Claudeで発明を作ると特許は取れるか — 発明者は自然人に限るという判決
AIが自律的にした発明は特許にならないと知財高裁が判断しました。Claudeを補助に使った発明で人が押さえる点と、記録の残し方を条文と判決から読みます。
Claudeと壁打ちして思いついた仕組みは、特許になるのでしょうか。日本の特許法では、特許を受けられるのは自然人(生身の人間)が発明者である発明に限られます。この点を正面から判断したのが、AI「DABUS」を発明者として出願した事件の知財高裁判決です。
結論を先に書きます。Claudeが人の関与なしに生み出した発明は、現行の特許法では特許になりません。一方、判決が判断していないのは「人がClaudeを道具として使った発明」です。この領域は判決からは答えが出ないため、人が何をしたかの記録が意味を持ちます。
知財高裁は「AIが自律的にした発明」をどう判断したか
令和7年1月30日、知財高裁の第2部は、令和6年(行コ)第10006号事件で控訴を棄却しました。処分の取消しを求めた訴えで、対象は特許庁長官による出願の却下です。原審は東京地方裁判所(令和5年(行ウ)第5001号)でした。
争われたのは、出願人が国際出願の国内手続で、発明者の氏名欄に「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と書いたことでした。判決はこの事案の前提を明記しています。発明を人工知能が自律的にした事実の有無は、争点になっていません。裁判所は事実の真偽ではなく、そう書いた出願を特許法が受け付けるかを判断しました。
判決の中心は次の一文です。現行特許法は自然人が発明者である発明について特許を受ける権利を認め、特許を付与する手続を定めているにすぎず、AI発明には特許法に基づき特許を付与できない、とされています。
手続の流れ
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 令和2年8月5日 | 出来事出願人が国内書面を提出。発明者欄にDABUSを記載 |
| 令和3年7月30日 | 出来事特許庁長官が、発明者欄に自然人の氏名を記載する補正を命令 |
| 同年9月30日 | 出来事出願人が補正は不要と上申し、期間内に補正せず |
| 同年10月13日 | 出来事特許庁長官が出願を却下 |
| 原審 | 出来事東京地裁が請求を棄却 |
| 令和7年1月30日 | 出来事知財高裁が控訴を棄却 |
却下の直接の理由は、国内書面に「発明者の氏名及び住所又は居所」を書かなければならないのに、自然人の氏名が書かれていないことでした。特許を受ける実体の議論より前に、手続の入口で止まった形です。
特許法のどの条文が「発明者は自然人」を支えているか
裁判所は、単独の条文ではなく複数の条文を突き合わせて結論を出しています。判決が挙げた根拠を、e-Govの条文と並べます。
| 条文 | 内容 | 判決での使われ方 |
|---|---|---|
| 特許法29条1項 | 内容産業上利用できる発明を「した者」は特許を受けられる | 判決での使われ方「発明をした者」は権利能力のある者と解釈 |
| 特許法35条 | 内容職務発明。「従業者等」がした発明の権利が使用者等に帰属する場合がある | 判決での使われ方発明をするのは自然人である従業者等という前提の裏づけ |
| 特許法36条1項2号 | 内容願書に「発明者の氏名及び住所又は居所」を記載する | 判決での使われ方出願人には「氏名又は名称」、発明者には「氏名」と書き分けている点を指摘 |
| 特許法184条の5 | 内容国際特許出願の国内書面に発明者の氏名を記載。補正命令と却下の根拠 | 判決での使われ方今回の却下処分の直接の根拠 |
判決は、出願人の主張を項目ごとに退けています。
- 「AIを発明者とすることを禁じる規定はない」という主張 — 特許を受ける権利は特許法が創設する権利なので、権利能力のない存在が発明した場合の発生や帰属を定めた規定がなければ、認められないとしました
- TRIPS協定27条1項を根拠にした主張 — 同協定には「発明」の定義がなく、AIが自律的に発明をなし得るという事態は近年まで生じていなかったので、AI発明の保護義務を定めたとは解せないとしました
- 発明者の氏名を必要的記載事項とするのは憲法14条に反するという主張 — 採用できないとしました
もう一点、見落とされがちな判断があります。判決は、AI発明が特許法上の「発明」(特許法2条1項の定義は「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」)に含まれるかどうかは、判断するまでもないとしました。つまり「AIの成果物は発明ではない」とまで言い切ったわけではありません。「自然人が発明者でなければ特許は付与できない」という一点で結論を出しています。
立法で解決すべき問題だと裁判所が言った理由
判決はAI発明を特許で保護するかどうかを、現行法の解釈で決める問題とはみていません。特許権は出願日から20年存続し、実施の独占、差止請求権、損害賠償請求権を伴います。この権利をAI発明にも同じ内容で認めるべきかどうかを含め、広汎で慎重な議論を踏まえた立法化の議論が必要で、解釈論での対応は困難だとしています。
出願人は「発明者を自然人に限ると、発明者でない自然人を発明者と書いた出願が増える」とも主張しました。判決はこれを現行法が想定していない問題点の一つと認めつつ、それは発明者の氏名欄を必須でないと読む理由にはならないとしています。
このやりとりは、実務にも関係します。発明者でない人を発明者と書いた出願は、特許法49条7号(特許を受ける権利を有しないときの拒絶査定)の対象です。特許になった後でも、123条1項6号の特許無効審判の理由になります。判決は侵害訴訟での無効の抗弁(特許法104条の3)にも触れています。Claudeが作った案を、自分が考えたことにして発明者欄に入れる書き方は、後で争われうる出願になります。
海外の例を引いた主張を裁判所はどう扱ったか
出願人は、日本の特許法には英国・オーストラリア・ニュージーランドのように権利の原始的な帰属を発明者に限る条文も、米国のように出願人になれる主体を限る条文もない、と主張しました。判決は、日本法の解釈として、自然人が発明者となる発明の場合に特許を受ける権利の発生と帰属が限られると解すべきことは既に述べたとおりだとして、この主張を退けています。
特許法の制定当時はAI発明という概念自体がなく、規定がないことは保護を否定する理由にならない、という主張もありました。判決は、規定がないのは特許権付与でAI発明を保護するという立法判断がされていないことを意味するとし、現行制度の特許権の対象にする解釈が直ちに産業の発達につながるとはいえない、と応じています。
欧州特許庁の審判部の判断を援用した主張には、日本は欧州特許条約の締約国ではないため、日本の特許法の解釈で直ちに参照できるものではないと述べました。あわせて、その審決自体も発明者適格を有するのは自然人のみとして、AIを発明者とする出願を却下した処分を維持したものだと指摘しています。
海外の動向は、日本の結論を左右する材料として扱われていません。日本でClaudeを使って発明する人にとっては、日本の特許法と日本の裁判所の判断が基準になります。海外に出願する場合は、その国の法に別途当たる必要があります。
判決が答えていない「Claudeを道具として使った発明」
判決の射程は、AIが自律的にした発明です。人がClaudeを補助に使った発明で、どこまで関与すれば人が発明者と言えるのかは、判決本文から読み取れる基準がありません。判決の文言にない基準を、ここで作ることはできません。
言えるのは条文の構造からくる事実だけです。特許法29条1項は「発明をした者」に特許を受ける権利を与えます。したがって、出願の願書に書く発明者は、その発明の技術的思想の創作に自分が関わったと説明できる自然人である必要があります。
Claudeの出力をそのまま貼るだけの関与で足りるのか、着想の段階から人が主導していれば足りるのか、といった線引きは、公式の資料で確認できていません。特許事務所や弁理士に個別の事案で相談する場面です。
記録があると何が言えるか
発明者性を問われたとき、人が何をしたかを示せる資料が要ります。これは筆者の実務上の整理であり、法が求める書式ではありません。次の4つの局面で、人の判断がどこにあったかを残す方法が考えられます。
- 課題の設定 — 何を解決したいと考えたか(Claudeに聞く前の自分の問題意識)
- 着想 — 解決の方向をどの案から、誰が選んだか
- 具体化 — Claudeの提案のうち採用したもの・却下したものと、その理由
- 検証 — 試作や実験を人が行い、結果を見て構成を直したか
Claude Codeで開発した場合の実装例として、発明ノートをリポジトリに置き、判断を都度コミットする運用があります。
# 発明ノート(例)
## 課題(Claudeに相談する前に自分が書いたもの)
- 現状の方式では〇〇のとき△△が起きる
## 選択(Claudeが出した案A/B/Cから)
- 採用: B
- 採用理由: 〇〇の制約があるため(自分の判断)
- 却下: A、C(理由)
## 検証
- 実施日 / 実施者 / 手順 / 結果
- 結果を受けた構成の修正点git add invention-notes/2026-09-29.md
git commit -m "add: 発明ノート 課題と採用案の判断理由を記録"コミットには日時と作成者が残るため、誰がいつ判断したかを後から示す材料になります。ただし、コミット履歴が発明者性の証明として十分かどうかは、この記事で確認できていません。
Claude Codeの会話履歴は残り続けない
セッションの会話記録を証跡に使うつもりなら、保持期間を確認します。設定キーcleanupPeriodDaysは、Claude Codeがセッションのトランスクリプトを保持する日数で、既定値は30日です。最小値は1で、0は検証に失敗します。長く残したい場合は3650のような大きな値を指定する例が示されています。
{
"cleanupPeriodDays": 3650
}記録が必要な発明では、会話に頼らずノートに人の判断を書き写す運用のほうが確実です。履歴は削除されうる前提で考えます。
会社で働く人は職務発明の規定も確認する
会社の業務でClaudeを使って発明した場合は、特許法35条が関わります。同条は使用者等と従業者等を区別し、職務発明について、契約や勤務規則などであらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させると定めていれば、その権利は発生した時から使用者等に帰属すると規定しています(35条3項)。
判決は、この規定もまた発明をするのは自然人(従業員等)であることを前提にしている、と述べています。会社が権利を持つ場合でも、発明者として願書に書くのは自然人の従業者です。Claudeの利用を社内で認めている会社では、次の2点を確認しておくと後の手戻りが減ります。
- 発明届出の様式に、AIの利用有無や関与の内容を書く欄があるか
- 職務発明規程が「従業者等がした発明」を前提にしていて、AI利用時の扱いを定めているか
後者は各社の規程次第で、判決からは何も言えません。
Claudeの出力を発明に使うときの整理
判決と条文から確認できることと、確認できないことを分けると次のとおりです。
| 場面 | 確認できること | 確認できないこと |
|---|---|---|
| Claudeが人の関与なしに発明した | 確認できること特許は付与できない(知財高裁判決) | 確認できないこと— |
| 発明者欄にClaudeと書いて出願する | 確認できること自然人でないため補正命令の対象になり、従わなければ却下される | 確認できないこと— |
| 人が主導しClaudeを補助に使った | 確認できること発明者は自然人が前提 | 確認できないこと何をすれば人が発明者と言えるかの基準 |
| Claudeの案を自分の発明として記載した | 確認できること実際の発明者でなければ拒絶・無効の理由になりうる | 確認できないこと関与の程度ごとの扱い |
なお、Claudeの生成物の著作権については論点が別です。著作権法上の扱いはClaude生成物の著作権で、規約上の権利の扱いはClaude商用利用ガイドで扱っています。既存の特許を調べる側のClaudeの使い方はClaudeでデューデリジェンスを科学から財務まで行う方法が特許の横断分析を扱っています。
まとめ
- 現行の特許法は、自然人が発明者である発明にしか特許を付与しない。知財高裁が令和7年1月30日に判断している
- 発明者欄にClaudeを書いた出願は、国内書面の補正命令から却下に進む
- 判決が判断していないのは、Claudeを補助に使った発明で人がどこまで関与すれば発明者になるかという点
- 人の課題設定・選択・検証を日付つきで記録しておくと、後から発明者を説明する材料になる。ただし、それで足りるかは判決から確認できず、弁理士への個別の相談事項
- Claude Codeの会話履歴は既定で30日で削除されるため、記録はノートやコミットに人が書き写す
AI発明を特許で保護するかは、立法の議論に委ねられています。制度が変われば、この記事の前提も変わります。