Claude Scienceのconfig.tomlをMDMで配る — 端末管理の設定項目
Claude Scienceにはシステム全体の管理ポリシーがなく、端末ごとのconfig.tomlを配るのが唯一の手段です。置き場所、主要キー、テレメトリ、EDR、必須アップデートをIT担当者向けに解説します。
Claude Scienceの設定を組織全体に配る方法は、各メンバーの端末にconfig.tomlを置くことだけです。macOSのmanaged preferencesもWindowsのレジストリポリシーも読みません。つまりMDM(モバイルデバイス管理)に専用の設定チャネルはなく、ファイル配布が公式に想定された手段です。
Claude Scienceは会話や成果物を端末内に保存するデスクトップアプリです。保存先、配るべきキー、送信されるテレメトリ、EDRからの見え方、必須アップデートの挙動を、IT・情報システム担当者の目線で順に見ます。対応プランや有効化の手順はClaude Scienceの対応プランと料金にあります。
config.tomlはどこに置くか
設定ファイルは既定のデータフォルダーの直下にあります。
| OS | パス |
|---|---|
| macOS・Linux | パス~/.claude-science/config.toml |
| Windows | パス%USERPROFILE%\.claude-science\config.toml |
すべてのキーは省略可能で、ファイルが無くてもアプリは起動します。読み込みは起動時に1回だけなので、変更は再起動後に反映されます。検証用には、claude-scienceコマンドの--config <file>で、別のファイルを1回の実行だけ読ませられます。
Windowsで配るときは2点に注意が必要です。ファイルはUTF-8で保存します。パスはシングルクォートで囲むか、スラッシュ区切りで書きます。ダブルクォート内のバックスラッシュはエスケープ文字になり、構文エラーのファイルはアプリの起動そのものを止めます。
# Windows の例: シングルクォートなら円記号をそのまま書ける
[network]
ca_bundle = 'C:\ProgramData\corp\corporate-ca.pem'起動を止める失敗は他にもあります。パッケージミラーのURLが規則に合わないとき、chunked_upload_threshold_bytesが既定の約45 MiBを超えるときです。配布前に1台で起動確認を挟む理由になります。
端末のどこに何が保存されるか
アプリが書き込む場所は大きく2つです。
- 設定: 上記の
config.toml。アプリの全設定を持つ - データ: 会話、生成された成果物、委任の構成、ワークスペースのファイル。組織ごとのサブフォルダー(
orgs/<organization-id>/)に、ローカルのデータベースとファイルで保存される
認証トークンと共有パッケージ環境は、データディレクトリを移しても既定のデータフォルダー(~/.claude-science/)に残ります。バックアップや消去のポリシーをデータディレクトリにだけ掛けても、サインイン状態には影響しません。逆に言えば、サインイン状態を消したいなら既定フォルダーも対象にする必要があります。
Windowsはもう少し散らばります。
- プログラム本体はユーザー単位で
%LOCALAPPDATA%\Programs\ClaudeScienceに入り、マシン全体ではなくサインイン中ユーザーの「インストールされているアプリ」に登録される - 起動ログと状態は
%LOCALAPPDATA%\ClaudeScience、サンドボックスの状態フォルダーも%LOCALAPPDATA%配下に作られる - ウィンドウエンジンやサンドボックスランチャーなど、実行時に展開される部品はデータフォルダーに置かれる
パス指定で許可リストを作るなら、プログラムフォルダーとデータフォルダーの両方が要ります。アンインストールするとプログラムとサンドボックス状態が消え、claude-science uninstall --purgeではデータと状態のフォルダーまで消えます。
組織の保持設定が効かない理由
Anthropicはこれらのフォルダーのコピーをホストも同期もしません。そのため、Enterpriseの「Custom Data Retention」(チャットとプロジェクトの保持期間)も、Org Data Exportも、端末内のデータには届きません。管理画面の対応表では、保持期間の設定は「一部対応」と整理されています。
一部対応の中身は、Compliance APIを有効にしたEnterpriseで、Anthropicが取得したセッションの記録(トランスクリプト)に保持期間が掛かるという点です。保持期間が未設定なら6年間保持されます。
オフボーディングも同じ構造です。メンバーを削除するとClaude Scienceへのアクセスは止まりますが、端末にあるデータは消えません。消去はデバイス管理ソフトの仕事です。逆に、メンバーが端末のデータを消しても、Anthropic側のモデル呼び出しログとトランスクリプトは、それぞれの保持期間が終わるまで残ります。
端末側の暗号化も運用の対象です。サインイントークンと、計算環境やクラウドストレージ用に保存した認証情報は端末上で暗号化されますが、フォルダーのそれ以外は、OSの権限に頼る形です。ディスク全体の暗号化とデバイス管理ポリシーを、このフォルダーにも掛けておく前提で設計されています。
MDMで配るキーと、配らなくてよい設定
配布の方法は、各端末のconfig.tomlをMDMやエンドポイント管理ツールで置くことです。管理者が最初に見るキーは次の5つです。
| キー | 効果 |
|---|---|
disable_telemetry = true | 効果利用状況のテレメトリとエラーレポートの送信を止める |
data_dir = "<path>" | 効果会話・成果物・ワークスペースを、バックアップ対象のボリュームなどへ移す |
[update] の auto_update = false | 効果アプリの自己更新を止める。自社の配布経路と組み合わせる |
[sandbox.network] の enabled = false | 効果ローカルのコード実行サンドボックスからの外部通信を止める |
enable_web_search = false | 効果ClaudeのWeb検索ツールを止める。文献検索、コネクタ、サンドボックスからの通信には影響しない |
enable_web_searchは、ファイルの最初の[section]より上(トップレベル)に書きます。一方、[sandbox.network]には取り違えやすいキーがあります。似た名前の[sandbox]のnetwork_isolatedキーは、この制御ではありません。サンドボックスの通信を止めたいなら[sandbox.network]のenabledを使います。
配布ファイルは、たとえば次の形になります(公式のキー一覧に沿って組んだ例で、値は環境に合わせて変えます)。
# 例: テレメトリ停止・Web検索停止・自己更新停止・サンドボックス通信遮断
disable_telemetry = true
enable_web_search = false
[update]
auto_update = false
[sandbox.network]
enabled = false組織全体の設定を、ファイル配布ではなく管理画面で一括して掛けられる項目もあります。サンドボックスのネットワーク許可リストとパッケージミラーは、Team・Enterpriseの「Organization settings」>「Claude Science」で設定でき、メンバーごとのファイルは要りません。
ファイルと管理画面の優先順位
同じ項目をファイルと画面の両方で設定すると、効き方が分かれます。
- ミラー系(
[conda]のchannel_mirror・pip_index_url・ca_bundle)とプロキシ([network] proxy)は、ファイルの値が「Settings」の同じ項目より優先される。画面側は「組織が管理」と表示され、メンバーは変えられない [sandbox.network]の許可・拒否リストは加算式。メンバーが設定したリストに足されるだけで、何も固定しない- 管理画面で組織が許可リストを管理している間は、ファイルの
allowed_domainsが脇に置かれる。denied_domainsは引き続き有効 - 管理画面の組織パッケージミラーは、ファイルのミラーキーより優先される
プロキシと内部ミラーを固定したい組織は、ファイルに書けば個人の設定に上書きされません。許可・拒否リストはファイルで固定する手段になりません。
テレメトリはどこまで送られるか
アプリは利用状況のテレメトリ(イベント数と所要時間。会話内容は含まない)をAnthropicへ送ります。アプリ内に切り替えのスイッチはなく、同意は組織が商用条件に承諾したことで賄われます。
エラーが起きると、エラー報告サービスにもレポートが送られます。内容はエラーの種類と、Claude Science自身のコードのどこで起きたかです。付随する情報は次のとおりです。
- アプリのバージョンと実行環境のバージョン
- OSのバージョン
- 直近のテレメトリイベント
送信前に、端末側でエラーメッセージを除去し、Claude Science自身のコード以外の位置情報を伏せます。会話、研究データ、ファイルの中身、ファイルパス、ユーザー名、アカウントや組織の識別子は含まれません。
止める方法は2つあり、どちらも端末単位の設定です。
config.tomlにdisable_telemetry = trueを書く(MDMで配れる)- 起動時にアプリが読む場所に
DO_NOT_TRACK環境変数(たとえば1)を設定する
組織単位やメンバー単位のトグルは「Organization settings」にありません。止めたいなら全端末に配るしかありません。環境変数の渡し方はOSで違います。
- macOS: データフォルダーの
envファイル(~/.claude-science/env)を起動時に読む。KEY=VALUEの行で書く。DockやFinderから起動したアプリには、ターミナルでexportした変数は届かない - Windows: 起動時にユーザー環境変数を読む。開いているコマンドプロンプトで設定した値は、スタートメニューから起動したアプリには届かない
- Linux:
claude-science serveを起動するシェルまたはサービスユニットでexportする。envファイルを読むのはmacOS版だけ
macOSのenvファイルは、読み込む変数が固定の一覧に限られます。一覧にはプロキシ系の変数とDO_NOT_TRACKが入っています。それ以外の行は~/.claude-science/logs/app.logに警告を出して読み飛ばされます。バージョン0.1.56より前は任意の変数を設定できたので、古い配布手順をそのまま流用すると効かない変数が出ます。
テレメトリの停止を、Anthropicへ送られるデータ全体の停止と読み違えないことも大切です。Claudeへのリクエストには、会話の内容、Claudeが読んだファイルの中身、コードとコマンドの出力などが含まれます。これはテレメトリとは別で、止められません。
EDRからはどう見えるか
Claude Scienceは解析コードを、端末上のローカルサンドボックスで動かします。EDR(エンドポイントの検知・対応ツール)からの見え方はOSで異なります。
| OS | サンドボックスの実体 | EDRからの見え方 |
|---|---|---|
| macOS | サンドボックスの実体通常の子プロセスとして動く | EDRからの見え方ホスト側のEDRから見える |
| Windows | サンドボックスの実体メンバーのアカウントでWindows AppContainer内に動く。アプリ同梱のランチャーが起動し、WSLもHyper-Vも使わない | EDRからの見え方公式ページに記載なし |
| Linux | サンドボックスの実体独立したPID名前空間で動く。プロセスの見え方が分離される | EDRからの見え方アプリの通常の子プロセスとしては見えない |
Windowsでは、初回に一度だけ、任意で管理者の承認を求められます。承認すると、コマンドプロンプトのスクリプトとgitがセルの中で動き、PowerShellのセルがフォルダーを移動できるようになります。PythonとRのセルは承認なしで動きます。
セキュリティソフトがサンドボックスランチャーを保留したり、解析環境のファイルを隔離したりすると、Claude Scienceはエラーメッセージに対象のフォルダーを示します。その表示を手掛かりに除外設定を足せます。許可リストをパスで作る場合は、前述のとおりプログラムフォルダーとデータフォルダーの両方が対象です。
必須アップデートはどう見えるか
Anthropicはアプリの最小サポートバージョンを設定することがあります。インストール済みのバージョンがそれを下回ると、サポート対象外であることを告げる全画面の通知が出て、更新するまで使えません。この下限は管理者が設定するものではなく、Anthropicが決めます。
自社の配布経路を使い、自己更新を止めている組織は、下限が上がったときに更新を速やかに配布する運用が前提です。auto_update = falseは、更新のタイミングを自分で握る代わりに、この責任を引き受ける設定と言えます。
HPCやSSHで広がる境界は端末の外にある
端末内のデータは自社の統制下に置けても、解析の一部が端末の外へ出ることがあります。SSHホスト、Modal、科学モデルのエンドポイント、クラウドストレージへ送られるジョブやファイルは、端末から直接送られ、Anthropicを経由しません。HPCへの接続の仕組みはClaude ScienceのHPC接続で扱っています。
この範囲はconfig.tomlでは制御しきれません。組織の画面側のスイッチ(SSHホスト、Modal、メモリーなど)と合わせて設計する領域です。設定ごとの対応を一覧するなら、管理画面の項目表が出発点になります。
展開前のチェック
導入前に、次の順で確認すると手戻りが少なくなります。
- 配布するキーを決める。
disable_telemetry、data_dir、auto_update、[sandbox.network]のどれを固定するか - 管理画面で済む項目(許可リスト、ミラー)をファイルから外す。優先順位が絡むので、二重に持たない
- 1台で配布ファイルを読み込ませ、起動することを確かめる。構文エラーや不正なミラーURLは起動を止める
- EDRの除外に、プログラムフォルダーとデータフォルダーを入れる
- バックアップ・消去ポリシーの対象に、データディレクトリと既定フォルダー(認証トークン)の両方を含める
- 更新の配布経路を決める。自己更新を止めるなら、下限が上がったときの手順を先に作る
Coworkのような別アプリの管理設定との違いが気になる場合は、CoworkのMDM管理者設定と見比べると整理しやすくなります。Claude Code Desktopの端末ポリシーはClaude Code DesktopのSSOとデバイス管理にあります。
まとめ
Claude Scienceの端末管理は、ファイル配布が中心です。config.tomlをMDMで置くことで、テレメトリ、データの置き場所、自己更新、サンドボックスの通信を固定できます。一方で、端末内のデータは組織の保持設定やデータエクスポートの外にあり、オフボーディングの消去もMDM側の作業です。
テレメトリの停止がすべての送信を止めるわけではない点と、必須アップデートの下限をAnthropicが握る点は、運用設計で見落としやすい部分です。自己更新を止める組織ほど、後者への備えが要ります。