Claudeでデジタル終活の棚卸し表を作る — パスワードは預けない
サービス名・契約・連絡先だけを表にして、IDとパスワードはClaudeに渡さない。デジタル終活の棚卸し表の列の決め方と、インコグニートの使いどころをまとめます。
デジタル終活の棚卸し表は、サービス名・契約の種類・請求の有無・連絡先だけをClaudeと作れば足ります。IDとパスワードは表に入れず、保管場所の名前だけを書きます。
表を作る作業はClaudeが得意な整理仕事です。一方、パスワードはClaudeのサポート記事が「慎重に扱う情報」の例に挙げる種類の情報でもあります。この記事では、その線をどこに引くかと、列の設計、プロンプト、仕上げの確認までを順に示します。
なぜ「見えない契約」の一覧が先に要るのか
国民生活センターは2024年11月20日に、デジタル終活についての報告を公表しました。遺族の困りごととして挙がっているのは、次のような相談です。
- 故人が使っていたネット銀行の手続きをしたいが、スマホが開けず契約先もわからない
- コード決済サービス事業者の相続手続きが、1カ月以上たっても終わらない
- 故人が契約したサブスクの請求を止めたいが、IDとパスワードがわからない
同じ報告は、相談事例から見える特徴を3つ挙げています。ネット上の資産は本人以外が実態を把握しにくく、手続きに時間がかかること。サブスクは解約しない限り請求が続くこと。故人のスマホやパソコンのパスワードがわからないと、第三者によるロック解除は難しいこと。
3つ目の特徴はロック解除の話で、棚卸し表では解決できません。表が効くのは前の2つです。何がどこにあるかさえ分かれば、遺族は問い合わせ先と解約の入口にたどり着けます。
前提になっている数字
デジタル遺品に明確な定義はありません。報告は、デジタル機器を通して確認できるデータやインターネットで契約したサービスを指すとしたうえで、機器そのものは含めない扱いです。スマホでインターネットを使う人は60代で78.3%、70代で49.4%とされています。これからデジタル遺品を残す世代が増える、という見立てです。
パスワードをClaudeに渡さない線引き
国民生活センターの対策には「サービス名・ID・パスワードを整理しておきましょう」という項目があります。整理そのものは必要です。ただし、整理した結果をClaudeの会話に貼る必要はありません。
Claudeのサポート記事は、金融情報(クレジットカード番号や銀行口座の詳細)、健康記録、パスワードや非公開のログイン情報、機密文書を、特に慎重に扱う情報として挙げています。同じ記事には、モデル改善に協力する設定のときの保護策も書かれています。ユーザー IDとの紐づけを外してからレビューされること、閲覧できる担当者が限られること、といった内容です。保護策があっても、慎重に扱う情報の例にパスワードが入っている点は変わりません。
そこで、この記事は役割を二つに分けます。
Claudeと作る表と、別の場所に置くもの
Claudeに渡してよい
サービス名、契約の種類、月額か年額か、請求先の支払い方法の種類、サポートの連絡先、解約の入口にあたる画面名。
Claudeに渡さない
ID、パスワード、認証コード、リカバリーコード、カード番号や口座番号の全桁。
ID・パスワードの置き場は、パスワード管理ツールや紙の保管など、本人が選んだ場所です。表には「どこにあるか」だけを書きます。たとえば「保管場所: 家の金庫のノート」「保管場所: パスワード管理アプリ」の形です。見つけた遺族が、棚卸し表から保管場所へ進める作りになります。
パスワード管理アプリとClaudeをつなぐ連携はClaude 1Password連携で扱っています。この記事の表づくりには、その連携も要りません。
棚卸し表の列を決める
列は多くしすぎないほうが、続けて更新できます。次の8列を土台にした形が使いやすいでしょう。
| 列 | 書く内容の例 |
|---|---|
| サービス名 | 書く内容の例〇〇銀行アプリ、動画配信サービスA |
| 種類 | 書く内容の例金融、サブスク、決済、SNS、クラウド保存 |
| 課金 | 書く内容の例月額、年額、無料、なし |
| 請求の支払い方法 | 書く内容の例クレジットカード、キャリア決済、口座振替 |
| 連絡先 | 書く内容の例サポートの電話番号、問い合わせ画面の名前 |
| 解約の入口 | 書く内容の例アプリ内の設定画面、Webのマイページ |
| 認証の手がかり | 書く内容の例登録メールの種類、SMS認証の電話番号の持ち主 |
| 保管場所 | 書く内容の例ID・パスワードのありか(中身は書かない) |
「認証の手がかり」は、パスワードそのものではなく、どの連絡手段で本人確認が走るかを書く列です。遺族は、故人のメールやSMSが見られるかどうかで、取れる手続きが変わります。
国民生活センターの4つの対策との対応
報告の対策は4つです。スマホやパソコンのロック解除を遺族ができるようにしておくこと。ネット上の資産とサブスクの契約を整理しておくこと。エンディングノートを使うこと。アカウントにアクセスできる人を指名できるサービスを使うこと。
棚卸し表が受け持つのは2つ目と3つ目の入口です。1つ目のロック解除と4つ目の指名サービスは、Claudeの外で本人が設定します。表の「認証の手がかり」列に、設定済みかどうかを一言添えておくと、見落としが減ります。
Claudeに頼む手順
素材は、スマホのサブスク一覧画面を見ながら手で書き出したメモで足ります。Claudeに渡す前に、IDとパスワードが混ざっていないかを自分で一度見ます。
表ができるまでの流れ
- 1
メモを手で書き出す
スマホの購読一覧、メールの請求通知、カードの明細から、サービス名と請求の種類を拾います。
- 2
Claudeに表へ整えてもらう
次のようなプロンプトで、列の形に揃えます。
- 3
空欄と不明を洗い出してもらう
連絡先や解約の入口が空の行を一覧にしてもらい、自分で埋めます。
- 4
混入チェックをかける
表の中にパスワードらしき文字列がないかを、Claude自身に読み直させます。
整えるときのプロンプトは、禁止事項を先頭に置きます。
次のメモを、サービス名・種類・課金・請求の支払い方法・連絡先・
解約の入口・認証の手がかり・保管場所の8列のMarkdown表にしてください。
・ID、パスワード、認証コード、カード番号は表に書かない
・メモにそれらしい文字列があれば、表に入れず「混入の疑い」として別に列挙する
・分からない欄は推測せず「未記入」にする
[メモ]「未記入」の指定が大事です。連絡先の電話番号をClaudeが記憶で補うと、古い番号や別のサービスの番号が入りえます。連絡先は、各サービスの公式の問い合わせ画面で自分で確かめて書き込みます。
仕上げの混入チェック
表ができたら、次のように頼みます。
この表を1行ずつ読み、パスワード・ID・認証コードに見えるセルがあれば
行と列を挙げてください。なければ「該当なし」と答えてください。Claudeの読み直しだけに頼らず、手元でも検索します。表をテキストで保存してあるなら、検索窓で「パスワード:」「PW」「pass」などの語を引くだけで拾えるものがあります。この二重の確認が、表を後から共有するときの安全装置になります。
インコグニートを使う場面と使えない場面
メモには、本人の購読履歴や支払い方法の種類といった生活情報が含まれます。通常のチャットで作ってもよいのですが、履歴にもメモリにも残したくない作業なら、インコグニートチャットが選べます。
サポート記事の説明では、インコグニートチャットは次の性質を持ちます。
- チャット履歴とClaudeのメモリに保存されない
- 学習に使われない
- 画面から消えても、既定で30日間は保持される
- 開始後に通常のチャットへ変換できず、閉じると開き直せない
ここから出てくる実務上の注意が二つあります。
1つ目は、閉じる前に表を手元へ保存することです。閉じたチャットは開き直せないので、完成した表をコピーして自分のファイルに貼ります。2つ目は、プロフィール情報の扱いです。カスタムスタイルや個人設定は、インコグニートでもClaudeが参照できます。設定欄に家族構成や病歴を書いている人は、その内容が会話の文脈に入る点を知っておくと安心です。詳しい仕様はClaudeインコグニートチャットの使い方と制限にあります。
Projectsの中では使えない
インコグニートは、プロジェクトの外のチャットでだけ使えます。Projectsに棚卸しの資料を置いて作業したい場合、ゴーストアイコンは出ません。代わりに、最初のメッセージを送る前に「+」メニューでメモリをオフにする方法があります。こちらはチャットが履歴に残る点が、インコグニートと違います。
TeamやEnterpriseのプランでは、インコグニートでも、組織のデータエクスポートにアカウントのOwner向けで含まれます。職場のアカウントで私的な終活の表を作ると、管理側に届く経路に乗ります。私的な終活の表は、個人のアカウントで作る形に分けておけます。
更新と共有のしかた
棚卸し表は作って終わりではありません。サブスクを増やしたり解約したりするたびに古くなります。更新のきっかけを先に決めておくと続きます。
- 新しいサブスクを契約したら、その場で1行足す
- 年1回、カード明細を見ながら表と突き合わせる
- 家族に表の場所を伝えるときは、保管場所の列が指す先も一緒に伝える
表そのものにはパスワードがないため、家族と共有する手段の選択肢は広がります。それでも、サービス名と契約の一覧は個人の生活が読める情報です。共有先は、渡したい家族に限ります。
遺言やエンディングノートの下書きにこの表をつなぐ方法は、Claudeで遺言・エンディングノートの下書きを整理する方法で扱っています。病歴など要配慮個人情報を含む文書を扱うときの考え方は、要配慮個人情報をClaudeに入力してよいかにまとめています。
まとめ
棚卸し表の価値は、遺族が問い合わせ先と解約の入口にたどり着けるかで決まります。その役目に、パスワードの中身は要りません。
Claudeには、列の設計、メモの整形、空欄の洗い出し、混入チェックを任せます。IDとパスワードは本人が選んだ別の場所に置き、表には保管場所の名前だけを書く。この分担なら、整理の手間はClaudeに預けつつ、最も慎重に扱うべき情報は手元に残せます。