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著作権法30条の4はClaudeのAI学習利用をどう見るか

著作権法30条の4はClaudeのAI学習利用をどう見るか

文化庁が示す著作権法30条の4の考え方を基に、AIの学習段階と生成段階で著作権上の論点がどう変わるかを、Claudeを業務で使う人向けに解説します。

文化庁は2024年3月、生成AIと著作権の関係を整理した「AIと著作権に関する考え方について」を公表しました。この文書の中心にあるのが著作権法第30条の4です。同条は、AIの学習段階で既存の著作物を使う行為を、一定の条件のもとで著作権者の許諾なく認める規定です。Claudeのような生成AIを業務で使う場合に押さえておきたい点は一つです。学習段階の話と、生成した文章や画像を実際に使う段階の話は、法律上まったく別の問題として扱われています。

著作権法30条の4はどんな利用を認めているか

著作権法第30条の4は、平成30年の著作権法改正で新設された「柔軟な権利制限規定」の一つです。IoTやビッグデータ、AIといった技術革新に伴う著作物の利用のうち、著作物の市場に大きな影響を与えないものについて、個々の許諾を不要にする狙いがありました。

同条が対象にするのは、著作物に表現された思想や感情を「享受」する目的がない利用です。享受とは、作品の表現の価値を受け取り、知的・精神的な欲求を満たすことを指します。AI学習のために著作物を複製する行為は、通常この享受を目的としないため、法第30条の4第2号が挙げる「情報解析の用に供する場合」に当たります。

生成AIとの関係で著作物が使われる場面は、大きく「開発・学習段階」と「生成・利用段階」に分かれます。学習データセットの構築、基盤モデルの事前学習、既存モデルへの追加学習は、いずれも開発・学習段階の利用行為です。

「非享受目的」に当たるかどうかはどう判断されるか

一つの利用行為に複数の目的が併存する場合、その中に享受目的が一つでも含まれていれば、法第30条の4は適用されません。文化庁の資料は、享受目的が併存すると評価される具体例を示しています。

一つは、学習データに含まれる著作物の創作的表現をそのまま出力させることを狙って、意図的に「過学習」を行う場合です。もう一つは、特定のクリエイターの作品を少量だけ学習データとして追加学習し、その作品群の創作的表現が共通した生成物を出力させることを目的とする場合です。

一方、単に作風や画風が似た生成物が出るだけの追加学習であれば、話は変わります。学習データの創作的表現を直接感じ取れる生成物の出力を目的としていないと評価されるなら、享受目的は併存しません。作風そのものはアイデアの範囲にとどまり、著作権法が保護する対象ではないためです。

学習が30条の4の対象外になる典型例

法第30条の4には、ただし書きがあります。「著作物の種類及び用途並びに利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」は、同条は適用されません。

文化庁の資料が示す典型例は、情報解析用に整理されたデータベースの著作物を、そのまま学習データとして複製する行為です。大量の情報を情報解析に活用できる形に整理したデータベースが商品として販売されている場合、これを情報解析目的で複製すると、データベース販売という著作権者の利用市場と直接競合してしまうためです。

この例は、DVDのような記録媒体で提供されるデータベースだけでなく、API経由でオンライン提供されるデータにも当てはまり得ます。

この判断材料として、文化庁の資料はrobots.txtのような技術的措置にも触れています。AI学習用クローラーのアクセスをrobots.txtで制限しているサイトが、情報解析用に整理したデータベースの著作物を販売した実績やライセンス取引の実績も持っている場合、そのデータベースが将来販売される予定があると推認する要素になります。この推認が成り立つ状況で制限を回避してクローラーがデータを収集すれば、ただし書に該当し法第30条の4は適用されません。反対に、クローラーのアクセスを制限していないことは、データベースが販売されている場合に当たらないことを推認させる要素になります。

RAGや社内データベースの構築も対象になるか

検索拡張生成(RAG)のように、既存のデータを検索してその要約から回答を生成する仕組みも、開発・学習段階で著作物を複製する場面が生じます。具体的には、著作物の内容をベクトルに変換したデータベースを作成する行為です。

このデータベース作成が、既存の著作物の創作的表現を出力させることを目的としないものであれば、非享受目的の利用として法第30条の4が適用されます。他方、創作的表現の出力を目的とする場合は、同条は適用されません。

法第30条の4が適用されない場合でも、法第47条の5が定める「軽微利用」の範囲内であれば、権利者の許諾なく既存の著作物を利用できる場合があります。ただしこの軽微利用は、利用に供される部分の割合や量、表示の精度などから軽微と言える範囲に限られる点に注意が必要です。

学習が合法でも生成物の利用で著作権侵害になり得る

学習段階で法第30条の4が適用されても、それは学習行為そのものの話です。生成した文章や画像を実際に使う段階は、別の基準で判断されます。著作権侵害の要件は、既存の著作物との「類似性」と「依拠性」の両方が認められることです。

依拠性の判断は、AI利用者が既存の著作物を認識していたかどうかで大きく分かれます。文化庁の資料は3つの場合を示しています。

まず、AI利用者が既存の著作物を認識しており、それに似せて生成させた場合です。既存の画像をそのまま入力するImage to Imageや、作品の題号を入力する行為が典型で、この場合は依拠性が認められ、侵害が成立します(文化庁の整理)。

次に、AI利用者は既存の著作物を認識していなかったが、その著作物が学習データに含まれていた場合です。この場合は客観的にアクセスがあったと評価され、通常は依拠性が推認されます。ただし、学習した著作物の創作的表現が出力されない仕組みが技術的に担保されているといった事情を主張できれば、依拠性が否定される場合もあります。

最後に、AI利用者が認識しておらず、学習データにも含まれていなかった場合です。この場合、偶然の一致にとどまり、依拠性は否定されます。

業務でAIを使う人が確認しておきたいポイント

文化庁は「考え方」を踏まえ、業務利用者(AI利用者)向けのチェックリストも公表しています。実務目線でポイントを並べると、次のようになります。

確認ポイント具体的に何を確認するか
生成AIの仕組みとリスクの理解具体的に何を確認するか学習データに類似した生成物が出ることがあり、認識していなくても侵害になり得ることを理解する
学習済みモデルの情報確認具体的に何を確認するかAI提供者が公開している学習データ関連の情報を、利用前に確認する
利用規約の確認具体的に何を確認するか既存著作物の入力を禁止・制限する規約がないかを確認する
既存著作物の入力時の注意具体的に何を確認するか似た生成物を狙って著作物を入力すると、享受目的が併存し30条の4が及ばなくなる
生成物利用前の類似性確認具体的に何を確認するかインターネット検索などで既存作品に似ていないかを確認する
生成過程の記録具体的に何を確認するか使用したプロンプト等を残し、依拠性がないことを説明できる状態にしておく
社内ルールと教育具体的に何を確認するか著作権侵害を防ぐ内部ルールの整備と、従業員への著作権教育を行う

このうち特に見落としやすいのが、既存著作物の入力時の注意です。Image to Imageで既存の画像を入力する行為自体は、情報解析目的として法第30条の4が及ぶ余地があります。ですが、それによって似た生成物を出そうとする目的が伴えば、享受目的が併存し、同条は適用されません。

ClaudeBotのクロールは30条の4とどう噛み合うか

Claudeのような生成AIへの当てはめで最初に確認したいのは、学習データをどう集めているかです。AnthropicはClaudeの学習データ収集にClaudeBotという専用クローラーを使っており、収集方針を公開しています。データ収集は透明であること、robots.txtの「クロールしない」指示を業界標準として尊重すること、CAPTCHAなどの回避策を試みないことが柱です。サイト側がrobots.txtにUser-agent: ClaudeBot / Disallow: /を記述すれば、そのサイトの今後のコンテンツは学習データセットから除外されます。

これは前節の技術的措置の議論と重なります。ClaudeBotをブロックしているサイトが、自社コンテンツをデータベースの著作物として販売している実績も持つ場合、そのブロックを回避して収集すれば、ただし書に該当し得る組み合わせです。反対に、ブロックされていないサイトからの収集は、通常の情報解析目的の利用として法第30条の4の対象になります。

文化庁のチェックリストが業務利用者に求める「学習済みモデルの情報確認」は、Claudeについては公開されているクロール方針とオプトアウトの方法までを確認できるという意味です。一方で、学習に使われた個々のウェブサイトやデータセットの内訳、特定の著作物が学習データに含まれていたかどうかまでは、公開情報からは確認できません。依拠性の推認(前節の2つ目のケース)が働くかどうかを事前に見極めるのは、業務利用者の側では難しいという実務上の限界がここにあります。

もう一つ確認しておきたいのが、どの国の著作権法が適用されるかです。文化庁の資料は、AI学習のためのデータ収集を行うクローラーが日本国内のサーバー上で稼働していれば、日本の著作権法が適用されやすくなるという整理を示しています。Anthropicが学習データの収集・処理をどの国のサーバーで行っているかは、公開情報からは確認できません。この整理に従えば、学習行為そのものに日本の著作権法(法第30条の4を含む)が当然に及ぶとは限らないことになります。他方、生成・利用段階については、Claudeが日本国内のユーザーに向けて生成物を送信していれば、日本の著作権法が適用される可能性が高まるという整理です。学習段階と生成・利用段階では、適用される法域の判断も別に考える必要があります。

学習の適法性と生成物の侵害判断は別の物差しで決まる

30条の4が扱うのは学習段階だけです。生成物を使う段階は、類似性と依拠性という通常の侵害判断に切り替わります。学習段階は非享受目的であれば原則自由という緩やかな基準ですが、生成・利用段階は既存作品との類似性・依拠性という個別事案ごとの基準で判断されます。

学習が合法だからといって、生成物の利用が自動的に安全になるわけではありません。この切り分けを理解していないと、「AIの学習は違法だから使わない」あるいは「学習が合法だから何を生成しても安全」という、どちらも不正確な理解に流れがちです。

AI開発事業者が海賊版サイトと知りながら学習データを収集していた場合は、この切り分けにも影響します。生成・利用段階で著作権侵害が生じたとき、開発事業者自身が規範的な行為主体として責任を問われる可能性が指摘されています。学習データの出どころも、無関係な論点ではありません。

Anthropicは、Claude利用者自身の会話データを学習に使うかどうかについて、同意方式と保持期間を定める規約変更を発表しています。これは利用者自身が入力したデータの扱いに関する取り決めで、ここで扱った30条の4(第三者の既存著作物を学習データとして使う際の権利制限)とは別の論点です。両者を区別して確認したい場合はClaude Consumer Terms改定で扱っています。

生成物そのものが著作権法上の著作物として保護されるかという論点も、ここでの学習段階の話とは別問題です。この点はClaude生成物の著作権で扱っています。商用利用の可否やデータ学習のオプトアウトまで含めた全体像はClaude商用利用ガイドにまとめています。

よくある質問

文化庁の「考え方」には法的拘束力がありますか

ありません。文化庁自身が、この文書は公表時点における一定の考え方を示すものであり、法的拘束力を持つものではなく、特定の生成AIについて確定的な法的評価を行うものでもないと明記しています。

学習データの開示を求めることはできますか

依拠性の立証のために、著作権法第114条の3や民事訴訟法上の文書提出命令などに基づき、開発事業者に学習データの開示を求められる場合があります。ただし、既存の著作物との類似性が高いことなど、開示を求めずに依拠性が推認される場合もあります。

まとめ

著作権法第30条の4は、AIの学習段階における著作物の利用を、非享受目的である限り原則として認める規定です。ただし享受目的が併存する場合や、著作権者の利益を不当に害する場合には適用されません。学習が合法でも、生成した文章や画像を実際に使う段階は、既存作品との類似性・依拠性という別の基準で著作権侵害の有無が判断されます。Claudeについては、ClaudeBotのクロール方針とrobots.txtによるオプトアウトの仕組みまでは公開情報から確認できますが、学習データの内訳や適用される法域までは個別に見極める必要があります。業務で使う場合は、利用規約の確認や生成過程の記録といった、生成・利用段階側の備えを重ねておくことが実務上の備えになります。

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