ClaudeのInductive Bioコネクタで化合物のADMET予測を絞り込みに使う
Inductive BioコネクタでLogDとpKaの予測を会話から呼ぶ手順と、予測値を合成の優先順位づけに使うときの読み方、実験で確かめるべき限界をまとめます。
Inductive Bioコネクタとは — ADMET予測を会話から呼ぶ入口
Inductive Bioコネクタは、創薬向けのADMET予測モデルをClaudeの会話から呼び出すためのConnectorです。ADMETは吸収(absorption)、分布(distribution)、代謝(metabolism)、排泄(excretion)、毒性(toxicity)の頭文字で、分子が薬になりうるかを左右する化学的・薬物動態的な性質を指します。
コネクタ一覧の掲載内容は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 表示 | 内容Anthropic verified |
| カテゴリ | 内容Health & life sciences |
| 提供元 | 内容Inductive Bio |
| サインイン | 内容必須(Required) |
| 追加時期 | 内容2026年6月 |
| 接続先 | 内容https://api.inductive.bio/mcp |
ツールは list_available_models と predict_properties の2つです。掲載ページにあるのはツール名だけで、引数や返す項目の説明はありません。名前からは「使えるモデルの一覧を出す」「性質を予測する」の2段構えに読めますが、返ってくる形式は実際に呼んで確かめることになります。
提供元の発表によると、このモデルはClaudeのほかChatGPTとBenchlingからも使えます。Claudeへの提供は6月のClaude Scienceの発表に合わせたもので、ほかの2つはあとから加わりました。研究の流れ全体をClaudeに載せる製品の動きは、Claude Scienceのベータ提供開始の記事にまとめています。
無料で使えるのはLogDとpKaの2モデル
コネクタ経由で呼べるのは、物理化学的な性質であるLogD(脂溶性)とpKa(酸・塩基としてのイオン化のしやすさ)のモデルです。掲載ページは、この2つを溶解性と膜透過性を左右する主要な要因だと説明しています。
提供元の発表には、Claude、ChatGPT、Benchlingの3つの連携すべてで、グローバルなLogDとpKaのモデルを無料で提供すると書かれています。
一方、ADMETの全体像はもっと広くなります。提供元の説明では、フルセットのモデルは次のような項目に及びます。
- ミクロソーム安定性
- 排出(efflux)
- CYP阻害
- 脳への移行性
- hERG阻害
これらを含むフルセットは、デモの申し込みを通じて提供元に問い合わせる形です。コネクタの掲載ページが前面に出しているのは、LogDとpKaの2つです。
つまり、Claudeに接続しただけでhERGや代謝安定性まで予測できるとは読めません。何が使えるかは、まず list_available_models で確かめるのが確実です。
予測値は「合成の順番を決める材料」として使う
掲載ページが想定する使い方は、化合物を評価し、アイデアを仕分けし、どの分子を合成するかの優先順位をつけることです。実験の代わりではなく、実験の前に候補を並べ替える用途です。
ここで押さえたいのが、グローバルモデルとローカルモデルの違いです。
- グローバルモデル: 幅広い化合物のデータで学習した汎用モデル
- ローカルモデル: 自社プログラムの化合物空間に合わせて調整したモデル
掲載ページによれば、フルセットのモデルは顧客ごとの化学空間に合わせて微調整され、予測性能を高めています。提供元の発表も、グローバルモデルの微調整は通常は性能を改善すると述べています。逆に言えば、無料で呼べるグローバルモデルは、手元のシリーズに最適化されていない状態の予測です。
予測値の絶対値より、候補同士の並び順が使えるかどうかを見るのが現実的です。自社の実測値が数点でもあれば、それらをモデルに通して、実測の順位と予測の順位が揃うかを最初に確かめます。揃わないシリーズでは、予測を優先順位づけに使うのは控えめにします。
校正に使う実測は、同じアッセイ条件で測ったものに揃えます。条件が混ざると、ずれの原因が予測にあるのか測定にあるのか、切り分けられなくなります。
化合物リストを絞り込む手順
ここからは、候補化合物の絞り込みにコネクタを使う流れの一例です。ツールの呼び分けはClaudeが決めるので、手順を指定するより、出力の条件を指定するほうが安定します。
- コネクタを追加し、サインインする
list_available_modelsを呼ばせ、使えるモデルを確認する- 校正用に、実測値がある化合物を数点だけ予測させる
- 実測と予測の順位が揃うかを見る
- 揃うなら、本番の候補リストを予測させて並べ替える
- 上位と下位の両方から数点ずつ実測に回す
接続の手順
ClaudeのConnectorsディレクトリから追加します。チャットの「+」から「Connectors」の「Manage connectors」を開くか、設定のCustomizeからConnectorsを開き、コネクタを探して接続します。
Team・Enterpriseプランでは、組織のOwnerが先にコネクタを有効にする必要があります。有効化しても全員が自動で使えるわけではなく、各自が認証する形です。Ownerはツールごとに「常に許可」「承認が必要」「ブロック」を選べます。
最初に投げる依頼の型
最初の1回は、使えるモデルの確認と、校正用の少数の予測に絞ります。
Inductive Bioのコネクタで、使えるモデルの一覧を出してください。
次に、下のSMILESについてLogDとpKaを予測してください。
- 化合物ごとに、予測値と単位を表にする
- 返ってきた項目だけを書く。値が返らない項目は「返答なし」と書く
- 予測値の解釈や推測は、表とは別の段落に分ける
(ここに実測値がある化合物のSMILESを3〜5点)これは条件の置き方の例で、返る列がこのとおりになる保証はありません。表にLogDとpKaの列が本当にあるか、単位は何かを、最初に目で確かめます。
校正のあとで本番のリストを渡します。
先ほどの手順で、次の20化合物のLogDとpKaを予測してください。
予測値の順に並べた表を作り、LogDが極端に高いものと低いものを分けて示してください。
予測値から、合成の優先順位に関する所見を書く場合は、
根拠にした予測値を同じ行に併記してください。「所見は根拠の予測値を併記する」と指定しておくと、Claudeの推論と、コネクタが返した数値を読み分けやすくなります。
予測値を読むときの限界
予測を絞り込みに使うとき、手を動かす前に確かめたいことがあります。
| 見る点 | 確かめ方 |
|---|---|
| 化合物空間の違い | 確かめ方手元のシリーズに近い実測が数点あれば、予測と並べる |
| 値の意味 | 確かめ方返った項目名と単位を、手元のアッセイの定義と照らす |
| モデルの範囲 | 確かめ方list_available_models に出た範囲だけを使う |
| 表の再現性 | 確かめ方同じ構造を2回流して同じ値が返るかを見る |
LogDとpKaは、溶解性や透過性を左右する要因であって、溶解性そのものでも透過性そのものでもありません。2つの値だけで「吸収されやすい」と結論づけると、掲載ページが述べている範囲を越えます。
Claudeが予測値を解釈するときは、一般的な創薬の知識を混ぜて文章を作ります。その文章はコネクタの出力ではありません。レポートに載せる値は、コネクタが返した数値と、Claudeの所見を分けて記録すると、あとから経緯を追えます。
また、予測が良好でも実測が悪いことはあります。上位にした化合物が外れたとき、それはモデルの問題か、シリーズの問題か、アッセイの問題か。切り分けのために、外れた点と当たった点の両方を記録しておくと、次の校正に使えます。
他のコネクタと組み合わせる
予測は、絞り込みの一段階にすぎません。同じHealth & life sciencesカテゴリのコネクタと組み合わせると、前後の工程を埋められます。
- 公開データの活性を引く: Claude ChEMBLコネクタは、公開データベースの結合・機能データを調べる入口です。予測した化合物に近い既知化合物の実測値を探し、校正に使えます
- 実験記録と突き合わせる: BenchlingとClaudeの連携は、実験記録側のコネクタです。予測モデルを呼ぶ役割は持たないので、予測と記録は別々に扱います
- 文献を確かめる: PubMedコネクタで、そのシリーズの先行報告を調べます
生命科学分野でClaudeを使うときの安全策の変化は、生命科学認証プログラムの記事で扱っています。コネクタ全般の仕組みは、Claudeのコネクタとはにまとめています。
社内の構造式を貼る前に
構造式や測定値は、組織にとって機密の情報であることが多くあります。
コネクタを使うと、貼った構造式はInductive Bioが運営する接続先に送られます。サポート記事は、接続したサービスは自社のインフラで、自社の規約のもとでデータを処理すると説明しています。Claudeのデータ処理の設定は、サードパーティの処理場所を変えません。
未公開の化合物を予測に通す前に、次の点を社内で確かめます。
- 提供元のプライバシーポリシーと利用規約が、自社の情報取り扱いルールに合うか
- 未公開構造を外部サービスに送ってよいか(知財の担当に確認)
- Team・Enterpriseでは、Ownerがツール単位の許可を絞っているか
公開済みの化合物や、構造を一般化した例で試す運用から始めると、判断の材料が先に揃います。
つまずきやすい点
- ツールの出力形式が掲載ページに無い: 返る項目と単位は、最初の呼び出しで確かめます
- 使えるモデルが想定より少ない: 無料で案内されているのはLogDとpKaです。hERGなどが必要なら、フルセットは提供元への問い合わせになります
- サインインで止まる: 掲載ページのサインインは必須です。ディレクトリから追加し、認証の画面を最後まで進めます
- Team・Enterpriseで追加できない: Ownerが有効化していないか、要求(Request)が承認待ちの状態です
- 予測の順位が実測と合わない: そのシリーズでは、グローバルモデルの予測を優先順位づけに使うのは控えめにします
まとめ
Inductive BioコネクタでClaudeから呼べるのは、無料のグローバルモデルとしてはLogDとpKaです。hERGや代謝安定性を含むフルセットは、提供元との契約が前提になります。
予測は、合成の順番を決める材料としては使えますが、実験の代わりにはなりません。手元の実測が数点あれば、予測の順位が揃うかを先に見て、揃うシリーズだけで並べ替えに使うのが無理のない運用です。外れた例も記録しておくと、モデルの限界が自分のシリーズでどこにあるかが見えてきます。