高年齢雇用継続給付を定年再雇用の賃金案ごとに試算する — Claude for Excel
定年再雇用の賃金案ごとに、高年齢雇用継続給付の区分と支給額、手取りと会社負担をExcelで並べる手順。式の組み方とClaude for Excelへの頼み方、検算の入れ方を数値例で示します。
定年後の再雇用で賃金を何割に下げると、高年齢雇用継続給付はいくら出るのか。人事・労務の担当者が賃金案を比べるとき、最初に要るのはこの答えです。給付は60歳時点の賃金に対する比率で決まるため、式さえ組めば、案が3つでも10個でも一覧にできます。
この記事では、その一覧表をExcelで作り、Claude for Excelに式の組み立てと検算を手伝わせる手順を扱います。給付の考え方、シートの設計、Claudeへの頼み方、使うときの注意の順に進めます。
高年齢雇用継続給付は賃金の比率で区分が決まる
高年齢雇用継続給付は、雇用保険の被保険者だった期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の一般被保険者が対象です。60歳以降の賃金が60歳時点より下がり、原則として75%未満になったまま働き続けると支給されます。再就職の場合の「高年齢再就職給付金」もありますが、再雇用の試算で使うのは「高年齢雇用継続基本給付金」です。
支給額は、各月の賃金が60歳時点の賃金の何%まで下がったかで決まります。
比率で変わる支給額
64%以下
各月の賃金の10%相当額が支給されます。
64%超75%未満
低下率に応じて、各月の賃金の10%相当額未満の額になります。
75%以上
支給されません。
ハローワークのページには、数値例も載っています。60歳時点の賃金が月額30万円で、60歳以降の賃金が18万円に下がった場合、比率は60%です。18万円の10%にあたる1万8千円が支給されます。この例は、あとで作る表の検算にそのまま使えます。
逓減帯の支給率は賃金と給付の合計が75%に収まる形で下がる
64%超75%未満の帯では、賃金と給付額を足した合計が、64%のときの70.4%から75%まで直線で増えるように支給率が決まります。ハローワークのリーフレットが示すグラフの考え方です。この直線を式にすると、支給額は次のとおりです。
支給額 = (48 × 賃金月額 − 64 × 支給対象月の賃金) ÷ 110賃金月額が30万円で、支給対象月の賃金が20万円(低下率66.67%)なら、(48×30万−64×20万)÷110で14,545円です。この式は70.4%と75%を結ぶ直線から導いたもので、リーフレットの例(14,545円)と支給率早見表の数値に一致します。
シートでは、支給額ではなく支給率を先に出すと、早見表と突き合わせられます。式を賃金の比率Cで書き直すと、支給率は(48−64×C)÷(110×C)です。リーフレットは、低下率と支給率を小数点以下第3位で四捨五入して%の小数第2位まで求め、支給額は小数点以下を切り捨てると定めています。
令和7年3月31日以前に60歳に達した日を迎えた人は、同じ形で係数が変わります。61%以下は15%、61%超75%未満は合計が70.15%から75%へ上がる直線で、式は(137.25×賃金月額−183×支給対象月の賃金)÷280です。早見表から数点を抜き出すと、差は次のように出ます。
| 賃金の低下率 | 令和7年4月以降の支給率 | 令和7年3月31日以前の支給率 |
|---|---|---|
| 74% | 令和7年4月以降の支給率0.79% | 令和7年3月31日以前の支給率0.88% |
| 70% | 令和7年4月以降の支給率4.16% | 令和7年3月31日以前の支給率4.67% |
| 66% | 令和7年4月以降の支給率7.93% | 令和7年3月31日以前の支給率8.91% |
| 65% | 令和7年4月以降の支給率8.95% | 令和7年3月31日以前の支給率10.05% |
| 64% | 令和7年4月以降の支給率10.00% | 令和7年3月31日以前の支給率11.23% |
2025年4月以降に60歳を迎える人と、それ以前の人が同じ職場に混在するあいだは、計算式を人ごとに切り替える必要があります。同じ比率でも、旧ルールの人は支給率が高く出ます。
支給限度額と最低限度額で額が変わる
ほかに押さえる条件が5つあります。
- 各月の賃金が397,369円以上の月は支給されません。賃金と算定した給付額の合計が397,369円を超えるときは、397,369円から賃金を引いた額までに減ります。この額は毎年8月1日に改定されます
- 算定した支給額が2,562円以下のときは、支給されません。賃金が極端に低い月は、比率が低くても0円になります
- 賃金月額(60歳に到達する前6か月の平均賃金)は、上限522,000円・下限96,090円で頭打ちになります
- 支給対象期間は、60歳に達した月から65歳に達する月までです。60歳時点で被保険者期間が5年に満たない場合は、5年になった月から始まります
- 賃金が下がった理由が欠勤や休業などのときは、下がった分を足した「みなし賃金」で低下率と支給率を求めます。支給額は、実際に払われた賃金にその支給率を掛けて出します
みなし賃金の例を挙げます。賃金月額が30万円で、実際の賃金が18万円、欠勤による減額が3万円のとき、みなし賃金は21万円で低下率は70.00%、支給率は4.16%です。支給額は18万円×4.16%で7,488円になり、60%として18,000円と考えた場合の半分に届きません。
試算シートは入力・賃金案・比較の3段で作る
Claudeに作らせる前に、どこに何を置くかを人が決めます。置き場所が曖昧だと、Claudeは書き込み先を推測するしかありません。
| シート | 置くもの | 備考 |
|---|---|---|
| 入力 | 置くもの60歳時点の賃金、賃金上限額、適用する率の区分 | 備考毎年8月に上限額を見直す |
| 賃金案 | 置くもの案名、再雇用後の月額賃金、比率、区分、給付額 | 備考1行が1案 |
| 比較 | 置くもの手取り概算、会社負担、案どうしの差 | 備考賃金案シートを参照 |
「入力」シートには次のようなセルを置きます。
B2 賃金月額(60歳到達前6か月の平均賃金) 300000
B3 賃金の支給限度額 397369
B4 定率区分の給付率 10%
B5 定率区分の上限比率 64%
B6 支給対象外となる比率 75%
B7 最低限度額 2562
B11 逓減の係数(賃金月額) 48
B12 逓減の係数(支給対象月の賃金) 64
B13 逓減の割る数 110率や係数を式に直書きせず、入力セルに出しておくのが要点です。B2は、60歳に到達する前6か月の平均賃金が96,090円を下回れば96,090円、522,000円を超えれば522,000円にそろえて入れます。制度が改正されて率が変わっても、入力シートだけを直せば済みます。旧ルールの人の分は、同じブックを複製し、B4を15%、B5を61%、B11〜B13を137.25・183・280に差し替えれば試算できます。
区分と給付額の式を組む
「賃金案」シートでは、A列に案名、B列に再雇用後の月額賃金を置きます。C列以降の式は次のとおりです。
C2 =ROUND(B2/入力!$B$2,4)
D2 =IF(B2>入力!$B$3,"対象外(上限超)",
IF(C2>=入力!$B$6,"対象外(75%以上)",
IF(C2<=入力!$B$5,"定率","逓減")))
F2 =IF(D2="逓減",
ROUND((入力!$B$11-入力!$B$12*C2)/(入力!$B$13*C2),4),"")
E2 =IF(D2="定率",ROUNDDOWN(B2*入力!$B$4,0),
IF(D2="逓減",ROUNDDOWN(B2*F2,0),0))
G2 =IF(E2<=入力!$B$7,0,MIN(E2,入力!$B$3-B2))C列は低下率で、リーフレットに合わせて%の小数第2位(割合の小数第4位)までに丸めます。F列は逓減区分だけの支給率、E列は算定した支給額で、端数は切り捨てます。G列が最終の支給額です。2,562円以下なら0円にし、賃金との合計が支給限度額を超えるときは限度額までに抑えます。
区分の判定は、比率の境目が肝です。64%ちょうどは定率、75%ちょうどは対象外になります。「64%以下」「75%未満」という書き方に合わせて、不等号の向きを選んでいます。
手取りと会社負担を並べる
給付額が出たら、賃金案ごとに本人の手取りと会社の負担を比べます。ここで使う控除率と事業主負担率は、ハローワークのページには載っていません。自社の給与計算の実績から入力シートに置いてください。
入力!B8 本人の控除率(賃金分) 例: 自社の給与計算実績から
入力!B9 事業主の負担率 例: 自社の給与計算実績から
手取り概算 =賃金案!B2*(1-入力!$B$8)+賃金案!G2-年金停止額
会社負担 =賃金案!B2*(1+入力!$B$9)年金停止額は、特別支給の老齢厚生年金(在職老齢年金)を受けている人だけに出る項目です。給付を受ける月は、標準報酬月額に停止率を掛けた額が年金から止まります。標準報酬月額が賃金月額の64%以下なら停止率は4%、64%超75%未満なら4%から徐々に下がり、75%以上の月と給付が不支給の月は調整されません。
| 標準報酬月額÷賃金月額 | 年金の停止率 |
|---|---|
| 64%以下 | 年金の停止率4.00% |
| 66% | 年金の停止率3.17% |
| 70% | 年金の停止率1.66% |
| 74% | 年金の停止率0.31% |
| 75%以上 | 年金の停止率0.00% |
たとえば賃金月額が30万円で、標準報酬月額が18万円(60%)なら、年金のうち18万円×4%で7,200円が月ごとに止まります。比率は実際の賃金ではなく標準報酬月額で見る点に注意してください。年金額と標準報酬月額は人ごとに違うので、該当者の分は年金事務所の試算を入力シートに置きます。年金を受けていない人は、この項目を0にして構いません。
会社負担に給付額は入れません。給付は雇用保険から本人に支給されるお金で、会社の人件費ではないためです。一方、手取りには給付額を足します。賃金案の差が、本人にとっての差と会社にとっての差で別々の形になるのが、この表の使いどころです。
たとえば60歳時点が30万円の人に対し、次の5案を並べたとします。
| 再雇用後の月額賃金 | 比率 | 区分 | 給付額(月) |
|---|---|---|---|
| 150,000円 | 比率50% | 区分定率 | 給付額(月)15,000円 |
| 180,000円 | 比率60% | 区分定率 | 給付額(月)18,000円 |
| 192,000円 | 比率64% | 区分定率 | 給付額(月)19,200円 |
| 210,000円 | 比率70% | 区分逓減 | 給付額(月)8,736円 |
| 240,000円 | 比率80% | 区分対象外 | 給付額(月)0円 |
180,000円の行は、ハローワークの数値例と一致します。ここが合わなければ式のどこかがおかしい、という検算の足場になります。70%の行は、支給率4.16%を210,000円に掛けた額で、リーフレットの支給率早見表の70.00%の行と同じ率です。
賃金だけでなく、賃金と給付の合計で案を比べると、境目の前後の差が見えます。64%ちょうどの192,000円の案は、給付を含めた総額が211,200円です。賃金を18,000円上げた210,000円の案でも、総額は218,736円で、増えるのは7,536円にとどまります。逓減帯では、賃金を1円上げても、手元の増え方は1円を下回ります。
Claude for Excelに頼む
Claude for Excelは、開いているブックについての質問に、セル単位の根拠つきで答えます。式の関係を保ったまま値を更新することも、新しいモデルを作ることもできます。次のように頼むと、上の設計がそのまま形になります。
「入力」「賃金案」「比較」の3シートを作ってください。
入力シートのB2に60歳時点の賃金、B3に上限額397,369円、
B4に10%、B5に64%、B6に75%を置きます。
賃金案シートには、案名、再雇用後の賃金、比率、区分、給付額の列を作り、
区分は64%以下を「定率」、64%超75%未満を「逓減」、
75%以上と上限超を「対象外」にしてください。
逓減の支給率は、入力シートのB11〜B13(48、64、110)を使い、
(B11−B12×比率)÷(B13×比率)を小数第4位で四捨五入してください。
率や係数は式に直書きせず、入力シートのセルを参照させてください。最後の2文が大事です。係数を指定せずに任せると、Claudeが旧ルールや別の式を自分で補うかもしれません。補った数字は、見た目では正しい数字と区別がつきません。
式を作ったあとは、検算も頼みます。
60歳時点が30万円、再雇用後が18万円のとき給付額が18,000円になるか、
賃金案シートの該当行をたどって説明してください。
再雇用後が20万円の行は、リーフレットの14,545円と比べて
差が何円か、端数処理の違いを含めて示してください。20万円の行は、シートの丸め方では14,540円になり、リーフレットの14,545円と5円違います。リーフレットは、算定額が端数処理の関係で実際の支給額と異なる場合があるとしています。この差が出る理由を説明させると、丸めの順序まで確かめられます。
「E列の式がどのセルを参照しているか」を聞けば、答えにはセルへのリンクが付きます。参照先が入力シートになっているかを、リンクで一つずつ確かめられます。賃金案を増やしたいときは、行を足してから「同じ式を下の行にも入れて」と頼めば済みます。
毎回同じ書式にしたい場合は、アドインの設定にある指示欄に「率は入力シートを参照する」「数値は桁区切りにする」と書いておきます。この指示はExcelだけに効き、PowerPointやWordの指示とは別です。
使う前に知っておくこと
Claude for Excelは、Pro、Max、Team、Enterpriseのプランで使えます。対応するのはWebのExcelと、一定以上のビルドのWindows・Mac版です。Excel 2016と2019の永続・ボリュームライセンス版、iPad、Androidでは動きません。
賃金データの扱いには、とくに注意が要ります。ドキュメントには、機密性や規制の高いデータを含むモデルは、適切な管理なしに使うのを勧めないとあります。実在の従業員の賃金を入れる前に、情報システム部門と取り扱いを決めます。試算の段階では、氏名を外した仮の金額で式を完成させ、実データは式が固まってから別のブックに入れる手があります。
ほかに次の点があります。
- 監査に耐える計算は、検証なしに任せない扱いが前提です。給付額は、申請書の数字と照らして人が確かめます
- マクロとVBA、データテーブルは使えません
- 外部から受け取ったファイルには、隠れた指示が含まれる可能性があります。信頼できるブックでだけ使い、元のブックを複製してから編集を頼みます
- Claudeは既存データを上書きする前に警告します。警告が出たら内容を読んで進めます
実際の申請は別に必要になる
試算表はあくまで賃金案の比較用です。給付を受けるには、事業主が事業所を管轄するハローワークへ申請します。ご本人が自分で申請することもできます。原則として2か月に一度、支給申請書を出します。電子申請にも対応しています。
初回の申請には、雇用保険被保険者六十歳到達時等賃金証明書が要ります。この書類で60歳時点の賃金が確認されるため、試算の入力シートに置く金額も、この証明書の賃金に合わせます。試算と申請で別の数字を使うと、あとで食い違います。
まとめ
賃金案の比較で肝になるのは、64%と75%の境目、逓減帯の式、旧ルールとの切り替えです。境目と係数は入力セルで固定し、手取りには年金の停止額も引きます。ハローワークの数値例(30万円が18万円で1万8千円)と支給率早見表を検算に使えば、式の間違いは早く見つかります。
組み立て方は月次予実対比レポートの差異分析と同じ型で、入力・計算・比較の層を分けるのが基本です。ほかの経理・労務の表にも、同じ考え方を使えます。他ツールとの違いはClaude for ExcelとCopilotの比較に、資金繰りの管理は資金繰り表の週次更新にまとめています。