公共施設等総合管理計画の個別施設計画をClaudeで点検 — 長寿命化の優先順位と更新費用
施設台帳・点検結果・修繕履歴をClaude for Excelで突き合わせ、築年数と健全度から長寿命化の優先順位と更新費用の推移を出し、総合管理計画の記述との食い違いを洗う手順。
公共施設等総合管理計画(以下、総合管理計画)を読むと、施設数、延べ床面積、老朽化の状況、将来の更新費用が数字で並んでいます。一方、個別施設計画と施設台帳を開くと、同じ項目の数字が合わないことがあります。計画の改訂時期がずれた、統廃合を反映していなかった、といった原因です。
この記事では、施設台帳・点検結果・修繕履歴をExcelの1冊に集め、Claude for Excelで築年数と健全度から長寿命化の優先順位を出し、更新費用の推移を「単純更新」と「長寿命化」の2本で試算します。最後に、総合管理計画の記述と台帳の集計を突き合わせて、食い違いの一覧を作ります。
総合管理計画が個別施設計画に求めているもの
総務省の指針は、令和5年10月10日付の通知(総財務第152号)で改訂された版が示されています。点検の前に、計画書の側が何を書くことになっているかを押さえておきます。台帳と突き合わせる項目は、ここから決まるためです。
総合管理計画に記載する項目のうち、数字で突合できるものは次のとおりです。
- 施設保有量とその推移、老朽化の状況、減価償却の進み具合を示す比率の推移、利用状況
- 維持管理・更新等に係る中長期的な経費の見込み
- 計画期間における施設数・延べ床面積などの数値目標
経費の見込みには、書き方の指定があります。施設を耐用年数の経過時に単純更新した場合の見込み、長寿命化対策を反映した場合の見込み、その対策の効果額の3つです。期間は30年程度以上が望ましく、少なくとも10年程度を記載します。普通会計と公営事業会計、建築物とインフラ施設を区分する点も指定されています。
個別施設計画との関係も書かれています。総合管理計画は、国のインフラ老朽化対策の基本計画でいう行動計画に当たります。個別施設ごとの対応方針は、個別施設計画が定めます。類型ごとの方針が個別施設計画と重複する場合は、個別施設計画の該当箇所(頁数など)を記載すれば足りるとされています。つまり、2つの計画は互いを指し合う構造です。片方だけ改訂されると、数字がずれます。
施設カルテではなく、突合用の3シートを作る
自治体では「施設カルテ」「施設白書」「個別施設計画の別表」など、施設ごとの情報をまとめた資料が使われています。指針にこれらの様式は定められていません。指針が求めているのは、点検・診断の履歴と維持管理・更新等の履歴を集積し、計画の見直しに反映することです。
さらに、固定資産台帳に点検・診断や維持管理・更新等の履歴を追加して紐付けることが、望ましいとされています。台帳は、毎年度、遅くとも決算年度の翌年度末までに更新することが求められています。突合の土台には、この固定資産台帳と、各課が持つ施設カルテを使います。
ブックは次の4シートに分けます。数式は設定シートの値だけを参照させ、数字を数式に直書きしません。
| シート | 内容 | 主なキー・列 |
|---|---|---|
| 設定 | 内容基準年度、耐用年数、延伸年数、改修時期、単価 | 主なキー・列セルに名前を付ける |
| 施設台帳 | 内容施設ID、施設名、類型、建築年度、延べ床面積、健全度 | 主なキー・列施設ID |
| 履歴 | 内容点検・診断と修繕・改修の履歴(1行1件) | 主なキー・列施設ID、年度、種別、費用 |
| 計画書記載 | 内容総合管理計画と個別施設計画に書かれた数字 | 主なキー・列項目、記載値、頁 |
履歴を台帳の横に列として足さず、1行1件の別シートにします。1施設に複数回の点検や修繕が付くため、横に広げると列数が施設ごとに違ってしまいます。施設IDで結べば、COUNTIFSやSUMIFSで台帳側に集められます。
指針の定義も、履歴の「種別」列にそのまま使えます。
- 維持管理・修繕: 点検・調査、補修、修繕。補修後の効用が当初を上回らないもの
- 改修: 改修後の効用が当初を上回るもの。耐震改修や長寿命化改修など
- 更新: 老朽化で機能が低下した施設を、同程度の機能に再整備すること。除却も含む
修繕と改修の線引きは、費用の集計先に影響します。履歴の入力時点で、この3区分のいずれかに寄せておきます。
Claude for Excelに読み込ませる前に確認すること
Claude for Excelは、開いているブックについて質問すると、セル単位の引用付きで答えるアドインです。数式の関係を保ったまま値を変更でき、並べ替え、フィルター、ピボットテーブルの編集、条件付き書式、データ検証のドロップダウンも直接頼めます。Pro、Max、Team、Enterpriseのプランで一般提供されています。
使う前に、制限も確認します。
- データテーブルとマクロ・VBAは非対応
- Excel 2016・2019の永続ライセンス版、iPad、Androidは非対応
- 顧客向けの最終成果物、監査上重要な計算、機微な規制対象データは、確認や統制なしでの利用が推奨されない
- 外部から来たファイルには、Claudeを意図しない操作へ誘導する隠れた指示が含まれうる
庁内端末のExcelのバージョンは、導入前に調べておきます。外部委託先から納品された点検結果のExcelは、開く前に値だけを自分のブックへ貼り替えるほうが安全です。上限や応答の問題はClaude for Excelが応答しない原因と上限値に整理があります。庁内ネットワークでの利用可否はLGWAN接続系からα'モデルでClaudeを使えるか、入力してよい情報の線引きは自治体の生成AIガイドラインとClaudeが扱っています。
築年数と健全度から長寿命化の優先順位を出す
以下は架空の6施設で動かした例です。基準年度を2026年、耐用年数を60年と仮置きします。この数値は例示用であり、実際の計画では自団体の設定を入れます。
| 施設ID | 施設名 | 建築年度 | 延べ床面積(㎡) | 健全度 | 築年数 |
|---|---|---|---|---|---|
| S01 | 施設名第一小学校校舎 | 建築年度1968 | 延べ床面積(㎡)4,200 | 健全度D | 築年数58 |
| S02 | 施設名中央公民館 | 建築年度1975 | 延べ床面積(㎡)2,100 | 健全度C | 築年数51 |
| S03 | 施設名市民体育館 | 建築年度1982 | 延べ床面積(㎡)3,600 | 健全度C | 築年数44 |
| S04 | 施設名北保育所 | 建築年度1990 | 延べ床面積(㎡)800 | 健全度B | 築年数36 |
| S05 | 施設名市民会館 | 建築年度1971 | 延べ床面積(㎡)5,200 | 健全度D | 築年数55 |
| S06 | 施設名南図書館 | 建築年度2004 | 延べ床面積(㎡)2,400 | 健全度A | 築年数22 |
健全度の区分(A〜Dなど)の定義は、自団体の個別施設計画に従います。ここでは、Dが最も劣化が進んだ区分とします。
優先順位を出すまでの流れ
- 1
設定シートに前提を置く
基準年度、耐用年数、延伸年数、改修時期、更新単価と改修単価を入れます。
- 2
台帳に築年数と健全度の点数を足す
築年数は基準年度から建築年度を引き、健全度はA=1からD=4の点数にします。
- 3
並べ替えの規則を決めて頼む
健全度の悪い順、同じなら築年数の大きい順、という規則を言葉で渡します。
- 4
順位の根拠をセルで引かせる
各施設の順位について、使った列のセルを引用させて確かめます。
Claudeへの指示は、規則を数式の形まで具体的に書きます。「優先度を付けて」だけでは、評価の軸がぶれます。
「施設台帳」シートに次の列を足してください。
H列 築年数 = 設定!基準年度 - 建築年度
I列 健全度点 = A→1、B→2、C→3、D→4
J列 優先キー = 健全度点*1000 + 築年数
K列 優先順位 = 優先キーの降順の順位(RANK)
数式は設定シートのセルを参照し、数字を直書きしないでください。
最後に、優先順位1〜3位の施設と、使ったセルを示してください。この例では、優先キーが大きい順にS01(D・58年)、S05(D・55年)、S02(C・51年)、S03、S04、S06の並びになります。順位の規則は職員が決め、Claudeは規則どおりに列を作る役です。健全度が同じ施設の中で何を先に見るかは、築年数以外にも、利用人数や避難所指定などの軸がありえます。軸を足すときは、列を増やして優先キーの式を変えます。
更新費用の推移を単純更新と長寿命化の2本で試算する
指針が求める経費の見込みを、台帳から作ります。更新年度は、建築年度に耐用年数を足した年です。すでに基準年度を過ぎている施設は、積み残しとして基準年度に寄せます。
L列 更新年度(単純) = MAX(建築年度 + 設定!耐用年数, 設定!基準年度)
M列 改修年度 = MAX(建築年度 + 設定!改修時期, 設定!基準年度)
N列 更新年度(長寿命化) = 建築年度 + 設定!耐用年数 + 設定!延伸年数
O列 更新費 = 延べ床面積 * 設定!更新単価
P列 改修費 = 延べ床面積 * 設定!改修単価年度別の集計は、SUMIFSで施設ごとの更新年度を束ねます。長寿命化のケースは、改修費と、延伸後の更新費の合計です。
仮置きは、改修時期を築40年、延伸を20年、更新単価を1㎡あたり40万円、改修単価を24万円としました。この条件で、6施設を10年区切りに集計した結果は次のとおりです。
| 期間 | 単純更新(百万円) | 長寿命化(百万円) |
|---|---|---|
| 2026〜2035年度 | 単純更新(百万円)4,600 | 長寿命化(百万円)3,816 |
| 2036〜2045年度 | 単純更新(百万円)1,440 | 長寿命化(百万円)576 |
| 2046〜2055年度 | 単純更新(百万円)320 | 長寿命化(百万円)4,600 |
| 30年間の合計 | 単純更新(百万円)6,360 | 長寿命化(百万円)8,992 |
30年間の合計では、長寿命化のほうが高く出ています。理由は、築40年を過ぎた施設の改修費が前半に載り、延伸した更新費は2046年度以降に載るためです。30年の窓だけを見ると、改修費のぶんが上乗せされて効果額がマイナスになります。
数字が逆転したときは、計算の誤りと決めつけず、窓の取り方を疑います。更新を先送りした費用は、窓の外にあります。窓を60年に伸ばす、2回目の更新まで含める、といった比較に変えると、読み方が変わります。計画書の効果額がどの期間で測られているかは、計画書の注記で確かめます。
試算の結果は、Claudeに「効果額 = 単純更新 - 長寿命化」の列を作らせ、符号が逆の期間に色を付けさせると見つけやすくなります。条件付き書式はClaude for Excelに直接頼める操作です。
落とし穴
年度の積み残しを0円と読んでしまう
建築年度に耐用年数を足した年が基準年度より前の施設は、MAXで基準年度に寄せないと、集計範囲の外へ落ちて費用が0円になります。築60年を超える施設が多い団体ほど、前半の費用が小さく出ます。
総合管理計画の記述と台帳を突き合わせて食い違いを洗う
最後に、計画書に書かれた数字を「計画書記載」シートに写し、台帳の集計と差を出します。写す際は、項目、記載値、記載頁、計画の策定・改訂年度を1行にします。
突合する項目は、次の4つが取りかかりやすい範囲です。
数字で突き合わせられる項目
施設数・延べ床面積
類型ごとに台帳の件数と面積を集計し、計画書の保有量と比べます。差が出る原因は、統廃合や譲渡の反映漏れが多くなります。
築年数の分布
築30年以上の施設の面積割合など、計画書が書く老朽化の指標を台帳から再計算します。基準年度が計画書と違うと、割合が変わります。
経費の見込み
単純更新と長寿命化の見込み額を、計画書の期間に合わせて再集計します。単価と耐用年数の前提を計画書から拾えないときは、前提そのものを差として書き出します。
対策の実施状況
個別施設計画に「実施済み」とある改修が、履歴シートに存在するかを確かめます。履歴にない実施済み、実施年度の違いが食い違いです。
差の一覧は、次のような指示で作れます。
「計画書記載」シートの各項目について、「施設台帳」「履歴」から
再集計した値を隣の列に出し、差と差率を計算してください。
差率が5%を超える行に色を付け、「要確認」と入れてください。
再集計に使った範囲を、行ごとにセル範囲で書いてください。
最後に、台帳側にあって計画書に載らない施設IDを列挙してください。5%は例です。許容する差は、団体の事情で変わります。Claudeが返す食い違いは、あくまで候補です。原因が計画書の古さなのか、台帳の更新漏れなのかは、施設管理の担当者が現物と履歴で決めます。
履歴との突合では、COUNTIFSで「計画書に実施済みとある施設IDのうち、履歴シートに改修の行がない施設」を数えます。数式の形はこうなります。
=COUNTIFS(履歴!$A:$A, A2, 履歴!$C:$C, "改修", 履歴!$B:$B, ">=" & 設定!計画策定年度)0件なら、計画書に実施済みと書かれた改修が、履歴に無いことを意味します。この場合、履歴の入力漏れの可能性が高く、計画書が誤りとは限りません。
数字が合わなくなる落とし穴
突合でよく起きるずれは、次のとおりです。
- 基準年度の違い: 台帳は今年度、計画書は策定時の年度で築年数を数えている
- 面積の定義の違い: 延べ床面積と、施設ごとの建物の合計の違い。複合施設は片方にだけ載ることがある
- 区分の違い: 普通会計と公営事業会計、建築物とインフラ施設を同じ表に混ぜて集計している
- 単価と耐用年数の前提の違い: 計画書の前提を拾わずに自分の単価で再計算し、差を「誤り」と見てしまう
どれも、Claudeに「差の原因を推測して書いて」と頼むと、もっともらしい説明が返ってきます。その説明は仮説であり、根拠は台帳と履歴のセルです。差の原因は、セルを引用した形で書かせます。
Claudeに任せる範囲と、職員が決める範囲
Claude for Excelの制限事項は、監査上重要な計算を検証なしで使うことを推奨していません。公共施設の計画は、議会や住民に出る資料です。したがって、次の分担が実務的です。
- Claudeに任せる範囲: 列の追加、集計の数式、差の一覧、条件付き書式、順位の根拠となるセルの提示
- 職員が決める範囲: 健全度の区分と優先順位の規則、耐用年数・延伸年数・単価の前提、差の原因の判断、計画書への反映
使い始めは、台帳の一部の施設だけを試し、手計算の結果と一致するかを見ます。この記事の例なら、S01の更新年度2028と費用1,680百万円は、暗算で確かめられます。一致を確かめてから、全施設に広げます。作業のたびに、元の台帳の写しを別名で保存しておくと、Claudeが既存の値を上書きする前の状態に戻せます。Claude for Excelは、既存データを上書きする前に警告を出しますが、警告に頼らず写しを残します。
台帳の項目をオープンデータとして整える作業は、Claude Codeで自治体オープンデータを標準データセットの形式に整えるの領分です。財政の指標を類似団体と比べる手順は、決算カードの類似団体比較をClaude for Excelで作るにあります。固定資産台帳そのものの整合を見る作業は固定資産台帳と減価償却費の整合チェックで扱っています。
まとめ
総合管理計画と個別施設計画は、互いを指し合う構造のため、片方の改訂が他方に反映されないと数字がずれます。台帳、履歴、計画書記載を1冊のブックに集め、設定シートの前提だけを動かして再集計すれば、ずれの場所が行単位で見えます。
試算では、窓の取り方で長寿命化の効果額が逆転しうる点に注意が必要です。逆転したときは、計算の誤りを疑う前に、期間と前提を比べます。優先順位の規則と前提の数値は職員が決め、Claudeには列と集計と根拠のセルを作らせる、という分担にすると、議会説明で数字を問われても答えやすくなります。