文化庁のAIと著作権チェックリストでClaude利用の著作権リスクを点検する
文化庁の「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」第1部のうち、業務利用者向け8項目をClaudeの使い方に置き換えて点検する手順をまとめます。
Claudeを仕事で使うとき、著作権まわりで何を確かめておけばよいのか。文化庁著作権課が令和6年7月31日付で公表した「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」は、その確認項目を立場別に並べた資料です。業務でAIを使う側(AI利用者)の項目は8つあり、Claudeの利用に置き換えると、社内ルールの下書きとしてそのまま使えます。
チェックリストはどの立場の項目を読めばよいか
この資料は第1部と第2部の2部構成です。第1部は「AI開発・提供・利用のチェックリスト」、第2部は著作権者のための「権利者のためのガイダンス」で、Claudeを使う側が読むのは第1部です。
第1部は、関わり方で4つの立場に分けています。
| 立場 | 資料の定義(要約) | Claudeでの当てはまり方 |
|---|---|---|
| AI開発者 | 資料の定義(要約)AIモデルの学習・構築を担う | Claudeでの当てはまり方Claudeのモデルを作る側。利用者は通常該当しない |
| AI提供者 | 資料の定義(要約)AIを組み込んだサービスを他者に提供する | Claudeでの当てはまり方Claudeを組み込んだ自社アプリを社外へ出す場合 |
| AI利用者(業務利用者) | 資料の定義(要約)事業活動でAIを使う | Claudeでの当てはまり方業務でClaude.aiやClaude Codeを使う場合 |
| 業務外利用者 | 資料の定義(要約)事業活動以外でAIを使う | Claudeでの当てはまり方趣味や学習での個人利用 |
資料は、一つの事業者が複数の立場を兼ねることがあるとし、該当する立場の項目を全て参照するよう求めています。たとえば、Claudeのモデルを呼び出す社内ツールを作り、それを社員が使うなら、提供者と利用者の両方の項目が対象です。
以降は、最も該当者が多い業務利用者の項目(資料では3-1-1から3-1-8)をClaudeに当てはめます。
業務利用者の8項目をClaudeに置き換える
資料の見出しを、Claude利用時に何をするかへ読み替えた早見表です。
| 項目 | 資料の求め | Claudeでの具体策 |
|---|---|---|
| 3-1-1 | 資料の求め利用するAIの情報を確認する | Claudeでの具体策利用規約・仕組みの理解・従業員教育を確認する |
| 3-1-2 | 資料の求め侵害の予防措置と、起きた場合の対応を決める | Claudeでの具体策利用ルールと、問い合わせ先・停止手順を文書にする |
| 3-1-3 | 資料の求め著作物の入力が「非享受目的」を満たすか確認する | Claudeでの具体策他人の文書を渡す目的を点検する |
| 3-1-4 | 資料の求め生成と利用で侵害の判断が異なると知る | Claudeでの具体策生成した文章を外へ出す段階で再確認する |
| 3-1-5 | 資料の求め利用前に既存の著作物と類似していないか確認する | Claudeでの具体策検索での照合を公開前の手順に入れる |
| 3-1-6 | 資料の求め関係者にAI利用を説明する | Claudeでの具体策納品物・契約でのAI利用の扱いを決める |
| 3-1-7 | 資料の求めプロンプトなど生成過程を確認できる状態にする | Claudeでの具体策会話の履歴・プロンプトを保存する |
| 3-1-8 | 資料の求め仕組みを社会に情報提供する | Claudeでの具体策任意の努力目標として位置づける |
3-1-8は「望まれる」と書かれる情報発信で、社内の点検項目に入れるかどうかは各社の判断です。以降は、手を動かす場面が多い順に見ていきます。
3-1-1から3-1-2: 使う前に確かめることと社内ルール
3-1-1は確認すべき情報を4つ挙げています。生成AIの仕組みと特性、学習済みモデルに関する情報、利用規約等、従業員への著作権教育です。
仕組みと特性の説明で重要なのは次の点です。学習データに含まれる既存の著作物と類似した生成物が出ることがあり、利用者が既存の著作物を知らなくても、生成・利用が著作権侵害になりうる、と資料は書いています。人が写し取る場合と違い、「知らなかった」では片付かない場面があるということです。
規約の確認は、Claudeなら次の3文書が入口になります。
- 利用ポリシー(AUP): 禁止事項に「第三者の知的財産権を侵害、不正利用、または侵害すること」が含まれる
- 消費者利用規約: 個人向けのClaude.aiなどが対象
- 商用規約: APIキーやConsoleなどの利用が対象
どちらの規約が自分に適用されるか、商用規約にある補償条項の除外条件、出力の権利の扱いは、Claude商用利用ガイドとClaude生成物の著作権に整理があります。商用規約は、有料利用による出力が第三者の知的財産権を侵害すると主張された請求について、Anthropicが顧客を防御し補償すると定めています。ただし、出力の改変、Anthropic以外の技術やコンテンツとの組み合わせ、顧客が入力したデータに起因する請求などは補償の対象外です。補償があるから確認不要、とはならない構造です。
3-1-1の4つ目は、従業員教育です。資料は典型的な誤解として、「既存の著作物の侵害が生じるか」という問題と、「AI生成物に著作物性があるか」という問題の混同を挙げています。前者は他社の権利を侵していないか、後者は自社の成果物が保護されるかで、別の問いです。
3-1-2は、侵害を防ぐ内部ルールを作ることと、侵害が起きた場合の対応(情報共有、サービスの停止・復旧、権利者への対応、原因解明、再発防止)をあらかじめ想定しておくことを求めています。対応の部分は文書がなければ空白になりやすいので、次のような雛形から始められます。
【Claude利用ルール(著作権)】
1. 入力: 他社の資料を貼る目的を明記する(要約・分析・翻訳など)
2. 出力: 社外に出す前に類似チェック(検索)を行い、結果を記録する
3. 禁止: 特定の作品名・キャラクター名を指定した類似物の生成
4. 記録: 外部公開物は、プロンプトと会話履歴を保存する
5. 侵害の指摘を受けたとき: 担当部署へ即報告し、当該物の公開を止める
6. 規約: 利用ポリシーと契約種別の確認担当を決める6項目は資料の項目を実務に落とした一例で、資料が示す文言ではありません。自社の業務に合わせて削ってかまいません。
3-1-3: 他人の文書をClaudeに渡すときの確認
Claudeには、文書やPDFを貼り付けて要約・分析・翻訳させる使い方が多くあります。3-1-3はこの入力の側の確認です。
資料の整理は次のとおりです。既存の著作物をAIへの指示として入力する際の複製等は、情報解析して生成の指示にするためのものであり、原則として著作権法第30条の4が適用されると考えられます。ただし、「入力した既存の著作物と類似する生成物を生成させる」といった目的で入力するなら、「享受」目的が併存しているとして、同条が適用されない場合があります。その場合は権利者の許諾が必要です。
Claudeで言えば、次のように分かれます。
- 記事を貼って要点を整理させる: 情報解析が目的で、30条の4の対象になりうる
- 記事を貼って「この文体で同じ内容の別記事を書いて」と頼む: 類似物の生成が目的で、享受目的の併存と見られうる
後者のように見える依頼は、社内で線を引いておく価値があります。30条の4そのものの読み方は著作権法30条の4とAI学習の関係にあり、本記事は入力時の確認項目にとどめます。
3-1-4から3-1-5: 生成と、公開前の類似確認
3-1-4の要点は、生成することと、生成物を使うことでは、侵害の判断が異なりうる点です。資料によれば、個人の私的使用目的の生成(著作権法30条1項)や、企業内で権利者の許諾を得て利用することを前提に検討の過程で行う生成(同法30条の3)は、範囲内なら許諾なしで適法に行えます。一方で、インターネットでの配信や複製物の譲渡のような生成物の利用は、権利制限規定の範囲外となる場合が多いと考えられる、とされています。
つまり、Claudeに下書きを作らせる段階は問題になりにくくても、その文章をWebに載せる、顧客に納品する段階で再確認が要ります。3-1-5はその確認の中身で、次のとおりです。
- 侵害の要件は、既存の著作物との「類似性」と「依拠性」の両方
- 類似性がなければ、利用に特段の許諾は不要
- そのため、生成物は利用前に、まず既存の著作物と類似していないかを確認する
- 確認の方法として、資料はインターネット検索(文章検索・画像検索)の活用を例示している
注意したいのは、資料が確認手段として挙げているのは検索であって、「Claude自身に類似の有無を判定させる」ことではない点です。Claudeに聞いても答えは返りますが、一次の確認とは別に扱うのが無難です。
公開前の運用例を、手順にしてみます。
公開前の類似チェックの流れ
- 1
特徴的な一文を抜き出す
生成物から、固有の言い回しや数字を含む数文を選びます。
- 2
完全一致で検索する
引用符で囲んで検索し、既存の文章と一致しないかを見ます。
- 3
結果を記録する
検索した日付・語句・結果を、公開物と一緒に残します。
この手順は資料の「検索の活用」を実務化した一例であり、資料が定めた手順ではありません。
3-1-6から3-1-7: 説明できる状態を残す
3-1-7は、依拠性との関係で、プロンプトなど生成過程を確認できる状態に努めることを求めています。資料の整理では、利用者が既存の著作物を認識していて、それと類似したものを生成させたなら、依拠性が認められると考えられます。既存の著作物そのものや、題号・キャラクター名などの固有名詞をプロンプトに入れた場合は、認識していたことを推認させる間接事実となり、依拠性が認められやすくなる、とされています。
ここから、Claudeでの運用に落ちる点が2つあります。
- 特定の作品名やキャラクター名を指定した生成を、業務では原則避けるルールにする
- 外に出す成果物は、プロンプトと会話履歴を残す。依拠性がないことを説明する材料になり、著作物性を説明する材料にもなる
資料は、AI生成物の著作物性が利用者の創作意図と創作的寄与の程度で判断されるため、プロンプト等を確認可能にしておくことが、著作物性の説明の観点でも望まれるとしています。履歴保存は、侵害と著作物性の両方に効く項目です。
3-1-6は、AI生成物をライセンス契約などの取引の対象とし、それが著作物であることを前提にする場合に、AIを利用した生成物であること、その著作物性等を関係者に適切に説明することを求めています。あわせて、既存の著作物を侵害しないことについて、可能な確認措置(検索等)を行っていることを説明できるようにしておくことが望まれる、としています。納品物にClaudeを使った場合の扱いは、契約書か発注条件に書いておくほうが後の説明が楽になります。
Claudeを組み込んだ自社サービスを出す場合(提供者の項目)
Claude APIで社外向けのサービスを作るなら、AI提供者の項目も読みます。資料の2-2-2は、生成AIの利用による侵害について、一定の場合には利用者に加えて提供者も責任を問われうるとし、類似物の生成を防ぐ措置や、利用規約で既存の著作物や題号の入力を制限する規定を設けることが、責任を問われる可能性を下げることに資すると考えられる、としています。
自社サービスの利用規約に、他人の著作物の無断入力や、特定作品の模倣生成を禁じる条項を置くのが、この項目の実務です。Claude側のAUPにも第三者の知的財産権の侵害を禁じる項目があるので、自社の規約と整合させておく形になります。
このチェックリストでは分からないこと
最後に、この点検でカバーできない範囲です。
- 資料は著作権に関する論点に限っており、個人情報や機密情報の扱いは対象外です。資料自身が、著作権以外は別の資料を参照するよう案内しています
- 項目は、実施すれば責任を免れることを保証しません
- 第2部は権利者向けで、Claudeを使う側が読む必要は通常ありません
- 資料が根拠にする「AIと著作権に関する考え方について」は、法的拘束力のない整理です
Claudeの生成物が著作物になるか、という自社の権利の側の話は、Claude生成物の著作権が扱っています。チェックリストを社内に展開するなら、まず3-1-2の雛形を自社用に直し、3-1-5の公開前チェックと3-1-7の履歴保存の2点から始める形が、手を動かしやすい順序です。