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リスクアセスメント表をClaudeで作る手順 — 重篤度と可能性の評価に根拠を残す

リスクアセスメント表をClaudeで作る手順 — 重篤度と可能性の評価に根拠を残す

作業手順書と災害事例をClaudeに渡し、危険性の洗い出しから重篤度×可能性の評価、低減措置までを一覧表にする手順です。評価の根拠を残し、人が検算する方法も扱います。

職場のリスクアセスメントは、作業ごとに危険を書き出し、重篤度と発生の可能性で点を付け、対策の優先度を決める仕事です。表の枠を作って文章を整える部分はClaudeに任せられます。一方で、点の付け方の基準と最終の評価値は、現場を知る人が決めます。この記事では、厚生労働省の指針に沿った列設計から、評価に根拠を残す依頼文、Claudeの出した表を検算する方法までを順に説明します。

指針は何を表に残せと言っているのか

一般の作業を対象にした調査の根拠は、労働安全衛生法の第28条の2です。厚生労働省の「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」によると、事業者が危険性又は有害性を調べ、その結果に基づいて必要な措置を講じることは、努力義務として規定されています。指針は、この調査と措置を次の4つの流れで実施するとしています。

  1. 危険性又は有害性の特定
  2. 負傷または疾病の重篤度と発生する可能性の度合(これを「リスク」と呼ぶ)の見積り
  3. 見積りに基づく、リスク低減の優先度の設定と措置内容の検討
  4. 優先度に対応した措置の実施

記録については、指針の第11項が5つの項目を挙げています。洗い出した作業、特定した危険性又は有害性、見積もったリスク、設定したリスク低減措置の優先度、実施したリスク低減措置の内容です。表の列は、この5項目を土台にすると抜けが出ません。

列中身指針の項目
作業中身洗い出した作業の単位指針の項目第11項(1)
危険性又は有害性中身「〜なので、〜して、〜になる」の形で書いた災害の筋書き指針の項目第11項(2)
重篤度中身最悪の場合を想定した区分指針の項目第11項(3)
可能性中身接近の頻度や回避のしやすさを踏まえた区分指針の項目第11項(3)
リスク中身重篤度と可能性の組合せ指針の項目第11項(3)
優先度中身リスクに応じた対応の強さ指針の項目第11項(4)
低減措置中身実施した内容と担当、期限指針の項目第11項(5)
評価の根拠中身なぜその区分にしたかの一文指針の項目本記事で追加する列

最後の「評価の根拠」は指針の記録項目にはありません。Claudeに下書きさせた評価を人が検証するために、この記事で足す列です。理由は、あとの節で説明します。

化学物質のリスクアセスメントは、別の扱いになります。厚生労働省の化学物質のリスクアセスメントのページによると、SDS交付義務の対象物質を製造または取り扱う事業場では、リスクアセスメントが義務付けられています。濃度の実測や推定でばく露限界値と比べる方法もあるため、この記事の重篤度×可能性の表は、機械や作業行動による災害のような一般の危険性を主な対象にします。

渡す材料と、先に決めておくこと

指針の第7項は、調査に使う資料として、作業標準や作業手順書、仕様書やSDS、設備のレイアウト、作業環境の測定結果、災害事例や災害統計を挙げています。定常作業だけでなく、非定常作業の資料も含めるよう求めています。Claudeに渡す材料も、これに揃えます。

  • 作業手順書(なければ、作業の概要を箇条書きにしたメモ)
  • 過去の災害・ヒヤリハットの記録
  • 設備の一覧と、使う機械や薬品の名前
  • 事業場で決めている評価の基準表(なければ次の節で決める)

次の3点は、依頼の前に人が決めます。

  • 評価の対象にする作業の範囲。指針の第6項は、過去に労働災害や危険な事象が発生した作業を対象にし、平坦な通路の歩行のように明らかに軽微な負傷しかもたらさないものは除外してよいとしています
  • 評価基準(区分の定義と組合せ表)
  • 評価に加わる人。指針の第4項は、作業内容を詳しく把握している職長等に特定や見積りを行わせるよう努めることを求めています

ファイルを渡してExcelの表を作らせる機能は、Claudeのコード実行とファイル作成を使います。公式ヘルプによると、この機能はFree、Pro、Max、Team、Enterpriseの全プランで使え、Free、Pro、Maxでは設定の「Capabilities」から有効にします。TeamとEnterpriseでは組織の管理者の設定が前提です。アップロードとダウンロードは1ファイル30MBまで、作成できる形式はxlsx、pptx、docx、PDFです。

事故の記録には、被災者の氏名や病名が入りやすくなります。そのまま渡してよいかは、自社の個人情報の取り扱いとプランのデータの扱いに照らして先に決め、迷うなら氏名を伏せた記録で依頼します。

手順1 — 作業の洗い出しと、危険性を筋書きで書く

最初の依頼では、評価をさせません。作業を区切り、危険性を文章に書き起こすところまでに留めます。厚生労働省の実施資料は、危険性の特定を「〜なので、〜して、〜になる」という形で書き出すよう勧めています。この型にすると、原因と結果が一文に入り、後の評価で「具体的な負傷」を想定しやすくなります。

添付の作業手順書と災害記録を読み、次の順で報告してください。評価はまだしません。
1. 手順書の作業を、危険性を特定しやすい単位に分けた一覧
2. 各作業の危険性を「〜なので、〜して、〜になる」の形で1〜3件
3. 各件の根拠(手順書のどの工程か、災害記録のどの事例か)
4. 手順書に書かれていないが、非定常作業(故障、修理、調整、清掃)として
   起こり得る作業の候補。推測と分かるよう「候補」と明記する
手順書に無い設備や薬品を、事実として書き足さないでください。

実際に現場を見て得た観察は、ここでClaudeの下書きに足します。厚生労働省の資料は、日常の仕事とは別の目で危険がないかを観察すること、機械は故障し人はミスをするものとして見ることを勧めています。手順書に載っていない近道や、安全装置を外した運用は、書類の上には出てきません。この差分を埋めるのは、現場に立つ人の役目です。

手順2 — 評価基準を人が決める

Claudeに「リスクを評価して」とだけ頼むと、手元の記述から一般的な区分を作って点を付けます。事業場ごとに基準が違えば、他の作業の評価や去年の評価と比べられません。基準は先に人が決めて、文章で渡します。

指針の第9項は、見積りの方法として3つを挙げています。

方法内容
割付け表を使う内容重篤度と可能性を縦軸と横軸にして、リスクが割り付けられた表で読む
数値化する内容重篤度と可能性を数値にして、足し算や掛け算でリスクを出す
段階的に分岐する内容重篤度と可能性を、枝分かれの質問でたどる

厚生労働省の実施資料は、割付け表を使う「マトリックス法」の例を載せています。重篤度は3区分、可能性も3区分で、組合せから3段階のリスクが出ます。資料のとおり表にすると次のとおりです。

発生の可能性\重篤度致命的・重大中程度軽度
高いか比較的高い致命的・重大Ⅲ中程度Ⅲ軽度Ⅱ
可能性がある致命的・重大Ⅲ中程度Ⅱ軽度Ⅰ
ほとんどない致命的・重大Ⅱ中程度Ⅰ軽度Ⅰ

各区分の目安も、同じ資料にあります。

  • 重篤度の「致命的・重大」は、死亡災害や身体の一部の永久的な損傷、1か月以上の休業災害、一度に多数の被災者が出るもの。「中程度」は1か月未満の休業災害、一度に複数の被災者が出るもの。「軽度」は不休災害やかすり傷程度のものです
  • 可能性の「高いか比較的高い」は、毎日頻繁に危険に接近するもの、かなりの注意力でも回避が困難なもの。「可能性がある」は、故障や修理、調整などの非定常作業で時々危険に接近するもの、うっかりしていると災害になるもの。「ほとんどない」は、危険に近づくことが滅多にないもの、通常の状態では災害にならないものです

優先度のⅢは、措置を講じるまで作業停止を要するほどの重大なリスク、Ⅱは速やかに低減措置が必要なリスク、Ⅰは必要に応じて低減措置を実施するリスクです。

この表は例です。区分の数や名前、数値化する方式は事業場で変えてかまいません。ただし、一度決めたら、評価の途中で変えません。

重篤度の尺度について、指針の第9項(2)は、負傷や疾病の種類にかかわらず共通の尺度を使うことが望ましいとし、基本的に休業日数などを尺度にするとしています。「区分の定義」には、休業日数を入れておくと、人による揺れが減ります。

手順3 — 基準を渡して、評価と根拠を表にする

基準が決まったら、手順1の一覧と一緒に渡します。

手順1の危険性の一覧を、次の基準で評価し、xlsxの表にしてください。
 
基準: (ここに重篤度3区分・可能性3区分の定義と、組合せ表をそのまま貼る)
 
評価のルール:
- 重篤度は、過去に実際に起きた災害の程度ではなく、最悪の状況を想定した
  最も重い負傷または疾病で判断する
- 現在の安全対策(安全装置、立入禁止、保護具)の信頼性を踏まえて可能性を判断する
- 判断が割れる場合は、重い側の区分を暫定とし、割れた理由を根拠欄に書く
- 各行に「評価の根拠」を一文で書く。手順書のどの工程か、災害記録のどの事例かを引く
- 根拠が見つからない区分は「要確認」とし、推測で区分を埋めない
 
列: 作業 / 危険性又は有害性 / 重篤度 / 可能性 / リスク / 優先度 / 評価の根拠 / 要確認

この依頼のポイントは3つあります。

1つ目は、重篤度を最悪の想定で見ることです。指針の第9項(2)イは、過去に実際に発生した負傷の重篤度ではなく、最悪の状況を想定した最も重篤な負傷の重篤度を見積もることを求めています。過去の災害が軽傷だった作業でも、同じ状況で重傷になり得るなら重い側で評価します。Claudeに過去事例だけを渡すと、事例の程度に引きずられやすい点に注意が要ります。

2つ目は、現在の安全対策を考慮することです。指針の第9項(3)は、安全装置や立入禁止措置の信頼性と維持能力、それらを無効化する可能性、作業手順の逸脱や操作ミスのような予見可能な誤使用を考慮するよう求めています。手順書に「インターロックあり」とあっても、現場で外されているなら、可能性は上がります。この部分の確認は、Claudeにはできません。

3つ目は、根拠欄と要確認です。区分の理由が文章で残っていれば、後から人が「この根拠は手順書のどこにあるのか」と確かめられます。根拠が空欄や曖昧な行は、そのまま評価会議の議題になります。

落とし穴

Claudeの評価値を、そのまま合意値にしない

厚生労働省の実施資料は、見積りの値は説明のつくものでなければならず、やま勘は禁物だとしています。また、値がばらついたときは平均点や多数決で決めず、メンバーで話し合って合意したものとし、最もリスクを高く見積もった人の意見をよく聴くよう求めています。Claudeの出力は、メンバーの一人の意見として扱い、評価の会議に持ち込む下書きにします。

手順4 — 低減措置を優先順位の順に書かせる

優先度が付いたら、Ⅲ、Ⅱの行から措置を検討します。指針の第10項は、法令に定めがあれば必ず実施したうえで、次の順で検討するとしています。

  1. 危険な作業の廃止や変更など、設計や計画の段階での除去・低減
  2. インターロックや局所排気装置などの工学的対策
  3. マニュアルの整備などの管理的対策
  4. 個人用保護具の使用

Claudeには、この順に1行ずつ案を出させます。保護具の使用や注意喚起の貼り紙ばかりが並ぶ案は、優先順位の下位に偏っています。上位の案が検討されたかを、列で見えるようにします。

優先度ⅢとⅡの各行について、低減措置の案を次の4段階の順に1つずつ出してください。
該当しない段階は「該当なし」と理由を書く。
段階: ①廃止・変更 ②工学的対策 ③管理的対策 ④保護具
最終的にどれを採るかは決めず、案の比較に必要な点(費用、作業への影響)を添える。

指針は、死亡や後遺障害、重篤な疾病につながるおそれのあるリスクに対して、適切な措置に時間がかかる場合は、暫定的な措置を直ちに講じるよう求めています。表には「暫定措置」の列を足しておくと、時間のかかる恒久対策の間の手当てが落ちません。

検算 — 区分と組合せがずれていないか

Claudeが「全件評価しました」と報告しても、表の整合は保証されません。区分は合っていても、組合せの読み取り(例えば「可能性がある」×「軽度」がⅠのところをⅡと書く)が誤っていることがあります。基準表と照らす検算は、Claudeとは別の手段で行います。標準ライブラリだけの小さなスクリプトで十分です。

import csv
 
MATRIX = {
    ("高い", "致命的・重大"): "Ⅲ", ("高い", "中程度"): "Ⅲ", ("高い", "軽度"): "Ⅱ",
    ("可能性がある", "致命的・重大"): "Ⅲ", ("可能性がある", "中程度"): "Ⅱ", ("可能性がある", "軽度"): "Ⅰ",
    ("ほとんどない", "致命的・重大"): "Ⅱ", ("ほとんどない", "中程度"): "Ⅰ", ("ほとんどない", "軽度"): "Ⅰ",
}
 
with open("ra.csv", newline="", encoding="utf-8-sig") as f:
    rows = list(csv.DictReader(f))
 
for i, r in enumerate(rows, start=2):
    expected = MATRIX.get((r["可能性"], r["重篤度"]))
    if expected is None:
        print(f"{i}行目: 区分が表にありません ({r['可能性']} / {r['重篤度']})")
    elif expected != r["リスク"]:
        print(f"{i}行目: {r['作業']} は表では {expected}、入力は {r['リスク']}")
print(f"{len(rows)}行を確認")

評価表をCSVで書き出し、列を「作業,危険性又は有害性,重篤度,可能性,リスク」の順に並べた4行の例を、このスクリプトに通します。

作業,危険性又は有害性,重篤度,可能性,リスク
包装機の詰まり除去,稼働中に手を入れるので挟まれて指を切断する,致命的・重大,可能性がある,Ⅲ
脚立での棚上げ,脚立の天板に乗るので転落して骨折する,中程度,高い,Ⅲ
台車での搬送,段差で台車が傾くので荷が崩れて足に当たる,軽度,可能性がある,Ⅱ
フォークリフト走行,歩行者通路を横切るので接触して重傷を負う,致命的・重大,ほとんどない,Ⅱ
python3 check_ra.py

このスクリプトの実行結果は次のとおりです。

4行目: 台車での搬送 は表では Ⅰ、入力は Ⅱ
4行を確認

「軽度」と「可能性がある」の組合せは表ではⅠなので、4行目だけが基準表と合いません。区分の選び方そのものが妥当かは、スクリプトでは分かりません。組合せの読み違いと、区分の妥当性を分けて確認します。区分の妥当性は、根拠欄を読んで人が判断します。

検算のあと、次の2点を人の目で確かめます。

  • Ⅲ、Ⅱに分類された行の根拠欄が、実際の手順書や災害記録の記述を指しているか。引用元の工程名が手順書に存在しなければ、Claudeが作った根拠です
  • 「要確認」の行が、現場確認の担当者つきで残っているか。要確認を、Claudeが後の依頼で推測で埋めていないか

見直す時期も表に持たせる

リスクアセスメントは、一度作って終わりにしません。指針の第5項は、実施する時期として、建設物の設置や変更、設備や原材料の新規採用や変更、作業方法や手順の新規採用や変更を挙げています。そのほかに、次の場合も含まれます。

  • 労働災害が発生し、過去の調査の内容に問題があった場合
  • 前回の調査から一定期間が経ち、機械の経年劣化、労働者の入れ替わり、新たな知見の蓄積があった場合

表には「前回の評価日」と「見直しのきっかけ」の列を足しておくと、評価の鮮度が見えます。作業手順書を更新したときに、更新後の手順書と前回の表をClaudeに渡し、変わった工程に関わる行だけを洗い出させる使い方もできます。この場合も、変更の判断と再評価の実施は人が行います。

労災が起きた後の請求書の下書きは労災の給付請求書の下書き手順で、データを優先度順の是正対応表にする流れは脆弱性スキャン結果の是正対応表で説明しています。いずれも、Claudeの出力を人が検算して使う点は同じです。

まとめ

Claudeが担うのは、手順書からの危険性の下書き、基準に沿った評価の下書き、措置案の比較表の作成です。基準表の決定、現場の観察、評価の合意、措置の採否は人の仕事です。依頼文に最悪の想定と根拠欄、要確認の扱いを入れておくと、Claudeの下書きが評価会議の議題として使える形で返ってきます。

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