Claudeで運賃改定の申入れ資料を標準的な運賃と原価から作る手順
トラック運送事業者が荷主に出す運賃改定の申入れ資料を、標準的な運賃の算定式に沿った自社原価の表と差額の根拠表に組む手順です。Claude for Excelへの依頼文つきです。
運賃改定の申入れ資料は、自社の原価を標準的な運賃と同じ並びで積み上げ、荷主に求める差額の根拠を1枚の表にまとめれば成立します。Claude for Excelなら、原価の入力シートと運賃表シートを同じブックに置き、積み上げの式と差額表を組ませて、数字の出どころをセルまでたどれます。トラック運送事業者の経営者・営業担当が、荷主との交渉に出す資料を作る手順です。
ここでは、標準的な運賃が何を根拠に作られているか、自社原価を同じ並びに直す表、Claudeへの依頼文、運賃と別に請求する料金の行、荷主に出す前の確認を順に示します。
申入れ資料に入れる表は4枚
荷主が見たいのは、「なぜその額になるのか」を追える並びです。次の4枚を1つのブックに置くと、申入れの説明がブレません。
申入れ資料の4枚の表
原価の積み上げ表
自社の車両1台あたりの年間費用を、固定費と変動費に分けて並べます。
標準的な運賃との比較表
自社の現行運賃と、自社ブロックの運賃表の額を、キロ程ごとに並べます。
運送以外の料金の表
待機時間料・積込料・取卸料など、運賃に含まれない作業の実績と請求額を並べます。
申入れ額の根拠表
荷主ごとに、現行額・申入れ額・差額・理由の列を1行にします。
Claudeに任せられるのは、2枚目以降の式づくりと、差額の並べ替えです。1枚目の原価は自社の帳簿から入れる数字で、ここは事業者自身が埋めます。購買側が受け取った値上げ申入れをどう分解するかは、値上げ申入れを原価内訳に分解する手順にあります。本記事は逆の立場、出す側の資料です。
標準的な運賃は「適正原価+適正利潤」で作られている
国土交通省の掲載ページによると、標準的な運賃は平成30年の貨物自動車運送事業法の改正で告示制度が導入されたものです。令和6年3月の告示(告示番号は209号)が現在の本体で、令和2年4月の告示は参考として並んでいます。
通達の説明では、能率的な経営の下での適正な原価と適正な利潤を基準に、実運送事業者が収受すべき運賃水準として定められています。位置づけは、法令を遵守して運営する際の参考となる運賃です。
令和6年の改定で、申入れ資料に効く点は次のとおりです。
- 運賃表が平均約8%引き上げられた
- 算定根拠の燃料費が軽油120円/Lに変更され、燃料サーチャージの基準価格も120円になった
- 待機時間料に加え、荷役作業ごとの積込料・取卸料が加わった
- 下請けに出す場合の手数料(運賃の10%)が加わった
もう一つ押さえたいのが、荷主側の指針です。通達は、令和5年11月に内閣官房と公正取引委員会が公表した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」に触れています。標準的な運賃が、受注者が価格交渉で用いる公表資料の例として挙げられている、という書き方です。つまり、標準的な運賃は交渉の場で出してよい資料です。ただし、「標準的な運賃どおりの額を要求する」資料ではなく、「自社の原価がこうだから、この額になる」と示す資料にすると、説得力が変わります。
自社原価を、標準的な運賃の式と同じ並びに直す
標準的な運賃の算定は、車両1両あたりの年間原価を、固定費と変動費に分けて積み上げています。自社の原価を同じ並びにすると、荷主は自社の資料と運賃表を見比べやすくなります。
通達にある項目を、申入れ資料の原価表にそのまま使える形に直すと次の表になります。
| 区分 | 項目 | 単位 | 入れる数字 |
|---|---|---|---|
| 固定費 | 項目車両償却費 | 単位円/年 | 入れる数字調達価格と付属備品を5年で割る(標準的な運賃の基準年数) |
| 固定費 | 項目人件費 | 単位円/年 | 入れる数字時給×福利厚生費率×年間労働時間 |
| 固定費 | 項目自動車関係の税・保険、荷役関連費、借入金利息 | 単位円/年 | 入れる数字自社の決算・明細 |
| 固定費 | 項目間接費(固定費相当) | 単位円/年 | 入れる数字間接費率で按分 |
| 変動費 | 項目燃料・オイル・タイヤ・尿素水・車検修理 | 単位円/km | 入れる数字年間費用÷年間走行距離 |
| 人件費 | 項目基準外人件費 | 単位円/時 | 入れる数字基準内人件費の1.25倍 |
固定費は年間労働時間(約2,086時間)で割って1時間あたりに直します。変動費は1kmあたりです。この2つの単価が、運賃額の計算に入ります。
運賃額の計算は、通達の式を日本語に直すと次のとおりです。
走行距離は、運賃表のキロ程を2倍にします。帰り荷がなくても帰路の原価を確保する前提だからです。所定内の労働時間には、走行時間のほか、発地・着地の待機各30分と運行準備の時間が含まれます。時間制運賃は、基礎走行距離(8時間制で小型車100km、そのほか130km)と基礎作業時間を使った、似た式です。
説明用の仮数値で式を通す
次の数字は、式の流れを見せるための仮の値です。告示の値ではなく、自社の数字に置き換えて使います。
| 項目 | 仮の値 | 計算 |
|---|---|---|
| 実車キロ程 | 仮の値50km | 計算往復で100km |
| 変動費単価 | 仮の値40円/km | 計算40×100=4,000円 |
| 固定費単価 | 仮の値3,000円/時 | 計算所定内8時間で24,000円 |
| 基準外人件費 | 仮の値3,500円/時 | 計算所定外1時間で3,500円 |
| 利益率 | 仮の値5% | 計算合計31,500円×1.05=33,075円 |
この計算結果を、自社ブロックの運賃表で同じキロ程の額と並べると、どれだけ離れているかを数字で言えます。参考までに、関東の運賃表では中型車の10kmが18,190円、30kmが22,660円です。差が出たとき、荷主に示すのは「運賃表より高い」ではなく、「固定費単価が運賃表の前提より高い理由」です。
Claude for Excelに式を組ませる
Claude for Excelは、Pro・Max・Team・Enterpriseの各プランで使えるExcelアドインです。ブックを開いたまま、セルの根拠つきで質問したり、式の関係を保ったまま数値を変えたり、テンプレートに値を入れたりできます。
先に置いておく2つのシートは次のとおりです。
- 「原価」シート: 上の表の項目を行に、車種を列に置いた自社の数字
- 「運賃表」シート: 国土交通省の掲載ページから取得した、営業所のある地方運輸局ブロックの距離制・時間制の運賃表
運賃表の数字は、掲載ページの資料から自分で貼り付けます。Claudeに記憶から書かせると、ブロックや告示の版が合わなくなります。
常設の指示に型を入れる
アドインの設定画面の指示欄に書いた内容は、Excelでの会話すべてに効きます。申入れ資料の作業なら、数字の扱いを固定しておくと依頼のたびに書かずに済みます。
- 金額は円、整数表示。千円区切りのカンマを付ける
- 原価シートの単位(円/年、円/km、円/時)を列見出しの隣に必ず書く
- 仮の数値を入れたセルは背景を黄色にし、確定値と区別する
- 式は元のセル参照を残し、値の直書きにしない依頼は3段階に分ける
一度に「申入れ資料を作って」と頼むと、どこで誤ったかが追えません。次の順で出します。
【1】「原価」シートの固定費・変動費・基準外人件費から、
車種ごとの1時間当たり固定費と1km当たり変動費を計算してください。
式はセル参照のまま残してください。
【2】「運賃表」シートの中型車の距離制運賃(10km・20km・30km)ごとに、
自社の原価から計算した運賃額を並べ、差額と差額率を出してください。
実車キロ程は2倍で計算してください。
【3】差額が大きい行について、固定費の差・変動費の差・利益率の差のうち
どれが効いているかを、セルを示して説明してください。3段目で説明を求めると、Claudeは該当セルへの参照つきで答えます。参照を押して元のセルに飛び、数字の出どころを自分で確かめます。この確認を飛ばした資料は、荷主の担当者に1行聞かれた時点で止まります。
原価の差異を見る方法は、実行予算と原価実績の差異表でも同じ型を使っています。工種が車種に変わるだけで、表の組み方は共通です。
運賃と別に請求する料金を、別の行にする
標準的な運賃は運送の役務の原価で計算されています。積込み、取卸し、荷待ちといった運送以外の作業は、運賃とは別の料金として請求する前提です。申入れ資料でこれを運賃に混ぜると、荷主から見て「運賃の値上げ」と「作業料金の新設」が区別できません。
| 項目 | 標準的な運賃の水準(中型車の例) | 条件 |
|---|---|---|
| 待機時間料 | 標準的な運賃の水準(中型車の例)1,760円/30分 | 条件荷主の責で30分を超えて待機した場合の30分ごと |
| 積込料・取卸料 | 標準的な運賃の水準(中型車の例)手荷役2,100円、機械荷役2,180円(各30分) | 条件作業の30分ごと |
| 長時間の割増 | 標準的な運賃の水準(中型車の例)5割加算 | 条件待機と荷役の合計が2時間を超える場合 |
| 利用運送手数料 | 標準的な運賃の水準(中型車の例)運賃の10% | 条件他の運送事業者に再委託する場合 |
| 冷蔵・冷凍車 | 標準的な運賃の水準(中型車の例)2割の割増 | 条件特殊車両割増 |
| 休日・深夜早朝 | 標準的な運賃の水準(中型車の例)それぞれ2割の割増 | 条件日曜祝日、午後10時から午前5時 |
| 有料道路利用料 | 標準的な運賃の水準(中型車の例)運賃とは別に収受 | 条件別表の料金で計算 |
この表の金額は、令和6年3月告示の資料に載る中型車(4tクラス)の30分あたり単価です。他の車種や割増の細目は、告示の運賃表と通達を引いて、自社の車種に合わせて入れ直します。
申入れ資料では、この表に自社の実績の列を足します。荷主別の待機時間の月合計、積込み・取卸しを運転者が行った回数、有料道路を使えなかった運行の件数、といった数字です。実績があると、「新設を求める」のではなく「すでに発生している負担の精算を求める」という話になります。待機時間の実績の取り方は、荷主側の突合手順にある運賃請求書を運賃表と突合する手順を読むと、相手がどの列を見ているかが分かります。
Claudeには、運行記録のシートから荷主別の待機時間を30分単位で数え直す式を頼めます。ここで30分に満たない端数の扱いを式に埋め込むので、通達の「30分を超える場合の30分ごと」と合っているか、人が1件ずつ確かめます。
荷主別の根拠表で、申入れ額を1行にする
最後の表が、実際に荷主へ渡す紙になります。荷主ごとに次の列を持たせると、1枚で完結します。
| 列 | 中身 |
|---|---|
| 現行額 | 中身現在の契約運賃(キロ程または時間制) |
| 標準的な運賃 | 中身自社ブロックの運賃表の額 |
| 自社原価ベース | 中身原価表から計算した額 |
| 申入れ額 | 中身求める額 |
| 理由 | 中身差が出る項目(燃料、荷役、待機、車種など) |
標準的な運賃とも自社原価ベースとも違う額を申し入れるなら、その差の理由を書きます。たとえば荷主との取引量が大きいので、一部を値引くと決めたなら、それは交渉上の判断です。原価の計算と、交渉上の判断を、列で分けておくと、後から経緯を説明できます。
落とし穴
標準的な運賃の数字だけを貼ると、根拠にならない
標準的な運賃は、自社の原価ではなく、調査をもとにした標準の額です。荷主から「うちの車両・距離でその額になる根拠は」と問われたとき、自社の原価表につながっていないと答えられません。申入れ額の列は、必ず原価ベースの列から導ける形にします。
荷主に出す前の確認
運賃や料金を変更するときは、届出も絡みます。国土交通省のQ&A集には、次の趣旨の回答があります。
- 届け出た運賃体系の範囲内(割増・割引や個別の特約が適用方法に定められている)で収受する場合は、手続きは不要
- 届け出た運賃とは異なる運賃体系を使う場合は、あらためて変更の届出が必要
- 令和2年告示の標準的運賃で届け出た事業者が令和6年告示の標準的運賃を適用する場合は、新たな届出は不要
- 届出は主たる事務所の所在地を管轄する運輸支局等に出す
自社の届出済みの運賃と、申入れ後の額の関係は、資料の完成後に必ず突き合わせます。この確認はClaudeに任せず、届出書の写しを見ながら人が行います。
あわせて、荷主が特定荷主に当たる場合は、物流効率化法の対応も同時に動いていることがあります。その背景は、物流効率化法の特定荷主の中長期計画の記事で整理しています。
使えない場面と注意点
Claude for Excelのサポート記事には、制限が明記されています。
- 最終的な顧客向け成果物は、人のレビューなしに使うのは推奨されない
- 監査上重要な計算は、検証なしに使うのは推奨されない
- 機密性の高い・規制対象のデータを扱う場合は、適切な管理が前提
- データテーブルとマクロ・VBAは非対応
- Excel 2016・2019の永続・ボリュームライセンス版、iPad、Androidでは動かない
申入れ資料は荷主に出す客先向けの成果物です。数字の最終確認は、事業者自身が行います。
外部ファイルにも注意が要ります。荷主から受け取った運賃表やデータ取込み用のファイルには、隠れた指示が仕込まれていて、アドインを操作させる危険があります。サポート記事は、信頼できるスプレッドシートだけで使うよう求めています。荷主から届いたファイルは、まず別のブックに値だけを貼り直してから、原価のブックに取り込みます。
データの扱いも確かめておきます。入出力はバックエンドで受領または生成から30日以内に削除され、会話履歴はブラウザーのIndexedDBにローカル保存されます。組織の保存期間の設定は引き継がれません。荷主別の契約単価を入れるブックなら、社内の取扱ルールと見比べてから使います。
まとめ
運賃改定の申入れ資料は、標準的な運賃の算定式と同じ並びで自社の原価を積み上げ、現行額との差を原価の項目に結びつければ形になります。Claudeに頼めるのは式づくりと差額の読み解きまでです。原価の入力、運賃表の貼り付け、届出との突き合わせ、金額の最終確認は人が持ちます。
次の一歩は、車種を1つ、荷主を1社に絞り、仮の値を自社の数字に入れ替えて、3段階の依頼を通すことです。1社分の表が動けば、ほかの荷主へは行を足すだけで広げられます。