Claudeで宿泊約款とキャンセル規定を点検 — 旅館のモデル約款と突き合わせる
観光庁掲載のモデル宿泊約款と自館の約款をClaudeで条文単位に突き合わせ、キャンセル料の率を消費者契約法9条の上限の観点で表にする手順です。
自館の宿泊約款が国のひな形からどこで外れているかは、条文を並べて読めば分かります。ただ、旅館の約款は長年の継ぎ足しで条番号がずれ、キャンセル料の表も館ごとに形が違います。目視の突き合わせは時間がかかります。
Claudeには、ひな形・自館の約款・消費者契約法の条文の3つを根拠として渡します。条文の対応表と、キャンセル料率の一覧表を作らせる流れです。先に断っておくと、ひな形のキャンセル料の率は空欄です。率の妥当性は、Claudeではなく自館の実績データで裏付けることになります。
突き合わせの基準は「モデル宿泊約款」
観光庁のサイトに載っている国のひな形の表題は「モデル宿泊約款」です。昭和60年12月23日の国振第416号を出発点に改正を重ね、掲載されているPDFの最終改正は令和5年12月13日です。
このPDFには、別表第2(違約金)が2種類あります。ホテル用と旅館用です。旅館の約款を点検するなら、旅館用の表を基準にします。
別表第2の2つの表
ホテル用
不泊、当日、前日、9日前、20日前の5区分です。契約申込人数は、14名まで、15〜99名、100名以上の3段です。
旅館用
不泊、当日、前日、2日前、3日前、5日前、6日前、7日前、8日前、14日前、15日前、20日前、30日前の13区分です。契約申込人数は、14名まで、15〜30名、31〜100名、101名以上の4段です。
どちらの表も、比率の欄は「%」だけが印刷された空欄です。率を何パーセントにするかは、各館が自分で決める設計になっています。注記は3つあり、率は基本宿泊料に対する比率であること、契約日数が短縮した場合は1日分(初日)の違約金を収受すること、団体の一部解除では宿泊10日前の人数の10%分は違約金がかからないことが書かれています。
つまりモデル約款との突き合わせでは、率の数字ではなく、表の区切り方・注記・条文の構造が比較の対象になります。
Claudeに渡す3つの根拠資料
Claudeのプロジェクト(Projects)には、文書・テキスト・コードなどを知識として登録し、プロジェクトごとの指示を設定できます。無料アカウントでも使えますが、作れるプロジェクトは最大5つです。Team・Enterpriseプランでは、プロジェクトを組織内で共有できます。以下は、現行のプロジェクトを前提にした手順です。
登録する資料は3つです。
- モデル宿泊約款のPDF(観光庁掲載の原本)
- 自館の宿泊約款(PDFまたはテキスト。別表のキャンセル料の表を含める)
- 消費者契約法のうち第9条・第10条の条文(e-Govの法令検索からテキストで取得)
宿泊者の氏名や連絡先を含む予約台帳は、この作業には要りません。登録しないでください。点検に必要なのは約款の条文と率の表だけです。
プロジェクトの指示欄には、役割と禁止事項を書きます。例として、次のような形が使えます。
あなたは旅館の約款担当者を補助する点検役です。
根拠は、登録したモデル宿泊約款・自館約款・消費者契約法の条文だけです。
条文に書かれていないことは「資料に記載なし」と答え、推測で補わないでください。
法的な有効・無効の結論は出さず、「確認が必要な箇所」として列挙してください。
各指摘には、自館約款の条番号と、対応するモデル約款の条番号を必ず添えてください。手順1: 条文の対応表を作らせる
最初の依頼では、自館約款の全条をモデル約款に対応づけさせます。キャンセルに関わる条だけを先に抜くと、周辺の条との関係を見落とします。
自館約款の第1条から最後の条まで、モデル宿泊約款のどの条に対応するかを表にしてください。
列は「自館の条番号」「見出し」「対応するモデル約款の条」「差分の種類」です。
差分の種類は「同一」「文言のみ違う」「自館で追加」「モデルにあるが自館にない」から選んでください。返ってきた表は、そのまま信じず、差分の種類が「モデルにあるが自館にない」の行から確認します。キャンセルと料金に関わるモデル約款の条は、次のとおりです。
| モデル約款の条 | 内容 | 自館約款で見る点 |
|---|---|---|
| 第3条第2項 | 内容申込金は、宿泊期間(3日を超えるときは3日間)の基本宿泊料が限度 | 自館約款で見る点申込金の上限が約款に書かれているか |
| 第3条第3項 | 内容申込金は宿泊料金、違約金、賠償金の順に充当し、残額は返還 | 自館約款で見る点充当の順序と返還の規定があるか |
| 第3条第4項 | 内容申込金が期日までに支払われないと契約が失効。ただし期日を告知した場合に限る | 自館約款で見る点失効の条件に「告知」が入っているか |
| 第4条 | 内容申込金を不要にする特約 | 自館約款で見る点申込金なしの予約をどう扱うか |
| 第6条第2項 | 内容宿泊客の責めによる解除で別表第2の違約金を請求 | 自館約款で見る点違約金の対象となる解除の範囲 |
| 第6条第3項 | 内容連絡なしに到着しない場合、解除されたものとみなす | 自館約款で見る点「みなす」時刻の設定 |
| 第12条第3項 | 内容客室を提供したのに宿泊しなかった場合も宿泊料金を請求 | 自館約款で見る点不泊の扱い |
| 第14条 | 内容客室を提供できないときのあっ旋と、違約金相当額の補償料 | 自館約款で見る点館側の都合でのキャンセルの扱い |
第6条第2項には括弧書きがあります。申込金の支払期日を館が指定して支払いを求めた場合、支払いより前に宿泊客が解除したときは違約金を請求しない、という構造です。自館の約款がこの例外を落としていないかは、対応表の差分で拾えます。
落とし穴
対応表の「同一」を信じて飛ばさない
Claudeが「同一」と判定した行でも、数字や「限る」「ただし」の有無が違うことがあります。第3条第4項の「告知した場合に限ります」のような限定句は、落ちても文の意味が通るため見落としやすい箇所です。対応表のうちキャンセルに関わる行だけは、自館約款の原文を自分の目で読み直してください。
手順2: キャンセル料の率を構造化して表にする
自館約款の別表は、PDFの表のまま渡すと読み取りがずれることがあります。率の欄は、先に手でCSVにして渡すのが確実です。
区分,14名まで,15〜30名,31〜100名,101名以上
不泊,100,100,100,100
当日,80,80,100,100
前日,50,50,80,100上の数字は書式を示すための例で、率の推奨値ではありません。自館の別表の数字に置き換えてください。モデル約款の旅館用と同じ13区分に並べると、自館に無い区分や、逆に自館で細かくしている区分が見えます。
Claudeには、次のように依頼します。
添付のCSVは自館約款の別表の率です。次の3点を調べてください。
1. 日数が近づくほど率が下がっていないか(隣り合う区分の逆転)
2. 人数の区分が大きくなるほど率が下がっていないか
3. モデル宿泊約款の旅館用の13区分のうち、自館にない区分はどれか
計算は表にして、結果を出してから所見を書いてください。隣り合う区分の逆転は、言語モデルが見落とすことがあるので、数値の検証はスクリプトでも確かめます。次の短いスクリプトは、日数が近いほど率が下がっていないかを機械的に調べます。
python3 - <<'EOF'
import csv
rows = list(csv.reader(open("rates.csv", encoding="utf-8")))[1:]
for col in range(1, 5):
vals = [float(r[col]) for r in rows]
for i in range(1, len(vals)):
if vals[i] > vals[i - 1]:
print(f"逆転: 列{col} {rows[i-1][0]}→{rows[i][0]}")
print("点検終了")
EOF区分は日付の遠い順ではなく、近い順(不泊→当日→前日→…)に並べたCSVを前提にしています。順番を逆に並べたときは、判定の向きが逆になります。
手順3: 率を消費者契約法9条の観点で整理する
宿泊約款は、旅館と個人客の間では消費者契約にあたる契約に使われることが多い書類です。消費者契約法第9条第1号は、解除に伴う損害賠償の額を予定し、または違約金を定める条項について、合算した額が、条項に設定された解除の事由、時期等の区分に応じて、同種の消費者契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分を無効とします。
条文から読み取れる点は2つあります。
- 比較の相手は、区分ごとの「平均的な損害の額」です。一律の上限率はありません。
- 区分ごとに見るため、「30日前から100%」のように、区分の設定そのものが点検の対象になります。
第9条第2項は別の観点です。事業者は、違約金を請求する際に消費者から説明を求められたとき、算定の根拠の概要を説明するよう努めなければなりません。努力義務の形で書かれていますが、率の根拠を説明できる状態にしておくと、問い合わせの対応が楽になります。
ここでClaudeに任せられる作業と、任せられない作業を分けます。
Claudeに任せる作業と自館で埋める作業
Claudeに任せられる
区分の抜け、隣り合う区分の逆転、注記(1日分の違約金、団体の一部解除)の有無の比較、第9条の文言に照らした確認項目の列挙です。
自館で埋める
区分ごとの平均的な損害の額です。キャンセルの時期ごとに、別の客に販売できた割合、仕入れ済みの食材や手配済みの費用など、自館の実績から出します。
そこで、Claudeには「率の妥当性の判定」ではなく「率ごとに裏付けとして用意すべき資料の一覧」を作らせます。
自館約款の別表の各区分について、第9条第1号の文言に照らして、
「この率の根拠として自館が説明できるようにしておくべき資料」を区分ごとの表にしてください。
資料の例は、同じ日の再販売の実績、仕入れ済み費用、手配済みの外部費用などです。
率が妥当かどうかの結論は書かないでください。こうして出た表の空欄が、自館に不足しているデータです。空欄を埋める作業は人が行います。
第10条は、消費者の権利を制限し義務を加重する条項で、民法第1条第2項の基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものを無効とする包括規定です。申込金の額、不泊時の扱い、直前の変更の扱いなど、率以外の条件を見るときに根拠として登録しておきます。第8条から第10条の使い分けは、消費者契約法で利用規約の不当条項をClaudeに点検させる手順に条ごとの観点をまとめています。
手順4: 館側の解除と宿泊拒否の条文を読む
キャンセル規定は、宿泊客側の解除だけではありません。館が契約を解除する場合の条文も、約款に含まれます。
モデル約款の第7条は、館が契約を解除できる場合を列挙しています。法令違反や公序良俗に反する行為のおそれ、反社会的勢力、他の宿泊客への著しい迷惑、特定感染症の患者等、暴力的要求行為、天災等の不可抗力、寝室での寝たばこなどです。第7条第2項は、館が解除したときは、宿泊客がまだ提供を受けていない宿泊サービス等の料金は受け取らないと定めています。
第5条(契約締結の拒否)と第7条には、いずれも旅館業法第5条に掲げる場合以外に宿泊を拒むことがあるという意味ではない、という但し書きが付いています。自館約款で列挙を増やしていると、この但し書きが抜けていることがあります。
Claudeに依頼するときは、解除事由の比較表を作らせます。
モデル約款の第5条と第7条の事由を1項目ずつ、自館約款の対応する事由と並べてください。
自館にだけある事由と、モデル約款にあって自館にない事由を分けて示してください。
旅館業法第5条を引用した但し書きの有無も確認してください。自館にだけある事由は、旅館業法に照らして正当かを確認します。この判断は、Claudeではなく、保健所や弁護士に相談する領域です。
結果を検証する
出力は、次の順で確認します。
出力を確かめる順番
- 1
条番号を原本で引く
Claudeが示した条番号を、PDFの原本で1つずつ開きます。存在しない条番号が混ざっていないかを見ます。
- 2
引用文を逐語で照合する
Claudeが条文を引用した箇所は、原文と一字ずつ照合します。要約と引用が混ざっていることがあります。
- 3
数値はスクリプトか電卓で再計算する
率の逆転、合計、団体の一部解除の10%の計算は、Claudeの答えをそのまま採用せず再計算します。
- 4
空欄を人が埋める
平均的な損害の額の裏付け資料のように、自館にしかないデータは、担当者が埋めます。
この方法の限界
この手順は、約款の読み合わせを速くするためのものです。次の限界があります。
- モデル約款のキャンセル料の率は空欄です。ひな形から「正しい率」は得られません。
- 第9条第1号の「平均的な損害の額」は、自館の実績と事案ごとの事情で決まる数字です。条文だけでは決められません。
- 観光庁のPDFは、条番号や文言が改正されることがあります。点検の都度、最新版を取り直して登録し直してください。
- 団体や旅行会社との取引は、消費者契約ではなく事業者間の契約になることがあります。個人客向けの約款と、団体向けの契約書は分けて扱います。
- 最終的な有効・無効の判断は、弁護士や消費生活の専門家に確認します。
約款を変更するときの手続きは、利用規約の改定手続きを定型約款の変更要件でClaudeに整理させるで扱っています。条文の突き合わせを運送の約款で行った例は、貨物事故の賠償額を運送約款に照らして整理する手順にあります。
よくあるつまずき
- PDFの表が崩れて読まれる: 別表は手でCSVに起こしてから渡します。
- ホテル用の表と旅館用の表を取り違える: 区分の数が5つか13かで見分けます。
- 「みなし解除」の時刻が空欄のまま: 第6条第3項は到着予定の時刻や経過時間を空欄にしたひな形です。自館の数字を入れたかを確認します。
- 対応表の指摘が多すぎて追えない: キャンセルと料金に関わる条に絞って依頼し直します。
まとめ
モデル宿泊約款は、条文の構造を比べる基準としては使えますが、キャンセル料の率の答えは書いていません。Claudeには条文の対応表、区分の抜け、率の逆転の洗い出しを任せます。率の根拠となる平均的な損害は、自館の実績から人が用意する、という分担になります。