AnthropicのAcceptable Use Policyとは — 禁止用途14分類と商用利用の注意点
AnthropicのAUPは14分類の禁止用途と7分野の高リスク要件を定めます。商用・法人利用で見落としやすい境界線を具体例で示します。
Acceptable Use Policy(AUP、Anthropicの正式名称は「Usage Policy」)は、Claudeやその関連製品への入力を送るすべての利用者に適用される利用規約です。現行版は2025年9月15日に発効し、法令違反から性的コンテンツの生成まで14分類の禁止事項と、医療や金融など7分野の「高リスク用途」への追加要件を定めています。個人利用者向けの規定と誤解されがちですが、企業がAPIを組み込んだ自社製品を作る場合にも同じ規定が適用されます。改定の経緯や高リスク用途の枠組みがどう変わってきたかはUsage Policyの改定履歴で扱っており、本記事では現行の条文の中身と、商用利用で見落としやすい境界線を扱います。
AUPは「誰に」適用されるのか
AUPは「Anthropicの製品・サービスに入力を送れるすべての利用者」に適用されると定義されており、認定リセラーやパススルーアクセスを経由した利用者も対象に含まれると明記されています。自社がAnthropicと直接契約せず、リセラー経由でClaudeを組み込んだ製品を提供している場合でも、その製品のエンドユーザーはAUPの適用対象です。
政府機関の顧客には例外があります。Anthropicは、契約上の利用制限と安全対策がAUPの想定する潜在的な害を十分に緩和すると判断した場合に限り、その顧客の公的な使命や法的権限に合わせて利用制限を調整した契約を結ぶことがあると明記しています。これは個別契約の話であり、一般の商用利用者がこの例外を根拠にできるわけではありません。
14分類の禁止事項 — 商用利用で見落としやすい項目はどこか
Universal Usage Standardsと呼ばれる中核部分は、全利用者・全用途に適用される14分類で構成されています。企業がAPIやClaude Codeを業務に組み込む際、個人のチャット利用では意識しにくい項目がいくつか含まれています。
| 分類 | 主な禁止行為 |
|---|---|
| その他の法令違反・違法行為 | 主な禁止行為知的財産権の侵害、規制の回避 |
| 重要インフラの毀損 | 主な禁止行為電力網・医療機器・投票システムへの不正アクセス |
| コンピューター・ネットワークの侵害 | 主な禁止行為無断の脆弱性悪用、マルウェア作成、認証迂回ツールの開発 |
| 兵器の開発・設計 | 主な禁止行為兵器化・運搬手段の設計、規制回避での入手 |
| 暴力・憎悪の扇動 | 主な禁止行為保護属性に基づく差別的行為の助長 |
| プライバシー・個人情報の侵害 | 主な禁止行為生体データの無断取得、人間へのなりすまし |
| 子どもの安全の侵害 | 主な禁止行為CSAM、未成年への性的働きかけ |
| 精神的・感情的な害 | 主な禁止行為自傷の助長、いじめの助長、体型批判 |
| 誤情報の作成・拡散 | 主な禁止行為医療・科学分野での誤情報、なりすまし発信 |
| 民主的プロセスの妨害 | 主な禁止行為個人プロファイルに基づく投票ターゲティング |
| 刑事司法・検閲・監視 | 主な禁止行為仮釈放判断への利用、政府による検閲代行 |
| 詐欺・不正行為 | 主な禁止行為フィッシング、偽レビュー生成、模造品流通の助長 |
| プラットフォームの濫用 | 主な禁止行為モデル出力の無断学習利用、ジェイルブレイク、複数アカウントでの規制回避 |
| 性的に露骨なコンテンツ | 主な禁止行為性行為の描写、近親相姦・獣姦の助長 |
商用利用で特に見落とされやすいのは「プラットフォームの濫用」です。Claudeの出力を使って別のAIモデルを学習させる、いわゆるモデル蒸留やスクレイピングは、Anthropicの事前承認なしに行うと明確な違反になります。自社製品の競合モデルを安く作る目的でClaudeの出力を大量収集する行為は、悪意の有無にかかわらずこの条項に触れます。同じ分類には、複数アカウントを使ったBAN逃れや、Supported Regions Policyに違反する地域からのアクセス提供も含まれます。海外拠点や海外の再販先を経由してClaudeを提供する事業者は、対象地域の制限まで確認しておく必要があります。
「コンピューター・ネットワークの侵害」の8項目のうち、「無断であること」が要件になっているのは脆弱性の発見・悪用と通信の傍受の2項目だけです。条文は「システム所有者の同意なく脆弱性を発見・悪用する行為」「同意なく通信を傍受する行為」という書き方をしており、裏を返せばシステム所有者の許可を得たペネトレーションテストや脆弱性診断は、この2項目に限っては文言上禁止の対象外になります。一方、マルウェアの作成・配布、DoSツールやボットネットの開発、認証・セキュリティ制御の迂回ツールの開発には、許可の有無による例外はありません。表の「無断の脆弱性悪用」とは違い、「マルウェア作成」「認証迂回ツールの開発」は同意があっても対象です。
高リスク用途の要件 — human-in-the-loopと開示は適用条件が違う
医療・法務・金融など7分野は「高リスク用途」として、human-in-the-loop(専門家によるレビュー)と開示(AIを使っていると伝えること)の2つの義務が定められています。ただしこの2つは適用条件が同じではありません。human-in-the-loopは「個人・消費者に直接影響する助言・推奨・主観的判断」を提供する場合に適用され、開示は「モデルの出力を個人・消費者へ直接見せる場合」に適用されます。前者は判断の性質、後者は出力の見せ先という別の軸で線が引かれているため、両方が同時に発生するとは限りません。
7分野は次のとおりです。
- 法務: 法的解釈・助言に関わる用途
- 医療: 診断・治療・メンタルヘルスに関わる用途(睡眠や栄養のような一般的なウェルネス助言は対象外)
- 保険: 引受・請求処理・保障判断
- 金融: 投資助言・融資審査・与信判断
- 雇用と住宅: 採否判断・書類選考・入居審査
- 学術試験・認定・入試: 標準化テストや資格試験の採点・評価
- メディア・報道: 自動生成コンテンツを外部公開する用途
開示義務については、出力を個人・消費者へ直接見せる設計にした瞬間に発生し、その開示は少なくとも各セッションの冒頭で行う必要があります。human-in-the-loopの要件は、判断そのものが個人・消費者に直接影響するかどうかで決まるため、審査担当者向けの内部ツールであっても油断はできません。同じ融資審査システムでも、審査担当者が最終判断を下す前提でAIの出力を下書きとして使う場合と、申込者本人にAIの判断結果を直接通知する場合とでは、開示義務の有無が変わるということです。
消費者向けチャットボットやMCPサーバーへの追加ルール
高リスク用途に該当するかどうかに関わらず、次の用途には個別のガイドラインが適用されます。
- 消費者向けチャットボット: 外部向け・対話型のAIエージェントを含め、相手が人間でなくAIだと開示する義務があります。この開示は各セッションの冒頭で行う必要があります。
- 未成年者向け製品: APIを組み込んだ製品を未成年に直接使わせる場合、安全機能の実装とAI利用の開示を条件に別途のガイドラインが適用されます。
- エージェント利用: Claude CodeやComputer Useのような自律実行型の使い方も通常のUsage Policyの対象です。エージェント文脈での禁止例は別途ヘルプセンター記事にまとめられています。
- MCPサーバー: AnthropicのConnector Directoryに掲載するMCPサーバーは、Usage Policyに加えてDirectory Policyへの準拠も求められます。モデレーションの仕組みはMCP Registryのモデレーションポリシーで扱っています。
違反するとアクセスはどう制限されるか
違反が確認されると、Anthropicはアクセスの制限(throttle)・一時停止・終了のいずれかを行うとしています。これらはAUPが列挙する対応の選択肢であり、必ず軽い措置から順番に進むという段階が明記されているわけではありません。加えて、アカウントごとの措置とは別に、違反する入力そのものに対してモデル出力をブロックしたり修正したりする対応も明記されています。出力が不正確・偏っている・有害だと感じた場合の通報先は、製品内の「report issues」機能またはusersafety@anthropic.comです。改定の経緯や高リスク用途の枠組みがどう変わってきたかはUsage Policyの改定履歴にまとめています。
社内のAI利用ガイドラインを作るときに見落としやすい境界
AUPを読んで自社の利用ガイドラインを作る際、最も事故が起きやすいのは「社内ツールだから高リスク要件の対象外」という判断を先に固定してしまうことです。最初は審査担当者の下書き生成だけを想定していた与信判断ツールであっても、判断そのものが申込者本人に直接影響する以上、human-in-the-loopの要件はその段階からすでにかかっています。運用が広がって申込者本人にAIの判断結果をそのまま見せる設計に変わった時点で新たに加わるのは、各セッション冒頭での開示義務です。プラットフォームの濫用条項についても同様で、社内の検証目的で始めたはずのAPI呼び出しを使ったベンチマーク作業が、気づかないうちに競合モデルの学習データ収集に近い形になっていないかは、契約時点では見えにくいリスクです。用途が固定的でない業務ほど、開発時の想定ではなく実際の利用実態を定期的に確認する運用が要ります。自社向けのAI利用方針を具体的に作成する手順は社内のAI利用方針をClaudeで作成する手順にまとめています。
よくある質問
API利用とClaude.aiのチャット利用でAUPの内容は違うか
いいえ。AUPは「Anthropicの製品・サービスに入力を送れるすべての利用者」に適用されると明記されており、API・Claude.ai・Claude Code・Coworkのどの経路でも同じ規定が適用されます。一般の利用者には、契約形態やプランによって規定の内容が変わることはありません(政府機関の顧客のように個別契約で利用制限を調整する例外はあります)。
Claude Codeで応答が拒否されたら、このAUPのどこに触れたのか分かるか
拒否メッセージ自体に該当する分類までは表示されません。Claude Codeで実際に拒否表示が出たときの挙動と対処は「Usage Policy refusal」とはにまとめています。
Claude Codeでコードを書かせる作業自体は高リスク用途にあたるか
あたりません。高リスク用途として列挙されているのは法務・医療・保険・金融・雇用と住宅・学術試験・メディアの7分野で、ソフトウェア開発支援はこの一覧に含まれていません。エージェント利用そのものは通常のUsage Policyの対象ですが、コーディング作業を任せる行為だけでhuman-in-the-loopや開示の義務が自動的に発生するわけではありません。
高リスク用途の開示義務は、社内向けのAI利用方針にも書くべきか
AUP自体は法的な義務であり、社内方針に明記するかどうかとは別の話です。ただし、担当者が線引きを誤らないよう、どの業務が消費者向け出力に当たるかを社内ガイドラインに具体的に書いておくことは、AUP違反のリスクを減らす実務上の対策になります。
まとめ
AnthropicのAcceptable Use Policyは14分類の禁止事項と7分野の高リスク用途要件で構成され、個人・法人を区別せず同じ規定が適用されます。商用利用で見落としやすいのは、モデル出力を使った無断の学習・蒸留を禁じる「プラットフォームの濫用」条項と、human-in-the-loopと開示で適用条件が異なる高リスク用途の線引きです。human-in-the-loopは判断が個人に直接影響するかどうかで決まるため社内ツールでも外れず、出力を個人へ直接見せる用途に広がった瞬間に開示義務が新たに加わります。契約時点の想定だけでなく実際の利用実態を継続的に確認する姿勢が欠かせません。