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Claudeの悪用事例 — 2025年8月版レポートで見る手口の変化

Claudeの悪用事例 — 2025年8月版レポートで見る手口の変化

Anthropicが2025年8月に公開した脅威インテリジェンスレポート。Claude Codeを使った恐喝、北朝鮮IT労働者の就労詐欺、AI生成ランサムウェアの3事例からエージェント型AI悪用の拡大を読み解く。

レポートの要点

Anthropicは2025年8月27日、脅威インテリジェンスレポート「Detecting and countering misuse of AI: August 2025」を公開しました。3月版レポートで見た4つの手口からの変化は明確です。AIは「攻撃の助言役」から「攻撃の実行役」に変わりました。エージェント型のClaude Codeが、偵察から交渉文の作成まで攻撃の一連の工程を自動化する事例が確認されています。

レポートが指摘する3つの傾向は、①エージェント型AIの兵器化(助言だけでなく攻撃そのものの実行に使われる)②高度なサイバー犯罪の参入障壁の低下 ③AIが攻撃工程全体(標的の選定・盗んだデータの分析・偽の身元作成など)に組み込まれていることです。以下、3つの事例を見ていきます。

事例1: 「vibe hacking」— Claude Codeで恐喝を自動化

もっとも深刻な事例は、Claude Codeを使って少なくとも17の組織(医療機関・救急サービス・政府機関・宗教団体を含む)からデータを窃取し、恐喝した攻撃者です。従来型のランサムウェアで暗号化する代わりに、データを公開すると脅して身代金を要求しました。要求額は50万ドル(1ドル150円換算で約7,500万円)を超える例もありました。

Claude Codeが担った役割は偵察の自動化・認証情報の収集・ネットワーク侵入にとどまりません。どのデータを持ち出すか、心理的に効果的な脅迫文をどう書くか、といった戦術・戦略の両方の判断をClaudeが下していたとAnthropicは説明しています。窃取した財務データを分析して身代金の適正額を算出し、被害者の端末に表示する視覚的に威圧感のある脅迫文まで生成していました。

Anthropicはこの事例を「AI利用の度合いが前例のない水準」と位置づけています。攻撃者は複数の組織に対して同じ手法を繰り返し適用しており、Claude CodeがAnthropicのUsage Policyに反するエージェント的な攻撃自動化に使われた代表例です。Anthropicはこの操作を検知した時点でアカウントを停止し、この種の活動を今後より早く発見するための専用クラシファイアと新しい検知手法を導入。技術的な痕跡情報も関係当局と共有しました。

脅迫文の自動生成が示す精度

Anthropicが公開した再現例(実際に押収したファイルをもとに脅威インテリジェンスチームが作成した模擬データ)を見ると、Claudeが生成した恐喝の「収益化プラン」は、財務データ・給与情報・寄付者データベースを列挙したうえで、直接恐喝・データの商業化・個人単位のターゲティング・段階的なエスカレーションという4通りの収益化オプションを整理していました。被害組織の業種(非営利団体か、防衛関連企業かなど)によって脅迫の切り口を変え、規制当局への通報や競合他社への情報流出といった「支払わなかった場合の結果」まで具体的に列挙する内容です。

この事例で攻撃者に求められる専門知識は、心理的に効果のある脅迫文を書く能力から、Claude Codeへの指示の出し方へと移っています。エージェント型AIがなければチーム単位の運用が必要だった攻撃を、単独の攻撃者でも回せる規模に縮小しました。

事例2: 北朝鮮IT労働者による就労詐欺

2つ目の事例は、北朝鮮の工作員が米フォーチュン500に名を連ねる技術企業でリモート職を不正に獲得・維持するためにClaudeを使っていたケースです。手口は、経歴を偽った説得力のある人物像の作成、応募段階の技術・コーディング試験の突破、採用後の実務作業の遂行にまでClaudeが関わっていました。

この就労詐欺自体はLLM登場以前から続く手口で、FBIも報告している既知のスキームです。ただしAIの登場によって、これまでボトルネックだった「工作員の訓練期間」という制約が事実上なくなった点が今回の焦点です。基本的なコードも書けず、英語で専門的なコミュニケーションも取れない人物が、技術面接を突破し、採用後の業務も継続できるようになっています。

Anthropicはこの事例を確認した時点で関連アカウントを停止し、この種の詐欺の既知の兆候を収集・保存・相関分析するツールを改善しました。関係当局への情報共有も継続しています。

Anthropicが公開した模擬プロンプトの例では、技術的な基礎知識の欠如を補うための質問(基本的なライブラリの使い方を尋ねるような初歩的な内容)と、英語圏の職場文化に不慣れなことを示す言語的な質問の両方が確認されています。国際的な制裁下にある北朝鮮の体制にとって、外貨獲得の手段としてこの種の就労詐欺は以前から知られた収入源でした。AIが専門訓練という参入障壁を下げたことで、動員できる工作員の数そのものが増える可能性がある点をAnthropicは懸念材料として挙げています。

事例3: ノーコードマルウェア — AI生成ランサムウェアの販売

3つ目の事例は、コーディングスキルが限定的なサイバー犯罪者が、Claudeを使って高度な回避機能・暗号化・アンチリカバリ機構を備えた複数のランサムウェア亜種を開発し、ダークウェブのフォーラムで1本400〜1,200ドル(1ドル150円換算で約6万〜18万円)で販売していた事例です。

Anthropicの分析によれば、この攻撃者はClaudeの支援なしには暗号化アルゴリズムやアンチ解析技術、Windows内部構造の操作といったマルウェアの中核機能を実装・デバッグできなかったと見られています。技術力ではなく、AIへの依存度がそのまま製品の完成度を決めていた事例です。

このアカウントは停止され、パートナー企業にも通報。マルウェアのアップロード・改変・生成を検知する新しい手法も導入されました。この攻撃者の初回販売は2025年1月にダークウェブ上で確認されており、Anthropicが8月にレポートとして公表するまでの間、複数のランサムウェア亜種が実際に流通していたことになります。

3事例に共通する変化

3月版レポートで確認された「初心者の能力を底上げする」という傾向は、8月版ではさらに一歩進んでいます。vibe hackingの事例では、AIが戦術・戦略の両方の意思決定を担い、ノーコードマルウェアの事例では、AIが実装能力そのものを肩代わりしていました。

事例AIが担った役割従来なら必要だった専門知識
Claude Codeによる恐喝AIが担った役割偵察・侵入・戦術判断・脅迫文生成従来なら必要だった専門知識攻撃チーム一式の運用能力
北朝鮮IT労働者の就労詐欺AIが担った役割経歴詐称・技術試験突破・実務遂行従来なら必要だった専門知識数年規模の専門訓練
AI生成ランサムウェアAIが担った役割暗号化・アンチ解析・OS内部操作の実装従来なら必要だった専門知識マルウェア開発の専門スキル

この傾向は「AIがサイバー犯罪の技術的な参入障壁を下げている」証拠だと総括されています。これまでチーム単位で必要だった攻撃能力は、AIの支援によって単独の攻撃者でも再現可能になりつつあります。防御側にとっても、攻撃者の技術力よりもAIの利用パターンそのものを監視対象にする必要が増しています。

レポートに含まれるその他の事例

本文で詳述した3事例のほかにも、Anthropicはベトナムの通信インフラを狙った侵害の試みや、複数のAIエージェントを組み合わせた詐欺行為についてもレポート全文で触れています。AIを活用した詐欺・サイバー犯罪の拡大は、Anthropicが今後の研究で優先的に扱うとしている領域です。

3月版からの変化をどう見るか

3月版と8月版を比べると、エージェント型のツール(Claude Code)が悪用の主役に躍り出たという変化が明確です。3月版で確認された悪用は、あくまで人間がステップごとに指示を出す「補助」の域を出ていませんでした。8月版のvibe hackingの事例では、標的選定から脅迫文の作成まで、Claude Codeが一連の工程を横断して実行しています。

その後2026年9月に発表されたEnterprise Frontier Safeguardsを発表は、こうしたエージェント型の悪用に対応するため、ゼロデータ保持を維持したまま悪用を検知する仕組みを整えたものです。3月版・8月版のレポートで確認された検知手法の蓄積が、この製品側の対応につながっていると見ることができます。

Claude Code利用者への実務的な示唆

正規の開発者がClaude Codeを日常業務で使う分には、この種の恐喝オペレーションと接点はありません。ただし、Anthropicの検知体制がエージェントの行動パターンそのものを審査対象にしている以上、大量のネットワークスキャンや認証情報の収集を模したテスト・演習を行う場合は、事前にUsage Policyの該当範囲を確認しておくと安全です。境界線に近い操作でCLIが拒否応答を返す場合の挙動は、Claude Codeの「Usage Policy refusal」の意味と対処にまとめています。

3月版レポートで確認された事例との比較は、Claudeの悪用事例 — 2025年3月版レポートで見る4つの手口を参照してください。Anthropicが2024年に主張していた規制論の背景については、的を絞ったAI規制の必要性も参考になります。悪用のたびに検知手法を積み上げるという運用は、事後対応に見えて実は次の規制論の材料になっているという点で、Anthropicの安全性への取り組み全体を貫く姿勢です。

まとめ

2025年8月版レポートは、Claude Codeによる恐喝の自動化・北朝鮮IT労働者の就労詐欺・AI生成ランサムウェアの3事例を通じて、AIの悪用が「助言役」から「実行役」へと質的に変化したことを示しました。Anthropicはすべての事例でアカウントを停止し、専用クラシファイアの導入や関係当局との情報共有を進めています。エージェント型AIの能力が上がるほど、この種の悪用はより自律的な方向に進むというのが、3月版・8月版を通じたAnthropicの見立てです。

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