Claudeで仕入の値上げを粗利に換算し転嫁案を試算する手順
仕入先の値上げ通知PDFと商品別の仕入表をClaudeに渡し、粗利額・粗利率の変化を転嫁案ごとに試算してExcelに出す手順です。数式の形、検算、人が決める線引きまで扱います。
仕入先から値上げの通知が届いたとき、最初に知りたいのは「結局、月にいくら粗利が減るのか」です。通知には品目ごとの新旧単価が並んでいますが、自社の販売数量と売価を掛けなければ、利益への影響は見えません。
Claudeには、通知PDFと商品別の仕入表を渡し、転嫁案ごとの粗利額と粗利率をExcelにまとめさせられます。この記事では、数式の形、数値例、検算、そして人が決める範囲を順に説明します。
粗利への影響は3つの列から決まる
値上げの影響額は、品目ごとに「単価の上がり幅 × 月間数量」で出ます。粗利額は「(売価 − 仕入単価) × 数量」、粗利率は「粗利額 ÷ 売上」です。この3つが分かれば、転嫁案の比較に進めます。
以降の数値例は、架空の3品目で統一します。
| 品目 | 旧仕入単価 | 新仕入単価 | 月間数量 | 現売価 |
|---|---|---|---|---|
| A | 旧仕入単価3,200円 | 新仕入単価3,520円(+10%) | 月間数量100 | 現売価4,800円 |
| B | 旧仕入単価1,500円 | 新仕入単価1,590円(+6%) | 月間数量300 | 現売価2,000円 |
| C | 旧仕入単価800円 | 新仕入単価800円(据え置き) | 月間数量500 | 現売価1,200円 |
値上げ前の売上は168万円、粗利は51万円で、粗利率は30.4%です。何も転嫁しない場合、仕入が月に5.9万円増えるので、粗利は45.1万円、粗利率は26.8%まで下がります。年にすると約70.8万円です。
内訳はAが3.2万円、Bが2.7万円で、Cは動きません。通知が「平均で数%の改定」と書いていても、自社の影響は品目構成で決まります。値上げ幅の大きいAが主力かどうかで、同じ通知でも重さが変わります。
渡す資料と、先に決める前提
Claudeに渡すのは2つです。通知PDFと、品目ごとの仕入単価・月間数量・現売価を並べた表(ExcelまたはCSV)です。
アップロードの条件は、サポート記事にまとまっています。対応する形式にはPDF・CSV・XLSXが含まれ、XLSXはアカウントでコード実行とファイル作成を有効にしている必要があります。1回のチャットに添付できるのは最大20ファイルです。PDFは100ページ以下なら文字と図表の両方を、101〜1000ページなら文字だけを読みます。
通知の表が画像として埋め込まれていても、100ページ以下のPDFなら画像や図表も読み取りの対象です。読み取った数字は、必ず原本と照合します。
試算の前に人が決める3点
依頼の前に、次の3点を決めておきます。決めずに頼むと、Claudeが暗黙の前提で埋めてしまい、結果の数字が説明できなくなります。
- 適用日: 通知の適用開始日を境に、新単価で計算する月数
- 数量: 月間数量は直近の実績か、計画値か
- 在庫: 値上げ前に仕入れた在庫を、新単価の対象に含めるか
最後の在庫は、試算の精度に直結します。値上げ前の単価で仕入れた在庫が残っている間は、実際の原価がすぐには上がりません。試算の初月から新単価で計算すると、影響を早めに見積もることになります。
依頼文は「読み取り」と「試算」の2段に分ける
通知PDFの読み取りと、粗利の試算を1回の依頼にまとめると、どこで数字がずれたのか追いにくくなります。先に通知から新単価を表に起こさせ、人が原本と照合してから、試算に進みます。
通知から試算ファイルまでの流れ
- 1
通知PDFと仕入表を添付する
新しいチャットで、PDFと仕入表を一緒に渡します。
- 2
通知の内容を表に起こさせる
品目名・旧単価・新単価・適用日を、ページ番号つきで表にします。
- 3
人が原本と照合する
表の数字を通知PDFと突き合わせ、誤読を直します。
- 4
転嫁案を指定して試算させる
数式で組んだExcelを出力させ、ダウンロードします。
1回目の依頼は、たとえば次の形です。
添付の「価格改定のお知らせ.pdf」から、品目ごとに旧単価・新単価・
適用開始日を表にしてください。
- 各行に、数字を読み取ったPDFのページ番号を付ける
- 通知に書かれていない値は、空欄にして「記載なし」と書く
- 仕入表の品目名と一致しない行は、別の表に分けて出す
- 計算はまだしない「計算はまだしない」の一行が、段を分ける合図になります。品目名の不一致を別表にさせるのは、通知の表記と社内の品目コードが違うことが多いからです。ここで不一致が見つかれば、試算の前に直せます。
照合が済んだら、2回目の依頼で試算に進みます。
照合済みの新単価と、添付の仕入表をもとに、Excelファイルを作ってください。
シート1「入力」: 品目、旧仕入単価、新仕入単価、月間数量、現売価
シート2「試算」: 次の4パターンの売価・売上・粗利額・粗利率を品目別に出す
- 転嫁なし
- コスト増の全額を売価に上乗せ
- 粗利率を維持する売価に改定
- コスト増の半分を上乗せ(転嫁率はセルで変更できるように)
計算は値でなく数式で入れる。合計行と、現状との差額の列も付ける。Excelの出力は、ファイル作成の機能が担います。Free・Pro・Maxでは設定の「Capabilities」で、Team・Enterpriseでは組織の設定で有効にします。生成されたファイルは会話からダウンロードでき、1ファイルは30MBまでです。ファイル作成は通常のチャットより利用枠を多く使います。
転嫁案ごとの数式と結果
試算シートの数式は、入力シートの列に対して次のように書けます。1行目を見出しとして、A列を品目、B列を旧仕入単価、C列を新仕入単価、D列を月間数量、E列を現売価とします。
| 項目 | 数式(2行目) | 意味 |
|---|---|---|
| 影響額 | 数式(2行目)=(C2-B2)*D2 | 意味転嫁しない場合の月間コスト増 |
| 全額転嫁の売価 | 数式(2行目)=E2+(C2-B2) | 意味上がり幅をそのまま売価に足す |
| 粗利率維持の売価 | 数式(2行目)=E2*C2/B2 | 意味仕入と同じ比率で売価を上げる |
| 一部転嫁の売価 | 数式(2行目)=E2+(C2-B2)*$H$1 | 意味H1に転嫁率(0.5など) |
粗利率を維持する売価は、一見複雑に見えますが、式を整理すると「現売価 × 新仕入 ÷ 旧仕入」になります。仕入が10%上がったら、売価も10%上げる。それだけです。
架空の3品目で4パターンを計算すると、次の結果になります。数量は変わらないと仮定した値です。
| パターン | 月間売上 | 月間粗利額 | 粗利率 | 現状との粗利差 |
|---|---|---|---|---|
| 値上げ前(現状) | 月間売上168.0万円 | 月間粗利額51.0万円 | 粗利率30.4% | 現状との粗利差— |
| 転嫁なし | 月間売上168.0万円 | 月間粗利額45.1万円 | 粗利率26.8% | 現状との粗利差−5.9万円 |
| 全額上乗せ | 月間売上173.9万円 | 月間粗利額51.0万円 | 粗利率29.3% | 現状との粗利差±0 |
| 粗利率を維持 | 月間売上176.4万円 | 月間粗利額53.5万円 | 粗利率30.3% | 現状との粗利差+2.5万円 |
| 半分を上乗せ | 月間売上170.95万円 | 月間粗利額48.05万円 | 粗利率28.1% | 現状との粗利差−2.95万円 |
売価の内訳は、全額上乗せでAが5,120円・Bが2,090円、粗利率維持でAが5,280円・Bが2,120円、半分上乗せでAが4,960円・Bが2,045円です。
粗利額を守る案と、粗利率を守る案は別物
表を見ると、全額上乗せは粗利額を守りますが、粗利率は30.4%から29.3%に下がります。コスト増と同じ円を売価に足しても、分母の売上が増えるからです。
粗利率を守るには、上乗せの額をもう一段大きくします。この例ではAを480円、Bを120円上げる形で、粗利額は2.5万円増えます。そのぶん値上げ幅も大きくなります。
どちらを目標にするかは、事業の見方で決まります。額を守るなら全額上乗せ、率を守るなら率維持です。Claudeは両方の数字を並べられますが、どちらを採るかは決められません。
転嫁率を0.5に置いた案は、取引先との力関係や競合価格を見て、一部を自社で吸収する選択肢を試す列です。セルの転嫁率を0.3や0.7に変えるだけで、同じシートが別の案を出します。
数量は動かないと仮定している
この試算は、売価を上げても数量は変わらないと置いています。実際は、売価を上げた品目で数量が落ちることがあります。数量の落ち込みを織り込んで損益分岐を見る式は、値上げシミュレーションを離脱率つきで組ませる手順に数値例つきでまとめています。
Excelに出た数字の検算
Claudeが作った数式は、人が検算します。手順は3つです。
- 入力シートの値を、通知PDFと仕入表の原本に照らす。特に新単価の桁と、品目名の取り違えを見ます
- 転嫁なしの影響額の合計を、手で概算する。この例なら(320×100)+(90×300)=5.9万円で、シートの合計と一致するはずです
- 全額上乗せの粗利額が、現状と同じになるか見る。数式が正しければ、差額は必ず0になります
3つ目は、数式の取り違えを見つける近道です。全額上乗せで現状との差が0にならないなら、売価の列か、数量の参照が崩れています。
売価に端数が出る場合は、10円単位などの価格設定に合わせて丸めます。丸めを入れると、粗利率維持の案は厳密には維持されなくなります。丸めの方向(切り上げ・切り捨て)は人が決めて、数式にROUNDやCEILINGを足すよう頼みます。
既存のExcelの仕入表を直接編集したいときは、Excel用のアドインという手もあります。Claude for Excelは、数式の関係を保ったまま値を変える操作と、セルを引用した説明ができます。Pro・Max・Team・Enterpriseのプランで使えます。
落とし穴
データテーブルやマクロは扱えない
Claude for Excelは、データテーブルとマクロ・VBAの操作に対応していません。感応度分析をExcelのデータテーブル機能で組んでいる既存ファイルを渡す場合は、数式のシートに組み替えるか、人が手を入れます。
人が決める範囲と、取引先のファイルの扱い
Claudeが出すのは、渡した前提のもとでの計算です。次の判断は人が持ちます。
- 転嫁するか、どこまでか、いつからか
- 取引先に値上げの幅や時期を交渉するか
- 小売価格の改定を、競合や顧客にどう説明するか
交渉の準備として、通知が契約に沿っているかを確かめる作業は、Claudeで取引先の値上げ通知を契約・単価表と照合する手順で扱っています。この記事の試算は、その照合を終えた後の数字を粗利に変える段にあたります。
もう1つ気をつけたいのが、取引先から届いたファイルの扱いです。Claude for Excelのドキュメントは、外部から届いたファイルに隠された指示が混ざり、Claudeに意図しない操作をさせる可能性を警告しています。ファイル作成の機能についても、外部ファイルの指示で情報が外部に送られるリスクが説明されています。
仕入先が添付してきたExcelの単価表を、そのまま読み込ませる場合は、先に内容を目で確かめます。社内の仕入表や売価のデータを渡しているので、疑わしいファイルは中身を貼り直した別ファイルで試す選択肢があります。Claudeが予想外の操作を始めたら、止めて確かめます。
つまずきやすい点
- 通知の改定率と、自社の影響率がずれる: 通知の「平均◯%」は、仕入全体の平均です。自社の品目構成によって影響の重さは変わるので、必ず品目別に積み上げます
- 品目名が一致しない: 通知の品名と社内の品目名が違うと、行が合わずに計算から落ちます。読み取りの段で不一致の表を出させます
- 適用日をまたぐ月が混ざる: 月の途中から新単価になる場合、その月は旧単価と新単価の按分になります。初月を日割りにするか、翌月から全額にするかを決めて、数式の月数に反映します
- メニューや商品の原価計算と混同する: 飲食店のメニュー原価は、食材の歩留まりや仕込み量も絡みます。その手順はClaudeでHACCP衛生管理計画とメニュー原価計算を下書きする方法の原価計算の節にあります
まとめ
仕入の値上げは、品目別の「上がり幅 × 数量」を積み上げて初めて、粗利への影響が見えます。Claudeには通知の読み取りと試算シートの作成を任せ、読み取った数字の照合と、転嫁の方針は人が持ちます。
転嫁案は、粗利額を守る案と粗利率を守る案で結果が変わります。どちらを軸にするかを決めてから、転嫁率を動かして比べると、交渉の前に自社の許容ラインが数字で見えてきます。