Claudeで危機広報の机上訓練シナリオを作る — 状況付与と初動1時間の対応表
危機広報の机上訓練を、ClaudeのProjectsで設計する手順です。時刻付きの状況付与、役割別の判断ポイント、最初の1時間の対応チェックを作り、訓練後の議事を手順書の改善点に変えます。
危機広報の机上訓練は、実際の事案を模した状況を少しずつ与え、参加者が口頭で判断していく訓練です。難しいのはシナリオ作りで、事案の筋書きだけでなく、いつ何を知らせるか、誰に何を問うかまで決める必要があります。ClaudeのProjectsに訓練用の資料と指示を置くと、この設計を下書きから任せられます。
机上訓練でClaudeに任せる範囲
Claudeに頼むのは、状況付与の時刻表、役割別の問い、訓練後の議事の仕分けです。何を危機とみなすか、誰が最終判断をするかは、人が決めます。
机上訓練の設計で分ける役割
Claudeに任せる
想定事案の時系列、役割別の判断ポイント、最初の1時間の対応チェックの下書きです。訓練後は議事の発言を、課題の種類ごとに仕分けさせます。
人が持つ
自社で何を危機と呼ぶか、公表の判断を誰が持つか、手順書の改訂を採用するかです。訓練の進行役も人が務めます。
発生後の声明文の下書きは、Claudeでお詫び文と謝罪リリースの初動声明を下書きする手順にあります。こちらは事前に判断を試す訓練の設計を扱います。
訓練用プロジェクトに置くもの
Projectsは、独立した作業スペースです。ナレッジに資料を置き、プロジェクト指示でClaudeの振る舞いを決めると、そのプロジェクトのすべてのチャットで使われます。
置く資料は、次の4種類から始めます。
| 資料 | 役割 |
|---|---|
| 現行の危機対応手順書 | 役割訓練で検証する対象。判断の根拠にもなる |
| 組織図と緊急連絡網 | 役割役割別の問いを作る元になる |
| 過去の事案の記録 | 役割状況付与の現実味を出す |
| 訓練の目的メモ | 役割今回何を試すかを1枚で示す |
実在の個人名や顧客情報は入れません。氏名は役職名に置き換え、事案は架空の会社で組みます。
プロジェクトの作成手順は、Projectsのページで「New Project」から名前と説明を付けるだけです。この名前と説明は、Claudeには渡されません。Claudeに伝えたい内容は、プロジェクト指示かナレッジに書きます。
参加者に見せない設定にする
TeamやEnterpriseのプランでは、プロジェクトを共有できます。ただし「Can view」の権限でも、メンバーはプロジェクトの内容、ナレッジ、指示を見られます。シナリオを参加者に事前に見せたくないなら、訓練設計用のプロジェクトは進行役だけの非公開にします。
参加者に渡すのは、当日に開示する資料だけです。進行役が必要に応じて印刷するか、画面に映します。
チャット間で文脈は引き継がれない
プロジェクト内のチャットは、ナレッジに入れた情報しか共有しません。シナリオ案を作ったチャットで決めたことは、ナレッジに追加するまで別のチャットには届きません。決定した筋書きは、早めにファイルにしてナレッジへ足します。
プロジェクトにはメモリーもあります。プロジェクトごとに独立しており、他のプロジェクトのメモリーは使われません。アカウントのメモリーを混ぜたくなければ、プロジェクトのページで「Use account memory」をオフにします。
訓練設計の流れ
シナリオができるまでの4段階
- 1
想定事案を1本決める
人が決めます。複数を一度に扱わず、1回の訓練は1事案にします。
- 2
状況付与を時刻付きで作る
Claudeに、事案が動いていく過程を時刻付きの表にさせます。
- 3
役割別の判断ポイントを足す
各状況で、誰が何を決めるかを問いの形にします。
- 4
最初の1時間の対応チェックを作る
手順書と突き合わせ、訓練後の採点基準にします。
プロジェクト指示に訓練の型を書く
最初に、プロジェクト指示で役割と禁止事項を決めます。次の文面は例です。自社の用語に合わせて直してください。
あなたは危機広報の机上訓練を設計する補助役です。
- 事案はすべて架空の会社「サンプル食品」で組む。実在の組織・個人名は使わない
- 状況付与は「時刻・何が起きたか・誰が知っているか」の3点で書く
- 状況付与に、解決策や正解を書かない
- 手順書(ナレッジ)にない対応を求める状況は、その旨を明記する
- 事実が不明な部分は「不明」とし、推測で補わない3つ目が要点です。正解を状況付与に混ぜると、訓練が答え合わせになり、判断の遅れや抜けが見えなくなります。
手順1: 時刻付きの状況付与を作る
想定事案を1本決め、Claudeに状況付与の表を作らせます。例として、通販で売った商品への異物混入の投稿が広がる事案を使います。
手順書と過去事案の記録を踏まえ、次の事案の状況付与を作ってください。
事案: 通販商品に金属片が入っていたとする投稿がSNSで拡散した
条件:
- 開始から60分間を、5段階の時刻付きで書く
- 各段階に「時刻」「起きたこと」「誰が知っているか」「まだ分かっていないこと」を入れる
- 後の段階ほど、情報が部分的に判明する形にする
- 正解や推奨対応は書かない返ってきた表は、そのまま使いません。次のような形になっていれば、骨格として使えます。以下は表の形の例です。
| 時刻 | 起きたこと | 誰が知っているか | まだ不明なこと |
|---|---|---|---|
| 開始時 | 起きたこと商品への異物混入を訴える投稿が拡散 | 誰が知っているか広報担当 | まだ不明なこと投稿の真偽、該当ロット |
| 15分後 | 起きたこと窓口に同様の問い合わせが入る | 誰が知っているかお客様窓口 | まだ不明なこと件数、発生時期 |
| 30分後 | 起きたこと報道機関から取材の電話 | 誰が知っているか広報・窓口 | まだ不明なこと取材の締め切り |
| 45分後 | 起きたこと同ロットの出荷記録の一部が判明 | 誰が知っているか品質管理 | まだ不明なこと混入の経路 |
| 60分後 | 起きたこと経営層が公表の時期を問う | 誰が知っているか全員 | まだ不明なこと回答の根拠 |
人が確かめる点は2つです。自社の実情に合う現実味があるか。ある段階で、参加者が判断せずに済む状況になっていないか。後者は、判断の余地が無い段階を削るか、不明点を増やして直します。
揺さぶりの状況を1〜2個だけ足す
骨格ができたら、実際の事案で起きがちな乱れを、1〜2段階に混ぜます。たとえば、決裁者が出張中で連絡が取れない。窓口と品質管理で、把握している件数が食い違う。夜間に事案が起きて、法務担当が不在。
先ほどの表に、揺さぶりの状況を2つ追加してください。
- 担当者の不在、情報の食い違い、連絡手段の障害のいずれかにする
- 追加する段階と、その理由を1行で書く
- 追加後も、全体は60分に収める揺さぶりを全段階に入れると、訓練の目的がぼやけます。手順書が想定する通常の流れで動けるかを先に試し、揺さぶりはその上に少しだけ重ねます。
手順2: 役割別の判断ポイントを足す
状況付与だけでは、参加者は何を決めればよいか分かりません。各段階に、役割別の問いを付けます。
先ほどの状況付与の各段階に、役割別の判断ポイントを付けてください。
役割: 広報責任者、法務、品質管理、お客様窓口、経営層
- 判断ポイントは「〜をどうするか」という問いの形にする
- 役割ごとに、その段階で決める必要が無ければ「判断なし」とする
- 組織図にない役職は使わない「判断なし」を許すのが要点です。全役割に毎回問いを付けると、訓練が長引き、誰の判断が本当に必要だったかが見えません。
問いが「何をするか」でなく「何を決めるか」になっているかを確かめます。たとえば、窓口への問い合わせに答える文面を「誰が承認するか」は判断です。文面を作ることは作業です。
手順3: 最初の1時間の対応チェックを作る
訓練後に採点するための対応チェックを作ります。元になるのは、ナレッジの手順書です。
手順書の初動の項目から、開始後60分間の対応チェックを作ってください。
- 時間帯ごとに「やること」「担当」「完了の目印」を書く
- 手順書に根拠がある項目は、その節の名前を添える
- 手順書にないが必要そうな項目は、別の欄に分ける別の欄に分けた項目が、訓練の収穫になります。手順書にない対応を参加者が自発的に行ったなら、手順書の抜けです。逆に手順書に書いてあるのに誰も動かなかった項目は、周知か担当の問題です。
作ったチェックは、訓練の前に参加者へ見せません。見せると、チェックの順に動くだけの訓練になります。
当日の進行
当日は、新しいチャットを開き、進行役が状況付与を1段階ずつ開示します。Claudeに時刻表の全体を持たせておき、進行役が「次の段階」と打つたびに1段階だけ出させる使い方もあります。
状況付与の表を持っています。私が「次」と入力するたびに、次の段階の「起きたこと」だけを書いてください。
参加者の発言を貼ったら、その内容に矛盾する事実は付け足さず、不明点は不明のまま返してください。参加者の判断に合わせて、Claudeが後の段階を作り替える使い方は勧めません。判断の良し悪しで筋書きが変わると、訓練の結果を比べられなくなります。
時間配分は、状況付与ごとに5〜10分の議論を見込み、最後に振り返りの時間を取ります。進行役が時間を守れなくなったら、段階を飛ばさず、議論を打ち切って次へ進みます。打ち切った段階は、議事に「時間切れ」と記録します。書記は進行役と別の人に置き、各発言の時刻と発言者の役割を残してもらうと、後の仕分けで根拠を引きやすくなります。
訓練後に議事を振り返る
訓練中の発言は、録音の文字起こしか、書記のメモにします。これをClaudeに渡し、課題の種類で仕分けさせます。
添付の議事から、判断が遅れた場面と、情報が足りなかった場面を拾ってください。
各場面を次の4種類に分けます。
1. 判断者が決まっていなかった
2. 必要な情報が届いていなかった
3. 手順書に書いていなかった
4. 手順書にあったが動かなかった
場面ごとに、議事の該当発言を引用し、種類の判断理由を1行で書いてください。
引用できない場面は挙げないでください。最後の指示が大切です。議事に根拠のない課題を、Claudeが作文してしまうのを防げます。
仕分けの結果は、次の訓練への入力になります。手順書の改訂案は、種類3と4から作ります。種類1は組織の役割の見直し、種類2は連絡経路の見直しにつなげます。
改訂案は、ナレッジの手順書を差し替えて、次回の訓練で同じ段階を再び試します。改善したかが見えるように、同じ事案を一定期間おいて繰り返す方法もあります。
よくあるつまずき
落とし穴
状況付与に正解が混ざる
「速やかに謝罪文を出す必要がある」のような一文が入ると、判断の余地が消えます。プロジェクト指示で正解の記述を禁じ、表を人が読んで取り除きます。
落とし穴
架空のはずが実在の組織に似てしまう
過去の事案を資料に使うと、実在の会社や人物が筋書きに残ることがあります。表に固有名詞が出ていないかを、共有の前に人が確かめます。
落とし穴
訓練のたびに指示が変わる
チャットごとに口頭で条件を変えると、結果を比べられません。変えたい条件は、プロジェクト指示かナレッジの更新として記録します。
事案の公表文面は、Claudeで障害のお知らせ文とサポート想定問答を作る手順と組み合わせて練習できます。SNS投稿の事前点検はClaudeでSNS投稿前の炎上リスクをチェックする手順、復旧の優先順位はBCPの業務影響度分析をClaudeで進める手順で扱っています。ロールプレイ型の研修の組み立てはClaudeで研修用ケーススタディとロールプレイのシナリオを作る手順も参考になります。
まとめ
机上訓練の価値は、筋書きの出来より、訓練後に手順書の抜けが見えることにあります。Claudeには状況付与と役割別の問い、議事の仕分けを任せ、何を危機とみなし誰が決めるかは人が持ちます。次の訓練では、前回の種類3と4の項目だけを再び試す形から始めると、改訂の効果を確かめやすくなります。