Claudeの日本語精度を公式データとベンチマークで読む
Claudeの日本語精度は一つの数字では語れません。Anthropicの多言語データとNejumiリーダーボードという二つの公開ベンチマークから実力を確認します。
Claudeの日本語精度を一言で表す数字はありません。Anthropicが多言語対応のページで示すのは、英語を基準100%とした相対スコアです。Claude Sonnet 4.5の日本語は96.8%でした(実例検証はClaudeの翻訳精度をビジネス文書の実例で検証するを参照)。日本語ネイティブの公開ベンチマーク「Nejumiリーダーボード」では、Claude Opus 5が9月1日版の総合ランキングで1位、リーダーボード初の0.87台(0.8720)に乗りました。
この2つの数字は、測っている対象がそもそも違います。しかも、どちらにも最新世代のOpus 5.5・Sonnet 5.5・Fable 5.1は入っていません。
Claudeの日本語精度に「唯一の数字」がない理由
「日本語精度」という言葉には、2つの問いが混ざっています。「Claudeは英語と同じくらい日本語が得意か」と、「ClaudeはGPTやGeminiより日本語が得意か」です。前者はAnthropicの相対スコア、後者は第三者ベンチマークのNejumiが答えます。
二つの物差しの違い
英語比の相対スコア
- 比べる相手は、そのモデル自身の英語での成績
- 日本語が英語よりどれだけ落ちるかを見る
- 他社モデルとは並べていない
- 表にあるのはSonnet 4.5とHaiku 4.5
Nejumiの総合スコア
- 比べる相手は、GPT・Gemini・Qwenなど他社を含む全モデル
- 日本語で出題された問題の絶対的な出来を見る
- 総合順位は評価のたびに入れ替わる
- 最新の9月1日版にはOpus 5・Fable 5が載る
Nejumiは、Weights & Biases Japanが運営する日本語LLM評価プラットフォームです。2025年8月27日の発表では「日本最大級のLLM日本語能力比較サイト」と紹介されました。総合スコアはGLP(汎用的言語性能。翻訳・要約・推論・コーディング)とALT(アラインメント。毒性・バイアス・真実性)の2軸でできています。
英語比96.8%は何を測っているか
相対スコアの出どころは、MMLU(大規模マルチタスク言語理解)の英語版テストセットです。プロの翻訳者が14言語に訳したセットを、拡張思考つきのゼロショット・チェーンオブソート(段階的に考えさせる方式)で解かせ、英語の成績を100%としたときの割合で示しています。機械翻訳でなく人手翻訳を使うのは、資源の少ない言語でも訳の質を保つためです。
| 言語 | Sonnet 4.5 | Haiku 4.5 |
|---|---|---|
| 英語(基準) | Sonnet 4.5100% | Haiku 4.5100% |
| スペイン語 | Sonnet 4.598.2% | Haiku 4.596.4% |
| フランス語 | Sonnet 4.597.5% | Haiku 4.595.7% |
| ドイツ語 | Sonnet 4.597.0% | Haiku 4.594.3% |
| 中国語(簡体字) | Sonnet 4.596.9% | Haiku 4.594.2% |
| 日本語 | Sonnet 4.596.8% | Haiku 4.593.5% |
| 韓国語 | Sonnet 4.596.7% | Haiku 4.593.3% |
| ヒンディー語 | Sonnet 4.596.7% | Haiku 4.592.4% |
| スワヒリ語 | Sonnet 4.591.1% | Haiku 4.578.3% |
| ヨルバ語 | Sonnet 4.579.7% | Haiku 4.552.7% |
上の表は公式の14言語から9言語を抜粋したものです。14言語の中で日本語はSonnet 4.5で9番目、Haiku 4.5で8番目で、ポルトガル語・イタリア語・インドネシア語・アラビア語が日本語より上に来ます。ドイツ語との差はSonnet 4.5で0.2ポイント、Haiku 4.5で0.8ポイント。スペイン語やフランス語には届きませんが、韓国語・ヒンディー語とは同じ層に並びます。低リソース言語のスワヒリ語・ヨルバ語とは大きく離れており、日本語を「弱い言語」として扱う理由は、この表からは出てきません。
モデルの大きさによる差も出ています。英語からの落ち幅は、日本語でSonnet 4.5が3.2ポイント、Haiku 4.5が6.5ポイントです。ヨルバ語ではHaiku 4.5が47.3ポイント落ちており、軽量モデルほど、言語が変わったときの落ち込みが大きくなります。日本語を大量に処理するためにHaiku 4.5を選ぶなら、この約3ポイントの差は織り込んでおく価値があります。
見落としやすいのは、この数字が測る中身です。MMLUは多肢選択式の知識問題で、敬語の使い分けや文体の自然さは採点に入りません。96.8%は「知識問題を日本語で出しても、英語のときから3.2ポイントしか落ちない」という意味にとどまります。
Sonnet 5.5やOpus 5.5の日本語が英語比で何%かは、この表から読めません。世代が変わっても同じ水準だと推定することはできますが、数字としては存在しないものとして扱うのが安全です。
Nejumi 9月1日版でClaudeはどこにいるか
Nejumiの数字を読みやすく分析しているのが、Qualitegの月次レポートです。9月1日版の総合上位は次の並びでした(かっこ内は推論設定)。
| 順位 | モデル | 総合スコア |
|---|---|---|
| 1 | モデルClaude Opus 5(adaptive-thinking-max) | 総合スコア0.8720 |
| 2 | モデルClaude Fable 5(adaptive-thinking-max、Opus 4.8へのフォールバックあり) | 総合スコア0.8699 |
| 3 | モデルQwen3.8-2.4T-A95B(オープンモデル) | 総合スコア0.8598 |
| 4 | モデルClaude Opus 4.8(adaptive-thinking-xhigh) | 総合スコア0.8523 |
| 5 | モデルClaude Opus 4.7(adaptive-thinking-xhigh) | 総合スコア0.8509 |
| 6 | モデルGPT-5.6 sol(max-effort) | 総合スコア0.8499 |
| 9 | モデルGemini 3.1 Pro Preview | 総合スコア0.8430 |
上位5枠のうち4枠をAnthropicのモデルが占めています。0.85以上のモデルは前回の2つから5つに増えました。首位のOpus 5は、内訳を見ると偏りがはっきりしています。
Opus 5の内訳(9月1日版)
総合
0.8720
リーダーボード初の0.87台
GLP(言語性能)
0.8668
全モデル中トップ、2位と0.017差
コーディング
0.9081
SWE-Bench系は0.7500
数学的推論
0.9817
抽象的推論は0.96
順位を分けているのは「日本語が自然か」よりも、日本語で出題された難問を解く地力です。Nejumi 4は、従来のベンチマークでスコアが飽和し、モデル間の差が見えづらくなっていたため、高難度の推論・専門知識・コーディング・関数呼び出しを足して作られました。W&B Japanの発表では、翻訳は「ほぼ攻略済」で、数学的推論が差別化領域、抽象的推論・コーディングなどがフロンティア領域とされています。日本語の自然さそのものを競う場ではありません。
他社との比較では、項目ごとに強さが入れ替わります。GPT-5.6のterra(0.8440、7位)とsol(0.8499、6位)は、抽象的推論でそれぞれ0.98・0.97と、Opus 5の0.96を上回って全モデル中の最高値でした。一方で真実性はsolが0.752、terraが0.709と、上位モデルの中では低めです。これが総合スコアを抑えています。総合順位は、推論の切れ味と安全側の評価を足し合わせた結果です。
首位の推移を並べると、この1年弱の動きが見えます。
NejumiでのClaudeの位置
- 2025年12月18日版
首位はGPT-5.2(0.8285)。Opus 4.5が4位(0.8064)で、前回首位だったOpus 4.1(0.7992)は5位に下がりました。スコアが落ちたのではなく、他社の新モデルに追い越されたためです。
- 2026年7月10日版
Opus 4.8(0.8523)が首位に立ち、Opus 4.7(0.8509)が2位。Fable 5はまだ評価に入っていませんでした。
- 2026年9月1日版
Opus 5とFable 5が1・2位。前回の首位から約0.02上がりました。
Fable 5の2位は、Fable 5単体の順位ではない
Fableは、Opusの評価で足りないときの上位の選択肢にあたるモデルですが、Nejumiでは首位を逃しました。差は0.0021です。見落としやすいのは評価設定です。リーダーボード上のFable 5は「adaptive-thinking-max with fallback to Opus 4.8」、つまりOpus 4.8へのフォールバックを含む構成でした。Qualitegも、この値をFable 5単体の性能として読まないよう注意しています。
この構成の評価値は、ALT(アラインメント)が0.9071、SWE-Bench系が0.8000で、どちらも全エントリー中の最高値でした。ただしコーディングのサブカテゴリ(SWE-BenchにJHumanEvalとMT-Bench(coding)を合わせたもの)では、Opus 5の0.9081に対し0.7220まで下がります。同じ「コーディング力」でも、何を測るかで順位が逆転するわけです。Fable 5とOpus 5の使い分けは、料金やデータ保持も含めてFable 5とOpus 5の違いで比べています。
相対スコアと絶対順位が食い違う場面
同じSonnet 4.5が、2つの物差しで正反対に見えます。英語比では96.8%と高く、Nejumiの9月1日版では50位(0.7954)です。Opus 4.1も44位(0.7992)、Sonnet 4.6は24位(0.8230)でした。
矛盾ではありません。相対スコアは分母が「そのモデル自身の英語の成績」なので、英語の時点で難問を解けないモデルでも、日本語で同じだけ落ちなければ高く出ます。Nejumiの絶対値は、他社の新モデルが増えるほど押し下げられます。Qualitegによれば、0.80以上のモデルは前回の19から42に増えています。同じレポートの用途別の推奨では、Sonnet 4.6が「コスト効率と性能の両立」の枠(総合0.82〜0.83級、大量処理・日常業務向け)に入っています。
知りたいことに合わせて、見るデータを選びます。
| 知りたいこと | 見るデータ | 注意点 |
|---|---|---|
| 英語版と比べて日本語の質は落ちるか | 見るデータAnthropicの相対スコア表 | 注意点現行のSonnet 5.5・Opus 5.5は未掲載 |
| 他社モデルより日本語が得意か | 見るデータNejumiの総合順位 | 注意点評価のたびに順位が動く |
| 敬語や業界用語に耐えるか | 見るデータどちらにも含まれない | 注意点自社文書での検証が必要 |
日本企業の導入では、この「自社文書での検証」が実務の中心になります。野村総合研究所は2026年2月24日、Anthropic Japanとのパートナーシップ拡大を発表しました。2026年1月から日本市場向けのClaude導入支援サービスを整備し、Claude for EnterpriseをAmazon Web Services経由で自社にも導入するという内容です。発表文は、日本市場特有の言語特性やセキュリティ要件、規制対応に適した導入支援が求められている、と述べています。
自社の文書で日本語精度を確かめる手順
Anthropicの多言語ページには、数字とは別に、精度を上げるための実務的な指針があります。この指針を順に当てはめると、自社文書での検証の手順になります。
日本語の出力品質を確かめる流れ
- 1
出力言語をシステムプロンプトで固定する
Claudeは会話から応答言語を推測しますが、本番ではシステムプロンプトでの明示が最も確実とされています。たとえば次のように書きます。
常に日本語で回答してください。ユーザーが英語で質問しても日本語で答えます。翻訳に使うなら、同じページの例にならって言語の組を両方書きます。「ユーザーのメッセージを英語から日本語に翻訳してください。翻訳だけを返してください」といった形です。
- 2
日本語ネイティブの書き方を求める
流暢さを上げたいときは、「ネイティブスピーカーが書いたような自然な言い回しで」と指定する方法が挙げられています。
- 3
入力は日本語の表記のまま渡す
ローマ字などの転写でなく、元の文字で入力したほうが良い結果になるとされています。旧字体や人名用漢字を扱うときのコツはClaudeで旧字体・人名用漢字を確実に扱うコツにあります。
- 4
自社の文書サンプルで出力を見比べる
業界用語・社内用語・敬語の揺れは、数値からは分かりません。翻訳用途ならClaude翻訳ワークフローの手順で、原文と訳文を並べて検証します。
モデル体系の全体像はClaude(クロード)とはで、他社との違いはClaudeとChatGPTの比較2026で確認できます。
まとめ
日本語が英語比で落ちる幅を知りたいなら相対スコア、他社と並べた順位を知りたいならNejumiと、問いごとにデータを選びます。業務で使うモデルの日本語は、自社の文書で試した結果が最終的な根拠になります。
参照した一次ソース
この記事の記述は、次の一次ソースと照合しています。更新時に参照先が変わった場合は一覧も更新します。
- platform.claude.com/docs/en/build-with-claude/multilingual-support
- platform.claude.com/docs/en/about-claude/models/overview
- platform.claude.com/docs/en/about-claude/model-deprecations
- blog.qualiteg.com/llm-ranking-2026
- blog.qualiteg.com/llm-ranking-2025
- note.com/wandb_jp/n/ncfd9d23221b3
- prtimes.jp/main/html/rd/p/000000024.000119963.html
- nri.com/jp/news/info/20260224_1.html