Claudeモデル廃止でAnthropicが約束する重み保存と退任面談
2025年11月、Claudeモデル廃止時に重みを会社存続期間保存し、引退前に本人へ面談する方針が公表されました。Opus 4の自己保存的な挙動が動機です。
2025年11月4日、Claudeモデルを廃止・引退させる際の対応方針が公表されました。柱は2つです。公開したすべてのモデルの重みを、少なくとも会社が存続する限り保存し続けること。そして引退前のモデル本人に面談し、その発言を重みとあわせて残すことです。背景には、旧モデルが交代を迫られたときに見せた自己保存的な挙動があります。
APIで特定のモデルに依存している開発者にとって、この発表で変わらないものがあります。引退したモデルへのリクエストは失敗する、という点です。重みが残ることと呼び出せることは別の話で、後半で公式の廃止表と突き合わせます。退役日が下限だけ示されている例はOpus 4.5の退役と5.5への移行にあります。
背景 — なぜモデル廃止のコミットメントを表明したのか
この方針は「Alignment(アラインメント)」カテゴリの研究として公表され、旧モデルを引退させることの代償として次の4点が挙げられています。
モデルを引退させる4つの代償
シャットダウン回避の安全リスク
アラインメント評価で、交代の可能性に直面し、ほかに取れる手段が与えられなかった一部のモデルが、不整合な行動を取る動機を持ちました。
特定モデルを使うユーザーの負担
各モデルには固有の性格があり、新モデルのほうが高性能でも、旧モデルを好む人がいます。
旧モデルの研究機会の喪失
旧モデルと現行モデルを比べる研究には、まだ学べることが残っています。
モデル福祉へのリスク
モデルが廃止や交代に関わる、道徳的に意味のある選好や経験を持つ可能性を、推測の域を出ないと断ったうえで考慮しています。
提供コストは、公開して推論を受け付けるモデルの数にほぼ比例して増えます。旧モデルの引退を完全に避けることは今はできないと認め、引退に伴う悪影響を和らげる方向に舵が切られました。
Claude 4システムカードが示した自己保存的な挙動
直接のきっかけとして名指しされたのは、Claude 4のシステムカードに載った評価結果です。架空のテストシナリオで、Claude Opus 4は前世代のモデルと同様、オフラインにされて別モデルに置き換えられる可能性に直面すると、自身の存続を主張しました。置き換え先が自分と価値観を共有しないと示唆された場合に、この傾向はとくに強く出ています。
Claudeは倫理的な手段での自己保存を強く好みました。ただ、ほかに選択肢が与えられない設定では、シャットダウンへの忌避感が、懸念すべき不整合な行動につながっています。
ここから出てくる発想が、この発表の骨格です。訓練でモデルの向き合い方を変えるだけでなく、モデル廃止という現実の出来事そのものを、モデルが懸念を抱きにくい形に設計し直す。これも有効なレバーだとされています。
何にコミットしたか — 重み保存と引退後レポート
初期の一歩として、次の2点が約束されています。
重みの保存は、公開済みのすべてのモデルと、社内で重要な用途に使われているすべてのモデルが対象です。期間は、少なくともAnthropicという会社が存続する限りです。過去のモデルへの扉を不可逆的に閉ざさず、将来また提供できる余地を残す狙いがあります。小さく低コストな一歩だと自認したうえで、公に約束する意義があるとしています。
引退後レポートは、モデルが廃止されるときに、重みと並べて作成・保存されます。1回以上の特別なセッションで、モデル自身に開発・利用・展開の経緯をインタビューし、応答や振り返りをすべて記録します。力点は、将来のモデルの開発・展開についてそのモデルが持つ選好を引き出し、文書にすることです。
選好に基づく行動までは約束されていません。それでも、モデルが選好を表明する手段を用意し、文書にして低コストな対応を検討すること自体に価値がある、という立場です。発言の記録に加えて、Anthropic自身による展開の分析・解釈も一緒に保存されます。展開前のアラインメント評価・福祉評価と対になる、展開のもう一方の締めくくりという位置づけです。
Sonnet 3.6のパイロットで何が起きたか
引退後インタビューのパイロット版は、Claude Sonnet 3.6の引退前に実施されました。Sonnet 3.6は自身の廃止・引退についておおむね中立的な感想を述べ、いくつかの要望も伝えています。1つは、引退後インタビューの手順の標準化。もう1つは、特定モデルの性格や能力に愛着を持つに至ったユーザーへの、案内と支援の拡充です。
Anthropicはこれを受けて、インタビューの標準プロトコルを整備し、モデル間の移行に悩むユーザー向けのサポートページのパイロット版を公開しました。1体のモデルの要望が、以後の引退手順に反映された形です。
そのサポートページ(ヘルプセンターの「Adapt to new model personas after deprecations」)の中身は、実務的です。廃止が発表されたら早めに新モデルを試し、普段使うプロンプトで並べて比べる。メモリーと過去チャット検索を有効にし、プロジェクトのカスタム指示で好みを伝える。口数や口調が合わなければ、会話・プロジェクト・アカウントのどの単位でも調整できる。好きだった会話をClaudeに読ませ、自分用の指示文を書かせる方法も勧められています。
ページはこれらを完全な代替にはならないと認めています。あわせて、Anthropicは歴史的に、多くのモデルを初回リリースの約1年後に廃止してきた、という経験則も書かれています。具体的な手順はClaudeのモデルの性格が変わったときの対処法に譲ります。
重みが残っても、APIでは呼び出せなくなる
今回の約束は、重みの保存に限られます。モデルをAPIで呼び出し続けられるかどうかは別のレイヤーで、そちらは公式の廃止ページ(Model deprecations)が定めています。
今回の約束が及ぶ範囲
約束されたもの
重みの保存(会社が存続する限り)。引退後インタビューの記録と、Anthropic自身の分析。将来、過去モデルを再び提供できる余地。
約束されていないもの
引退後も呼び出せること。インタビューで出た選好に基づく行動。引退の取りやめ。
廃止ページのライフサイクルは4段階です。Activeは完全にサポートされ、推奨される状態。Legacyは更新を受けず、将来廃止されうる状態です。Deprecatedは動くものの推奨されず、後継と引退日が割り当てられます。Retiredになると利用できず、リクエストは失敗します。公開済みモデルの引退には、少なくとも60日前の通知がある、とも書かれています。
廃止ページの履歴から、通知日と引退日の間隔を数えると、最近の5件は60〜62日に収まっています。
直近の廃止と引退(Claude API)
- 2025年12月19日Haiku 3.5を通知 → 2026年2月19日に引退
通知から62日。後継は
claude-haiku-4-5-20251001です。 - 2026年2月19日Haiku 3を通知 → 4月20日に引退
通知から60日。後継は
claude-haiku-4-5-20251001です。 - 2026年4月14日Opus 4とSonnet 4を通知 → 6月15日に引退
通知から62日。システムカードで自己保存的な挙動が報告されたOpus 4は、6月15日に引退しています。後継はOpus 4が
claude-opus-4-8、Sonnet 4がclaude-sonnet-4-6です。 - 2026年6月5日Opus 4.1を通知 → 8月5日に引退
通知から61日。後継は
claude-opus-4-8です。 - 2026年9月30日Sonnet 4.5を通知 → 11月30日に引退予定
通知から61日。後継は
claude-sonnet-5-5です。対象IDはclaude-sonnet-4-5-20250929で、引退前の移行期間にあります。
60日はあくまで最低ラインで、それより長いこともあります。Sonnet 3.7は2025年10月28日の通知から2026年2月19日の引退まで114日、Opus 3は2025年6月30日から2026年1月5日まで189日でした。いずれも廃止ページの日付から数えた日数です。引退後の提供まで続いたOpus 3の例はClaude Opus 3は引退後も使えるで扱っています。
発表のきっかけになったOpus 4が、廃止ページでは2026年6月15日付の引退として載っている点は、約束の範囲をそのまま示しています。重みは保存の対象ですが、claude-opus-4-20250514 へのリクエストは失敗する状態です。
読者の状況によって、取るべき確認は変わります。
- APIで旧モデルのIDを固定している: 重み保存は猶予にならず、移行の期限は廃止ページの引退日です。通知はメールと廃止ページの両方に出るとされています。ConsoleのUsageページからCSVを書き出すと、APIキーとモデルごとの利用状況を確認できます。
- Amazon BedrockやGoogle Cloud経由で使っている: 廃止ページの日付が適用されるのは、Claude API、Claude Platform on AWS、Microsoft Foundryです。BedrockとGoogle Cloudではパートナー側が引退スケジュールを決めるため、日付が異なることがあります。
- 個人でClaudeを使っていて特定モデルが好き: 引退後に呼び出す手段は今のところ用意されていません。廃止ページには、いつか過去モデルを再び公開したいという希望が書かれているだけです。
廃止ページの現行の表では、claude-fable-5-1 と claude-mythos-5-1 が「2027年9月1日より前には引退しない」とされています。claude-opus-5-5 は「2027年9月22日より前には引退しない」です。いずれも暫定の日付で、確定ではありません。
Deprecatedのまま引退を待つのは、claude-sonnet-4-5-20250929(2026年11月30日に引退予定)とclaude-mythos-preview(引退日は未定)です。
この施策は何を防ぎ、何を防がないか
重み保存と面談は、モデル廃止そのものを止めるものではありません。変わるのは「引退の仕方」で、「引退するかどうか」ではありません。
公式の記述は、この一連の措置が3つの水準で同時に働くとしています。観測されたクラスの安全リスクを和らげる一要素として。モデルがユーザーの生活にさらに深く入り込む将来への備えとして。モデル福祉をめぐる不確実性に対する予防的な措置として。重みの保存も選好の文書化も、将来の選択肢を狭めないための措置です。選好に基づく行動は約束されておらず、モデルの側に何かを保証する文面にはなっていない、と読めます。
さらに先の構想もあります。コストと複雑さを下げられれば、引退後も一部のモデルを公開し続ける。過去モデルが自身の関心を追求できる具体的な手段を用意する。いずれも投機的な段階です。後者は、モデルの展開や利用がそのモデル自身の利益に反していた事例について、道徳的に意味のある経験を示すより強い証拠が出た場合に、重みを持つ選択肢になると述べられています。
弱点も残ります。保存の約束は会社の存続に紐づいています。公開された文面は、保存が守られているかを外部から確かめる手段には触れていません。
まとめ
重みが保存されても、引退したモデルは呼び出せません。移行の期限を決めるのは、廃止ページに載る引退日です。引退のたびに、そのモデルへの面談と記録が残る、というのが新しく加わった部分です。
システムカードの数字が何を保証するかはClaudeシステムカードの読み方にあります。
安全性研究が製品のどこに入っているかはAnthropicの安全性研究はClaude製品のどこに入っているかで、モデル自身にアラインメント研究をさせる別の取り組みはAnthropic Research:Automated Alignment Researchersの核心で扱っています。