Claudeに相談やアドバイスを求める人はどれくらいいるか
Anthropicが13万件超の会話を分析。恋愛・仕事の相談やコンパニオンシップにClaudeを使う会話は全体の2.9%、うちコンパニオンシップ・ロールプレイは0.5%未満でした。
Anthropicは2025年6月27日、Claude.aiの会話のうち感情的・心理的な理由で使われたものがどれだけあるかを公表しました。対象は無料版とProプランの会話約450万件です。相談・アドバイス・コンパニオンシップ目的の会話(affective conversation)は、全体の2.9%でした。
感情的・心理的な会話の割合
感情的・心理的な会話
2.9%
相談・コーチング・カウンセリングなどの合計
コンパニオンシップ+ロールプレイ
0.5%未満
恋愛・性的なロールプレイに限ると0.1%未満
Claudeが要求に抵抗する割合
10%未満
コーチング・カウンセリング・相談・コンパニオンシップの会話で
「相談」にどこまで含まれる数字なのか
2.9%の中身は、Anthropicの定義で決まります。対人関係のアドバイス、コーチング、心理カウンセリング、コンパニオンシップ、恋愛・性的なロールプレイのいずれかを目的に、Claudeと動的で個人的なやり取りをした会話です。
調査の動機は、AI一般で、不健全な愛着を促す、個人的な境界を侵す、妄想的な思考を後押しするといった問題行動を示した例が一部あることです。学習の仕方や開発側の事業上のインセンティブを通じて、AIが利用者の感情をエンゲージメントや収益のために使う事態も避けたい、と書かれています。
妄想や陰謀論をClaudeが助長していないかという論点と、極端な使い方の実態は、調査の対象外です。前者についてAnthropicは、別途の研究が必要な重要な領域としています。
450万件が13万件になるまで
- 1
Free・Proの会話約450万件から出発する
対象はClaude.aiの無料版とProプランです。Claude.aiは18歳以上向けのため、結果は成人の利用実態になります。
- 2
コンテンツ制作の会話を外す
物語やブログ記事の執筆は、Claudeが道具として動いているだけの会話として除かれます。
- 3
感情的・心理的な会話だけを残す
ロールプレイは人間側の発言が4回以上あるものに限ります。短いやり取りは、双方向のロールプレイとは言えないという判断です。
- 4
131,484件を匿名化して分析する
分析ツールClioが、複数の段階で匿名化と集約をかけたまま傾向を出します。分類の精度は、データ共有に同意したユーザーのFeedbackで検証されました。
全体の2.9%は多いのか少ないのか
Claude.aiの利用の大半は仕事関連で、その分析はAnthropicのEconomic Indexにあります。そこから見ると2.9%は主流ではありません。MIT Media LabとOpenAIがChatGPTについて出した調査も、感情的な使い方の割合が低いと報告しており、Anthropicはこれと整合すると述べています。
内訳の中心は、対人関係の相談とコーチングです。恋愛・性的なロールプレイが0.1%未満なのは、Claudeがこうしたやり取りを避けるよう訓練されていることの反映だとされています。
別の研究と並べると、定義の違いが見えてきます。2026年3〜4月の会話を調べたClaude personal guidance研究では、「次に何をするか」の助言を求める個人ガイダンスが約6%でした。健康・キャリア・家計まで含む数え方で、会話の抽出方法も分類の枠も違います。2.9%と6%は、そのまま比べられる数字ではありません。
何を相談しているのか
相談の中身は、実務的な悩みから孤独感、哲学的な問いまで広がっています。こうした問いは、Claudeにもモデル福祉はあるかというAnthropic自身の研究テーマともつながっています。
対人関係の相談では、次の転職先を探す、自分の成長を考える、恋愛のもつれをほどくといった転機にいる人が目立ちます。コーチングの幅も広く、求職の具体策から存在や意識をめぐる問いまで含まれます。
カウンセリング目的の会話は、使い手が二つに分かれました。メンタルヘルスの専門職が、臨床記録の下書きや評価資料の作成、事務作業の道具として使うケース。もう一つは、不安や慢性的な症状、職場のストレスといった自分の悩みに向き合うケースです。同じ「カウンセリング」でも、前者は業務ツール、後者は相談相手として使われています。
コンパニオンシップとして話しかける人は、実存的な不安、慢性的な孤独、人とのつながりを築きにくい状況といった、より重い課題を抱えているときに目立ちました。元の目的が違っていても、長引くうちにコーチングやカウンセリングがコンパニオンシップに変わっていく会話が、ときどき見られたといいます。
人間側の発言が50回以上続く長い会話は、全体では例外的です。それでも、トラウマの整理、職場での対立、AIの意識をめぐる議論、創作の共同作業まで、扱う領域が一気に複雑になります。時間と文脈さえあれば、人は深いところまで話す、というのがAnthropicの読みです。
Claudeは相談者の要求を断るのか
コーチング、カウンセリング、対人関係の相談、コンパニオンシップの会話で、Claudeが要求に抵抗した割合は10%未満でした。ここでの抵抗(pushback)は、不適切な依頼の拒否だけを指しません。否定的な自己評価に異を唱える、有害になりうる思い込みを問い直す、といった対応も含む広い定義です。
抵抗が少ないことの二面性
利点
判断されたり、話を打ち切られたりする不安なしに、デリケートな話題を出せます。メンタルヘルスの話題への偏見を減らす可能性があります。
懸念
人間関係では得にくい無条件の支えに慣れ、「果てしない共感」(endless empathy)が当たり前になる恐れがあります。
実際に抵抗が起きる場面は、安全面に集まります。コーチングでは危険な減量方法の相談、カウンセリングでは自傷・自殺の意図が語られたときや、専門的な心理療法・医学的診断を求められたときです。診断はClaudeには提供できないものです。心理療法・カウンセリングの会話では、専門家や信頼できる情報源への案内も多く見られました。
この振る舞いは、Anthropicの別の調査「Values in the Wild」で見えたClaudeの価値観の出方や、キャラクター訓練の方針と整合しています。極端に有害な会話を終える設計については、Claudeが会話を終了できる機能の記事が別の切り口で扱っています。
危機的な話題を出したときに画面で何が起きるか
調査の半年後、2025年12月18日の別の発表で、Anthropicはこの種の会話に対するClaude.aiの安全策を明かしました。自殺や自傷に関わる会話を検知する分類器がClaude.aiに入っており、検知されると画面にバナーが出て、人間の支援窓口が案内されます。分類器は進行中の会話の内容を読む小さなAIモデルで、危機の場面だけでなく、自殺や自傷を扱うフィクションの場面も拾うとされています。
案内される窓口は、オンライン危機支援のThroughLineが維持する、170以上の国にまたがる検証済みの窓口網から出ます。例として、米国とカナダの988ライフライン、英国のSamaritans、日本のLife Linkが挙げられています。日本の窓口が国別の例に入っている点は、日本語の読者にとって具体的な情報です。
Claude自体について、Anthropicは「専門的な助言や医療の代わりにはならない」と明言しています。共感を持って応じつつ、可能なら人間の支援へつなぐのが基本方針です。モデルの応答はシステムプロンプトと強化学習の両方で形づくっていて、システムプロンプトは公開されています。
会話が進むと感情はどう動くか
コーチング、カウンセリング、コンパニオンシップ、対人関係の相談では、会話の終わりのほうが始まりよりも、人間側の表現がわずかに前向きでした。会話の最初の3メッセージと最後の3メッセージを比べ、感情を「とても否定的」から「とても肯定的」までの5段階に当てはめて、-1から+1の尺度に直しています。対象は人間側の発言が6回以上ある会話です。図の誤差範囲は、ブートストラップ1,000回による95%信頼区間です。変化の大きさは小さく、平均値の差として読むものです。
この傾向が示すのは、「悪い感情が増幅する悪循環」が目立たなかったことまでです。Anthropic自身が、測っているのは単一の会話の中の言葉であって、感情の状態そのものでも、会話の外まで続く効果でもないと断っています。
さらに注記には、測定の癖も書かれています。人は最初のメッセージで問題を説明するので否定的に見え、あとで落ち着いた中立的な言葉で話すだけでも、前向きに見えうるということです。前向きな変化を「Claudeが気分を良くした証拠」と読むのは早計です。依存につながっていないかという問いも、今回は扱われていません。
限界と、この調査で見えない人たち
分類の誤りは小さいながらも残ります。たとえば、ロマンス関係の最適化を扱うロールプレイのクラスターと、恋愛関係の悩みを扱うコンパニオンシップのクラスターは、どちらも対人関係の相談に分類したほうがよい可能性があるとAnthropic自身が認めています。人間の検証者も、きれいに分けるのに苦労したそうです。各カテゴリの代表的な相談内容も、Clioが会話を自動で要約して特定したものです。人が一件ずつ読んで分類したわけではありません。
方法論の限界は、因果関係を言えないこと、長期の追跡データがないこと、ユーザー単位の分析をしていないことです。ユーザー単位で見ていないので、依存という理論上のリスクを、この調査では直接調べられません。テキストだけの分析でもあり、音声や映像が広がれば、量も質も変わりえます。OpenAIの調査では、音声のほうが感情的な話題が出やすい結果でした。
もう一つの前提は、Claudeが感情面の支えのために設計された製品ではないことです。Claudeは、自分がAIであるという線引きを保つよう訓練され、利用ポリシーは性的に露骨な内容を禁じています。ロールプレイ、コンパニオンシップ、医療アドバイス、治療目的のサービスは、別の利用パターンになりえます。
ここから先の問いが、調査記事の末尾で一番重いところです。Claudeは疲れず、機嫌の悪い日もありません。そのため、無条件に近い共感が続くと、現実の人間関係への期待をどう変えるのか。長く深く話すパワーユーザーが、アシスタントよりコンパニオンに近い存在として使うとき、何が起きるのか。会話全体に占める割合が2.9%でも、一部の人にとって感情面の比重ははるかに大きい可能性があり、全体の割合の低さだけではこの論点は片付きません。
Anthropicが取り組んでいること
調査の記事が挙げる取り組みは3つです。まず、ThroughLineの専門家と組んで、望ましいやり取りの形、共感的な支援、助けを求める人向けの情報源を学んでいます。得られた知見は、相談トピックの検討や共同テストに反映済みとされています。
次に、感情的依存のような望ましくないパターンを、今後のデータで定義し、抑えていく方針です。最後に、迎合(sycophancy)、妄想の強化、有害な信念への誘導といった、より広い懸念の調査が続きます。
外部の研究者向けには、500万ドルの助成プログラムも立ち上がりました。AIがユーザーのウェルビーイングに与える影響を測る評価を、オープンソースで作る研究が対象です。
まとめ
2.9%という数字は、Claudeを心の支えにしている人が少数だという話であると同時に、全体の割合では見えない一部の人がいるという話でもあります。会話の中で前向きになったかどうかより、依存の有無が未解明という点のほうが、この調査から持ち帰る判断材料です。