AnthropicがVerceptを買収 — Claudeの画面操作能力を強化
AnthropicがAI操作系スタートアップのVerceptを買収しました。Computer UseのOSWorldスコアは2024年後半の15%未満から72.5%へ伸びています。
2026年2月25日、AI操作系スタートアップのVerceptがAnthropicに買収されました。Verceptは「AIがソフトウェアを人間と同じように見て操作する」ための知覚・操作技術を専門にしてきたチームです。買収の狙いは、ClaudeのComputer Use(画面操作)能力をさらに押し上げること。発表はSonnet 4.6のリリースから8日後でした。
発表の中身を数字で見る
買収の発表日
2026年2月25日
Verceptも同日に自社の告知を出した
OSWorld(2024年後半)
15%未満
Computer Useを初公開した頃のSonnet
OSWorld(Sonnet 4.6)
72.5%
16か月で15%未満から72.5%へ
Verceptの外部向け製品
数週間で終了
チームはAnthropicに合流
AnthropicがVerceptを買収した理由
背景にあるのは、Claudeの使われ方の変化です。リポジトリ全体でのコード実行、複数ソースをまたぐ調査、複数のツールやチームにまたがるワークフローの管理。こうした複雑な仕事にClaudeが使われるようになりました。
Computer Useは、その仕事を実行中のアプリケーションの中で進める機能です。キーボードに向かう人と同じ形で、コードだけでは解けない場面にも踏み込めます。この能力をさらに伸ばすために、知覚と操作の専門家を取り込むのが買収の骨子です。
Verceptは共同創業者のKiana Ehsani氏、Luca Weihs氏、Ross Girshick氏を中心に、AIがどうすれば人間と同じソフトウェアを見て操作できるかという難問に取り組んできました。Anthropicはその専門性を「取り組んでいる最も難しい課題のいくつかに直接つながる」ものと説明しています。Verceptは数週間のうちに外部向け製品を終了し、チームごと合流します。
2つの告知文は同じ買収をどう語っているか
同じ日に、Anthropicの発表とVercept自身の告知が出ています。読み比べると、強調点が違います。
AnthropicとVerceptの告知の違い
Anthropicの発表
Computer Useの能力を押し上げるための買収として語られます。軸になるのはSonnet 4.6でのOSWorldの伸びと、「知覚と操作」という技術課題です。買収の基準としては、技術的な野心が一致していること、能力を前に進める仕事であること、安全性と厳密さの原則が共通していることが挙げられています。
Verceptの告知
「遠いクラウドではなく、手元のコンピューターの上で、画面とワークフローと意図を理解するAI」を作ってきたという自己紹介から始まります。使ってくれたユーザーへの感謝が中心で、出資者や支援団体の名前を挙げた謝辞も並びます。告知ページ末尾のFAQ欄には、製品の継続期間と有料プランの扱いを尋ねる項目が並びます。
Anthropic側の文面はモデルの能力向上が主題で、Vercept側の文面は「個人のコンピューターの上で動くAI」という製品思想が主題です。Verceptが掲げてきた「手元で並走する」という姿勢が、Claudeのどの製品にどう反映されるかは、どちらの文面にも書かれていません。
OSWorldの72.5%は何を測った数字か
OSWorldは、AIのコンピューター操作を測る標準的なベンチマークです。Chrome、LibreOffice、VS Codeなど実在のソフトウェアが動く模擬コンピューターの上で、数百のタスクを解かせます。専用のAPIやコネクターは用意されず、モデルは画面を見て、仮想のマウスとキーボードで操作します。
OSWorldとSonnetの歩み
- 2024年10月汎用のコンピューター操作モデルを初公開
当時のAnthropicは「まだ実験的で、ときに扱いづらく間違いも多い」と書いていました。
- 2024年後半OSWorldは15%未満
Computer Useを初めて公開した頃のSonnetのスコアです。
- 2026年2月17日Sonnet 4.6が登場
OSWorldの発表では、16か月で着実に伸びたと説明されました。FreeとProのプランでは、claude.aiとCoworkの既定モデルにもなっています。
- 2026年2月25日Vercept買収を発表
スコアは72.5%。複雑な表計算の操作や、複数のブラウザタブをまたぐWebフォームの入力で、人間に近い水準に近づいているとされます。
72.5%という数字を、そのまま「15%未満から5倍に」と読むのは少し危うい点があります。Sonnet 4.5より前のスコアは元のOSWorldで測られ、Sonnet 4.5以降は2025年7月に出たOSWorld-Verifiedで測られています。Verifiedはタスクの質、採点、実行基盤を更新した同名の上位版です。時間軸の伸びは確かですが、折れ線の左端と右端は厳密には同じ物差しではありません。
Anthropic自身も、最も熟練した人間にはまだ及ばないと書いています。ベンチマーク上の指標なので、実際の業務システムでの精度は、アプリごとの画面構成に左右されます。
Computer Useとは何か、なぜ難しいのか
Computer Useは、Claudeがスクリーンショットから画面の状態を読み取り、クリックやキー入力を実行する機能です。API連携が用意されていない社内システムのような相手でも、人間の代わりに操作できます。
この方式はAPI連携より難しくなります。APIならエンドポイントを呼ぶだけで操作が成立しますが、Computer Useは画面のピクセルから状態を推測し、座標を指定して操作するためです。画面のレイアウトはアプリやOSのバージョンで変わり、同じボタンでも位置がずれます。
クリック位置のズレや、解像度・スケーリング設定による座標のズレは、実運用で頻出する問題です。原因と対処はComputer Useの座標ズレを直すスケーリング計算式とmacOS Retinaの罠に、クリックが外れるパターンはComputer Useのクリックが外れる4パターンと診断表にあります。Verceptが取り組んできた知覚と操作の専門性は、この精度の問題に直結する領域です。実装の最小構成はComputer Useツールを自前実装する最小構成で扱っています。
開発ドキュメントに見える、いまのComputer Useの限界
買収の記事では精度向上の期待ばかりが目立ちますが、APIドキュメントのComputer Useのページには、いまの制約も並んでいます。Verceptの技術がどこに効きうるかを考える手がかりになります。
- レイテンシ: 人間が直接操作する速さと比べると遅い場合があり、速度が重要でない用途(情報収集、ソフトウェアのテスト)が向くとされています
- 座標の精度: 座標を出力するときに間違えることがあります
- スクロール: 効かないアプリでは、Page Downのようなキー操作が代替になります
- 表計算: セルの選択には、細かいマウス操作(
left_mouse_downとleft_mouse_up)と修飾キーの組み合わせを使います。複雑な操作は複数回の試行が必要になることがあります - プロンプトインジェクション: Webページや画像に埋め込まれた指示に従ってしまう場合があります。分類器がスクリーンショットなどを走査し、疑わしいときはユーザーの指示かどうかをモデルに確かめさせます
Sonnet 4.6が表計算やWebフォームで人間に近い水準に近づいたという発表と、複雑な表計算は複数回の試行が必要になりうるという注意書きは、両方とも公式の記述です。「近づいた」の中身は、まだ試行回数や環境に左右されます。
知覚の面では、仕様にも変化があります。縮小したスクリーンショットでは読めない小さな文字を、全解像度で確かめるzoomアクションが用意されました。画像の上限も、従来のモデルは長辺1568ピクセル・約115万画素まで、Claude Opus 4.7以降は長辺2576ピクセル・約375万画素までです。どちらも、座標のズレや小さな文字の読み取りといった知覚の精度に関わる仕様です。
買収で、手元のComputer Use実装はどうなるか
今回の買収は、チームの合流と製品終了の発表です。呼び出し方を変える通達は含まれていません。
ただし、買収とは別の話として、Computer Useの呼び出し方はモデルによって違います。ドキュメントによると、Sonnet 4.6はcomputer_20251124というツールバージョンを使い、ベータヘッダーcomputer-use-2025-11-24が必要です。Claude 5.5以降のモデルは、Claude APIとGoogle Cloudでは新しいcomputer_toolset_20260801だけを受け付け、前のツールバージョンにはエラーを返します。
Sonnet 4.6で動いている実装を新しいモデルに移すときの手順は、ドキュメントでは次のように示されています。
computer_20251124からの移行(Claude 5.5以降へ移すとき)
- 1
ベータヘッダーを外す
anthropic-beta: computer-use-2025-11-24を削除します。SDKではbetasを外し、標準のクライアントから呼びます。 - 2
toolsの指定を書き換える
typeをcomputer_toolset_20260801にして、name・display_width_px・display_height_px・display_number・enable_zoomを消します。新しいツールセットはこれらのフィールドを拒否します。 - 3
zoomを使うか決める
ツールセットではzoomが既定で有効です。実装しない場合は
"configs": {"zoom": {"enabled": false}}を足します。 - 4
ループとtool_resultを直す
応答の
tool_useブロックを全部、順に実行します。結果には"toolset_name": "computer"を付けます。スクリーンショットは自分で縮小してから返します。
呼び出しの形も変わります。変更前はnameがcomputerで、操作名はinput.actionに入っていました。変更後はnameがleft_clickのような操作名になり、toolset_nameが付きます。残りの移行項目(keyのrepeat対応、連続実行の途中失敗時の応答文など)はドキュメントの移行節にあります。
この買収がClaude利用者にもたらす変化
買収発表の時点で、いつ、どの機能が具体的に変わるかは示されていません。ただしComputer Useの精度を上げる方向は明確です。利用形態によって、影響の出方は分かれます。
| 利用形態 | 影響度 | 理由 |
|---|---|---|
| Computer Useで社内システムのGUI操作を自動化しているチーム | 影響度明確な恩恵あり | 理由精度向上が誤クリックや操作失敗の減少に直結する |
| コード実行・API連携中心でComputer Useを使っていない開発者 | 影響度ほぼ影響なし | 理由今回の買収はComputer Useに特化していて、コード生成の性能とは別軸 |
| Coworkでブラウザ操作・画面操作を使う利用者 | 影響度条件次第 | 理由Coworkの手段選択の優先順位次第で恩恵の出方が変わる |
| RPA的な業務自動化を検討している企業 | 影響度明確な恩恵あり | 理由GUI操作の精度が上がるほど、API未対応の社内システムを自動化しやすくなる |
CoworkがConnectors・ブラウザ・画面操作をどう使い分けるかは、Coworkが手段を選ぶ優先順位にあります。Computer Useは、ブラウザ操作やConnectorsで解決できない場面の最後の手段に置かれています。精度の改善は、その適用範囲を広げる方向に働きます。
Bunの買収とは何が違うのか
Verceptの買収は、2025年12月3日に発表されたBunの買収に続くものです。Anthropicの発表は、Verceptを「Bunに続いて迎えた最新のチーム」と位置づけています。
ただし、2つの買収は向きが違います。BunはJavaScriptのランタイム・パッケージマネージャー・バンドラー・テストランナーを備え、Claude Codeを支える基盤です。買収はClaude Codeの高速化と安定化を狙ったものでした。発表では、Claude Codeが公開から半年で年換算売上10億ドル(run-rate)に達したことと、ネイティブインストーラーの提供でBunのチームと密に協力してきたことが背景に書かれています。BunはMITライセンスのオープンソースのまま維持されます。
Bunは、すでに動いている製品の足回りを固める買収です。一方のVerceptは、モデルの「見て操作する」能力そのものに手を入れるための買収です。Computer Useで起きる座標のズレや画面変化への追随は、周辺の工夫だけでは限界があります。前の節で触れた座標のズレは、その一例です。
まとめ
Computer Useを業務自動化に使っているチームにとって、今回の買収で今すぐ変わることはありません。手元の実装でまず見たいのは、使っているモデルと、それに対応するツールバージョンの組み合わせです。
モデルを切り替えるときは、ツールバージョンの違いとベータヘッダーの要否から見ると、移行の手戻りが減ります。コード実行やAPI連携で完結するチームは、買収の影響をほぼ受けません。