Claude Manus比較 — 自律実行の権限設計と監査ログの違い
Manusの自律タスク実行とClaude(Cowork・Agent SDK)を、承認の既定値・サンドボックスの隔離方式・監査ログの公開範囲で比較します。
Manusは何をするエージェントか
Manusは、依頼した作業をエージェントがタスクごとの仮想マシン上で自律的に進める製品です。ブラウザー操作・コード実行・ファイル作成を組み合わせ、スライドやWebサイトのような成果物をそのまま作って返します。社名の由来である"Mens et Manus"(心と手)の通り、考えるだけでなく手を動かして完結させる設計です。
連携先は、Google Calendar・GitHub・Notion・Slackなどが公式ページであらかじめ列挙される形で提供されます。ClaudeでManusに近い体験を作る場合、対応するのはCowork(業務向けのエージェント製品)と、開発者がエージェントを自作するためのAgent SDKの2つです。両者は権限の作り方が違うため、Manusとの比較も1本の軸では終わりません。この記事では、①サンドボックス内で何が起きるか、②操作の前に承認を挟むかどうか、③監査ログをどこまで公開しているか、の3点で並べます。
サンドボックスの隔離方式を比較する
ManusはZero Trust(信頼を前提にしない)原則を掲げていますが、その意味はサンドボックス「の外」への影響を遮断することであり、サンドボックス「の中」の操作を制限することではありません。公式ブログは次のように説明しています。
"you and Manus have full control over this computer—you can perform unrestricted operations (for example, gaining root access, modifying system files, or even formatting the entire disk). This allows Manus to complete tasks with minimal permission constraints."
タスクごとに独立したクラウド仮想マシンが割り当てられ、他のタスクとは状態を共有しません。非アクティブな状態が続くとサンドボックスは休止し、無料プランは7日間、Proプランは21日間で再作成の対象になります(作成物や添付ファイルは新しいサンドボックスに復元されますが、実行中の一時ファイルは復元対象外です)。
Coworkのサンドボックスは、隔離の単位は近い一方で内部の権限モデルが異なります。クラウドセッションは開始時に作られ終了時に破棄される専用サンドボックスで、組織間はもちろんセッション間でも状態を共有しません。ネットワーク面では次の制約が既定で入ります。
"The sandbox can't reach private, internal, link-local, or cloud-metadata addresses… All traffic leaving the sandbox passes through a mandatory proxy the sandbox can't reconfigure or bypass, and only allow-listed destinations are reachable."
デスクトップ経由のローカルセッションでは、シェルコマンドとコード実行が専用のLinux VM内で走り、macOSはApple Virtualization.framework、WindowsはHyper-Vでホストから隔離されます。ローカルのファイルやツールを呼び出すたびに、その呼び出しはメンバーの権限と照合されてから実行されます。ManusのサンドボックスがタスクごとにOSレベルの自由度を与える設計なのに対し、Coworkは呼び出し単位で権限チェックを挟む設計です。
承認フローの有無を比較する
Manusの公開ページには、サンドボックス内の個々の操作(ファイル書き換え、コマンド実行など)を実行前に承認させる仕組みの説明が見当たりません。承認に近い記述として見つかるのは、タスクを他の人に渡すときに何が見えるかという可視性の切り替えだけです。
Coworkは、タスクの進め方そのものは自律的でありながら、操作の承認は3つのモードで切り替えられます。
| 承認モード | 挙動 |
|---|---|
| 自動で承認 | 挙動実行前に安全性を確認し、危険と判断した操作は止める |
| 手動で承認 | 挙動各操作の前に停止して確認を求める |
| 承認をスキップ | 挙動操作の確認を行わない |
どのモードでもファイルの完全削除だけは例外です。Coworkは常に明示的な許可を求めます。
"Claude always asks before permanently deleting files, in any mode."
Agent SDKで自作するエージェントは、さらに細かい制御が可能です。ツール呼び出しは①フック、②拒否ルール、③確認ルール、④パーミッションモード、⑤許可ルール、⑥canUseToolコールバックの順で評価される固定フローを通ります。拒否ルールはbypassPermissionsモードでも効き、MCPツールにはrequiresUserInteractionという属性を個別に立てて、許可ルールが一致していても必ず人の確認に戻すことができます。「どのツールを、どういう条件で、誰の確認を経て動かすか」を開発者が宣言的に組み立てられる点が、ManusのAPI紹介ページ(2026年8月時点で確認できる範囲)には無い情報です。
ルールの粒度も細かく指定できます。たとえばdisallowed_toolsにBash(rm *)と書くと、Bashツール自体は使えるままrmを含む呼び出しだけを全モードで拒否し、Bashと書けばツールの定義そのものをClaudeの目から消してしまえます。Manusのサンドボックスがタスク単位で権限を丸ごと与える設計であるのに対し、Agent SDKはコマンドのパターン単位まで絞り込める点が対照的です。
監査ログとガバナンスの公開範囲を比較する
監査ログの有無だけを見ると、両社ともTeam/Enterprise向けに用意しています。違いは、何が記録され、何が記録できないかの説明の詳しさです。
Manusのチームプランページは次のように機能を列挙しています。
"Admin dashboard with usage tracking and access control. SSO integration and granular sharing permissions. Audit logs and enterprise-grade compliance (SOC 2 Type II, ISO 27001)."
ここでの「監査ログ」が、タスク内の個々の操作(どのファイルを読んだか、どのコマンドを実行したか)まで記録するのか、利用状況やアクセス管理のイベントに留まるのかは、公開ページの記述だけでは判別できません。
Coworkは記録対象をもう一段具体的に説明しています。ウェブ・デスクトップ・モバイル経由のCowork活動はCompliance APIで捕捉され、Team・Enterprise管理者はOpenTelemetryで組織横断の監視に流せます。ただし公式サポート記事は、Coworkが用意していない可視性も同じページで明記しています。
"The VM is isolated from host-based security tools by design, and sessions in the cloud run entirely outside your endpoints, so EDR tools can't observe them either. If your compliance posture depends on endpoint visibility, account for this before rolling out Cowork."
できることだけでなく、エンドポイント検知(EDR)ツールからは見えないという制約まで先に書いている点は、監査要件を持つ組織が導入判断をする上での実務的な情報です。
比較表 — 評価軸ごとのまとめ
| 評価軸 | Manus | Claude Cowork | Claude Agent SDK |
|---|---|---|---|
| サンドボックスの隔離単位 | Manusタスクごとの専用クラウドVM(内部操作はほぼ無制限) | Claude Coworkセッションごとの専用サンドボックス+呼び出し単位の権限照合 | Claude Agent SDK開発者が定義する権限ルール+VM/コンテナは実装依存 |
| 既定の操作承認 | Manus公開情報の範囲では個々の操作承認の説明なし | Claude Cowork3モード(自動承認・手動承認・スキップ)から選択 | Claude Agent SDKhooks→deny→ask→mode→allow→callbackの6段階評価 |
| 高リスク操作の扱い | Manus記述なし(協働時はConnectorsを自動無効化) | Claude Coworkファイル完全削除は全モードで明示許可が必須 | Claude Agent SDKrequiresUserInteractionで個別ツールを強制確認に指定可能 |
| 監査ログの提供層 | ManusTeam以上でAudit logs(記録範囲は非公開) | Claude CoworkCompliance API(Enterprise)+OTel(Team・Enterprise) | Claude Agent SDK呼び出し評価の各段階をフックで自前記録可能 |
| 開発者向け権限API | Manus紹介ページの範囲では権限評価の仕様は非公開 | Claude Coworkー(製品としての承認モードが主) | Claude Agent SDK権限評価フローが公式ドキュメントとして公開 |
使い分け早見表 — どちらを選ぶか
| 用途 | おすすめ | 理由 |
|---|---|---|
| 個人で単発タスクを丸ごと任せる(スライド作成・簡易サイト構築) | おすすめManus | 理由サンドボックス内の自由度が高く、成果物を直接作り切る設計に寄っている |
| 複数論点を並行調査したい | おすすめManus | 理由タスクごとに独立したサンドボックスを並列実行できる |
| 組織で承認プロセスや監査要件がある業務 | おすすめCowork | 理由承認モードと監査ログの記録範囲が文書化されている |
| 自前でエージェントの権限ロジックを細かく制御したい開発 | おすすめAgent SDK | 理由hooksと拒否・確認・許可ルールを組み合わせて宣言的に設計できる |
| EDRなどエンドポイント監視への統合が必須 | おすすめどちらも要確認 | 理由Coworkは非対応と明記/Manusは記述なしで判断材料が乏しい |
Coworkそのものの機能構成や料金はClaude Coworkとは — 全機能・料金・始め方を1記事で、Agent SDKで最小構成のエージェントを組む手順はClaude Agent SDK入門にまとめています。
よくある質問
ManusとClaude Coworkはどちらも人手を介さず作業を進めますか
はい、いずれもエージェントが多段階のタスクを自律的に進める設計です。違うのは、その過程でどれだけ人の確認を挟むかの既定値です。Manusはサンドボックス内の操作を広く許容する方向に寄せ、Coworkは承認モードで確認の頻度を選べるようにしています。
Manusのタスクを他の人と共有すると何が見えますか
「共有」と「協働」で扱いが分かれます。共有ボタンで渡した相手には会話とアウトプットだけが見え、サンドボックスの中身は見えません。協働(コラボレーター招待)に切り替えると相手にもサンドボックスの操作権限が渡り、その代わりConnectorsは自動的に無効化されます。社外の相手に渡すときは、どちらのボタンを使うかで見える範囲が変わる点に注意が必要です。
Manusはどんなセキュリティ認証を取得していますか
トラストセンターのページでは、SOC 2 Type 1・SOC 2 Type 2・ISO/IEC 27001:2022・ISO/IEC 27701:2019の4つが列挙されています。従業員のバックグラウンドチェックやペネトレーションテストの実施といった組織面の項目も並んでいますが、タスク実行中の操作ログをどこまで残すかという運用面の粒度までは、このページの範囲では読み取れません。
個人利用でも監査ログは使えますか
Manus・Claudeともに、監査ログや管理者用のアクセス管理はTeam・Enterprise相当のプランを前提とした機能です。個人プランでは利用状況の記録範囲がより限定されます。
まとめ
個人でスライド作成や簡易サイト構築のような単発タスクを丸ごと任せたいなら、サンドボックス内の自由度が高いManusが向いています。一方、承認モードと監査ログの記録範囲が文書化されている組織で、承認プロセスや監査要件を満たす必要があるならCoworkを選ぶべきです。自前でエージェントの権限ロジックを細かく制御したい開発者は、hooksと拒否・確認・許可ルールを宣言的に組み合わせられるAgent SDKが選択肢になります。