値上げシミュレーションを離脱率つきでClaude for Excelに組ませる手順
価格帯別の顧客数と原価を入力シートに置き、値上げ幅と離脱率の組み合わせごとに粗利の増減を比べるシートをClaude for Excelに組ませる手順。損益分岐の離脱率の検算と、人が決める前提の線引きまで扱います。
自社の値上げを決める前に知りたいのは、値上げ幅ごとに「どこまで客が離れても粗利が減らないか」です。Claude for Excelは、価格帯別の顧客数と原価を置いた入力シートから、値上げ幅と離脱率の組み合わせごとに粗利の増減を並べる比較シートを、数式つきで組めます。ただし離脱率の仮定は人が置きます。この記事では、シートの設計、Claudeへの頼み方、検算、そして任せる範囲と人が決める範囲の線引きを数値例つきで扱います。
購買側の立場で取引先からの値上げ通知を契約と突き合わせる作業は、取引先の値上げ通知を契約・単価表と照合する手順が別の話です。ここで扱うのは、自社が価格を上げる側の試算です。財務モデル全般の組み方はClaudeで財務モデルを作成する手順にあります。
値上げの損益分岐は離脱率の1つの式で決まる
値上げシミュレーションとは、価格を上げたときの顧客数の減り方を仮定し、粗利の増減を事前に比べる試算です。粗利が増えるか減るかの境目は、次の式で出せます。
- 値上げ幅をx、粗利率(粗利 ÷ 売上)をgとします
- 粗利が現状と同じになる離脱率はx ÷ (g + x)です
- 離脱率がこれを下回れば値上げで粗利が増え、上回れば減ります
この式は、1顧客あたりの粗利が(価格 − 原価)から(価格 × (1 + x) − 原価)に増える一方、残る顧客が(1 − 離脱率)倍になることから導けます。たとえば月額8,000円、原価2,800円(粗利率65%)のプランを10%値上げすると、損益分岐の離脱率は0.10 ÷ 0.75で約13.3%です。8,800円になって1顧客あたりの粗利は5,200円から6,000円に増え、顧客が約86.7%残れば総額は元に戻ります。
粗利率が低いプランほど、同じ値上げ幅でも耐えられる離脱率は大きくなります。逆に粗利率が高いプランは、値上げで得られる上乗せ額が売上に対して小さく、分岐の離脱率が低くなります。プランごとに分岐が違うので、全体の平均でなく価格帯別にシートを組む意味がここにあります。
この式は粗利だけを見た簡易の見方です。離脱した顧客の原価はなくなると仮定していますが、固定費は減りません。更新時期が分かれる年額契約や、上位プランからの格下げも含まれません。シートはこの簡易モデルを土台にして、必要な論点を足していく形にします。
入力シートに置く情報と、人が決める前提
Claudeに頼む前に、事実と仮定を別のシートに分けます。事実は帳簿や契約管理から転記できる数字、仮定は人が判断して置く数字です。
| 区分 | 項目 | 例 | 置く人 |
|---|---|---|---|
| 事実 | 項目価格帯ごとの現行価格 | 例3,000円 / 8,000円 / 20,000円 | 置く人担当者が転記 |
| 事実 | 項目価格帯ごとの顧客数 | 例400 / 250 / 60 | 置く人担当者が転記 |
| 事実 | 項目顧客1件あたりの原価 | 例1,200円 / 2,800円 / 6,000円 | 置く人経理と確認 |
| 仮定 | 項目値上げ幅の候補 | 例5% / 10% / 15% / 20% | 置く人事業責任者 |
| 仮定 | 項目離脱率の候補 | 例5% / 10% / 15% / 20% | 置く人事業責任者 |
離脱率は、過去の値上げ実績、解約理由の記録、競合の価格などから人が見積もる数字です。Claudeに「妥当な離脱率を決めて」と頼むと、根拠のない数字が前提のように並びます。値は人が入れ、Claudeには置き場所と数式を任せるのが基本線です。
事実の列には、原価の定義を1行添えておくと検算が楽になります。決済手数料やサポート人件費を原価に含めるか、含めないかを決めずに進めると、粗利率が使うたびにぶれます。
Claudeへの頼み方 — 入力シートと比較シートを分ける
ブックを開いてClaude for Excelに頼みます。入力が済んでいるなら、依頼の中心は「入力シートを参照する比較シートを作る」ことです。
「入力」シートの価格帯別の価格・顧客数・原価を使って、
新しいシート「比較」に値上げシミュレーションを作ってください。
- 値上げ幅(行)と離脱率(列)の候補は「入力」シートの値を参照する
- 各セルは現状の粗利との差額を出す。値は直接書かず数式で計算する
- 価格帯ごとの表と、全価格帯の合計表を分ける
- 損益分岐の離脱率を値上げ幅ごとに別の行で出す
- 「入力」シートは変更しないポイントは、候補値を比較シートに直接書かせず、入力シートを参照させることです。Claude for Excelは、数式の関係を保ったまま前提を書き換える使い方が想定されています。値上げ幅の候補を12%に変えれば、比較シートが自動で再計算される形が望ましいからです。
候補値を入力から読ませれば、「離脱率の仮定を3パターンに変えたい」と思ったときに数式を触らずに済みます。一度組んだ比較シートを使い回せる利点があります。
比較シートの数式の形
価格帯1つの表は、行に値上げ幅、列に離脱率を置き、各セルに粗利の増減を出す形にします。式の骨格は次の1本です。
=顧客数*(1-離脱率)*(現行価格*(1+値上げ幅)-原価)
-顧客数*(現行価格-原価)セル参照に直すと、たとえば次のようになります(「入力」シートのB列が価格、C列が顧客数、D列が原価という配置の例です)。
=入力!$C5*(1-C$12)*(入力!$B5*(1+$B13)-入力!$D5)
-入力!$C5*(入力!$B5-入力!$D5)絶対参照($)の付け方が崩れると、表の右下のセルだけ値が狂います。入力シートの参照は行列とも固定し、離脱率は列固定、値上げ幅は行固定にするのが通例です。
この記事のモデル(月額8,000円・250件・原価2,800円のプラン)で全セルを計算すると、現状の粗利は130万円で、増減は次の表になります。
| 値上げ幅 \ 離脱率 | 5% | 10% | 15% | 20% |
|---|---|---|---|---|
| 5% | 5%+3.0万円 | 10%−4.0万円 | 15%−11.0万円 | 20%−18.0万円 |
| 10% | 5%+12.5万円 | 10%+5.0万円 | 15%−2.5万円 | 20%−10.0万円 |
| 15% | 5%+22.0万円 | 10%+14.0万円 | 15%+6.0万円 | 20%−2.0万円 |
| 20% | 5%+31.5万円 | 10%+23.0万円 | 15%+14.5万円 | 20%+6.0万円 |
符号の変わり目が、先ほどの損益分岐です。10%の値上げでは離脱率10%で+5.0万円、15%で−2.5万円と、13.3%の手前で逆転しています。15%の値上げは分岐が約18.8%なので、離脱率15%が+6.0万円、20%が−2.0万円です。
Claudeが組んだ表の数字がこの形と違えば、数式のどこかが崩れています。次の節の手順で見つけます。
検算で見る3点
Claudeが返した比較シートは、そのまま意思決定に使わず、次の3点で確かめます。
- 離脱率0%の列は、売上の増加分と粗利の増加分が一致するか。原価が変わらないので、値上げ幅 × 現行価格 × 顧客数がそのまま出ます
- 損益分岐の行の離脱率で、増減がほぼ0になるか。上の例なら、値上げ10%・離脱率13.3%で増減が0に近づきます
- 合計表が価格帯別の表の足し合わせと一致するか。各表の同じ位置のセルを足して比べます
Claude for Excelにはセル単位の根拠を示す引用の機能があり、「この合計セルはどの表のどのセルを足しているか」と聞くと、参照先をたどれます。数字が合わないときは、数式が参照しているセルを聞き、入力シートの転記ミスか数式の組み間違いかを切り分けます。
シートが返ってきた直後に「離脱率を3ポイント増やしたらどう変わるか」と続けて頼むのも検算になります。前提を書き換えたときに、依存するセルが一貫して再計算されるかを見られます。
感応度の表を数式で組む理由
Excelには、2つの変数を振った結果を並べる「データテーブル」(What-If分析)の機能があります。ただしClaude for Excelはデータテーブルに対応していません。マクロやVBAの操作もできません。
そのため、値上げ幅と離脱率の表は、データテーブルに頼らず各セルに通常の数式を置く形で組みます。この記事の数式は、すべてのセルが入力シートの値から直接計算されるので、この制約と相性が良い設計です。既存のブックにデータテーブルで作った感応度表がある場合は、Claudeに触らせず、同じ結果を数式で出す別シートを作らせて照合する進め方になります。
人が置く線引き
値上げの試算で、Claudeに任せてよい範囲と、人が決める範囲は次のように分かれます。
| 作業 | Claudeに任せる | 人が決める |
|---|---|---|
| 入力シートの項目と置き場所の設計 | Claudeに任せる○ | 人が決める項目の採否 |
| 比較シートの数式の組み立て | Claudeに任せる○ | 人が決める検算 |
| 損益分岐の離脱率の計算 | Claudeに任せる○ | 人が決める式の前提の確認 |
| 離脱率の候補値 | Claudeに任せる候補の書式のみ | 人が決める数字の根拠と採用 |
| 値上げ幅の最終決定 | Claudeに任せる一覧化まで | 人が決める判断と責任 |
| 顧客への告知文面 | Claudeに任せる下書き | 人が決める内容の確認と送付 |
Claude for Excelの公式ドキュメントは、人のレビューなしの最終成果物や、監査に直結する計算の検証なしの利用を推奨しないとしています。値上げの試算も、社内の意思決定資料として使う前に、人が数式と前提を確かめる前提です。
離脱率の仮定を現実に近づける追加の論点
簡易モデルを土台にして、実務では次の論点を1つずつ足していきます。どれも「入力シートに前提を足す」ことで対応でき、Claudeには追加の列と数式を頼みます。
- 価格帯ごとに離脱率を変える: 低価格帯は価格に敏感で、上位プランは乗り換えコストが高い、といった差を別の仮定として入力する
- 格下げの扱い: 離脱でなく下位プランへの移行が起きる場合、移行先の粗利で計算する列を足す
- 固定費の扱い: 離脱で減らない固定費を明示し、粗利でなく貢献利益で比べるシートを別に作る
- 更新時期: 年額契約は更新月まで価格が変わらないため、増減が出るまでの月数を持つ
これらを一度に頼むと、検算が難しくなります。1論点ずつ追加して、そのたびに先ほどの3点を確かめる進め方が安全です。
つまずきやすい点
- 候補値が数式に直書きされていないか: 比較シートのセルを数点選び、10%のような数値が数式に埋め込まれていないかを確かめます。あれば入力シートの参照に直させます
- 粗利率が1つに固定される: 価格帯別の原価を渡し忘れると、全価格帯に同じ粗利率が使われます。入力シートに価格帯ごとの原価の列があるかを先に見ます
- 外部から受け取ったブックを開く: 公式ドキュメントは、外部から受け取ったファイルには隠れた指示が含まれうると注意しています。取引先や他部署から受け取った顧客リストを使うときは、信頼できるコピーを作ってから進めます
- 広範囲の上書き: Claude for Excelは既存データの上書き前に警告を出しますが、最初は信頼できるコピーで試し、変更内容を確かめてから本番のブックに適用します
利用できるのはPro、Max、Team、Enterpriseの各プランです。Excel on the web、Windowsの対応ビルド、Macの対応バージョンで動作し、iPadとAndroidには対応していません。
まとめ
値上げの試算は、損益分岐の離脱率という1つの式と、値上げ幅 × 離脱率の表だけで骨格ができます。Claude for Excelに任せると効率が上がるのは、入力シートを参照する数式の組み立てと再計算の部分です。離脱率の候補は人が根拠を持って置き、合計表と損益分岐の行で検算してから使います。顧客への告知や契約条件の確認まで進める場合は、価格交渉の値引き条件と想定問答の整理や、他のExcel活用の月次予実対比レポートも同じ「人が決める範囲を分ける」考え方で使えます。Copilotとの違いを知りたいときはClaude for ExcelとCopilotの比較が入口です。