |
今回のメモは両方を使います。複数団体の値を並べる部分は、取り込みやすい市町村決算カードのExcelを軸にします。類似団体の欄はPDFにしかないため、PDFから数字を拾います。
比べる前に押さえる2つの指標の読み方
2つの指標は、高いほうがよいかどうかの向きが逆です。メモの文章で向きを取り違えると、結論が反対になります。
| 指標 | 定義 | 高いと何を表すか |
|---|---|---|
| 財政力指数 | 定義基準財政収入額を基準財政需要額で割った値の過去3年間の平均 | 高いと何を表すか普通交付税の算定上の留保財源が大きく、財源に余裕がある |
| 経常収支比率 | 定義経常的経費に充てた一般財源が、経常一般財源等に占める割合 | 高いと何を表すか財政構造の硬直化が進んでいる |
財政力指数は3年平均なので、1年の決算の動きがそのまま出る指標ではありません。経常収支比率は、人件費・扶助費・公債費のように毎年度経常的に出ていく経費に、税や普通交付税が足りているかを見ます。
実質公債費比率は、財政健全化法の健全化判断比率の一つです。借入金の返済額とそれに準じる額が、財政運営に与える影響の度合いを見ます。この記事では、前の2指標を補う3本目として並べます。
令和6年度の実数で見る、3団体と類似団体の差
青森県の市のうち、青森市・弘前市・八戸市の3団体を例にします。数字は令和6年度の類似団体比較カードの当該団体欄と類似団体欄です。
| 団体 | 財政力指数(団体/類似) | 経常収支比率(団体/類似) | 実質公債費比率(団体/類似) |
|---|---|---|---|
| 青森市 | 財政力指数(団体/類似)0.55 / 0.76 | 経常収支比率(団体/類似)92.4 / 93.2 | 実質公債費比率(団体/類似)10.9 / 5.2 |
| 弘前市 | 財政力指数(団体/類似)0.49 / 0.55 | 経常収支比率(団体/類似)94.0 / 94.1 | 実質公債費比率(団体/類似)6.9 / 7.1 |
| 八戸市 | 財政力指数(団体/類似)0.63 / 0.76 | 経常収支比率(団体/類似)92.7 / 93.2 | 実質公債費比率(団体/類似)9.2 / 5.2 |
類似団体との差を取ると、3団体の見え方が変わります。
| 団体 | 財政力指数の差 | 経常収支比率の差(ポイント) | 実質公債費比率の差(ポイント) |
|---|---|---|---|
| 青森市 | 財政力指数の差−0.21 | 経常収支比率の差(ポイント)−0.8 | 実質公債費比率の差(ポイント)+5.7 |
| 弘前市 | 財政力指数の差−0.06 | 経常収支比率の差(ポイント)−0.1 | 実質公債費比率の差(ポイント)−0.2 |
| 八戸市 | 財政力指数の差−0.13 | 経常収支比率の差(ポイント)−0.5 | 実質公債費比率の差(ポイント)+4.0 |
団体自身の値だけを並べると、経常収支比率は弘前市が94.0%で最も高く見えます。ところが類似団体との差は−0.1ポイントで、3団体の中では類似団体にもっとも近い水準です。逆に青森市は経常収支比率の差こそ−0.8ポイントですが、実質公債費比率は類似団体より5.7ポイント高く、返済の負担という切り口では差が大きい団体です。
落とし穴
3団体の類似団体欄は同じ値とは限らない
青森市と八戸市の類似団体欄は、財政力指数0.76、経常収支比率93.2、実質公債費比率5.2で一致しています。弘前市の欄は0.55、94.1、7.1で別の値です。カードに載る類似団体の数値は、団体ごとに属するグループの平均として載っていると読めます。
そのため、「3団体を同じ物差しで比べる」表を作るときは、団体の値同士を並べる列と、各団体が自分の類似団体との差を取る列を分けます。類似団体欄の値を、団体をまたいで比べる基準として使わないようにします。
Excelに取り込むシートの設計
読み解きメモの品質は、取り込みシートの作りで決まります。数値と一緒に、どのファイルのどの位置から取ったかを残す列を持たせます。
| 列 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| A | 内容団体名 | 例青森市 |
| B | 内容年度 | 例令和6年度 |
| C・D | 内容財政力指数(団体・類似団体) | 例0.55・0.76 |
| E・F | 内容経常収支比率(団体・類似団体) | 例92.4・93.2 |
| G・H | 内容実質公債費比率(団体・類似団体) | 例10.9・5.2 |
| I | 内容出典(ファイル名とページ) | 例青森県の比較カード、2ページ目 |
団体の値は、市町村決算カードのExcelに入っています。令和6年度の青森県のブックでは、団体ごとのシートの中で、財政力指数のラベルセルがCF55、令和6年度の値がCS55、令和5年度の値がDA55に置かれていました。弘前市のシートでは、CS55の値が0.49で、比較カードPDFの弘前市の欄と一致します。
ただし、このセル位置はシートの上での位置にすぎません。都道府県や年度が変わると、同じ位置に同じ項目があるとは限りません。位置で参照する前に、ラベルの文字がその位置にあるかをClaudeに確かめさせるほうが安全です。
取り込みから検算までの進め方
- 1
比較する団体と年度を決める
自団体と、類似団体比較カードで同じ欄に載る団体を選び、年度をそろえます。
- 2
市町村決算カードのExcelから団体の値を取り込む
ラベルを手がかりに、指標ごとの値を取込シートへ値として貼ります。
- 3
類似団体欄をPDFから転記する
団体ごとのページを開き、類似団体の値をそのまま写します。
- 4
差を数式で出す
団体の値から類似団体の値を引き、丸めを式に入れます。
- 5
メモを下書きさせ、数字を元表と突き合わせる
文案の数字を取込シートのセルに対応させ、PDFの原本と抜き取りで照合します。
差を数式で出し、向きをそろえる
差の列は、Claudeに定義を明示して組ませます。「差を出して」とだけ頼むと、引く順序や丸めが毎回ぶれます。
「取込」シートの各行について、次の列を作ってください。
- 財政力指数の差 = C列 − D列(小数第2位で丸める)
- 経常収支比率の差 = E列 − F列(小数第1位で丸める)
- 実質公債費比率の差 = G列 − H列(小数第1位で丸める)
- 経常収支比率の向き = 差が正なら「類似より硬直側」、
負なら「類似より弾力側」、0なら「同水準」
値の直書きはせず、取込シートのセルを参照する式にしてください。
空欄や「-」の行は、差を空欄にしてください。例えば次のような式になります。列の位置は、自分のブックに合わせて読み替えます。
財政力指数の差 =ROUND(C2-D2,2)
経常収支比率の差 =ROUND(E2-F2,1)
実質公債費比率の差 =ROUND(G2-H2,1)
経常収支比率の向き =IF(E2=F2,"同水準",IF(E2>F2,"類似より硬直側","類似より弾力側"))丸めを式に入れるのは、小数の引き算に浮動小数点の誤差が出るからです。0.49から0.55を引くと、画面の表示は−0.06でも、内部の値は−0.06000000000000005のようになる場合があります。後でこの列を条件式に使うと、等しいはずの値が一致しない原因になります。
財政力指数の差は、負なら類似団体より財源の余裕が小さい側です。経常収支比率の差は、正なら硬直側です。同じ「差がマイナス」でも意味が逆になるため、列名に向きを含めておくと、メモの文章でも取り違えにくくなります。
読み解きメモを、取込シートの事実だけで書かせる
メモの下書きで起きやすい失敗は、Claudeが数字から理由を推測して、もっともらしい説明を足すことです。財政力指数が低い団体に「産業が弱いため」と書かれても、その団体の事情かどうかは数字からは分かりません。材料を限定します。
「比較」シートの各団体について、議会説明用のメモ案を
1団体あたり150字以内で書いてください。
- 使ってよい材料は、取込シートの値と、比較シートの差の列だけです。
- 原因や背景は書かず、「類似団体より高い/低い」と差の大きさだけを書いてください。
- 財政力指数は高いほど余裕、経常収支比率は高いほど硬直という向きで書いてください。
- 文中の数字は、取込シートのセルの値をそのまま使い、丸め直さないでください。
- 理由を問われそうな箇所には「要確認(担当課の説明待ち)」と添えてください。次のような文案になります(書き方の例であり、実際の出力は取込シートの内容で変わります)。
弘前市の財政力指数は0.49で、類似団体の0.55を0.06下回っています。経常収支比率は94.0%で、類似団体の94.1%とほぼ同水準です。実質公債費比率は6.9%で、類似団体の7.1%より0.2ポイント低くなっています。
青森市の実質公債費比率は10.9%で、類似団体の5.2%を5.7ポイント上回っています。財政力指数は0.55で、類似団体の0.76を0.21下回っています。要確認(担当課の説明待ち)。
メモに「理由」を書き足すのは職員の仕事です。決算カードの数字には、差が生まれた経緯は載っていません。たとえば返済の多い年度が重なったのか、借入の時期の問題なのか、といった説明は、担当課のメモやほかの資料から足します。議会向けの説明資料に落とす手順は事務事業評価と予算要求の説明資料の下書きでも扱っています。
数字が合わなくなる落とし穴
決算カードを横に並べるときに踏みやすい点を、先にまとめます。
- 経常収支比率の( )内の数値: カードの注記では、( )内は減収補塡債(特例分)と臨時財政対策債を除いて算出した値です。主値と( )内の値を取り違えると、団体の値と類似団体の値の基準がずれます
- 東京都特別区: 基準財政収入額・基準財政需要額は特別区の財政調整交付金の算出に要した値で、財政力指数もその値から算出されています。特別区を市町村と並べるときは、算出の前提が違うことをメモに添えます
- 人口の基準日: 人口は調査年度の1月1日現在の住民基本台帳によります。人口1人当たりの値を自分で再計算するときは、基準日を合わせます
- 数値のない欄: 数値のない欄はハイフン(−)になります。職員数が1人または2人の場合は、給料月額の欄がアスタリスク(*)です。ハイフンや*を含む列は、計算式でエラーになるので、数値以外を空欄として扱う式にします
- 年度のそろえ方: 団体の値と類似団体の値は、同じ年度のカードから取ります。市町村決算カードのExcelの年度と、比較カードの年度がずれると、差が意味を持たなくなります
ClaudeにExcelブックを触らせるときの注意
総務省のファイルをそのままClaude for Excelで開く前に、Claude側の注意書きも確認しておきます。Claude for Excelの制限事項には、顧客向けの最終成果物を人の確認なしで出すこと、監査に使う計算を検証なしで使うことは推奨されない、と書かれています。議会に出す資料も、数字と文面を担当者が読み、原本と突き合わせてから出す前提で組みます。
外部のファイルについては、プロンプトインジェクションの注意があります。ダウンロードしたテンプレートや取り込んだデータには、Claudeを意図しない操作へ誘導する指示が隠れている場合があるため、信頼できるスプレッドシートで使うよう案内されています。総務省の公表資料は公的な資料ですが、ダウンロードしたファイルを直接開いて作業するより、必要な値だけを自分のブックの取込シートへ貼り、そのブックで作業するほうが、外部ファイルとの接点を小さくできます。
また、Claude for Excelは、Excel 2016・2019のボリュームライセンスや永続ライセンス版には対応していません。Microsoft 365のExcelが必要で、Excel on the web、Windows、Macの対応ビルドが示されています。庁内端末のExcelのバージョンは、導入前に調べておきます。生成AIの利用そのものの線引きは自治体職員の生成AI利用と総務省ガイドライン、庁内ネットワークの接続条件はLGWAN接続系からα'モデルでClaudeを使えるかで整理しています。
検算シートで原本と突き合わせる
最後に、検算シートを1枚作ります。メモに出てくる数字を1行ずつ並べ、取込シートのセルと、原本のページを対応させます。
「検算」シートを作り、メモ案に出てくる数字を1行ずつ並べてください。
各行に、(1)メモ中の数字 (2)取込シートの参照先セル
(3)差の列の値 (4)一致なら「OK」、不一致なら「要確認」を入れてください。
差の列は、取込シートの値から再計算した値と比べてください。この検算で確かめられるのは、メモと取込シートの整合です。取込シートの値が原本と同じかどうかは、数式では確かめられません。取り込んだ値のうち、団体ごとに数個を原本のPDFと目視で突き合わせます。今回の例では、弘前市の財政力指数が、決算カードのExcelとPDFのどちらでも0.49だと確かめられます。
まとめ
類似団体との比較で見る価値は、団体自身の値の高低よりも、類似団体との差の大きさと向きにあります。弘前市のように、経常収支比率の絶対値は3団体で最も高くても、類似団体との差はもっとも小さい団体があります。3団体の類似団体欄が同じ値とは限らない点も、表を組む前に確かめます。Claude for Excelに任せるのは、取り込みシートの作成、差の数式、事実だけを使ったメモ案までです。差の理由は職員が書きます。