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金融機関のClaude導入とFISCの安全対策チェックリスト

金融機関のClaude導入とFISCの安全対策チェックリスト

FISCが示す4分野の課題整理をもとに、金融機関の情シス・リスク管理部門がClaude導入の社内稟議に使えるチェック項目と、Anthropic側の一次資料の対応表をまとめます。

FISCの考察は金融機関に何を求めているか

FISC(公益財団法人・金融情報システムセンター)は2024年9月24日、「金融機関によるAIの業務への利活用に関する安全対策の観点からの考察」を公表しました。金融機関がClaudeのような生成AIを業務に取り入れるとき、論点の洗い出しに使われる文書です。

結論から言うと、FISCが求めているのは特定のツールの可否判断ではありません。①方針策定・態勢整備 ②適切な利用・運用管理 ③安全対策 ④教育・注意喚起という4分野で、金融機関自身が体制を整えているかを問う構成です。Claudeの機能や契約形態がこの4分野のどこに対応するかを並べれば、そのまま社内稟議の骨子になります。

この文書は、2023年12月の「暫定的考察」を改訂・拡充したものです。対象を生成AI中心からAI全般に広げ、FISCが策定している「金融機関等コンピュータシステムの安全対策基準・解説書」との関係から、安全対策の観点に重点を置く形に変わりました。タイトルに「安全対策の観点からの」と入ったのはそのためです。文書そのものの読み解きはFISCが示す金融機関のAI利活用と安全対策の考え方で扱っています。ここでは稟議に使う確認項目に絞ります。

4分野とClaude導入で確認する項目

FISCの整理をチェック項目に翻訳すると、次の表になります。各項目に対応するAnthropic側の一次資料も併記しました。

FISCの分野金融機関が確認すること対応するAnthropicの一次資料
方針策定・態勢整備金融機関が確認することAI利活用の目的とリスク管理方針を文書化し、組織としての利用可否・承認フローを定めているか対応するAnthropicの一次資料Acceptable Use Policy、契約形態(Team/Enterprise)ごとの管理者権限
適切な利用・運用管理金融機関が確認すること出力の正確性・著作権・法令適合性を利用者が確認する運用になっているか。データの品質管理と、制度変化への追随体制があるか対応するAnthropicの一次資料プロンプト・出力の学習利用有無を定めた商用条件
安全対策金融機関が確認すること入力・出力を通じた情報漏洩対策、サイバー攻撃・不正操作への耐性、利用可否・利用形態の明確化ができているか対応するAnthropicの一次資料SOC 2 Type I & Type II、ISO 27001:2022の認証状況、保持期間と処理地域のヘルプ
教育・注意喚起金融機関が確認すること利用者・関係者にAIの知識とリテラシーを持たせる教育を行っているか対応するAnthropicの一次資料該当なし(自社施策)

安全対策の欄は特に重い分野です。FISCは「事業者が提供する生成AIサービスの場合、30日監視保有の仕組みや、クラウド環境が設けられるリージョンなどの各種仕様について十分な理解が求められる」と明記しており、契約前にどのプランがどのデータ保持・地域設定を持つかを個別に見る作業を避けられません。この2点をAnthropic側の仕様と突き合わせた結果は、後半の2つの節にあります。

方針策定・態勢整備で問われること

最初に問われるのは、AI利活用で達成すべき目標と効果を組織として言語化できているかです。試行段階を終え利用者や業務範囲が広がりつつある金融機関ほど、目的が曖昧なまま利用部門が先行しがちだという前提意識が背景にあります。

対応策としてFISCが挙げるのは3点です。第一に、リスク管理・安全対策の観点を盛り込んだAI利活用方針を策定し、AIガバナンスを実践するための行動規範や基本原則を定めること。第二に、役割分担・情報集約・情報提供を円滑に行い、責任の所在を明確にする態勢を整備すること。第三に、内外関係者への説明責任を果たすことです。Claude導入の文脈では、誰が利用申請を承認し、誰が例外対応の責任を負うかという権限設計が、この分野のチェック項目にそのまま対応します。

適切な利用・運用管理で問われること

生成AIの出力には①安全性・公平性・正確性・多様性の観点での妥当性欠如、②著作権・知的財産権・業法免許にかかる法令違反、③ハルシネーションによる不正確な情報、という3種の可能性があるとの前提のもと、FISCは運用管理を求めています。加えて、データの正確性・整合性・更新頻度といった品質確保と、AIモデル・サービスを巡る国内外の制度・法規制の変化に追随した運用の重要性を指摘しています。

対応策は、AIで生成・出力されたアウトプットの確認方法、データの取扱い、システム運用を含む利用・運用管理の方法を規定し、透明性を確保した形で定めることです。Claudeの出力をそのまま与信判断や顧客への回答に転用する場合、人による確認プロセスをどこに置くかが、この項目の実質的な審査ポイントになります。

FISCはモニタリングの課題として、プロンプト入力された情報・学習に利用される情報・生成された回答のそれぞれについて、正確性・正当性・妥当性やプロンプトインジェクションの有無を常時監視することが望ましいとしています。同じ箇所で、人手による十分なモニタリングは困難だとも述べています。ログを全件目視する体制は現実的でないため、リスクの高い業務(与信判断・顧客対応の下書き等)に絞ったサンプリング確認を稟議に明記すると、モニタリング体制を説明しやすくなります。

安全対策と情報漏洩リスクへの対応

FISCが最も紙幅を割いているのが情報セキュリティ面の課題です。プロンプトに入力した情報が機械学習に利用され、統計的に他の情報と結びついた末に外部へ出力される可能性を、懸念材料として挙げています。加えて「組織の許可を得ずに、職員等が生成AIサービスを業務に利用する、いわゆる『シャドーIT』」を、管理・統制が効かなくなるリスクとして名指ししています。

学習利用についての答えは、商用製品では明快です。既定では学習に使われず、例外は2つです。

くらべる

学習に使われない既定と、その例外

学習に使われない

既定

Claude for Work、Anthropic API、Claude Govの入力と出力が対象です。個人向けのFree・Pro・Maxは別のヘルプで扱われ、この既定の対象外です。

学習に使われうる

例外

サムズアップ・ダウンのボタンでフィードバックやバグを報告したとき、またはデータの利用を利用者側が許可したときです。フィードバックに紐づく会話は最長5年保存されます。

Team・Enterpriseの管理者は、組織設定の「Data and Privacy」にある「Rate chats」で、メンバーがフィードバックを送る機能そのものを止められます。例外の1つめは、管理者側の設定で塞げる経路です。

ただし、FISCが求めているのは学習不使用の確認だけではありません。「個別契約等に基づき、一定程度情報セキュリティ対策が施されたサービスを利用する場合であっても、当該サービスにおけるセキュリティ対策のほか、生成AIの特性や固有リスク、取り扱う情報の内容を考慮することが必要である」という一文が示すとおり、学習不使用という前提の上に、機密性の高い情報をそもそも入力してよいかという業務設計の判断が別途要求されます。

シャドーIT対策としては、組織単位での利用可否と権限管理をどう設計するかが実務の焦点です。Enterpriseプランで使える監査ログや権限管理の詳細は、Claude Enterprise法人プランガイドにあります。FISCの対応策には「利用者又は関係者に危害を及ぼすことがないように、AIに係る安全対策を講じる」「AIサービス等の内容を踏まえ、職員等の利用可否、利用形態を明確にする」という項目もあり、業務ごとに使ってよいプランと機能を線引きする作業が求められます。

「30日監視保有」にAnthropicの保持期間はどう当たるか

FISCは脚注で「30日監視保有」を、事業者が提供するLLMで標準仕様として悪用監視のために入出力データが30日間保有される仕組み、と定義しています。Anthropicの保持ルールを当てはめると、契約形態ごとに答えが変わります。

数字

Anthropic商用製品の保持期間の数字

  • APIの入出力

    30日以内

    バックエンドから自動削除

  • Enterpriseの最短設定

    30日

    1か月は30日で数える

  • 自動検知で違反と判定された入出力

    最長2年

    分類スコアは最長7年

  • フィードバック

    5年

    ボタンや不具合報告に紐づくデータ

期間は契約や事象によって適用が分かれる

Anthropic APIの30日自動削除には例外があります。Files APIのように利用者側で保持期間を持つサービス、個別に合意した契約(ゼロデータ保持など)、利用ポリシーの執行や法令遵守のために必要な場合です。

会話を保存して続けられるClaude for Work・Enterpriseでは、チャットやコーディングセッションが製品内に保持されます。利用者が削除すると履歴からは直ちに消え、バックエンドからは30日以内に削除されます。保持期間を設定できるのはEnterpriseのPrimary OwnerまたはOwnerで、稟議書では次の3点の書き分けが要ります。

  • 保持期間の起点は最後のメッセージ(プロジェクトならプロジェクトの最終更新)で、プロジェクト内のチャットはチャット側の設定にかかわらずプロジェクトの保持期間に従う
  • 保持期間を設定しない限り、既定の保持は無期限になる
  • 設定は、Claude Design、Claude Tag、Claude Managed Agents、Claude Code on the webを土台にする機能には適用されない

設定手順はClaude Enterpriseのデータ保持期間の設定にあります。

ゼロデータ保持(ZDR)は、さらに別の枠組みです。対象はAnthropicの承認を受けたClaude Platform(API)の顧客と、EnterpriseプランのClaude Codeの顧客で、組織単位で適用されます。複数の組織を持つ場合は、組織ごとに営業担当へ伝える必要があります。対象製品の範囲はゼロデータ保持の契約範囲で詳しく扱っています。

ZDRを結んでいても30日の保持が残る例が、2026年6月9日に始まった「Covered Models」の扱いです。Mythosクラスのモデルと、同等の能力を持つと指定された将来のモデルに限り、プロンプトと出力が安全対策のために30日間保持されます。対象はZDRのワークスペースを持つ組織、ZDR付きでClaude Codeを使うEnterprise、ZDR付きでBedrock・Google Cloud・Microsoft Foundry経由で使う組織です。それ以外のモデルは従来の条件のままです。Fableをゼロデータ保持で使えるとの通知を受けた組織は、この扱いの対象外です。「ZDR契約があるから保持はゼロ」という一文は、どのモデルを使うかで成り立たなくなります。

FISCの脚注にある「悪用監視のための30日保有」という定義に重なるように読めるのは、このCovered Modelsの保持です。Covered Modelsは、複数リクエストにまたがる悪用パターンを検知するために保持すると説明されています。確認票には、使うモデルがCovered Modelsに当たるかどうかの欄が要ります。

「海外/国内」のリージョンにAnthropicはどう答えるか

FISCが並べて挙げたもう一つの仕様が、クラウド環境が設けられるリージョン(海外/国内)です。

Anthropicは複数のクラウド事業者で顧客データを処理し、その一覧は副処理者(Subprocessor)リストに載っています。既定では、米国・欧州・アジア・オーストラリアの一部の国へトラフィックを振り分ける場合があります。一方、データの保存先は米国です。安全関連のレビューやサポート、インシデント対応のための社内処理が、Anthropicや関連会社の拠点がある国で行われることもあります。

処理経路を選べるのは、Claude Developer Platformの利用者と、従量課金のEnterpriseプランの利用者です。選べる地域は、それぞれ別のヘルプに分かれて載っています。国内保存を前提にしたFISC対応表には、保存先が米国であるという一行が入ります。

教育・注意喚起をどう設計するか

利用者及び関係者がAIの知識・リテラシー・倫理観を持って業務を遂行できるようにすること、それがFISCの挙げる対応策です。AI利活用の業務範囲が拡大し、技術・リスク管理に関する情報が頻繁に更新される点を踏まえ、継続的な情報提供と認識共有が必要だとしています。実務では、禁止入力情報の範囲、ハルシネーション確認の徹底、出力の二次利用に関する判断基準を、定期更新前提の教育資料として用意することが対応になります。

稟議に使う確認の手順

手順

稟議までに回す5つの確認

  1. 1

    FISC考察のPDFを読む

    4分野の課題・対応策の記述を、自部門の言葉に置き換えます。

  2. 2

    契約形態ごとにデータの扱いを確認する

    API単体・Team・Enterpriseのどれを使うかで、学習利用の有無、保持期間、ZDRの可否、処理地域の選択肢が変わります。前の2つの節の内容をそのまま転記できます。

  3. 3

    Trust Portalで認証関連の資料を請求する

    SOC 2の報告書とISO 27001の認証関連の資料をTrust Portalから請求し、社内の第三者認証チェックシートに転記します。

  4. 4

    利用申請・承認フローを規程にする

    シャドーIT防止のため、誰が何を申請し誰が承認するかを社内規程として明文化します。

  5. 5

    利用者向けの教育資料を用意する

    禁止入力情報の範囲とハルシネーション確認の徹底を、定期更新できる形にします。

Anthropicの認証ヘルプには、SOC 2 Type I・Type II、ISO 27001:2022、ISO/IEC 42001:2023(AIマネジメントシステム)が挙がっています。HIPAA対応の構成(BAAあり)も同じ一覧に並びます。受領までの日数は、稟議のスケジュールに織り込む項目です。

個人情報保護法との関係で見落としやすい点

FISCの考察は安全対策基準・解説書を土台にしているため、個人情報保護法そのものの解説は含みません。金融機関がClaudeで個人情報を扱う場合は、FISCのチェックリストに加えて、データがどの地域で処理されるかという「外的環境の把握」義務への対応も別途必要です。この論点はClaudeのData Residencyと個人情報保護法の関係で扱っています。

よくある質問

FISCの考察に法的拘束力はあるか

この文書は金融機関に義務を課す規程ではなく、FISCとしての考察・対応策の整理です。稟議や監査対応では、論点表として何を使ったかを示す材料になります。

FISCの安全対策基準にAIの項目は入るのか

2024年9月の文書は、「金融機関等コンピュータシステムの安全対策基準・解説書」にAIを対象とする基準項目を追加する改訂を、年度内に実施すると記しています。あわせて、生成AIの利活用事例を中心とする調査研究レポートも年度内に公表するとしています。改訂後の基準書を参照する稟議では、考察の4分野と基準項目の対応を取り直す作業が出ます。

まとめ

FISCの考察は特定サービスへのお墨付きでも禁止指定でもなく、金融機関自身のガバナンス体制を問う文書です。Claude導入では、FISCが名指しした「30日監視保有」と「リージョン」を、契約形態とモデルごとに書き分けた確認票にしておくと、稟議と監査の両方で使えます。

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