賃上げ促進税制の判定をClaude for Excelで進める手順 — 控除率の段階と差額
賃上げ促進税制(全企業向け)の要件を給与データから判定し、控除率の段階ごとの差額まで出す手順です。継続雇用者の増加率、教育訓練費、控除額の20%上限をClaude for Excelで式にします。
賃上げ促進税制の判定で迷うのは、給与総額ではなく「継続雇用者」の増加率で見る点です。全従業員の給与が増えていても、継続雇用者の増加率が3%に届かなければ控除は受けられません。
この記事では、給与データを貼ったExcelで要件を1行ずつ判定し、控除率が何%になるか、あと何円で次の段階に届くかを出すところまでを、Claude for Excelで進めます。対象は国税庁のタックスアンサーNo.5927に載っている全企業向けの制度です。
判定に必要な要件は3つの層に分かれる
No.5927の要件は、満たさなければ控除ゼロになる「適用要件」と、満たすほど控除率が上がる「上乗せ要件」の2層です。さらに大規模な法人には、公表と届出の手続き要件が加わります。
その前提として、制度を使えるのは青色申告書を提出する法人です。設立事業年度(設立の日を含む事業年度)、合併以外の事由による解散の日を含む事業年度、清算中の事業年度は適用できません。これに当たる事業年度は、下の要件を計算する前に対象外と判定します。
判定の層
適用要件
国内雇用者に給与等を支給していて、継続雇用者の給与等支給額が前事業年度より3%以上増えていること。比較側が0円なら、この要件は満たさないものとされます。
上乗せ要件
継続雇用者の増加率が4%以上、教育訓練費の要件、プラチナくるみんまたはプラチナえるぼしの認定。満たした分だけ控除率が加算されます。
手続き要件
資本金10億円以上かつ従業員1,000人以上、または従業員2,000人超の法人は、マルチステークホルダー方針の公表と、届出があった旨の書類の添付が必要です。
控除率の計算は、基本の10%に加算分を足します。
| 条件 | 加算 |
|---|---|
| 継続雇用者の増加率が4%以上 | 加算5% |
| 同5%以上 | 加算10% |
| 同7%以上 | 加算15% |
| 教育訓練費の要件を満たす | 加算5% |
| プラチナくるみん・プラチナえるぼし | 加算5% |
増加率の加算は段階ごとの置き換えで、4%と5%を二重には足しません。7%以上で教育訓練費の要件と認定の両方を満たすと加算は合計25%で、控除率は最大35%になります。
給与データから継続雇用者だけを取り出す
最初の作業は、判定に使う人を絞ることです。継続雇用者は、適用年度と前事業年度の両方の期間で給与等の支給を受けた国内雇用者のうち、雇用保険法の一般被保険者に限られます。高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の継続雇用制度の対象者は除かれます。
国内雇用者のほうも、役員と特殊の関係のある者などは含まれず、国内の事業所の賃金台帳に載る人が対象です。役員報酬の扱いは、役員報酬の期中改定をClaudeで判定する手順で定期同額給与の面から整理しています。
給与データは、1行を1人にして次のような列を持たせておくと、絞り込みをClaudeに頼みやすくなります。
| 列 | 内容 |
|---|---|
| 社員番号 | 内容前年度と今年度の突合に使う |
| 区分 | 内容使用人か役員か、関係者か |
| 雇用保険 | 内容一般被保険者かどうか |
| 継続雇用制度 | 内容対象者かどうか |
| 前事業年度の給与等 | 内容比較側の金額 |
| 適用年度の給与等 | 内容当期の金額 |
Claude for Excelには、次のように頼みます。
給与データのシートで、継続雇用者の列を新しく追加してください。
条件は、区分が使用人、雇用保険が一般被保険者、継続雇用制度が
対象外、かつ前事業年度と適用年度の両方に給与がある人です。
該当する人数と、条件ごとに外れた人数も別セルに出してください。
数式は残し、値で上書きしないでください。外れた人数を別に出させる理由は、あとで税理士や経理担当と突き合わせるためです。「何人がなぜ除かれたか」が見えれば、判定の根拠を説明できます。
給与等から差し引く補塡額にも注意が必要です。他の者から給与に充てるために受ける金額があるときは、その分を引いた額が支給額になります。ただし国や地方公共団体から受ける雇用保険法の事業としての助成金などは、この補塡額から除かれます。データ上でどれに当たるかは、人が決めてください。
判定シートを式で組む
入力を1列にまとめ、その下に判定を並べる構成にします。青色申告法人であることと、設立事業年度などの対象外の事業年度でないことは、シートに入れる前に人が確かめておく前提です。入力は次のとおりです。
| セル | 項目 |
|---|---|
| B2 | 項目継続雇用者の給与等支給額(適用年度) |
| B3 | 項目継続雇用者の比較用の給与等支給額(前事業年度) |
| B4 | 項目雇用者の給与等支給額 |
| B5 | 項目比較用の雇用者給与等の支給額 |
| B6 | 項目雇用安定助成金の額(適用年度) |
| B7 | 項目雇用安定助成金の額(前事業年度) |
| B8 | 項目教育訓練費 |
| B9 | 項目比較教育訓練費 |
| B10 | 項目プラチナくるみん・えるぼし(該当=1) |
| B11 | 項目調整前法人税額 |
| B12 | 項目資本金の額 |
| B13 | 項目常時使用する従業員数 |
判定の式は次のとおりです。
B15 =IF(B3=0,"算定不可",ROUND((B2-B3)/B3,8))
B16 =IF(AND(ISNUMBER(B15),B15>=0.03),"〇","×")
B17 =IF(B16="〇",IF(B15>=0.07,0.15,IF(B15>=0.05,0.1,
IF(B15>=0.04,0.05,0))),0)
B18 =IF(B9=0,"算定不可",ROUND((B8-B9)/B9,8))
B19 =IF(AND(ISNUMBER(B18),B4>0),
IF(AND(B18>=0.1,B8/B4>=0.0005),"〇","×"),"×")
B20 =IF(B10=1,0.05,0)
B21 =IF(B16="〇",0.1+B17+IF(B19="〇",0.05,0)+B20,0)
B22 =MAX(0,MIN(B4-B5,(B4-B6)-(B5-B7)))
B23 =B22*B21
B24 =B11*0.2
B25 =MIN(B23,B24)
B26 =IF(OR(AND(B12>=1000000000,B13>=1000),B13>2000),
"要(公表・届出)","不要")B22は、控除対象の雇用者給与等の支給増加額です。雇用者の給与等支給額から比較用の額を引いた差が、雇用安定助成金を除いた増加額を超えるときは、後者に抑える規定を式にしています。B24は、税額控除限度額が調整前法人税額の20%を超えるときの上限です。前事業年度と適用年度で月数が異なるときは、比較側の金額に一定の計算をする規定があります。この判定シートは、同じ月数どうしの比較を前提にしています。
4%と5%などの境目を比較するセルには、ROUND をかけて小数の誤差を落としています。たとえば増加率がちょうど4%のとき、浮動小数点の誤差で 0.04 を下回って見えるのを防ぐ措置です。端数処理そのもののルールはNo.5927には書かれていないので、境目すれすれの結果は人が確認してください。
落とし穴
教育訓練費の比較側が0円だと式が止まる
教育訓練費の要件は、比較教育訓練費の額で割る形をしています。前の期間に教育訓練費がなければ割り算が成り立たず、No.5927には、この場合の扱いが書かれていません。上の式は「算定不可」と表示して要件4を満たさない扱いに倒しているだけなので、該当するときは税理士に確認してください。
Claude for Excelには、式を書いたあと検算まで頼みます。
この判定シートのB15からB26の式を、No.5927の要件と照らして
説明してください。説明は、各式がどの要件に対応するかを
セル番号つきで書いてください。要件に対応しない式があれば、
そう書いてください。Claude for Excelはセルへの引用つきで答えるので、説明に出たセル番号から該当の式へ飛べます。式の意味が要件と合っているかを、人が確認する入口になります。
試算例で控除率の段階を見る
次の数字は説明用の仮のものです。継続雇用者の前事業年度の給与等が1億2,000万円、雇用者の給与等支給額は適用年度が2億円、前事業年度が1億9,000万円、教育訓練費は適用年度が300万円で比較側が250万円、調整前法人税額は800万円、認定はなし、とします。
教育訓練費の増加率は20%、雇用者の給与等支給額に対する割合は1.5%なので、要件4は満たします。控除対象の雇用者給与等の支給増加額は1,000万円です。継続雇用者の当期給与を変えたときの結果は、次のとおりです。
| 継続雇用者の増加率 | 控除率 | 限度額 | 上限(20%) | 控除額 |
|---|---|---|---|---|
| 3.0% | 控除率15% | 限度額150万円 | 上限(20%)160万円 | 控除額150万円 |
| 4.0% | 控除率20% | 限度額200万円 | 上限(20%)160万円 | 控除額160万円 |
| 5.0% | 控除率25% | 限度額250万円 | 上限(20%)160万円 | 控除額160万円 |
| 7.0% | 控除率30% | 限度額300万円 | 上限(20%)160万円 | 控除額160万円 |
各行の当期の継続雇用者給与は、前事業年度1億2,000万円の103%、104%、105%、107%にあたる1億2,360万円、1億2,480万円、1億2,600万円、1億2,840万円です。
3%から4%に上がる段階では、控除率が15%から20%になっても、控除額は150万円から160万円にしかなりません。調整前法人税額800万円の20%、つまり160万円が上限になり、4%以上は何%でも控除額が同じだからです。
控除率の段階が上がる意味は、法人税額の大きさで変わります。限度額が上限に頭打ちされる法人では、次の段階を狙って給与を積み増しても控除額は増えません。上限に頭打ちされず250万円の限度額を使い切るには、調整前法人税額が1,250万円以上要ります。
あと何円で次の段階に届くかも、式にできます。5%まであとどれだけかは、=B3*1.05-B2 で出ます。例の前事業年度1億2,000万円なら、4%の1億2,480万円から5%の1億2,600万円まで、120万円差です。
継続雇用者の増加率が4%、5%、7%になる当期の給与等を、
別の表に出してください。各段階の控除率、限度額、20%上限を
適用した後の控除額、現在の値との差額も並べてください。残す書類と、人が決める線引き
教育訓練費の要件を使うときは、実施時期、内容、対象となる国内雇用者の氏名、費用を支出した年月日、内容、金額、相手先の氏名または名称を書いた書類を保存する必要があります。Excel上は金額だけでなく、この項目の列を教育訓練費の明細に持たせておくと、書類に流用できます。
確定申告書等には、控除対象の雇用者給与等の支給増加額、継続雇用者の給与等支給額、継続雇用者の比較用の給与等支給額、控除を受ける金額と、その計算の明細を記した書類の添付が必要です。判定シートは、この明細書の計算過程を確認する下書きとして使えます。
人が決める部分
継続雇用者の範囲
雇用保険の一般被保険者かどうか、継続雇用制度の対象者かどうかは、台帳の記載から人が確定します。
補塡額と助成金
給与に充てるために受けた金額のうち、補塡額に当たるものと除かれるものの仕分けです。
他の特別控除との関係
地域の雇用増加を対象にした別の特別控除(タックスアンサーNo.5926)を受ける場合は、控除対象の金額から差し引く調整があります。判定シートには組み込んでいません。
Claude for Excelの利用条件も押さえておきます。Pro、Max、Team、Enterpriseのプランが対象で、Excel 2016と2019の買い切り版、iPad、Androidでは動きません。ドキュメントでは、最終的な成果物を人の確認なしで使うことや、監査上重要な計算を検証なしで使うことは勧められないとされています。外部から受け取ったファイルには、Claudeを操作する隠し指示が入っている可能性があります。給与データには、自社で作成した信頼できるファイルだけを使ってください。
同じ型の判定は、ほかの税務でも作れます。前年の税額で回数を分ける消費税の中間申告は消費税の中間申告の回数をClaudeで判定する手順に、対象の抽出と提出漏れの洗い出しは支払調書の対象判定をClaude for Excelで進める手順にあります。
まとめ
賃上げ促進税制の判定は、継続雇用者の増加率、教育訓練費、認定の有無を式にして、控除率と控除額を出すところまでがExcelで再現できる範囲です。控除額が調整前法人税額の20%で頭打ちになる法人は、増加率の段階が上がっても控除額が動かない点を、先に試算で確かめられます。継続雇用者の範囲と補塡額の仕分けは、人の判断として残ります。