Usage Policyの改定履歴 — 2024年と2025年に何が変わったか
AnthropicのUsage Policyは2024年5月と2025年8月に大きく改定されました。改称の経緯、選挙関連規定の変化、エージェント利用への対応まで一次ソースで時系列に追います。
Usage Policyとは何か — 3層構造で運用される利用規範
Usage Policyは、AnthropicがClaudeとその関連製品を使ってよい範囲・使ってはいけない範囲を定めた規約です。Anthropicの安全対策チームがこの規約に基づいて検知・監視を行い、違反時にはアクセスの制限・停止・終了や、出力のブロック・修正まで踏み込むと明記されています。現行の規約は3層構造です。全利用者に適用される「Universal Usage Standards」、医療や法務など公共の福祉に関わる用途に追加の安全対策を課す「High-Risk Use Case Requirements」、消費者向けチャットボット・未成年者向け製品・エージェント利用・MCPサーバーなど特定用途に個別のガイダンスを与える「Additional Use Case Guidelines」の3つです。
Universal Usage Standardsは、法令違反や重要インフラの破壊から性的コンテンツの生成まで、14項目の「してはいけないこと」に整理されています。この規約は固定された文書ではなく、Anthropicが「技術と関連するリスクの進化に応じて更新する」と明言している生きた文書です。実際、公開から現在までに少なくとも2回、内容に踏み込んだ改定が行われています。
2024年5月10日の改定 — Acceptable Use PolicyからUsage Policyへ
最初の大きな改定は2024年5月10日に発表され、2024年6月6日に発効しました。それまで「Acceptable Use Policy」と呼ばれていた規約が、この改定で「Usage Policy」に改称されています。単なる名称変更ではなく、構成自体も再編されました。以前は「Prohibited Uses」と「Prohibited Business Cases」という2つのセクションに分かれていましたが、企業利用者と個人利用者のどちらにも同じルールが適用されることを明確にするため、「Universal Usage Standards」という単一のガイドラインに統合されています。
この改定で追加された規定は主に4系統です。
- 選挙関連の規定を明確化: 特定の候補者・政党・争点・立場を推進または支持する用途、投票や政治献金の勧誘、投票機を標的にする行為、票の集計・認定を妨害する行為を明示的に禁止に追加。選挙関連の誤情報を生成・拡散する用途も禁止対象に加わりました
- 高リスク用途に追加要件: 医療判断や法務助言に関わるAPI連携を「高リスク用途」と定義し、追加の安全対策を義務付け
- 未成年者向け利用の拡大: 消費者向け利用規約(Consumer Terms of Service)は18歳未満の利用を禁止したままですが、APIを組み込んだ製品については、安全機能の実装と「AIを使っている」という開示を条件に、テスト対策や学習支援など未成年者向けの提供を認める方向に変更
- プライバシー保護の明確化: 生体データから人種や信仰を推測する用途、尋問目的で感情を推測する認識システムの構築を明示的に禁止に追加。政府機関の代理として検閲対象コンテンツを分析・特定する用途も、対象国を問わず禁止に追加
2025年8月15日の改定 — エージェント利用への対応と政治コンテンツ規制の見直し
2回目の大きな改定は2025年8月15日に発表され、2025年9月15日に発効しました。この間にClaude CodeやComputer Useのようなエージェント型ツールが急速に広がったことを受け、改定の重心はエージェント利用とサイバーセキュリティに置かれています。
- サイバーセキュリティとエージェント利用への対応: コンピューター・ネットワーク・インフラへの不正な侵害行為を禁止する条項を新設。一方で、システム所有者の同意を得た脆弱性発見のような用途は引き続き支援する方針を維持。エージェント利用の文脈でどこまでが禁止に当たるかを示すヘルプセンター記事も新たに公開されました(規約そのものの置き換えではなく補足資料)
- 政治コンテンツへの広範な規制を見直し: これまでロビー活動や選挙運動に関わるコンテンツ全般を広く禁止していましたが、政策研究・市民教育・政治に関する文章作成といった正当な用途まで制限してしまっているという利用者の声を受け、規制対象を「民主的プロセスを欺いたり妨害したりする用途」「有権者や選挙運動の標的化に関わる用途」に絞り込みました。誤解を招く用途・介入的な用途は引き続き禁止する一方、正当な政治的言論と調査は行いやすくする方向の調整です
- 法執行機関向け文言の整理: 監視・追跡・プロファイリング・生体認証モニタリングを制限する立場自体は変えず、これまで例外規定が複雑だった文言を分かりやすく整理
- 高リスク消費者向け用途の適用範囲を明確化: 高リスク用途の追加要件は、モデルの出力が消費者に直接向けられる場合に適用され、企業間(B2B)のやり取りには適用されないことを明記
高リスク用途の要件は今、具体的に何を求めているか
2024年の改定で新設された「高リスク用途」(High-Risk Use Case Requirements)の枠組みは、現行版では対象が7分野に整理されています。法務(法的解釈・助言)、医療(診断・治療・メンタルヘルス。睡眠や栄養といった一般的なウェルネス助言は対象外)、保険(引受・請求処理・保障判断)、金融(投資助言・融資審査・与信判断)、雇用と住宅(採否判断・書類選考・入居審査)、学術試験・認定・入試(標準化テストや資格試験の採点・評価)、そしてメディアや報道目的で自動生成したコンテンツを外部公開する用途です。
これらの用途では2つの安全対策が義務付けられています。1つはhuman-in-the-loopで、個人や消費者に直接影響する助言・推奨・主観的判断を提供する場合、その分野の専門家が最終判断の前に内容をレビューしなければなりません。もう1つは開示で、モデルの出力を個人や消費者に直接見せる場合、少なくとも各セッションの冒頭でAIを使っていることを伝える義務があります。2025年の改定は、この枠組み自体を作り直すのではなく「消費者向けの出力にだけ適用され、企業間のやり取りには適用されない」という適用範囲の線引きを明確にする方向で手を加えました。
高リスク用途に該当するかどうかにかかわらず順守が求められる項目も別に定められています。消費者向けのチャットボットやAIエージェントは相手が人間でなくAIだと開示する義務があり、未成年者が直接操作できる製品には追加のガイドラインが適用されます。エージェント利用そのものも通常のUsage Policyの対象で、Anthropicはエージェント文脈での禁止例をヘルプセンター記事にまとめています。さらに、Connector Directoryに掲載されるMCPサーバーはDirectory Policyへの準拠も別途求められます。
Usage Policyの改定は何を優先するように変わってきたか
| 改定日 | 発効日 | 主な変更の性格 |
|---|---|---|
| 2024-05-10 | 発効日2024-06-06 | 主な変更の性格名称統一・選挙関連の禁止事項を具体化・高リスク用途の枠組みを新設 |
| 2025-08-15 | 発効日2025-09-15 | 主な変更の性格エージェント利用への対応を追加・政治コンテンツ規制を絞り込み・法執行機関向け文言を整理 |
2つの改定を並べると、方向性の違いがはっきり見えます。2024年の改定は禁止事項を具体的に広げる方向でした。選挙妨害やプライバシー侵害の定義を細かくし、新しい高リスクカテゴリーを追加しています。対して2025年の改定は、エージェント利用というリスク面では新しい禁止条項を足しつつ、政治コンテンツについては規制を狭める方向に動いています。「ロビー活動や選挙運動に関わるものは広く禁止」から「民主的プロセスを欺く・妨害する用途だけを狙い撃ちで禁止」への転換は、規約を厳しくし続けるだけでなく、正当な用途を萎縮させていた部分を見直す判断がAnthropic側にあったことを示しています。
法執行機関向け文言の整理についても「これは何が許可されるかを変えるものではない」とAnthropic自身が明記しており、2025年の改定は禁止範囲そのものの拡大よりも運用上の分かりやすさに比重を置いた回だったようです。エージェント型ツールの普及という技術の変化が、政治的な規制の緩和という一見関係のない領域の見直しと同じタイミングで起きたのは偶然ではなく、Claude Codeのようなツールが実務で使われる機会が増えるほど、規約全体の運用実態と文言のずれが目立ちやすくなったためと考えられます。
違反したときに何が起きるか
Usage Policyへの違反が確認されると、Anthropicはアクセスの制限・一時停止・終了のいずれかを行う場合があります。モデルの出力そのものをブロックしたり修正したりする対応も明記されています。モデルの出力が不正確・偏っている・有害だと感じた場合は、製品内の「report issues」機能やusersafety@anthropic.comへの通報が用意されています。Claude Codeで実際に応答が拒否される場面の具体的な挙動と対処は「Usage Policy refusal」とはにまとめています。自社の業務で独自のAI利用方針を作りたい場合は社内のAI利用方針をClaudeで作成する手順が手順を扱っています。
まとめ
Usage Policyは2024年5月と2025年8月の2回、内容に踏み込んだ改定を経ています。2024年の改定は名称統一と禁止事項の具体化、2025年の改定はエージェント利用への対応と政治コンテンツ規制の絞り込みが中心でした。現行版は2025年9月15日発効のもので、Anthropicは「進化するAIリスクに応じた生きた文書」と位置づけている以上、次の改定も技術の変化に合わせて起きる可能性が高そうです。規約の背景にある価値観の優先順位はClaudeの憲法(Constitution)とは何かで扱っています。