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Claudeで値上げ申入れを原価内訳に分解し、交渉の論点表にする手順

Claudeで値上げ申入れを原価内訳に分解し、交渉の論点表にする手順

サプライヤーから届いた値上げ申入書を、原材料・エネルギー・労務費・その他に分けて根拠の足りない行を洗い出す手順です。労務費の転嫁指針が求める根拠の水準も踏まえ、Projectsで論点表にします。

サプライヤーの値上げ申入書は「全体で10%の改定をお願いします」と書かれていることが多く、何にいくら上がったのかが見えません。そこで申入れの金額を原材料・エネルギー・労務費・その他に分け、費目ごとに根拠がそろっているかを見ます。根拠の足りない行が、交渉で確認する論点です。

この分解と論点表づくりを、ClaudeのProjectsに任せる手順を説明します。ただし費目によって、発注者が求めてよい根拠の水準は違います。労務費の行を他の費目と同じ厳しさで洗うと、かえって発注者側が問題を抱えるおそれがあります。その線引きも合わせて扱います。

申入書は4つの費目に割ると、足りない行が見える

申入書を原価内訳と突き合わせる、といっても、サプライヤーが内訳を出してくれるとは限りません。そこで基準になるのが、内閣官房と公正取引委員会が令和5年11月29日に公表した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」の別添にある見積書の様式例です。

この様式は、受注者が価格交渉を申し込むときの見積書の例で、合計金額の内訳を次の4つに分けています。

費目様式例の主な欄
原材料価格(素材費・部品購入費等)様式例の主な欄材料・品番、単価、数量、金額、旧単価、単価上昇率
エネルギーコスト(電気代・ガス代・ガソリン代等)様式例の主な欄単価、総使用量、貴社向け売上比率、金額、単価上昇率
労務費(定期昇給・ベースアップ・法定福利費等)様式例の主な欄改定前の労務費総額とその上昇額、または人日単価と人日数、上昇率
その他(設備償却費・保管料・輸送費等)様式例の主な欄小計

労務費の上昇額は、改定前の支払い実績に最低賃金や春季労使交渉の妥結額などの上昇率を掛けて出す、という書き方が例示されています。エネルギーと、労務費の例1には「貴社向け売上比率」の欄があり、サプライヤー全体のコストのうち自社向け取引に割り当てる分を示す作りです。

申入書がこの形になっていれば、そのまま突き合わせられます。なっていなければ、申入書の数字をこの4費目に当てはめ直すのがClaudeの最初の仕事です。

費目によって、求めてよい根拠の水準は違う

分解の前に押さえておきたいのは、指針が発注者側に求めている行動です。指針は発注者の行動を6つ、受注者の行動を4つ、双方の行動を2つの計12に整理しています。値上げ申入れを受け取る側に直接関わるのは、次の部分です。

指針

発注者として受け取るときの指針の要点

  • 根拠は公表資料でよい

    労務費上昇の説明や根拠資料を求める場合は、最低賃金の上昇率や春季労使交渉の妥結額・上昇率といった公表資料に基づくものとします。受注者が公表資料を用いて示した希望価格は、合理的な根拠があるものとして尊重するとされています。

  • 内部情報まで求めない

    公表資料に基づく説明が出ているのに、さらに詳細な資料や受注者のコスト構造に関わる内部情報まで求めると、協議の要請を実質的に拒んでいると評価され得ます。

  • 協議のテーブルにつく

    労務費の上昇を理由に引上げを求められたら協議に応じ、そのことを理由に取引を停止するなどの不利益な取扱いをしません。

  • 交渉記録を残す

    価格交渉の記録を作り、発注者と受注者の双方が保管します。

指針がこう定めているのは労務費の転嫁に係る価格交渉についてです。指針の本文は、労務費、原材料価格、エネルギーコストのうち労務費の価格交渉を対象にした行動指針だと位置づけています。したがって次の整理になります。

費目根拠を求めるときの考え方
労務費根拠を求めるときの考え方公表資料(最低賃金・春季労使交渉の上昇率)で足りる。内部情報の提出は求めない
原材料・エネルギー根拠を求めるときの考え方指針の12の行動の対象外。単価・数量・使用量のような取引の実数で突き合わせる
その他根拠を求めるときの考え方内訳が「一式」のままなら、何が含まれるかを確認する

原材料とエネルギーについて、どこまで資料を求められるかは、取引の契約や慣行によります。指針は、過去のエネルギーコストの交渉で詳細な根拠資料を求められた経験から、労務費の転嫁の要請そのものを断念した受注者の声も紹介しています。資料を求めること自体が悪いのではなく、求め方が協議の入口を狭めていないかを見る、という姿勢が読み取れます。

Projectsに、申入れを分解する型を置く

作業の置き場は、ClaudeのProjectsが向いています。Projectsは、独自の知識ベースとプロジェクト指示を持つ作業スペースで、知識ベースに置いた資料はそのプロジェクトのすべてのチャットで使われます。

手順

申入書を論点表にするまでの流れ

  1. 1

    サプライヤーごとにプロジェクトを作る

    「+ New Project」から作ります。Team・Enterpriseプランなら公開範囲を選べます。価格条件は機密になりやすいので、招待したメンバーだけに絞る選び方が合います。

  2. 2

    比較の土台になる資料を知識ベースに置く

    直近の見積書・単価表、前回の合意メモ、今回の申入書の3種類です。

  3. 3

    プロジェクト指示に分解の型を書く

    費目の定義と、根拠を求める水準を先に固定します。

  4. 4

    申入書を渡して分解と論点表を依頼する

    申入れのたびに新しいチャットで始めます。

  5. 5

    数字を人が検算し、論点表を知識ベースに戻す

    次回の交渉で前回の経緯を参照できるようにします。

プロジェクトの名前と説明はClaudeには渡らないと、ヘルプに書かれています。取引先名を入れても、Claudeの回答には影響しません。

もう一点、同じプロジェクト内でもチャット同士のコンテキストは共有されません。情報を知識ベースに追加しない限り、次のチャットには引き継がれないと説明されています。確定した論点表と合意内容は、ファイルにして知識ベースへ戻す運用にします。

プロジェクト指示の書き方

ここに書く内容が、この手順の核心です。指針の線引きを、指示として固定します。以下は書き方の一例で、取引や契約の条件に合わせて書き換えてください。

あなたは調達担当の補助役です。サプライヤーから届く値上げ申入書を、
このプロジェクトの見積書・単価表・前回合意メモと突き合わせます。
 
手順:
1. 申入書の金額を、原材料・エネルギー・労務費・その他の4費目に分ける
   (申入書に内訳がない部分は「内訳なし」と書き、推測で埋めない)
2. 費目ごとに、旧金額・新金額・上昇額・上昇率・全体の上げ幅への寄与を
   計算する。計算式も示す
3. 費目ごとに、申入書が示している根拠を引用し、無ければ「記載なし」とする
 
根拠の見方:
- 労務費: 最低賃金の上昇率や春季労使交渉の妥結額・上昇率など、
  公表資料に基づく説明があれば「根拠あり」とする。
  それ以上の内部資料は、確認事項に挙げない
- 原材料・エネルギー: 単価・数量・使用量と旧単価、単価上昇率の有無を見る
- その他: 項目名と金額の内訳があるかを見る
 
出力は表。法的な結論や「受け入れるべき」といった判断は書かない。

「内部資料は確認事項に挙げない」の一行は、Claudeが親切心で労務費の賃金台帳などを求める論点を出してしまうのを抑える狙いです。「内訳なしと書き、推測で埋めない」は、内訳の無い申入書にもっともらしい数字を当てはめられないための歯止めです。

分解結果を、寄与の大きい順に並べる

指示が入ったら、申入書のPDFを添付して依頼します。

添付の値上げ申入書を、プロジェクトの2025-10版単価表に突き合わせて
4費目に分解してください。
次の表にして、全体の上げ幅への寄与が大きい順に並べてください。
 
| 費目 | 旧金額 | 申入れ額 | 上昇率 | 寄与(円) | 根拠の記載 |
 
最後に、確認したい論点を寄与の大きい順に挙げてください。

寄与の大きい順に並べるのが要点です。申入れの全体率だけを見ていると、小さな費目の高い上昇率に目を奪われがちです。

以下は仮の数字での例です。製品1個の旧単価を10,000円とし、申入書が全体で10%(1,000円)の引上げを求めているとします。Claudeに依頼すると、例えば次のような形の表が返ってくる想定です。実際の出力は申入書と資料によって変わるので、あくまで形の例です。

費目旧金額申入れ額上昇率寄与(円)根拠の記載
原材料旧金額5,000円申入れ額5,500円上昇率10.0%寄与(円)500根拠の記載単価上昇率の記載なし
その他旧金額1,500円申入れ額1,810円上昇率約20.7%寄与(円)310根拠の記載「諸経費一式」のみ
エネルギー旧金額500円申入れ額600円上昇率20.0%寄与(円)100根拠の記載使用量・単価の記載なし
労務費旧金額3,000円申入れ額3,090円上昇率3.0%寄与(円)90根拠の記載最低賃金の上昇率を引用

寄与の列を足すと500 + 310 + 100 + 90 = 1,000円で、申入れ全体の上げ幅に一致します。この足し算の一致は、人が最初に確かめる検算になります。

この例で見えるのは、上昇率の最も高いエネルギーの寄与は100円にとどまり、寄与が2番目に大きいのは内訳が「一式」の「その他」だという点です。論点の優先順位は、上昇率ではなく寄与で決まります。

論点表は「何を、誰が、いつまでに」の形にする

分解の表から、論点表に移します。論点表の目的は、サプライヤーとの協議で何を確認するかを決めることです。先の例なら、次のようになります。

優先費目確認したいこと求める資料の水準
1費目原材料確認したいこと値上がりした材料・品番と、旧単価・新単価求める資料の水準仕入単価の実数
2費目その他確認したいこと「諸経費一式」に含まれる項目と金額求める資料の水準項目別の内訳
3費目エネルギー確認したいこと使用量と単価、自社向けに割り当てた比率求める資料の水準使用量・単価・比率
4費目労務費確認したいこと引用した上昇率と申入れ額の計算式求める資料の水準公表資料と計算式のみ

労務費の行に「公表資料と計算式のみ」と明記しているのが、先の指示の効果です。上昇率3%が最低賃金の上昇率などの公表資料から来ているなら、あとは申入れ額が「旧労務費 × 上昇率」と合っているかの計算確認だけで足ります。

落とし穴

労務費の行に、詳細な根拠を積み増さない

労務費の説明が公表資料に基づいているのに、賃金台帳や人員構成のような受注者の内部情報まで求めるのは、指針が問題になり得ると整理している対応です。論点表の労務費の行は「計算が合っているか」に絞ります。内訳の細かい確認が必要だと感じたときは、まず自社の法務や購買の担当に相談します。

受注者の先のコストも、判断の材料になる

指針は発注者に、直接の取引先がその先の取引先との価格も適正化すべき立場にいることを意識して、要請額の妥当性を判断するよう求めています。サプライヤーの労務費の上昇率が自社の想定より高く見えても、その先の外注先や運送会社への支払いが含まれているかもしれません。

論点表に「サプライヤーの先の取引先分を含むか」という確認を1行足しておくと、増額の理由を取引先に尋ねる自然な入口になります。ここは答えを決めつけず、質問として立てるのが指針の姿勢に沿います。

論点表は、そのまま交渉記録の下書きになる

指針は、価格交渉の記録を作成して発注者と受注者の双方で保管するよう、双方に求めています。協議の後に、論点表の各行に次を書き足せば、記録になります。

  • 協議した日付と参加者
  • サプライヤーの回答と、提出された資料の名称
  • 合意した金額、または持ち越した論点

これらを知識ベースに戻せば、次の改定のときに「前回、その他の内訳は出してもらった」と照らせます。

つまずきやすい点

つまずき

分解がうまくいかないときの原因

  • 4費目に分けられない

    申入書が合計の率だけを書いているときは、費目ごとの金額は出せません。無理に割り振らず、「内訳の提示を依頼する」を論点の1番目に置きます。

  • 寄与の合計が全体の上げ幅に合わない

    元の数字の読み違いか、計算式の誤りです。Claudeに式を出させ、元の単価表と1行ずつ照らします。

  • ExcelやPDFの数字が読み取られない

    PDFの表が画像のまま埋め込まれていると、数字が正しく拾われていない場合があります。論点表の数字は、元の申入書と人が1行ずつ突き合わせます。

周辺の作業との分担

この手順は、受け取った申入書を内訳に分けて論点を立てるところまでを受け持ちます。前後には、別の作業があります。

まとめ

値上げ申入書の論点は、全体の率ではなく、費目ごとの寄与と根拠の有無に現れます。4費目に分け、寄与の大きい順に並べると、確認すべき行が絞れます。

ただし労務費の行は、公表資料に基づく説明と計算の確認で足ります。指針の線引きをプロジェクト指示に書いておけば、論点出しが労務費の行で根拠の要求を積み増す方向にぶれるのを抑えられます。指針は下請代金法の用語で書かれているため、取引が当たる法令の現行の範囲は公正取引委員会の窓口や専門家で確かめてください。

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