Claudeで該非判定を下調べする手順 — 外為法のリスト規制と人が決める線引き
製品仕様書を外為法のリスト規制の項番と突き合わせ、該非判定書の下書きまで作る手順。キャッチオールと技術提供の見落としを防ぐ確認点と、判定を人に残す理由も解説します。
Claudeに任せられるのは、仕様書から判定に要る数値を拾い、輸出貿易管理令の別表第一にある項番の候補と突き合わせ、該非判定書の下書きを作るところまでです。該当するか否かの最終判断と、キャッチオール規制の用途・需要者の見立ては、輸出管理の責任者が引き受けます。
この線引きには法律上の理由があります。許可なく輸出した場合の罰則は重く、輸出者には該非の確認を含む遵守基準が課されています。下書き作りを速くしても、判定の責任は軽くなりません。
該非判定は何を何に照らして決めるのか
該非判定とは、自社の貨物や技術が、外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づく輸出許可の対象に当たるかを確かめる作業です。「該非」は、リスト規制に「該当」するかしないかを縮めた呼び方です。
条文は三層でつながっています。
- 外為法第48条第1項: 国際的な平和・安全の維持を妨げるものとして政令で定める地域向けの、特定の種類の貨物を輸出するには経済産業大臣の許可が要る
- 輸出貿易管理令(輸出令)第1条第1項: その貨物と地域を、別表第一の中欄(貨物)と下欄(地域)で定める
- 貨物等省令: 別表第一にある「経済産業省令で定める仕様」の中身を定める。別表第一(貨物)の仕様は第1条、外国為替令別表(技術)の仕様は第15条に置かれている
仕様書の数値を当てはめる相手は、法律でも政令でもなく、最終的には省令です。ここを取り違えると、項番だけ合っていて仕様の閾値が違う、という下書きができあがります。
三つの規制を見分ける
| 区分 | 対象 | 根拠 | 判定の入口 |
|---|---|---|---|
| リスト規制 | 対象別表第一の1〜15項に挙がる貨物 | 根拠輸出令第1条第1項 | 判定の入口仕様が省令の基準に合うか |
| キャッチオール規制 | 対象16項に挙がる貨物(リスト規制品を除く) | 根拠輸出令第4条 | 判定の入口用途と需要者、経済産業大臣の通知 |
| 技術の提供 | 対象特定技術を特定国などへ提供する取引 | 根拠外為法第25条 | 判定の入口外国為替令別表と省令第15条 |
なお、外為法第48条第3項に基づく輸出の承認(輸出令の別表第二)は、許可とは別の仕組みです。本稿の手順は、許可に関わる別表第一と技術提供を扱います。
貨物の話だけをしていると、設計図やソースコードの送付が抜け落ちます。技術は外為法第25条の別の許可制度で、貨物の該非とは別に確認が要ります。
リスト規制の1〜15項はどんな並びか
別表第一の1項は銃砲や爆発物などの武器、2項は核燃料物質や原子炉、3項は軍用化学製剤の原料と製造装置、4項はロケットと無人航空機です。5項以降は、先端材料(5項)、材料加工の工作機械(6項)、集積回路など(7項)、電子計算機(8項)、通信装置(9項)と、民生品にも広がります。
民生品の担当者が最も出会いやすいのは、6項の数値制御の工作機械、7項の集積回路、8項の電子計算機、9項の伝送通信装置のあたりです。8項の地域は全地域で、仕向地による絞り込みはありません。
Claudeに任せる作業と任せない作業
下書きの工程を、Claudeが得意な作業と、人が持つ作業に割り振ります。
任せる範囲と、人が持つ範囲
Claudeに任せる
- 仕様書から、判定に使う数値と単位を抜き出す
- 抜き出した数値を、省令の仕様の文言と並べて表にする
- 項番の候補を挙げ、根拠の条文を原文のまま添える
- 仕様書に欠けていて判定できない項目を一覧にする
- 該非判定書の様式に合わせて、記載案を作る
人が持つ
- 該当・非該当の最終判断と、判定書への署名
- 用途と需要者についての見立て(キャッチオール)
- 仕様書に載らない社内情報の反映(カスタム品、改造品)
- 判断がつかない項目の、所管官庁への確認
人が持つ理由は罰則の重さにある
外為法第69条の7第1項は、第48条第1項の許可を受けずに輸出した者を、7年以下の拘禁刑もしくは2,000万円以下の罰金、またはその併科としています。対象が核兵器等に関わる貨物のときは第2項で、10年以下の拘禁刑もしくは3,000万円以下の罰金です。
法人には第72条で別の罰金刑が重なります。第69条の7第1項の違反では7億円以下、第2項では10億円以下です。経済産業大臣は第53条で、違反者に最長3年の輸出禁止を命じることもできます。
さらに第55条の10は、輸出を業とする者に、遵守基準に従うことを求めています。この基準には、貨物や技術が特定重要貨物等に該当するかの確認に関する事項が含まれます。確認を実際に行うのは、人の側の仕事です。
下書きを作る手順
仕様書から判定書の下書きまで
- 1
仕様書を扱ってよいか決める
製品の仕様書や図面は社内の機密情報です。Claudeに渡してよい範囲は、契約と設定で先に決めます。入力した情報の扱いは、Claudeに未公表情報を入れてよいかで整理した確認順が参考になります。
- 2
法令の原文を手元に置く
条文はClaudeの記憶に頼らず、法令データから取得します。取得した原文を作業フォルダーに置いておけば、Claudeは引用元を示しやすくなります。
- 3
仕様を抜き出す
仕様書を読ませ、判定に使いそうな項目だけを表にします。数値は単位まで含めて原文のまま写させます。
- 4
項番の候補と突き合わせる
抜き出した表を、省令の仕様の文言と並べます。候補は一つに絞らず、複数挙げさせて、当てはまらない理由も書かせます。
- 5
判定書の下書きを作り、人が見直す
下書きには、根拠の条文の原文と、仕様書の該当箇所を並べます。人は、原文と見比べて項番と数値を確かめます。
法令の原文を取得する
法令データは、e-Govの法令検索が提供するAPIから取れます。外為法、輸出貿易管理令、貨物等省令の三つを、法令IDで取得する例です。
mkdir -p law && cd law
curl -s "https://laws.e-gov.go.jp/api/1/lawdata/324AC0000000228" \
-o fx.xml # 外国為替及び外国貿易法
curl -s "https://laws.e-gov.go.jp/api/1/lawdata/324CO0000000378" \
-o yu.xml # 輸出貿易管理令
curl -s "https://laws.e-gov.go.jp/api/1/lawdata/403M50000400049" \
-o kamotsu.xml # 貨物等省令
ls -l取得した日付は、フォルダー名か判定書に控えておきます。省令の仕様は改正されうるため、判定ごとに現行の原文を取り直す運用が安全です。
Claude Codeに規約を渡す
Claude Codeで作業するなら、規約をCLAUDE.mdに書いておくと、毎回の指示を短くできます。次は、方針の一例です。
# 該非判定の下書き(作業フォルダー用)
- 条文は law/ 内のXMLから引用し、記憶で補わない
- 項番は「候補」と書き、断定しない
- 仕様の数値は単位つきで原文のまま写す
- 仕様書に無い値は「記載なし」と書き、推定しない
- 出力の末尾に「人が確認する項目」を一覧にする突き合わせ用のプロンプト
次は、手順3と4に使える指示の一例です。
添付の仕様書から、次の表を作ってください。
1. 列: 項目名 / 仕様書の値と単位 / 仕様書の該当箇所
2. 次に law/kamotsu.xml の第1条から、この貨物が関係しうる項を挙げ、
省令の仕様の文言を原文のまま引用してください。
3. 仕様書の値と省令の文言を並べ、当てはまるか、当てはまらないか、
仕様書の情報だけでは判断できないか、を理由つきで書いてください。
4. 結論は書かず、人が確認する項目を最後に列挙してください。最後の指示が要点です。結論を書かせないことで、モデルの推測が判定書の本文に混ざるのを防げます。Claudeが挙げた項番は、必ず原文と見比べます。
リスト規制に当たらなくても残る確認
リスト規制の非該当だけでは、判定は終わりません。次に見るのが、16項のキャッチオール規制です。
16項は何を対象にするか
別表第一の16項(一)は、リスト規制品を除いた機械類や電子部品などの一覧です。たとえば、レーザーや放電を使う加工機械、旋盤、集積回路、航行用機器、分析・測定機器が並びます。(二)は、関税定率法別表の特定の類に当たる貨物を広く指します。
こうした貨物は、仕向地や用途によって許可が必要になります。輸出令第4条は、16項(一)の貨物について、次のどちらかに当たらなければ許可は要らないと定めています。
- 用途要件: 核兵器等の開発等に用いられるおそれがある場合として経済産業省令で定めるとき
- インフォーム要件: 核兵器等の開発等に用いられるおそれがあるとして、経済産業大臣から許可の申請をすべき旨の通知を受けたとき
同条は、通常兵器の開発等に関する要件も並べています。つまり、貨物の仕様がリスト規制の基準を下回っていても、需要者や用途の情報で結論が変わります。
キャッチオールで人が見る情報
仕向地
別表第三に挙がる地域と、それ以外とでは、適用される要件が違います。
用途
契約書や引き合いのやり取りに、軍事に関わる用途の記載がないかを読みます。
需要者
最終的な使用者が誰かを、取引先への確認で詰めます。
通知の有無
経済産業大臣から通知を受けていないかを、社内の記録で確かめます。
これらは仕様書に書かれていません。Claudeには、メールや契約書を読ませて「用途や需要者について書かれている箇所」を抜き出させるところまでを頼み、見立ては人が行います。
別表第三の地域は27か国
輸出令の別表第三には、アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、英国、アメリカ合衆国など27の国が挙がります。16項の貨物をこれらの地域へ輸出する場合、輸出令第4条第2項により、通知(インフォーム要件)を受けたときだけ許可が要る形になります。
別表第三の二には、アフガニスタン、イラク、北朝鮮、リビア、スーダンなど10の地域があります。地域の一覧は、政令の改正で変わりうるため、判定の都度、現行の原文で確かめます。
少額の特例にも条件がある
輸出令第4条第1項第5号には、5〜13項または15項の貨物について、総価額が100万円以下(別表第三の三に挙がる貨物は5万円以下)のとき、許可が要らなくなる特例があります。ただし、仕向地が別表第四(イラン、イラク、北朝鮮)の場合は対象外で、用途要件やインフォーム要件にも条件が付いています。
金額だけを見て「少額だから不要」と下書きに書くと誤りになります。特例を使うなら、条件を一つずつ条文と照らす必要があります。
技術の提供は貨物とは別に見る
図面や設計データの送付、海外拠点とのウェブ会議での技術説明は、貨物の輸出とは別の許可制度です。外為法第25条第1項は、特定技術を特定国で提供する取引や、特定国の非居住者に提供する取引について、経済産業大臣の許可を求めています。
第25条第3項は、特定技術を記録した媒体の輸出や、国外で受信されることを目的とした電気通信による送信にも、許可の義務を課すことがあると定めています。国外へのファイル送信やメール送付は、この電気通信による送信に当たるかを見る場面になります。
Claudeには、技術情報の送付先と手段を洗い出す下書きを頼めます。たとえば、社内のプロジェクト一覧から、国外拠点や海外の取引先とやり取りしているものを列挙させます。ただし、どの情報が特定技術かは、省令第15条の基準に照らして人が決めます。
判定書の下書きに入れる項目
下書きには、後から人が確認しやすい形で、次の項目を並べます。様式は社内の既定に合わせます。
| 項目 | 書く内容 | Claudeに任せられる範囲 |
|---|---|---|
| 貨物の特定 | 書く内容型番、名称、用途 | Claudeに任せられる範囲仕様書からの転記 |
| 仕様の数値 | 書く内容値と単位、仕様書の出典箇所 | Claudeに任せられる範囲抽出と表の整形 |
| 照合した項番 | 書く内容項、号、省令の条文 | Claudeに任せられる範囲候補の提示と原文の引用 |
| 判定の根拠 | 書く内容数値が基準を超えるか下回るか | Claudeに任せられる範囲比較の整理(結論は人) |
| 判定結果 | 書く内容該当・非該当 | Claudeに任せられる範囲任せない |
| 確認事項 | 書く内容仕様書に無い情報 | Claudeに任せられる範囲一覧化 |
判定結果の欄は空白のまま渡し、人が埋めます。
起きやすいつまずき
落とし穴
項番がもっともらしく補われる
仕様書の記述から、モデルが関係しそうな項番を挙げることがあります。この項番は、省令の原文と並べて確かめるまで、候補にすぎません。下書きの根拠欄には、条文の原文をそのまま貼らせ、人が文言を見比べます。
落とし穴
仕様の閾値と単位が食い違う
省令の仕様は、数値と単位、測定条件で書かれています。仕様書の「最大」「定格」「公称」が、省令の測定条件と一致するとは限りません。測定条件の違いは、下書きで「要確認」として残します。
落とし穴
部品や付属品の扱いを見落とす
別表第一には「部分品」「附属装置」まで含めて掲げる項が多くあります。製品単体の判定で終わらせず、構成部品が別の項に当たらないかを、部品表から確かめます。
落とし穴
古い法令で判定する
モデルが学習した時点の法令は、現行と違うことがあります。必ず取得した最新の原文で突き合わせ、判定書に取得日を記録します。
下書きの先は人が決める
Claudeは、仕様書と条文を往復する作業の時間を減らします。一方で、判定の責任は軽くなりません。外為法の許可は、違反したときの罰則が重く、遵守基準も該当性の確認に関する事項を定めています。
実務では、次の分担が現実的です。仕様の抽出から突き合わせ表までをClaudeが整え、項番と数値の確認、キャッチオールの見立て、署名を担当者が受け持ちます。判断のつかない項目は、社内の輸出管理担当者か所管官庁への確認に回します。
条文参照を点検する作業の型は、補助金の交付要綱案と審査チェックリストでも扱っています。専門調査の下書きに使うときの限界は、特許の先行技術調査の整理と共通します。