Anthropicの決算をS-1/Aで読む — 9か月で売上332億ドル、純損失は1,040億ドル
AnthropicがSECに出したS-1/Aで、2026年1〜9月期の売上332億ドル、7〜9月期の売上170億ドルが明らかになりました。巨額の純損失の中身と、10月のS-1からの変更点を比べます。
Anthropicは2026年11月2日、SEC(アメリカの証券取引委員会)にForm S-1/A(第1号修正)を提出しました。10月26日のS-1では空欄だった2026年7〜9月期の数字が埋まりました。7〜9月期の数字が開示されたのは今回が初めてです。
7〜9月期(三か月)の売上は170億ドル。1〜9月期(九か月)では332億ドルです。一方で純損失は九か月で1,040億ドルに達しますが、大半は事業の赤字ではなく、転換社債などの評価額の再計算によるものです。
上場企業の決算発表ではなく、上場前の目論見書に載った数字です。2026年1〜9月期の数字は未監査(unaudited)と明記されています。
売上は九か月で332億ドル、7〜9月期は170億ドル
S-1/Aの要約財務データでは、売上は次のように伸びています。
| 期間 | 売上(百万ドル) |
|---|---|
| 2023年(通期) | 売上(百万ドル)41 |
| 2024年(通期) | 売上(百万ドル)386 |
| 2025年(通期) | 売上(百万ドル)4,585 |
| 2025年1〜9月 | 売上(百万ドル)2,545 |
| 2026年1〜9月 | 売上(百万ドル)33,242 |
2026年1〜9月だけで、2025年通期の7倍超になりました。四半期ごとに見ると、加速の形がはっきりします。
四半期売上の推移(三か月、百万ドル)
- 2025年1〜3月376
- 2025年4〜6月787
- 2025年7〜9月1,382
- 2025年10〜12月2,040
- 2026年1〜3月4,731
- 2026年4〜6月11,555
- 2026年7〜9月16,956
目論見書は、2026年7〜9月期の売上を前年同期比1,127%増と述べています。同じ期間に計算資源とインフラの費用は382%増でした。売上の伸びが費用の伸びを上回っている、というのが会社側の説明です。
4〜6月期と比べると、7〜9月期には新モデルに伴う価格引き下げと契約上の割引で約6億ドルの減収要因もありました。それを使用量の増加が上回った形です。
顧客数も開示されています。直近12か月の売上が10万ドル以上の顧客は11,900社超(前年同期は950社超)、100万ドル以上は1,900社超、1,000万ドル以上は約250社です。
純損失1,040億ドルは「本業の赤字」ではない
数字で最も目を引くのは、純損失です。ただし、営業損益と純損益は大きく違います。
九か月の損益(百万ドル)
2025年1〜9月
営業損失は5,224。転換社債などの評価変動は20,107の損失。純損失は25,107です。
2026年1〜9月
営業損失は1,260。転換社債などの評価変動は94,324の損失。純損失は104,039です。
純損失を押し上げたのは営業外の項目です。営業損失1,260百万ドルに次の項目が加わり、純損失104,039百万ドルになります。
- 転換社債・デリバティブ負債・SAFE(将来の株式取得契約)の公正価値変動: 94,324百万ドルの損失
- その他の営業外損益(純額): 10,397百万ドルの損失
- 受取利息: 2,359百万ドルの利益
- 法人税: 417百万ドル
S-1/Aは、評価変動について「発行済み転換社債の公正価値が、各期間に企業評価額が上がったことで増加したため」と説明しています。負債の評価額が上がると会計上は損失になるので、会社の価値が上がるほど赤字が膨らむ構造です。
その他の営業外損失は、パートナーとの資金調達契約(目論見書の注記4)に基づく資産・負債の当初認識と評価変動が主因です。
四半期で見ると、2026年4〜6月期は営業利益が974百万ドルの黒字でした。7〜9月期は営業損失567百万ドル(売上比3%)に戻っています。
GAAPとは別に、会社は非GAAP指標も出しています。2026年1〜9月の調整後の営業利益は4,081百万ドル、調整後の営業利益率は12%です。同じ期間のGAAP営業利益率はマイナス4%です。調整後の数字は、株式報酬(3,255百万ドル)と現金を伴わない寄付費用(2,086百万ドル)などを足し戻したものなので、GAAPと並べて読む必要があります。
粗利と株式報酬はどう出ているか
目論見書の損益計算書は、費用を「性質別」に並べる形式に変えています。この形式では売上総利益(粗利)の行が表示されません。
機能別に組み替えた注記の表には、売上原価が出ています。2026年1〜9月は売上原価4,812百万ドルで、同じ期間の売上は33,242百万ドルです。粗利率は目論見書には載っていません。
株式報酬は、2026年1〜9月に33億ドルでした。2025年1〜9月は591百万ドル、2025年通期は12億ドルです。7〜9月期の株式報酬は11億ドルです。権利確定条件を満たしていないRSUの未認識費用は241億ドルで、約2.0年で費用化される見込みです。
費用の中身: 計算資源が最大
九か月の営業費用の内訳(百万ドル)は次のとおりです。
| 費用 | 2025年1〜9月 | 2026年1〜9月 |
|---|---|---|
| 計算資源・インフラ | 2025年1〜9月4,381 | 2026年1〜9月18,808 |
| 人件費 | 2025年1〜9月1,027 | 2026年1〜9月4,863 |
| 営業・マーケティング・提携 | 2025年1〜9月322 | 2026年1〜9月5,529 |
| その他の営業・管理 | 2025年1〜9月539 | 2026年1〜9月5,302 |
| Bartz和解金 | 2025年1〜9月1,500 | 2026年1〜9月— |
| 営業費用合計 | 2025年1〜9月7,769 | 2026年1〜9月34,502 |
計算資源は営業費用の過半を占めます。7〜9月期の計算資源・インフラ費は9,863百万ドルで、売上比58%でした。4〜6月期の48%から上がっており、新しい計算資源が使えるようになった分が費用に載ったためと説明されています。この中には、短期契約の計算資源が50億ドル含まれます。
短期契約の計算資源は、複数年契約より「大幅に高い」とも書かれています。会社は今後も短期調達が増え、営業利益率を押し下げうると述べています。
機能別の見方では、研究開発が19,240百万ドルです。研究開発費は主に、モデル開発・研究・社内利用の計算資源と人件費で構成されます。
7〜9月期にその他の営業・管理費が3,588百万ドルに跳ねたのは、主に寄付マッチングプログラムに関する非現金の費用計上です。
キャッシュと営業キャッシュフロー
損益は評価損で膨らみましたが、キャッシュの動きは別の姿です。
2026年1〜9月のキャッシュ
営業活動によるCF
+65.7億ドル
前年同期は約20億ドルの支出
設備投資(有形固定資産の購入)
9.25億ドル
リース資産等の前払いは別に約19.6億ドル
現金・現金同等物
956億ドル
9月30日時点
短期投資
363億ドル
現金等と合計で約1,318億ドル
営業活動によるキャッシュフローは、2026年1〜9月に65.7億ドルのプラスでした。前年同期は20億ドルの支出で、純損失から非現金項目を除いた分の改善が主因です。
フリーキャッシュフローという項目は、S-1/Aでは定義されていません。営業CFから設備投資925百万ドルを引いた額は、単純に差し引くと約56億ドルです。リース資産・設備の前払い1,955百万ドルも差し引けば約37億ドルになります。会社が公表した指標ではないので、参考値として扱ってください。
資金は投資家から入っています。2026年1〜9月の財務活動によるCFは110,735百万ドルのプラスで、うち償還可能な転換優先株の発行収入が110,432百万ドルです。調達総額は累計1,411億ドルです。
九か月の投資活動は36,546百万ドルの支出で、大半は短期投資の購入(40,318百万ドル)です。
9月30日時点の貸借対照表では、総資産154,320百万ドルに対し総負債146,683百万ドル、株主資本は149,873百万ドルのマイナスです。累積赤字は156,193百万ドルです。
8,954億ドルの約束
大型の約束も、今回数字が入りました。
購入契約とリース契約(短期契約・未開始のリースを含む)の確約額は約8,954億ドル。ほぼすべてが計算資源とインフラに関するもの。
内訳は次のとおりです。
- 2030年12月31日までに発生する見込み: 約4,475億ドル
- 残りのほぼすべて: 2031年から2045年の間に発生
- 2026年9月30日から12か月以内に支払期限が来る額: 約698億ドル
計算資源の多くは、利用開始の12〜18か月前に複数年契約で確保します。契約した分が使えるようになると費用が先に載り、売上が追いつくまでに時間差が出ます。この時間差を、目論見書は営業利益率が期ごとに大きく動く理由として挙げています。
S-1からS-1/Aで何が変わったか
2つの文書を比べると、変化は「期間の更新」と「空欄の一部の充填」に集中しています。
| 項目 | 10月26日のS-1 | 11月2日のS-1/A |
|---|---|---|
| 直近の財務期間 | 10月26日のS-12026年1〜6月(六か月) | 11月2日のS-1/A2026年1〜9月(九か月) |
| 直近期の売上 | 10月26日のS-1六か月で16,286百万ドル | 11月2日のS-1/A九か月で33,242百万ドル |
| 7〜9月期の売上 | 10月26日のS-1空欄 | 11月2日のS-1/A170億ドル(16,956百万ドル) |
| 純損失 | 10月26日のS-1六か月で80,748百万ドル | 11月2日のS-1/A九か月で104,039百万ドル |
| 現金・短期投資 | 10月26日のS-1現金1,124億ドル、短期投資193億ドル(6月末) | 11月2日のS-1/A現金956億ドル、短期投資363億ドル(9月末) |
| 契約の確約額 | 10月26日のS-1「more than $」と金額が空欄 | 11月2日のS-1/A約8,954億ドル |
| 公募価格帯・売出株数 | 10月26日のS-1空欄 | 11月2日のS-1/A空欄のまま |
公募価格の範囲と売出株数は、今回も空欄です。株を買える段階にはまだなっていません。株の買い方はAnthropic株は買える?にまとめています。
ガバナンスの文面では、Class E株(共同創業者を除く従業員向け、議決権は限定的で経済的権利なし)を授権する時期が「上場の完了時」から「上場の完了直前」に直されました。5種類の株式と長期利益トラストの設計そのものは変わっていません。議決権の仕組みは10月のS-1の解説で扱っています。
数字を読むときの3つの注意
まず単位と期間です。目論見書は百万ドルと十億ドルを混在させ、三か月・九か月・通期を並べます。「170億ドル」は三か月、「332億ドル」は九か月です。
純損失の大半は評価替えです。目論見書は上場に伴う転換社債の株式への転換(Convertible Notes Conversion)を想定しており、転換された分は、評価変動の損失が同じ形では出なくなります。ただし価格帯が空欄の今は、影響額を計算できません。
直近の数字は未監査で、計算資源の増強は売上に先行して費用を積み上げます。7〜9月期に営業利益が赤字へ戻ったのは、その例です。
Anthropicがどんな会社かはAnthropicとはに整理しています。次の修正版で価格帯と株数が入るかが、上場日程を読む手がかりになります。
参照した一次ソース
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