コーポレートガバナンス報告書のエクスプレイン更新 — Claudeで前年版と差分化する
前年のコーポレート・ガバナンス報告書とコード改訂の新旧対照表をClaudeのProjectsに置き、原則ごとの実施・不実施の記載を差分化して更新案を作る手順です。
コーポレート・ガバナンスに関する報告書の更新で手間がかかるのは、コードの各原則について「実施する」と書いた箇所と、「実施しない」理由を書いたエクスプレイン部分を、改訂後のコードに照らして見直す作業です。前年の報告書、改訂コード、新旧対照表をClaudeのProjectsに置き、原則ごとに差分化させると、見直す範囲を先に絞れます。
この記事では、その手順を4段階に分けて説明します。Claudeに書かせるのは更新案の下書きまでです。事実の確認と最終の記載判断は、担当部署と取締役会の側に残ります。
エクスプレイン部分の更新は何を起点に絞れるか
東京証券取引所(東証)は、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を「コーポレートガバナンス・コード」にまとめています。プライム市場・スタンダード市場の上場会社はコードの全原則について、グロース市場の上場会社は基本原則について、実施しないものがあればその理由の説明が求められます。
東証のコーポレート・ガバナンスのページには、現行は「コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)」で、2026年7月21日に成長投資の促進に向けた改訂が公表されたと載っています。同じ場所に、規則改正の新旧対照表も並んでいます。
今回の改訂の中身は、金融庁と東証の改訂説明資料(2026年7月21日付)に整理されています。更新の優先順位をつける手がかりになるのは、次の4点です。
- 「コンプライ・オア・エクスプレイン」の対象となる原則の内容を、抽象的・概念的なものに限定した。具体的な内容や趣旨は「解釈指針」として新設している
- 取締役会の責務として、成長の道筋の構築、成長投資や事業ポートフォリオの見直しなど経営資源の配分の説明、その配分の不断の検証を明記した
- 独立社外取締役の役割・責務、質・数の確保、独立性確保を強調し、取締役を支える事務局(コーポレートセクレタリー等)の機能強化も追記した
- 有価証券報告書を定時株主総会前に提出することを、株主総会での権利行使環境の整備例として原則に記載した
改訂版コードに関する事項を記載した報告書は、遅くとも2027年7月末日までに提出する必要があるとされています。原則の文言は短くなり、具体的な内容が解釈指針に移ったため、前年のエクスプレインが答えていた文言そのものが変わっている原則が出てきます。
報告書の側にも、更新の起点になる資料があります。
- 報告書の記載要領(2026年7月版)
- 記載要領の変更履歴付き版(2025年7月版からの変更点を示したもの)
- 記載要領の過去版(2025年7月版、2025年5月版、2025年4月版、2024年4月版にも変更履歴付きが公開されている)
つまり更新の入力は3系統です。コード自体の改訂、報告書の記載要領の変更、そして自社の事実の変化(取締役の構成、委員会の設置、政策保有株式の状況など)です。Claudeにこの3つを混ぜて渡すと差分の理由が追えなくなるため、手順では系統ごとに分けて見ます。
手順の前に: 記載要領の変更を様式側へ反映する
コードの改訂とは別に、報告書そのものの記載要領も改定されています。コードの原則に対する記載を直す前に、様式側の変更を先に片づけておくと、原則別の作業と混ざりません。
添付の記載要領(2026年7月版・変更履歴付き)から、2025年7月版との
変更箇所をすべて列挙してください。各変更について、前年の報告書の
どの項目に影響するか、項目名と現在の記載を併記してください。
影響する項目が前年の報告書に無い場合は「新設項目」と書いてください。出てきた一覧は、手順2の対応表とは別の表として保管します。「コードの改訂で直す箇所」と「様式の変更で直す箇所」を分けておくと、取締役会や監査役会に説明するときに、変更理由を一言で言えるようになります。
報告書の見方は、監査役設置会社、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社のそれぞれについて用意されています。自社の機関設計に合わない版の記載要領を資料に混ぜないよう、アップロード前にファイル名を確認してください。
手順1: Projectsに入力資料を置く
ClaudeのProjectsは、アップロードしたファイルをプロジェクト内のすべてのチャットから参照できる知識ベースです。Projectsのファイルは1つあたり30MBまでで、ファイル数に上限はありませんが、内容の合計がClaudeのコンテキストウィンドウに収まる必要があります。有料プランでは、知識がコンテキストウィンドウの上限に近づくとRAGモードが自動で有効になり、容量が広がります。
置く資料は次のとおりです。
| 資料 | 役割 | 入手元 |
|---|---|---|
| 前年提出の報告書 | 役割更新の土台。原則ごとの記載の現状 | 入手元自社の提出控え |
| コード(2026年7月版) | 役割原則の本文 | 入手元東証のコーポレート・ガバナンスのページ |
| 新旧対照表 | 役割コードの変更箇所の一覧 | 入手元同上 |
| 記載要領(2026年7月版)と変更履歴付き版 | 役割報告書の様式側の変更 | 入手元報告書のページ |
| 自社の変更点メモ | 役割事実の変化 | 入手元自社で用意 |
PDFには処理の上限があります。100ページ以下のPDFではClaudeがテキストと図表などの視覚要素の両方を読み、101〜1000ページではテキストのみになります。変更履歴付きの版が色や取消線で変更を示している場合、ページ数が多いとその表示が読まれない恐れがあります。変更箇所の特定には、テキストで書かれた新旧対照表を主に使い、変更履歴付きの版は補助にすると、読み落としを避けられます。
プロジェクト指示には、ふるまいの前提を書いておきます。例えば次のような形です。
あなたは上場会社の法務・IR担当を補助するアシスタントです。
- 根拠はProjectsにアップロードした資料だけを使い、資料に無い内容は書かない
- 前年の報告書に書かれていない事実を補わない。不明な点は「[要確認]」と表示する
- 出力には必ず、根拠となる資料名とページまたは原則番号を付ける
- 提出用の最終文は書かない。更新案と、変更が必要な理由を分けて出す「根拠を資料だけにする」「不明は[要確認]と書く」の2行が、後の工程で効きます。
手順2: コードの変更を、報告書の記載箇所に対応づける
最初にClaudeに出させるのは、更新案の文章ではなく対応表です。新旧対照表から変更のあった原則を抜き出し、前年の報告書でその原則に対応する記載がどこにあるかを並べます。
新旧対照表とコード(2026年7月版)から、変更のあった原則を
すべて挙げてください。各原則について次の列で表にします。
- 原則番号
- 変更の種類(文言追加 / 削除 / 表現変更 / 新設)
- 変更箇所の引用(新旧対照表の該当部分)
- 前年の報告書で、この原則に対応する記載の箇所と、その記載が
「実施」か「不実施(エクスプレイン)」か
資料に対応が見つからない原則は、その旨を表に書いてください。この表から、見直しの対象が3群に分かれます。
- 変更があり、前年は「実施」と書いた原則: 実施の前提が変わっていないかの確認が必要
- 変更があり、前年は「不実施」でエクスプレインを書いた原則: 説明文の主題が変わる可能性が最も高い
- 変更がなく、前年と事実も変わらない原則: 原則として前年の記載を維持
2群目が本題です。エクスプレインは、実施しない理由と、今後の方針や代替の取組みを書く部分です。コードの文言が変わると、前年の説明文が新しい文言に対して答えていない状態になることがあります。
表ができたら、数件を自分の目で原文と突き合わせてください。対応づけの間違いは、この段階で見つけるのが最も安く済みます。
手順3: 原則ごとにエクスプレインの更新案を作る
対応表で2群目に入った原則を、1件ずつ処理します。1回のチャットに複数の原則を詰めず、原則単位で依頼すると、引用元の取り違えが減ります。
原則「[原則番号]」について、更新案を作ってください。
1. 前年の記載を引用する
2. 変更後のコード文言と、前年の記載との差を箇条書きにする
3. 前年の記載のうち、新しい文言に照らして足りない説明を挙げる
4. 前年の事実だけを使って、説明文の更新案を書く。自社の事実の変化は
添付の変更点メモにあるものだけを使う
5. 事実が足りない箇所は「[要確認: 何の情報が必要か]」で止める出力の形で押さえておきたいのは、3と5を分けることです。Claudeの更新案は文章としては整って見えるため、足りない事実を埋めた文章が混ざると、読む側が気づきにくくなります。「[要確認]」を残させると、人が埋めるべき箇所が見える状態で更新案が出ます。
手順4: 差分を機械でも照合する
Claudeが「ここを変えた」と報告した内容は、手元でも照合できます。前年の報告書と更新案のテキストをdiffで比べると、変更の抜けと言及していない改変が拾えます。
# 前年の報告書(PDF)と更新案(Word等から書き出したPDF)をテキスト化
pdftotext -layout cg-report-2025.pdf prev.txt
pdftotext -layout cg-report-2026-draft.pdf next.txt
# 行単位の差分を出す
diff -u prev.txt next.txt > cg-report.diff
wc -l cg-report.diffこの差分をProjectsに戻し、次のように頼みます。
添付のdiffに現れる変更箇所をすべて列挙し、それぞれが
(a)コード改訂への対応 (b)記載要領の変更への対応 (c)自社の事実の変化
のどれに当たるかを分類してください。どれにも当たらない変更は
「理由不明の変更」として別にまとめてください。「理由不明の変更」が出たら、更新案づくりの途中で、頼んでいない言い換えが入っている可能性があります。そのまま提出用に残さず、前年の文に戻すか、変更理由を人が確認します。
書き方の水準を白書の事例で確かめる
東証のコーポレート・ガバナンス白書(2025年版)には、コードへの取組状況について投資者に分かりやすく提供されていると考えられる開示の事例が載っています。エクスプレインの書き方に迷う原則があれば、該当する事例をProjectsに加え、自社の更新案と並べて「理由と今後の方針が分けて書かれているか」を点検させる使い方ができます。事例は書き方の参考であり、そのまま写すものではありません。
更新案を提出に回す前の読み合わせ
下書きが揃ったら、担当者が原則ごとに次の3点を見ます。
- 引用元: Claudeが付けた原則番号とページが、実際の資料の該当箇所と合っているか
- 事実: 「[要確認]」がすべて消え、埋めた内容が社内の記録で裏づけられるか
- 一貫性: 他の原則や他の開示(有価証券報告書、統合報告書など)の説明と矛盾しないか
3点目は、Claudeに一次確認を頼めます。有価証券報告書はEDINET APIで有価証券報告書をClaudeに読ませる手順で取り出し、同じ原則に関する記述を並べて比較できます。ただし、並べた結果をどちらに揃えるかは、開示の責任を持つ部署の判断です。
つまずきやすい点
- 新旧対照表が画像中心のPDFだと、表の読み取りが崩れることがあります。変更箇所の引用が実際の資料と一致するかを、表の数件で試してから進めてください。
- 前年の報告書と更新案を同じチャットで何度もやり取りすると、どれが最新版か曖昧になります。更新案には版を示す名前(「v1」「v2」)を付け、Projects内のファイルとして置き直すと追いやすくなります。
- チャットの中のやり取りは、同じプロジェクトの別のチャットには引き継がれません。チャットで決めた方針は、プロジェクト指示か知識ファイルに書き出して初めて次のチャットでも使えます。
- 東証のコーポレート・ガバナンス情報サービスでは、報告書の記載内容を条件で検索できます。他社が同じ原則にどう書いているかを見たいときは、そちらで条件を指定して取り出した記載を、比較用の資料として使えます。他社の報告書をまとめて比べる手順は他社の統合報告書をClaudeで比較し自社の開示の抜けを洗う手順と同じ流れで進められます。
まとめ
更新作業の核は、コードの変更を原則ごとに前年の報告書の記載箇所へ対応づけることです。そこで3群に分けると、エクスプレインを書き直す必要のある原則に作業を集中できます。Claudeには根拠資料の範囲を指定し、足りない事実は「[要確認]」で止めさせ、最後にdiffで変更の全体を照合する。この3点を守れば、更新案の質を人が点検しやすい形で保てます。
株主総会に向けた資料づくりと並行して進める場合は、株主総会の想定問答をClaudeのProjectsで作るの手順が、同じProjectsの使い方の参考になります。